表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国外伝  作者: 春野隠者
継承者戦争
61/61

継承者戦争《エピローグ》

◇◆◇


 ギ・グー・ベルベナ戦死の報は、すぐさま戦場を駆け巡り、はっきりとフェルドゥーク全軍の動きを乱した。大きく分けて彼らの行動は三つに分かれた。

 ギ・グーがいなくなったことにより、戦う意味をなくしたとして降伏するもの。

 あくまでギ・グーの行動に殉じるとして、命尽きるまで戦うもの。

 グー・ビグ・ルゥーエらに従って落ち延びるものたちだった。

 戦う意味をなくす者達は、ギ・グー・ベルベナの戦死が事実だと知ると、その場で座り込んでしまう者すらいる。槍を取り落とし、天を仰ぎ……あるいは地面に両手をついて、顔を伏せる。

 彼らは、二度王を失ったのだ。

 一方でルゥー・ヌミアを筆頭に、頑として降伏しない者たちもいた。戦いをやめる戦友をしり目に、徐々に彼らはまとまっていき、文字通り最後の一人になるまで降伏せず戦い抜いて全員が戦死した。

 そしてグー・ビグ・ルゥーエに率いられた離脱組は、戦況が優勢であったエジエドの森の方面から離脱を図り、無事戦場を離脱する。

 だが、西方大森林を前にして、彼らを待ち構えていたのは、弓と矢の軍(ファンズエル)。フェルドゥークがアルロデナ総軍と決戦をし、その後の敗北までの間に、暗黒の森を平らげ、フェルドゥーク寄りの各地を転戦して回っていたのだ。

 それを全て完了し、彼らは布陣していた。

 アルロデナの英雄にして、ガンラの氏族が生み出した総族長ラ・ギルミ・フィシガ。彼に率いられたファンズエルは、幾多の戦を経て歴戦の勇士となっていた。

 各種族からなる部隊を率い、暗黒の森を駆け巡ったファンズエルの佇まいに、グー・ビグ・ルゥーエは自らの帰る場所を失ったことを悟り、降伏した。


◇◆◇


 継承者戦争は終わった。

 ギ・グー・ベルベナは戦死。ゴブリンの王の後継者の地位は、この時をもって四将軍筆頭ギ・ガー・ラークスのものとなった。ゴブリン達の生き方も、その主流は他の種族との共存へと舵を切ることになる。

 皮肉なことに、ギ・グー・ベルベナの叛乱は、東征以後徐々に膨れ上がっていた巨大な軍事費を削る効果をもたらした。黒衣の宰相プエル・シンフォルアは、叛乱後に軍事費を抑えると、その浮いた金額を復興へと振り向けることにより、大陸全土に大規模な好景気を招き入れた。

 暴徒に荒らされた南部に大規模な投資が始められると、復興の中心となったのは、継承者戦争において傷つかなかった西都となるのは、当然といえば当然だった。東征後の発展を上回る勢いで人が集まり、膨大な資本が投入されるとともに南部復興と大森林をつなぐなくてはならない大都市へと上り詰めていく。

 その反動は遠征の中止である。群島諸国で戦っていたギ・ヂー・ユーブは、あと一歩というところまで群島諸国アルガシャールを追い詰めながらも、無念のうちに帰還せねばならなかった。

 大陸統一国家黒き太陽の王国(アルロデナ)は、東征から燻っていた統治の不安の芽を摘み取り、大手を振って歩き出した。それはまるで、後ろを振り返りながら歩いていた幼子が、前を向いて歩いて行く姿に似ていた。


◇◆◇


 ギ・ガー・ラークス(~46年)

 アルロデナの安定を見届けると、将軍位を返上。生涯継承者戦争の勝者と呼ばれる度に、あの時自分の側には、他の将軍達がいた。しかしながらギ・グーには誰も居なかった。能力の高さは推して知るべしと言って、ギ・グー・ベルベナの名誉を守る。

 アランサインは終生ギ・ガー・ラークスを指揮官として忠誠と敬意を示し続け、彼が引退した後も、内乱終結の記念日には、閲兵式を必ず行う。死後は、王の霊廟横に眠るギ・ガー・ラークスの墓に詣でるのが、アランサインの行事となった。

 その死は、自宅で東方より持ち込まれた桃色の花弁をつける木々が、その花を散らせている春の終わり頃。揺り椅子に座ったまま、穏やかな死であった。

 遺言として、遺体は王の霊廟の近くに葬られ、ギ・グー・ベルベナの墓とともに、死しても王の傍に侍る。


 ギ・ギー・オルド(~42年)

 頼みの息子を失ったが、老いてなお精力的に領地の繁栄に尽力。隣接するオーク領との緊張を常に抱えながらも、大過なく領地の発展を成し遂げる。終生親友であるギ・ジー・アルシルと悪だくみをして、副官であるギ・ブー・ラクタを困らせる。

 三人の妻と、生涯に8人の息子娘を設け、後継者問題を後世に丸投げして他界。ギ・ブー・ラクタをして、最後まで困った上司であったが、血を見ることなく後継者問題を解決させたのは、そのギ・ブーであったのだから、冥府の門をくぐった先で、呵々大笑していることだろう。

 遺言として、好きに生き、好きに死ぬ。良い人生だったわ! と豪語したと伝わる。

 墓は、オルド領とオーク領との境目に立て、最後までオークに嫌がらせを忘れなかった。


 ギ・ジー・アルシル(~43年)

 継承者戦争後、昔の血が滾ると言って未踏破領域へ足を踏み入れる。その際に、複数のゴブリンを伴い、成果を書き記して後世の躍進に寄与する。

 オークに対する姿勢は生涯変わることなく融和的で、ギ・ギーとオークが揉めるたび調停役であり、互いの窓口になったりした。

 晩年になって妻を娶り、一男一女をもうける。

 遺言は残さず、墓の場所も定かではないのは、影に生きることを旨とした斥候の矜持だったのか。


 ラ・ギルミ・フィシガ(~55年)

 アルロデナの国是を代表する将軍として、種族統合の象徴的なファンズエルを率いる。生涯現役であり、筆頭将軍ギ・ガー・ラークスが亡くなった後は、4将軍最後の一人として、軍事と政治に睨みを利かせる。継承者戦争において、無事にナーサ姫と合流を果たし、戦後においてはフェルドゥークに荒らされた西方大森林の復興に尽力する。

 彼の晩年には、昼なお暗いと称された暗黒の森も開発が進み、広く種族の交流する場所となっていた。しかし、南部ギ・グー・ベルベナの領した地域と、北部狂獣ギ・ズー・ルオの領した地域は、開発を進めることなく当時の姿を保つ姿勢を見せる。

 なぜかと問われた彼は、南部については感傷。北部については手を触れてはいけない場所はあるものだ。意外と近くにな。と苦笑して明言を避けた。

 

 ギ・ゴー・アマツキ(不明)

 継承者戦争での負傷が元で息子のユーゴ・アマツキとともに、ユグシバの領地へと戻る。しばらく妻であるユースティアの看病に勤め、彼女の回復を待って再び二人で旅に出る。2年後に戻ってきたときには、娘を伴って帰ってきており、ユーゴに年の離れた妹をプレゼント。

 兄弟というよりも親子に近い年齢差にユーゴを驚愕させる。

 ユースティアの看病の間、息子の成長を確認するとともに、アマツキ流剣術の技をより洗練したものへと昇華。大陸において敵なしと謳われるが、本人は否定するのがもっぱらだった。

 曰く、アマツキ流の目的は、剣術勝負に在らず、その力をもって争いを納めることを本質とする。とのことであり、剣術だけでなく精神面も鍛える流派として、後世に多大な影響を及ぼす。

 その後も幾度か旅に出ることがあり、最後は旅から戻らず、旅先で死亡したと考えられているが正確な記録は残っていない。


 ギ・ヂー・ユーブ(~71年)

 群島諸島統一国家アルガシャールをあと一歩まで追い詰めるも、大陸の情勢が継承者戦争後急変。黒衣の宰相プエルから、戦争継続困難を言い渡され、渋々アルロデナに帰還する。

 群島諸国の戦争継続には情熱を燃やしており、書簡の往復であったが、帰還の際にあと一か月あれば、群島諸国を平定して見せると豪語したギ・ヂーに対して、金がない。さっさと戻るべしといったプエルとのやりとりがあったとか。

 4将軍亡き後は、国の重鎮として力を得るが、軍は政治に付属すべしとの信念を曲げず、群島諸国への再進出はしていない。晩年は酒の味を覚えたらしく、酔うと口癖のように、あの時あと一か月時間があれば、群島諸国を飲み込めていたのに、惜しいことをするものだ。ギ・グー殿が生きていれば、また違っただろうが……。そうすれば、4将軍に並び立つ武勲を立てることができたのに、惜しい。実に惜しい……まぁ、その一か月が短縮できなかったのが、私の限界だったのかもしれないな。

 ということを、国交が再開したアルガシャールの大使の前で喋るため、アルガシャールからすると、四将軍亡き後のアルロデナとの接し方に非常に気を使った。

 これが彼なりのパフォーマンスだったのか、それとも本音だったのかは本人が語らないため不明である。死後の墓を王の霊廟近くに、という提案がなされた時も、武勲が足りぬ、遠慮する。と言って固辞するなど、万事控えめな性格であった。墓はひっそりと深淵の砦に設けられた。

 群島諸国の戦のあと、蓄財に励み部下にも蓄財を勧める。

 曰く、我らは金の力というものを、少し軽視しがちだからな。とのことであり、やはり本音は群島諸国に再遠征をしたかったのではないかと推測される。

 

 グー・ナガ・フェルン(~52年)

 フェルドゥークの一部隊メルフェルンを率いる。ギ・グー・ベルベナの三兄弟の末弟。継承者戦争においては、アルロデナ側で参戦した。戦場で直接ギ・グー・ベルベナの真意を問いかける機会は訪れなかったものの、ギ・ガー・ラークスから死にざまを聞いて、妙に納得した様子であった。

 継承者戦争後も堂々と我らこそがフェルドゥーク、我らこそがメルフェルンと公言して憚らない態度であり、アルロデナにフェルドゥークの暴風は健在であることを主張した。

 好戦的な性格は生涯変わらず、新兵の入隊試験に自ら出向き、身分を隠してその相手をし、生意気な新兵をボコボコにするなど、大人げないとみられる行動も多々あった。

 エルフの狂戦士達とは気が合ったらしく、訓練と称して彼らと集団戦を何度も企画。部下の悲鳴を肴に楽しんでいたようだった。彼自身は、公言するわけではなかったが、常に“裏切り者”、上官殺しの汚名を気にしていたのではないかと推測されストレスの多い生活だったのだと思われる。

 遺言は、俺達は、フェルドゥークだぞ。座ってなんて死ねるか。

 といって、家族に命じて自らを立ち上がらせ、長剣を杖にして立って死ぬなど、壮絶な死にざまであった。仲間と殺しあう戦場を一方の雄として戦った男の強烈な矜持であろう。


 グー・ビグ・ルゥーエ(~49年)

 フェルドゥークの一部隊ガルルゥーエを率いる。ギ・グー・ベルベナの三兄弟。継承者戦争の最後にギ・グー・ベルベナの命令によって戦場から離脱。故郷である暗黒の森を前にしてファンズエルに降伏した。降伏後は、ギ・グー・ベルベナの叛乱の主要な部下としてレヴェア・スーで軟禁される。しかし彼の元には訪問客が途絶えることはなかった。

 ギ・グー・ベルベナの叛乱について、黙して語らず。その熱狂も冷めたアルロデナ歴30年には軟禁を解除され、故郷に帰る。

 その頃には、アルロデナの治世はまず盤石と言ってよく、グー・ビグは以後故郷で静かに余生を過ごす。

 継承者戦争のことを聞かれる度、敗者は黙して戦を、語らずと言って口をつぐむ。

 墓は、不明である。


 ギ・ズー・ルオ(~45年)

 継承者戦争の成り行きだけを見守る。領地に逃げ込んできたパラドゥア氏族のゴブリンを助けるとともに、その帰還に尽力する。また追撃を命じられたフェルドゥークの一部隊を片手間に壊滅させるなど、己の領地だけを守る姿勢を貫く。

 その最後はなぞに包まれており、不明である。


 黒犬ラロス(~78年)

 パラドゥア氏族を追撃したフェルドゥークの一部隊“黒犬”の隊長。ギ・ズー・ルオの領地に侵入し返り討ちにあう。殺されずに命を長らえ、しばらくのあいだギ・ズーと不思議な共生関係を築く。

 継承者戦争後、部下とともにギ・ズー・ルオ領を出てアルロデナへ出仕。ファンズエルの一部隊として大陸各地を回り、その後経験を生かして故郷の発展に尽くす。


 グー・ジェラ(~38年)

 フェルドゥークの軍長の一人。継承者戦争後は、グー・ビグと共にアルロデナに降伏。軟禁の末に自由の身となる。自由の身となってからは、ギ・グーの名誉を回復すべく奔走。過度に貶められることなく、その墓を建立するまでになった。

 生真面目なところは終生変わらず、戦友の墓を建てて回る生涯であった。彼の語るフェルドゥークの実態は後に書き留められ、書籍として出版。当時のベストセラーになった。


 マグナ・チェルダノム(~65年)

 フェルドゥークの軍長の一人。メルフェルンの攻勢を受け止め、負傷を負う。継承者戦争後はアルロデナに降伏。軟禁生活を経て、自由の身となる。

 自由になった後は、故郷である暗黒の森に戻り、後進の育成に尽力する。彼の育てたゴブリンは、後々までアルロデナの中枢で活躍することになる優秀なゴブリンが多くいる。

 我らは負けた。だからこそ、負けたなりに国に貢献しなければならない。岩を割って咲く花のように、流され辿り着いた場所で精一杯やるのだ。

 彼自身の数奇な人生における金言である。


 プエル・シンフォルア(~48年)

 継承者戦争後、軍縮の舵を切る。荒れ果てた南部の復興と群島諸国への遠征打ち切り、西方大森林への穏当な戦後処理等、戦後の混乱を早期に解決。

 余りにも鮮やかすぎる手腕と先々を見通した政策に、後世には継承者戦争自体が彼女による策謀だったのではないかとすら言われた。

 現に継承者戦争によって最も利益を得たのは、彼女の心情を無視すれば、徐々に増加する軍事費に直面し、国の運営を任された彼女であった。

 しかしその後に同時代の誰からも、彼女による統治に異議を唱える者は出ず、彼女の統治は大規模な叛乱なく過ごす。後に、黒衣の宰相又はアルロデナの女帝と呼ばれ、アルロデナの繁栄に大きな足跡を遺す。

 

 カーリアン(~105年)

 不世出の剣士としてその名を残す。隆盛を誇ったアマツキ流剣術を凌ぐ力量を持ち、10年もの長きに渡りアマツキ流剣術の剣士の挑戦をはねつけ続けた。その後結婚を機に、アマツキ流剣術相手の挑発はしなくなったが、出産直前まで挑戦してくる剣士を打ち負かしたと言う伝説がある。晩年までその力量は衰えることを知らず、若々しい肉体を保った彼女は、アルロデナの初期における生ける伝説であった。


 ヴェリン(~57年)

 ソフィアの養い子。エルクスの諜報員として活動するが、その途中でカーリアンと出会い、ヴィネの顔を蹴り飛ばして生き延びると言う偉業を成し遂げた。継承者戦争後は、カーリアンと共に各地を放浪し、後に結婚する。

 式に来たヴィネに、娘を泣かせたら殺すと脅され、しっかりと蹴りのケジメをとらされた。しかし、当然泣かすつもりはないと、惚気を披露し周囲を沸かせるなど、ヴィネを恐れていない点においては、希有な人物。なお、ヴィネをお義母さんと呼んで、赤面させるという一場面もあり、ソフィアは、ヴィネ関係で困ったときにはヴェリンを使うことに決めていた。

 カーリアンとの間に2男3女をもうけ、周囲を驚かせた。最期は孫に囲まれての大往生であった。


 ユーゴ・アマツキ(~69年)

 アマツキ流剣術2代目として、大陸にあまねくアマツキ流剣術を広める。父であるギ・ゴーを母親の元に連れ帰った後は、より一層剣術の修練に打ち込む。たまに尋ねてくるカーリアンを相手にしながらも、自身の剣術を確立。ギ・ゴーの感覚的な剣術の技に、理論的な裏付けと、解説を加えて体系化するなどその功績は大きなものがある。

 また、晩年には精神的な支柱としての剣術修行として、兵士や戦士ではない一般の人々にまで剣術を広めることに成功した。


 メラン・ル・クード(~35年)

 継承者戦争後、その功績として、シュシュヌ王国の復権と領地拡大を得る。シュシュヌ王国の陪臣でありながらその権勢は並ぶ者無く、また共に戦った諸国からの信頼も厚かったが、彼自身はその功績を主家であるリリノイエ家復興のために費やす。

 リリノイエ当主から無二の忠臣と呼ばれ、平穏の内に彼は生涯を終えるが、彼の願いは敬愛した戦姫ブランシェの隣に墓を設けることだけだった。


 メイディア・デオ・アルサス(~54年)

 今や朽ち果てた王冠に太陽を戴く者。アルサス王家復興の立役者。継承者戦争において、自覚無くアルロデナ右翼の危機を救う。参戦の功績によって、王家の復興と、東部に小さな領土を獲得し、アリエノールと共に小さな領土を切り盛りする。大陸最古の人間の国として、属国ながらも独立を果たす。

 彼女の国では王家の直属の菓子屋が経営され、稀に救国の英雄と女王が揃って厨房や呼子に立っているらしいとの噂を生んだ。

 メランとの交友は生涯続くことになり、彼女の大きな財産となった。後に、アルサスの復興の太陽。朝陽の女王と呼ばれ、敗戦後の人間達の希望となった。


 アリエノール(~49年)

 アルサス王家復興の立役者。救国の英雄。請われて参戦しガルルゥーエの攻勢を受け止め続ける。ゴブリンの王における東征において聖人として、能力を覚醒させた中で唯一の生き残り。メイディア女王との友情は、終生変わることなく続いた。

 彼女が菓子屋の厨房に立っていたかどうかは、本人のみぞ知るところであった。

 

 ヴィラン・ド・ズール(~48年)

 ブラディニア女皇国の軍師として、継承者戦争に参戦。広い戦略的視野をもってアルロデナ総軍の実質的な指揮を執る。功績としていくつかの特権と貿易上の有利な条件を勝ち取り、祖国に貢献。また、家庭おける頼りになる夫の威厳を守り通した。

 その後、彼の軍事的功績はないものの、内政における幾つかの功績があり、政治においても中々の手腕を発揮したものと考えられる。


 シュメア(~45年)

 継承者戦争後、預けていた子供の元に戻り、平穏な生活を取り戻す。辺境将軍の地位に未練は無く、欲しけりゃくれてやると、豪語することが多々あったが、誰もその地位を奪えなかったのは、彼女の特筆すべき人徳のなせる技であろう。


 ヨーシュ・ファガルミア(~65年)

 西都の主として、巨大な権勢を誇る。復興と、再建の道は長く、彼の生涯をかけることになる。


 ファル・ラムファド(~38年)

 継承者戦争後は、再びアランサインの副官として新兵を鍛える役目に戻る。しかしながら、継承者戦争で精魂を使い果たしたのか病気がちになり、早々にその役目を後進に譲る。引退してからの彼女は、花を愛で紅茶を楽しむ貴婦人のような生活を楽しんだ。

 彼女の元部下が、引退してからの教官の姿を見て絶句したというの話には、事欠かなかった。

 遺言で彼女の墓は、メランと共にブランシェ・ルルノイエの隣に建てられた。



◆◇◆


 揺り椅子に座りながら老いたゴブリンが庭先を見つめている。暖かな春の陽気に誘われて、小鳥がさえずり、柔らかな風に吹かれて東方由来の花が舞い散っている。

 桃色の花弁が風に舞う様子は、まるで空中で踊りを踊るようで、何時までも見ていたくなる。一斉に咲いたその花の美しさは、なんとも言い難く、舞い散る様は心をざわめかせる。

「ギ・ガー殿」

 呼び掛けられた老ゴブリンは、重たげな視線をやると、変わらぬ美しさを保つプエル・シンフォルアの姿がある。

「良い人生でありましたか? 何か思い残すことは?」

 そのプエルの言葉に苦笑しながら首を振る。

「充実した、良い人生だったよ」

 力の入らぬ手を上げると、風に舞う花びらがその上におさまる。

「貴方には辛い役目を押し付けてしまって……」

「なんの……過ぎてしまえば良い思い出でしか無い」

 花咲く梢の隙間から見える蒼穹に、目をやる。

「王が……笑っておいでであった。先に逝った皆も、楽しそうだった。王もこの花の美しさは、知らんだろうから今から話すのが、楽しみだ……」

 プエルも、苦笑する。

「あの方は、忙しい人でしたからね。でも、意外と博識で詩的でもありましたから、もしかしたら……ギ・ガー殿?」

 春の梢に咲く花が、突然強くなった風に吹かれて一斉に舞い散る。まるで、ギ・ガー・ラークスを抱き留めるように。

 よくやったと、褒めるかのように。

 

◇◆◇


 ギ・ガーの視線の先に、白い地平が広がる。なぜか一歩踏み出す度に、身体は全盛期を取り戻し、失った手足さえある。

 この先に、王がいる。

 何故だか分からないが、そう確信することが出来た。

 王よ、王よ、我らが王よ!

 話したいことが沢山ある。この胸の高鳴りをどう現したら良いだろうか。

 貴方が居なくなってから、本当に沢山のことがあったのだ。

 だが、それも過ぎ去ったこと。今はただ貴方に会えることが何よりも嬉しい。

 我らは、貴方の偉大な功績に少しでも、近づけただろうか。貴方の命令を最後まで守り通せただろうか。貴方の生き方を、辱めることなく、我らは来れただろうか。

 王よ、王よ、我らが王!

 白い地平に響く声が、増えていく。ギ・ガーの進む周りに冥府の門を潜ったはずの戦友となって共に声を上げていく。

 剣を振り上げるギ・グーがいる。

 槍を突き上げるギ・ベーがいる。

 皆待っていたのかと、ギ・ガーは、目を見開いた。そして、彼自身も同じように、声を張り上げた。


 王よ! 王よ! 我らが王!


 偉大なりしゴブリンの王よ!!


長くかかってしまいましたがこれで完結です。

皆様が楽しんで頂けたなら幸いです。


次回作は、もう少し恋愛要素も入れた作品に挑戦をしてみようかと思います。とは言っても戦記ものになると思いますが……。


一年近く更新がない中でもご贔屓にして頂き、ありがとうございました。外伝感想や、本編にレビューなど頂いた皆様のおかげで完結させることができました。


この場を借りて、再度ありがとうございました。皆様の温かい応援おかげで、ゴブリンの王国外伝を完結させることができました。


次回作もどうぞご贔屓に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ギ・グー、ギ・ガー、ギ・ベー(´;ω;`)最後は王に会えて良かった 冥界で王は既に死んだゴブリン達と共にいるのかな、ギ・ザーと冗談を言い合ったりしてるのかな
[良い点] 外伝完結お疲れ様でした! [一言] なろう小説を読んでると、ふとした時に読み返したくなる作品の1つです。 戦記物が好きな自分にとっての「王」の意味とはこの作品がピッタリハマります。 後味が…
[一言] 鳥肌立った やはりなろう最高に熱い作品だった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ