研究報告No.001
科学者ジーモルトは一人で毎晩怪しい研究に耽っていた。
「遂にできた…。後はコイツをマウスに注射し、実験成功を祈るのみだ。」
血液のように赤く濁る不気味な液体を注射器に注ぎながら呟いた。
小さなカゴの中で一匹のマウスが鳴いている。
科学者が握る注射器の針先がマウスに近づこうとする。
そのときだった。
何と科学者の注射器を握る力があまりにも強すぎた為に注射器は見事に割れてしまったのである。
注射器の割れた破片が科学者の肌を切り裂き、赤の液体が傷口から体内へと浸透していく。
次の瞬間、科学者ジーモルトの体はみるみる縮んでいき、最後には机の上にいた虫と同じ大きさまでに縮んでしまった。
だが、ジーモルトは喜びをみせた。
「やったぞ。実験はこういった結果に終わったが、薬の力は確かだ。後は実用化に向けて改良を重ねるだけだ。」
しかし、この体では何もできない。
割れた注射器の破片ですら、抱え上げることが精一杯なのだ。
「どうするんだ。身体サイズ拡大薬はここからおよそ3mほど離れた薬品棚の中だ。このままじゃ、元のサイズに戻れない!」
ジーモルトは嘆いたが、もう遅い。
彼の背後から白い巨体が近づこうとしている。
ジーモルトは気配を察し、背後を振り返った。
何と背後にはあのマウスが目をぎらぎらさせてこちらへ向かってくるではないか。
ジーモルトはこれでもかというスピードで走ったが、巨体のマウスからは逃れられず、まもなく捕まってしまった。
シーモルトは死を覚悟し、命の尊さを身をもって体感した。
そのときだった。
マウスの頭に小さな種が直撃した。
マウスは唸り、逃げていった。
マウスの背後には車があった。
恐らく元の大きさではミニカーサイズのものだろう。
シーモルトは恐る恐る近づいた。
すると、車の中から一人の若い男が降りてきた。
シーモルトは男と面識があった。
「博士!遂に使っちゃったんですか!この薬品、人に直接打つとまずいって言ったじゃないですか!」
男はかつてシーモルトのもとで助手として身体サイズ縮小について研究していたパルザスだった。
「パルザス!突然消えたと思ったら、お前も体を縮ませてたのか。」
「博士、実はこれ、僕自身が縮んだのではなく、この車の縮んだ影響によって僕も縮んでるって感じなんですよ。」
「どういうことだ?」
「つまりは…この車の燃料に少量の身体サイズ縮小薬を使ったんです。そうしたら、僕も含めて車の内部のものが全て縮んじゃって。」
「早く元の大きさに戻りたい。こんな実験するんじゃなかった。」
「んじゃ、とりあえず車に乗ってください。」
「ああ…。ど、どこに向かうつもりだ…?」
「博士の薬品棚ですよ。しっかり掴まっててくださいね、飛ばしますよ。」
小さな車は科学者の薬品棚に向けて走り出した。