実験器具の墓場
「しかし、結構運転しましたけど…薬品棚に一向に近づいてるという気配がないですね…。」
パルザスは暗い表情で呟いた。
気付けば二人は二時間は車内に座っていた。
勿論、パルザスの運転によって車は動き続けるが3mの移動はまだまだかかりそうであった。
平坦な道ならば3mなんて彼らほど大きさであったとしても10分あれば余裕で行くことができた。
しかし、研究室であるだけあって、そこらじゅうに実験器具が転がり、道の邪魔をしているのである。
「博士、こんなところにビーカーなり試験管なり放置しないでくださいよ。これらのせいでなかなか安定した運転ができないんです。」
「今はどうすることもできないだろう、薬品棚を目指す他に私達のやる事は存在しない。」
「博士…それもそうですけどね…」
そんな会話を淡々と繰り返していたときだった。
突如、目の前に試験管から溢れ、水たまりと化した妙にぬめぬめとした謎の薬品が現れた。
しかし、周りは試験管立てに囲まれていて、避けることはできなかった。
車は薬品の水たまりに差し掛かり、スリップしてしまった。
さらにスリップした車は試験管立てに衝突し、試験管立てに立てられた試験管三本がぐらつく。
「博士!危ないです!早く逃げましょう!」
パルザスは車から飛び出たが、ジーモルトは一向に車から出てこない。
「博士!何やってるんですか!早く逃げないと試験管の下敷きになってペチャンコですよ!」
「に、逃げたいのだが…!」
なんとジーモルトのシートベルトが何故かなかなか外れないのである。
試験管はゆっくりと彼らの方へと傾いてくる。
「は、早く…!」
ジーモルトはシートベルトを力で引きちぎり、なんとか車から脱した。
その数秒後、試験管は三本全てががらがらと倒れてきた。
車は見事に試験管の下敷きとなり、完全に潰れてしまった。
「博士!?どうするんですか、これじゃあ徒歩で薬品棚行きですよ。」
「この魔境を徒歩で移動、か…。どうなるかはわからんがとりあえず歩いてでも薬品棚へ向かおう。」
「そんな!無茶ですよ、またあの化け物マウスが襲ってきたら今度こそヤツの餌になっちゃうつもりですか!?」
「さ、助手よ、行くぞ。」
「あぁ、ちょっと!待ってください!あんまり焦ると危険ですよ!」
これからの研究室の旅はさらに彼らにとって辛いものとなるのであった。