紙の砂漠
二人は車を破壊された悲しみと悔しさに包まれながら、明かりが失われた研究室の大地を進んでいた。
薬品棚への道はまだまだ続く。
「ここを進めば私がいらなくなった書類をためていた場所に行き着くだろう。」
ジーモルトの言う通り、遠くには白と黒の世界が広がっていた。
「紙の上を歩くのですか…滑りやすそうで警戒しなければならないかもしれないですけど、割と障害物は少なく進みやすそうではありますね。」
冷静とした表情で紙の山を眺めながらパルザスは言った。
しばらく進むと彼らは平坦な白と黒の地に辿り着いた。
まるで砂漠のような紙の山は見晴らしが良く、周りに広がる景色を簡単に望むことができた。
「これほどまでに周りが見やすければ、薬品棚への道筋も確認しやすいですね。」
パルザスはきらきらとした目で辺りを見回す。
周りには何一つ障害物はないように見えた。
彼らはしばらく紙の砂漠を進んでいるとふと足元に微かな揺れを感じ始めた。
「なんだ、地震か?」
「でも、遠くに見える試験管立ての試験管は一切揺れていないように見えますが…。でも確かにこの紙の上では揺れを感じますね。」
はじめは揺れも小さく気にせず歩き続けることができていたが、徐々に揺れが大きくなってきた。
「こんなに揺れてきた…!早くこの砂漠から脱出しましょう!」
二人は焦って走りながら紙の上を進んでいった。
しばらくすると、二人のいる紙が破れてきた。
そして、破れた穴から銀色の巨大な虫が現れた。
虫は長い触角をぴくぴくさせてこちらを睨む。
「うわぁ!こいつは確か紙魚という虫ですよ!気を付けてください、奴は物凄いスピードで走ってきます!」
パルザスがそう言い終えた瞬間、銀色の虫は物凄い速さでこちらに向かってきた。
二人は逃げようとしても、紙魚が走るときの紙の揺れのせいで思うように逃げることができない。
ジーモルトとパルザスは一か八かの気持ちで体を伏せ、紙の砂丘を滑りおりた。
摩擦で体は焼けつくように熱いが紙魚に体を蝕まれるよりはよっぽど良かった。
やがて、二人は長い紙の砂漠を脱することができた。
紙の上では二人を見失った一匹の銀色の虫が彷徨っていた。
二人は紙魚に見つからないように足早に紙の周辺から去っていった。
「紙の砂漠の見晴らしの良さのおかげで道筋は大方知ることができた。」
ジーモルトは悩むことなく、消しゴムの消しカスが転がる荒野を進んでいった。
行き着いた先では、鼻を刺すような刺激臭を感じるようになった。
向こうには奇妙な色の沼が待ち構えていた。