継承者戦争《ギ・グー・ベルベナ》
土煙漂う戦場は常に不確かなものを含んでいた。それはまるではるか昔、力のないゴブリンであった時に見た暗黒の森の闇の先のようであった。時に己の命や配下の命すらも危険にさらされ、時に思いもかけないものと出会わせてくれる懐かしき大森林。
思いもかけない素晴らしい出会いで最大のものは、ゴブリンの王であった。
その強さに、瞼が焼けるほどに憧れた。魂の変質さえ、些少なことと感じられた。
偉大なる我が王。己の全てを費やして、仕えるに値するただ一人の王。
だが、その王は冥府の門を潜られてから久しい。あるいは、ゴブリンの王に匹敵する者が、我らの中から現れはしないかと、わずかに期待もしたが、それも戦乱の収まった時代では難しいようだ。種族同士でしのぎを削り、神々すら巻き込んで誕生した奇跡……そう考えなければ、納得できなかった。
俺の配下は優秀ではあるもののどれも小粒なものばかり。
俺を超えてゆくような期待をさせるゴブリンは存在しない。あるいはそれが、偉大なる支配者などと呼ばれた俺の限界というものか……。
平和な時代をもてはやすのは、増え続ける人間とオークどもだ。ゴブリンの数はめっきり減った。他種族との混血が進めば、我らは今の姿のままではいられない。
王よ。王よ。偉大なる我が王。
この胸に、渦を巻く感情が絶望だというのなら、この俺の行動が愚かと笑うなら、なぜ光を見せたのだ。暗黒の森の小さな種族でしかなかった我らに、森を出て灼熱の戦乱を征し、眩いばかりの闘争と栄光を我らが眼に焼き付けたのか。
我らは消えゆく定めの中にいる。
我らゴブリンという種族は、あなたに従い、知恵を付け、力を振るい、並み居る種族を押しのけて大陸を制覇した。だが我らの栄光は、消えゆく前の一瞬の輝きだったのか。我らが貴方の背を追いかける間だけの夢幻の如く。
栄光は、折り重なる屍の上にしか存在しない。我らとより多くの他種族の上にしか……。
他種族を殺し続け、我らの優位な世界を維持し続けることでしか、我らが消えゆくことを回避する術はないと示し続けるために……。
貴方が冥府の門を潜ってからどれほどの時間が過ぎただろうか。
その間に、俺は狂ってしまったのかもしれない。
貴方のいない絶望が、脳髄を犯し、戯言を吐かせ、愚劣の極みの行動をとらせるのだ。
親しき友を敵に回し、貴方の築き上げた王国を傷つけ、多くの部下を道連れに歴史に愚か者の代名詞として名前を刻まれる。それが狂人にはふさわしい末路というものだろう。
だから王よ。
我が王よ。どうか、冥府の門を潜った先では、俺を叱り飛ばしてほしい。
下らぬ妄想よ、と笑い飛ばしてほしいのだ。
我が王。
……本当は、貴方はゴブリンではないのではないかと、俺はいつからか疑念を抱くようになってしまった。
誰も、貴方に比肩するものがない。
誰もあなたのようにはなれない。
なぜか、と。
それはまるで、貴方ただ一人がゴブリンという種族ではなく、近しく似通っていても、全く別の何かだったのではないか。
そう、考えてしまっていたのだ。
四将軍の誰もが、貴方のいる高みへと至ることができないように、ゴブリンという種族では、貴方に……王たる者に至れないのではないかと。
そう考えたとき、この俺の恐怖を想像してみてほしい。身の毛もよだつ、恐怖だ。
我らはすでに、失った後だった。この先に、これ以上の栄光はなく、輝きもない。その世界を生きていかねばならないのは、耐え難い苦痛でしかないのではないか。
この先に、希望などないのだと。
絶望だけを抱えて生きていく。そんな未来を、俺は部下たちに示さねばならないのだと。
だからこそ、俺は──ギ・グー・ベルベナは叛逆する。
叛逆者として、問わねばならない。
我らゴブリンにこの先、生きていく意味はあるのかと。
我らの全身全霊をもって、安寧に溺れる者どもに、問わねばならんのだ。
◇◆◇
「西より、中型魔獣、多数!」
危険を知らせる声に振り向けば、双頭獣と斧の軍の魔獣と長剣と斧の軍の中枢が衝突する姿が土煙の向こうに見える。
その中から3匹、まっすぐギ・グー・ベルベナへ向かって走ってくる魔獣の姿に、目を眇めた。
包囲を抜けるのは3匹、鼻が利くのかまっすぐギ・グー・ベルベナへ向かってくる。肩に走る痛みを無視して、長剣を向ける。
血だらけになりながらも、三匹が連携してギ・グー・ベルベナへ向かってくる姿は、さすがにザイルドゥークの魔獣を思わせるものだった。魔獣軍と対峙している配下の動揺を見て取って、ギ・グー・ベルベナは口元を不敵に歪めた。
「なるほど、よくしつけてある」
そんな3匹の間をすり抜けざまに、長剣を薙ぎ払う。あまねく命を絶つと、未だ魔獣と戦う配下へ向かって声を張り上げた。
「あわてるな、ギ・グー・ベルベナはここにある!」
自身の健在を示すことによって、配下の動揺を収めるとすぐに別の伝令が飛び込んできた。
「北方より、友軍転進。旗は長槍と大楯、三本槍に楯、交差する大槍! ザイルドゥークを蹴散らしています」
自身の予定にはない部下の行動に、ギ・グー・ベルベナは眉を潜める。
「伝令、企図を問い合わせろ!」
再度伝令を走らせるギ・グー・ベルベナは造反の可能性を考え、苦笑する。
「……もし、そうであったならこの叛乱にも少しは意味がある」
誰にも聞こえないように呟いて、北方に視線を向ける。
だが、土煙の向こう側、ザイルドゥークを蹴散らす三将の向こうから、さらに高く立ち上る煙を見て、そうではないと予想を付ける。
「追撃の構えか、若き英雄殿」
「エジエドの森方面から伝令! 勝勢、有利!」
頷き、ギ・グー・ベルべナは、頭の片隅にとどめる。亜人連合に対する戦場は終始フェルドゥークの有利が変わらない。ただし、攻め切るには時間はかかる。大軍を森に侵入させるのは、それだけで不確実性が高すぎるのだ。
「南方アランサイン! 止まりません!」
悲鳴を上げる伝令を受け止め、ギ・グー・ベルベナは落ち着き払って答える。
「止めずとも良い、攻勢の槍先を逸らせ。鉄鎖巻き付く大楯のマグナに指揮をとらせよ。一部俺の直轄軍を任せる」
長剣に丸楯の軍の攻勢を防ぎ切った守備に秀でた軍長を指名して、アランサインの攻勢を防がせると、北方から迫る脅威を排除にかかる。
「本陣を北に動かす。黒き太陽の王国総軍に逆撃を加わえるぞ!」
喚声を上げる周囲のゴブリン達に命じて、逐次北方の戦況を入手数する。
「北方、転進した三将より伝令。すぐにお会いしたい、と」
「北方への本陣の移動は継続。移動しながら会う」
最前線に向かうギ・グー・ベルベナが、グー・ビグ・ルゥーエ達と会ったのは、そのあと少ししてからだった。その間にギ・グーは、転進してきた部隊を自身の構成する円陣の中に受け入れ、追撃のアルロデナ総軍に強かに逆撃を加えていた。
「……大兄」
「ビグ、戦況をどう読む?」
負傷して顔色の悪いルゥー・ヌミア。俯き、表情を隠したグー・ジェラ。
その二人を従えて、グー・ビグ・ルゥーエはギ・グー・ベルベナと向き合った。
促されたグー・ビグは、覚悟を決めて言葉を切り出す。常のギ・グー・ベルベナであれば、烈火の如き怒りを覚悟せねばならない。
「劣勢覆し難く、敗戦です」
鎧の隙間を広げ、首を差し出すグー・ビグ・ルゥーエ。
「ですが、敢えて大兄には、このまま離脱していただきたい。暗黒の森へ逃げ、捲土重来を」
「俺が……逃げて、この先お前たちはどうする?」
「敗戦の責任を取ります。敗戦の原因はこの度の、反転が原因。だからこそ、大兄の逃げる道を確保いたします」
「ビグ……」
「我らも同じ、意見です。我が王」
グー・ビグ・ルゥーエに同意するのは、グー・ジェラとルゥー・ヌミア。
「我が王、か……」
この国に、アルロデナに反旗を翻した時、確かに王を名乗った。
我が王、我らが王。偉大なりし、ゴブリンの王。
「貴様ら、俺は王か?」
「我らにとって、貴方こそが王です!」
ルゥー・ヌミアは、口から血を流しながら吼え、グー・ジェラは頷く。
「大兄が望まれるなら……」
グー・ビグ・ルゥーエも頷く。
天を見上げたギ・グー・ベルベナは、そのまま一度目を閉じた。再び、膝をつくグー・ビグ・ルゥーエを見下ろしたとき、その瞳に宿っていたのは、断固たる意志だった。
「ならぬ。敗戦の責任を問われるのは、俺でなければならんし、貴様らには罰を与える」
「いかなる罰でも! ですが、全て大兄が──」
「黙れ! 貴様らの意見など問うておらん」
そういうと、ギ・グー・ベルベナは彼らに背を向けた。
「グー・ビグ・ルゥーエ。即決だが罰を言い渡す。若いゴブリンどもを連れて、離脱せよ。エジエドの森方面を抜け、暗黒の森に帰還、補佐はグー・ジェラ、ルゥー・ヌミア、マグナも連れて行け」
「しかし!」
「ビグ、暗黒の森までたどり着いた後は、好きにせよ。今一度、戦を挑むもよし。降伏したとて、下手に扱われることはない」
「大兄!」
「変更はない。復命せよ」
「……若いゴブリンを連れ、暗黒の森へ、帰還……いたします」
途切れ途切れに言い切ったグー・ビグ・ルゥーエは、全身の力が抜けたようにへたり込んだ。
「グー・ジェラ、ルゥー・ヌミア。貴様らもだ。途中マグナを拾うのを忘れるなよ」
「……はっ!」
頭を下げるグー・ジェラと挑むような眼でギ・グーを見守るルゥー・ヌミア。
「急げよ」
そういうギ・グーの言葉に、急き立てられるように、彼らは離脱の準備にかかる。
「ふん……ただの言葉か。我が王……言われてみればなんと味気ない」
胸を覆う絶望が幾分和らいだ気がして、ギ・グー・ベルベナは周囲を見渡す。
「逃げる時間ぐらいは稼がせてもらうぞ」
口の端を歪めると、伝令を呼ぶ。
「円陣を解く。北方及び西方を押し返すぞ! アランサインの足を止めよ! 本陣をさらに北に動かせ!」
指示をするや、ギ・グー・ベルベナ自身が歩を進める。
「さァ、この首が欲しいなら死ぬ気で取りに来い。若造ども……」
ギ・グー・ベルベナの移動とともに、フェルドゥーク本陣は北に突出。それに引きずられるように、フェルドゥークの攻勢が向かうのは、ガルルゥーエに追撃を加えようとしていたアルロデナ総軍だった。
崩れた戦線を一気に押し込まれ、そこを起点に左右を崩される。
後退しようものなら、さらに押し込まれるという負の連鎖だった。加速度的に侵攻してくるフェルドゥークの攻勢は熱したナイフでバターを切るようにアルロデナ総軍を切り裂く。
「……相変わらず、粘り強い。ここからが本領か」
指揮台の上で采配を振るうヴィラン・ド・ズールは、苦々しくつぶやく。
ヴィランは、そう簡単にギ・グー・ベルベナの首は取れないのはわかっていると、自身に言い聞かせると、押し込まれた部分はそのままに、そのほかの部分に圧力をかける。
「だが、勝たせてもらう。第2戦列を東に移動。ガルバディン将軍に後退を指示。メルフェルンを先頭に、伸ばした翼で再攻勢だ」
押し込まれたアルロデナ総軍は、そこから攻勢に転じる。
と同時に、包囲を形成する他の部隊へも伝令を走らせる。
だが、伝令を走らせる必要もなく、ザイルドゥークもオークもフェルドゥークの攻勢が強い場所は避けつつ、攻勢に転じた。
倒れた者の屍を乗り越え、次第に組織だった戦闘から乱戦模様へ突入していく。
だがそこでこそ本領を発揮するのは、フェルドゥークばかりではない。
「前方に、魔獣軍!」
アランサインが、混沌の戦場を切り裂くように走り抜ける。
「迂回だ!」
フェルドゥークの足止めに手間取ったアランサインは、それでも三千からなる軍勢を保ったまま、進み続けていた。攻勢に転じたアルロデナ総軍、ザイルドゥークにオーク達。その全てが混在する戦場を巧みに泳いでいたと言っていい。
先頭を走るギ・ガー・ラークスは、戦場を長く離れていたとは思えない嗅覚を発揮し、フェルドゥークの罠をことごとく回避。その分ギ・グー・ベルベナの本陣にたどり着くのに時間はかかったが、確実に近づいた。
すでに周囲は、ゴブリンも人間もオークもエルフでさえも、統率された動きを見せるものが少数であった。その中で僅かに残るフェルドゥークのゴブリンからの足止めを回避し、味方を回避しながらギ・ガー・ラークスは進路をとる。
「右手より、新手! 、紋章旗は三本槍に楯!」
500余りの歩兵が、鬼気迫る勢いでアランサインとギ・グー・ベルベナの本陣に割り込むように軍を進めていた。
「──我が、王はギ・グー・ベルベナただ一人! 一度王を定めたならば、その眼前で死ぬのが、我らが誇り! ドゥーヘレヌミアの猛者どもよ! 命の捨て場所だ! 我が王を守れ!!」
ギ・グー・ベルベナの命令に反し、引き留めるグー・ジェラを振り切り、ルゥー・ヌミアは離脱する軍から戻ってきていた。
「ファル! 旗を!」
死兵となったドゥーヘレヌミア、その先にこの叛乱の首魁がいる。
猛禽類のようなギ・ガー・ラークスの瞳が見据える先に、ギ・グー・ベルベナの本陣が見える。
掲げる旗は虎獣に長槍の軍、そして黒き太陽の王国。
「──アランサインッ!! 全軍、突撃準備!!」
疲労困憊の中で魂を振り絞るような号令で、ファルは絶叫した。
「グルゥゥアアア!!!」
黄昏を背に、ギ・ガー・ラークスが吠えた。
まるで、王が生きていた頃のように、あの東征の頃のように、熱狂のままアランサインが咆哮をあげた。
◇◆◇
疲労が蓄積していく。
空気が物理的な力を伴って圧し掛かるように、手と足を重くする。肺は炎を宿し、体中に乗り移って動きを縛る鎖のようだった。
だが、それでも。
「ギ・グー・ベルベナはここに在る! 者ども、奮え! 押し返すぞ!」
荒く吐き出した息のをつく。
周囲に応える者のある限り、動かぬ腕を動かし、地面に根付こうとする足を引き剥がす。
「ハァハッ……クッ……」
視界が滲む。
柄にもなく、最前線で存分に腕を振るう機会を得て、張り切りすぎたようだった。
だが、負けるわけにはいかない。
我が王よ。
歯を食いしばる。
前から味方の戦列をすり抜けてくる。中型の魔獣が二匹。
「はっ!」
巨大蜘蛛。まるで、誂えたように……思い出させてくれる!
八本の長い脚から延びる攻撃を、長剣でいなし、踏み込むと同時に頭に戦斧を叩き込む。同時に襲ってきたもう一匹を、仕留めた一匹を壁にして攻撃を封じる。
直後、飛び上がる巨大蜘蛛を目で追うと同時、武器が重い!
視線をわずかに下げれば、蜘蛛の長足が戦斧と長剣に絡みついている。
「よく、仕込んで──」
即座に武器を手放すと、自然口から咆哮が挙がる。
「──グルゥゥウァアアア!!」
着地と同時に繰り出される巨大蜘蛛の長足をすり抜けると、その頭に向けて拳を叩きこむ。降りかかる血潮と──。
「ブルゥゥアアァ!」
オークの重装歩兵か!?
突き出される槍を体を入れ替えるようにして躱すと同時に、つかむ。
「ブルゥゥウガァ!」
「グルゥゥアァ!」
力比べをしようてか!?
破砕音とともにへし折れる槍を投げ捨て、掴み掛ってくるオークの腕をとる。
──舐めるなよ!!
力任せにへし折ると、悲鳴を上げるオークを投げ捨てる。
「ギ・グー・ベルベナだ!! 討ち取って名を挙げろ!」
人間の兵士が殺到してくるのを見て、狂猛な感情が口をついて吐き出される。
「命がいらん者から掛かって来い! 我こそは、恐怖の斧! 暴風のフェルドゥークの主なるぞ!」
からめとられた長剣と戦斧を乱暴に抜き取ると、魔法を発動させる。
五月雨式に地面を走る氷槍が、群がってくる人間を串刺しにしていく。
王よ!
俺は、あなたに勝ちたい。
貴方を超え、あなたはゴブリンであったのだと、確かめたい。
だから、不可能を──自ら作り上げたこの国すらも、壊すことを厭わないのだ。
だから挑むのだ。
勝機などほとんどないことは、最初から分かっていた。
それでも、どうしても、挑まずにはいられなかった。
それを責めるのであれば、王よ。
どうして……。
どうして、あの時、一人で逝ってしまわれたのか。
なぜ、一人で旅立ってしまったのか。
冥府の門をくぐってしまわれたのだ。
王よ、王よ! 我が偉大なる唯一の王よ!
なぜなのだ!
なぜ! 俺を一緒に連れて行ってくださらなかったのだ。
貴方のいない世界に、なにをせよというのか。戦なき世界の、この心の渇きは、どうやって埋めればいいのだ。
王よ!
南から上がる懐かしい喚声に、気を取られ視線を向ければ土煙に覆われる視界とその上に僅かに見える黒き太陽の王国旗。
土煙の向こうから黄昏の光に浮かぶ影は、求め続けた王の姿。
「──まさか」
その影に呼吸を止めた。
◇◆◇
土煙を突っ切り、アルロデナのギ・ガー・ラークスが槍を突き出す。
その槍先は、迷うことなく、ギ・グー・ベルベナの心臓を貫いた。
呆然とそれを見下ろす、ギ・グー・ベルベナは、瞬きの後苦笑する。
「……世話をかけるな。ギ・ガー」
肩を上下させながら、ギ・ガー・ラークスは首を振った。
「気にするな」
勢いよくあふれ出た血で震える足を叱咤し、手にした長剣を地面に突き立てて杖とすると、ギ・グー・ベルベナは穏やかにほほ笑んだ。
「我が王に、遅れること……十五年。クク……ギ・ガー、先に逝って悪いが……ようやく戦死だな」
馬上からギ・ガー・ラークスは再び首を振った。
「馬鹿者が……」
こと切れたギ・グー・ベルベナから視線を外し、目を瞑って天を見上げる。
血の色に染まった空に、目を見開いてギ・ガー・ラークスは勝鬨を挙げた。
「フェルドゥークの総大将、ギ・グー・ベルベナは、アランサインがギ・ガー・ラークスが討ち取った!!」
継承者戦争と呼ばれたギ・グー・ベルベナの叛乱は、終わった。




