継承者戦争≪剣士達の旅程≫
フェルドゥークがアクティエム平原の戦いを行うに際して、根拠地として都市グラウハウゼを占領していた。なにせ十万に近い大兵力を食わせていくだけで大事業であり、兵站の確保は絶対に必要であった。
東征を成し遂げた大英雄の一人であるギ・グー・ベルベナをして、だがそれを誰に任せるかと言う難事に当たったとき、最初に思い当ったのは、当時三極構造を為していた文官だったが、彼らは当然ながらアルロデナ側に着いた。
西都を占領できていれば力づくでヨーシュ・ファガルミアを従えると言う選択肢もあったが、残念ながら辺境将軍シュメアの活躍により、それは叶わぬこととなっている。だからこそ、ギ・グー・ベルベナはゴブリンの王を模倣した。
すなわち、文官は現地採用である。
ゲルミオン州区にあるグランハウゼ攻略の過程で中規模以上の都市をほとんど糧秣の為に略奪して回ったフェルドゥークと暴徒側だったが、流石にグランハウゼ自体を破壊することはしなかった。
いわば、見せしめとしての中小都市への攻撃を許したが、グランハウゼに対しては、極力穏当に接している。それでも逆らうものは、容赦のない苛烈な弾圧が加えられたが、逆に言えば逆らわなければ、さして被害らしい被害を受けないでいられた。
ギ・グー・ベルベナ率いるフェルドゥークが、グランハウゼの代表を呼び出し、要求したことは二つだった。後方兵站としての食事の確保、そして寝床の確保である。
グランハウゼの代表は、名宰相補エルバータの幾人かいる内の弟子のひとりであり、政治的な駆け引きと胆力に置いて、特筆されるべき人物だった。
張り出た腹に、禿げ上がった頭、更に身長は低く、良く言って風采の上がらぬ彼は、能力だけは一級品だった。
「……よろしい。ただし条件がある」
ギ・グー・ベルベナと一対一で向き合い、血の滴る武器を携えた多数のギ・グーの護衛達に囲まれながら、表情一つ変えずに要求を言ってのける胆力たるや、ギ・グー・ベルベナですら心の内で感心したほどだった。
「聞こう」
「では、一つには自治、税の免除を含めた広範なものを。今一つは、治安維持を担う防衛の肩代わりを、ゴブリンにしてもらいたい」
その要求に、ギ・グーは口元を歪めて笑う。
「人間どもではなく、か?」
「確認するまでもありません。閣下の部下の信用能うものに」
暴徒になど治安を任せられない、という認識にギ・グーは苦笑するしかなかったが、グランハウゼ代表は頑なだった。
「今は亡き、ゴブリンの王を模倣されるなら──」
その言葉が文官の口から出た瞬間、彼の目の前をギ・グーの戦斧が走り抜け、彼とギ・グーの間に合った机を両断する。
「言葉に気を付けろ。貴様らに我らの王を語る資格はない」
「……失礼。言葉が過ぎましたな」
それでも顔色一つ変えず、額から一筋の汗が流れるだけに留めたのは、驚嘆すべきことだった。
「自治は認めよう、治安の維持も構わん。要求はそれで全てか?」
「……今一つ。この都市の運営については、閣下に脅されて協力したことであり、グランハウゼの本意ではない旨を書面で、残してもらいたい」
「……つまり、貴様は」
まるで猛獣に笑いかけられているかのように、獰猛な笑みを浮かべたギ・グー・ベルベナに対して、文官は無表情を装った。
「この戦、我らが負けると? その後アルロデナから下される罰に対する釈明すらしておけと、言いたいわけか」
無言を貫く男の顔を、ギ・グーは獰猛に笑いながら見ていたが、その笑いを納めると、設えられた革張りのソファの背もたれに体重を預けて言い放つ。
「良かろう!」
「閣下の深い推察に感謝を」
「気に入ったぞ。部下に欲しいな、貴様どうだ? 今の地位を捨てて、俺と共に来ないか? アルロデナを倒した後で、宰相の地位を約束するが?」
静かに、だがはっきりと首を振ってグランハウゼを預かる文官は拒絶する。
「私を評価して頂けるのは、嬉しいですが、私は小心者なのです。残念ながら閣下のご期待に副うことはできません」
「ふん、なるほどな。では気が変われば、いつでも申し出るが良い」
無言で頭を垂れた文官は、ギ・グーが立ち去るまでその場を動こうとしなかったが、恐る恐る呼びに来た部下が呼びに来て、やっと頭を上げたのだった。
「……死ぬかと思ったよ。一気に痩せた心地だ」
噴き出す汗をぬぐいながら、冗談すら飛ばす余裕のある文官に、部下達は深く同意すると同時に、尊敬の念を向けた。
「でも、流石ローメウ主席代官殿ですね!」
「いやいや、私などは、エルバータ殿の足元にも及ばないさ。まぁ仕事にかかろう。グランハウゼには、問題が常に山積しているのだからね」
そして彼らの活躍のおかげで、フェルドゥークは補給の心配をせず戦に臨めることになったのだが、その過程でどうしても必要不可欠だったのが、他の都市との物流だった。
グランハウゼは城壁に囲まれた都市である。
東征以後の十五年によって、物流の発展し、市内には人が溢れ、耕作地は城壁の外に外へと拡充していった一般的な都市だった。そのため、多数の倉庫を抱え、物資糧秣の集積地として優れてはいても、グランハウゼのみでフェルドゥーク全軍の糧秣を賄うことは不可能だったのだ。
ローメウ主席代官の願いを聞き入れたギ・グーの判断により、他の都市との物流・商活動が再開する。
そして商人とともに、グランハウゼに入り込むのは、何も物資だけではない。エルクスの諜報員、そしてギ・ゴー・アマツキをそれぞれの目的で追う二人も、その中に姿があった。
◆◇◆
「……本当にいくのか?」
かけられた言葉に無言で返し、カーリアンは黙々と足を動かした。頭から深くローブを被り、隊商に混じって護衛として同行する彼女と、エルクスの諜報員であるヴェリン。
彼らはユーゴとの戦いの後、身を隠しながら暴徒軍の動向をエルクスに無事伝えることが出来た。
幸運にも、彼らはエルクスの元締めたるソフィアに直接情報を伝えることが出来、小さな宿屋の一室でねぎらいの言葉と報酬の算段をしていた時だった。
その際、カーリアンは情報を求めた。
「ユーゴ・アマツキとギ・ゴー・アマツキの現在地の情報を頂戴」
焦るヴェリンを無視して、カーリアンはソフィアに詰め寄った。
「納得できないのよ! このままじゃ、絶対に!」
ソフィアは困ったように笑い、首を傾げて視線を彼らの後ろに向ける。
「でもね、そちらの方が許してくれないでしょう? きっと……」
カーリアンとヴェリンが振り向くより先に、ソフィアの視線の先から、その声は響いた。
「そンなことはねぇさァ~? 可愛い、可愛い娘の我が儘だしなァ」
その声が耳朶を叩いた瞬間、それまで威勢の良かったカーリアンは、壊れた機械仕掛けの人形のように、動きが止まり、やがてギギギと言う音がしそうなほど、ゆっくりと振り返る。
「ひっ……」
思わずヴェリンは仰け反って悲鳴を上げた。
そしてカーリアンは、視界にそれが映った瞬間、言葉を発するよりも早く身体が逃げていた。
「まっ──」
一足飛びに、目の前にある机の上に乗り、それを踏み台にして天井まで駆け上がる。入り口は既に塞がれていることを覚悟し、天窓へ一直線に逃げようとし──。
「カァァアリィィアアァン!」
「ひぃぃい」
耳元で囁かれる魔王の声に、カーリアンは悲鳴を上げて体を硬直させた。
直後、襟首を掴まれ天井から引きずり降ろされる。
「ご、ごめんなさい。ママ!」
地獄の悪鬼も裸足で逃げ出すレヴェア・スーの伝説。人斬りのヴィネ・アーシュレイがそこに立っていた。口の端を吊り上げ、開いた瞳孔は獲物を狙う猛獣のようだった。
腰には細身の曲刀のみ一本。他に武器らしい武器もない。
腰まである長い黒髪はさらりと揺れて、片手でカーリアンを子猫か何かのように捕まえている様子は、まさに生きる伝説と言われても納得できる貫禄であった。
「掴まっちゃったわねぇ……残念」
至極楽しそうに笑うソフィアに、涙目になりながらカーリアンはまくしたてる。
「私達を売ったわね! それでも情報屋なの!?」
「あら、息子に悪い虫が付いたんだもの、駆除しようとするのは当然じゃない?」
妖艶さすら漂わせ、流し目でそう語るソフィアの口元は邪悪に笑う。
「ヴェリン! 貴方からも何か言いなさいよ!」
「あー……俺は関係アリマセンー、彼女の一方的な妄想デスー」
片言になっているヴェリンに、カーリアンはわなわなと口元を陸上に挙がった魚のように開閉するが、直後喚きだす。
「裏切者っ! 私の純情を弄んだのね!?」
「っていうわ……っておい! 人聞き悪い事言うな!?」
怒り心頭のカーリアンは、襟首を掴まれた状態で立ち上がりヴェリンに詰めようとするが、ヴィネが速やかに裸絞めの要領で腕を首に回す。
「きゅ──」
絞められる直前の鶏かなにかのような哀れな声を出して、カーリアンは白目を剥いて落ちかける。
「悪魔か何か……」
突然現れたヴィネに、ヴェリンの呟いた感想に、ソフィアはボソッと呟いた。
「そっちの方がまだマシね。悪魔は少なくとも契約をするもの……」
にやりと笑うヴィネに血が滴るような幻想を見て、ヴェリンは戦慄に身を震わせる。
「まァ、話をしようじゃねぇか……アタシの娘が随分世話になったみたいだしなァ?」
脅しにしか聞こえない声に、ヴェリンは頷くしかなかった。
「で、だ。ギ・ゴー・アマツキと誰だっけ? ユーゴ・アマツキ?」
「そう、ギ・ゴー・アマツキの息子ね」
首を傾げるヴィネに、ソフィアが補足する。
「ふぅン?」
じろりと、すっかり大人しくなったカーリアンを見下ろすヴィネ。両ひざを抱えるように座っているカーリアンは、年相応よりも幼く見えた。
「……負けたね? カーリアン」
ヴィネの言葉に、ぴくりと肩を震わせ、カーリアンは俯いた。
「ま、命あっての物種さ」
肩を竦めたヴィネは、次いで質問を変える。
「で、理由は?」
「……言いたくない」
直後、ぺしっと軽く頭を叩かれるが、カーリアンは頑なに口を閉じたままだった。
「まぁ言いたくないなら仕方ない。他に聞くさ」
言うや、ヴェリンの顔に手を伸ばし、むんずと掴み、そのまま米神に指を当てて締め上げる。脳天が絞めあげられるような痛みに、ヴィリンは悲鳴を上げた。
「言え。うちの娘は、なんでまたァ、雪鬼の剣術馬鹿どもに喧嘩売ってんだい?」
「いて、いてててて!」
まるで万力で締め上げられているかのように頭蓋骨が悲鳴上げる。
「言う気になったかい?」
「き、聞きたいなら、自分で娘に聞けば良いだろう!?」
ヴェリンの言葉に、ヴィネは形の整った眉を跳ね上げた。
「ほう? いい度胸だ。んじゃァ、もうちょっと強めでいくかい?」
悲鳴を上げるヴェリンの身体が徐々に持ち上がる。片腕一本で自身の体重より明らかに重そうなヴェリンを持ち上げて、ヴィネは楽し気に嗤ってさえいる。
「ちょ、ちょっとやめてよ。ママ!」
「言うかい?」
「それは……」
迷うカーリアンにさらに力を籠めるヴィネ。
「か、カーリアン! すまん。もうだめだ……」
「え、ちょっとヴェリン、そこは最後まで頑張ってよ!?」
「無理だ。痛すぎる!」
「わ、わかっ──」
焦るカーリアンが同意する言葉を口にしようとし、ヴィネの注意がそちらに向いた瞬間──。
「こンの、くそババア!」
──咆哮一閃ヴェリンの渾身の蹴りがヴィネの顔を直撃する。
「え?」
蹴りの反動で拘束を逃れたヴェリンは、降り立つと同時に、カーリアンに向き直る。
「来い!」
あまりの事態に茫然としたカーリアンの手を取りヴェリンは、部屋のドアを蹴破って二人で走り出す。
「ど、どうするのよ、ヴェリン!? ママ怖いのよ!?」
「知ってるよ! てか見ればわかるわ! もう体験もしたわ! しかもくそババアとか言っちまった! 手遅れだ!」
怒鳴りながら騒がしく走り出す二人は、路地に出ると人込みに紛れるように駆け抜けていく。
「とりあえず、逃げる! あとはどうにかなるさ!」
「ば、馬鹿ぁ!」
笑うヴェリンに釣られて、カーリアンも泣き笑いの顔で頷いた。
一方部屋に残されたヴィネは、唇から流れる血を舐めとって、こめかみに青筋を浮かべていた。
「野郎……」
「貴方が悪いわ」
「どこがだよォ!? 娘と再会したら、落ち込ンでるンで励まそうとしただけだろうがよォ!?」
深くため息を吐いたソフィアは、片肘を突いて机に突っ伏す。身体から力が抜けていくようだった。他の家庭の教育方針に首を突っ込むほど暇ではないソフィアではあったが、あれが、励ましだと言うのだから、致命的すぎると内心ため息を吐いて、やっぱり再度溜息を吐いた。
「二人の恋路を邪魔するお邪魔虫」
「だァれがァ!?」
無言で指さすソフィアの先にはヴィネ。
「なンでだよォ!?」
首を傾げるヴィネに、ソフィアは先ほどよりもさらに深くため息を吐いた。このままでは机に体が沈み込んでしまうのではないかと思えるほど、深く沈む。
「あのね、年頃の娘にあの聞き方はないでしょ。うちの息子にだって同じ」
「ンじゃどうすれば良いンだよ?」
鋭い視線に、純粋な疑問を乗せてヴィネは尋ねる。
「誘導尋問にかけるとか、優しく聞き出すとか色々あるでしょ? 別に他の人間使ったって良いんだし、ベルクさんだって来てるんでしょ?」
先ほどまでの勢いはどこへ消し飛んだのか、途端に勢いをなくすのヴィネの様子にデジャヴを感じながらソフィアは頭を抱えた。
「ああ、いや……まぁそうなンだけどよォ~? なんつーか、アタシの方が頼りがいがあるじゃねえか?」
「あのね、子供じゃないんだからさ。そんなことでベルクさんと争ってどうするのよ?」
「だってよォ、久しぶりに会ったんだぜ? もうちょっとこう、なンかあっても、いいンじゃねえかと、アタシは思うンだけどよ?」
じと目で睨む、ソフィアは鼻を鳴らして断言する。
「……そーいうのを、親馬鹿と言うのよ。馬鹿親かもしれないけどね。覚えておきなさい。まったく、私だって久しぶりにヴェリンに会ったのよ? 積もる話もあったのに」
「ちぇ~、つまらねえなァ」
「子離れしなさい」
備え付けのベッドに仰向けに倒れ込むヴィネは、ヴェリンとカーリアンを追うつもりはないようだった。
「ンで? なんで雪鬼の奴らと揉めてンだ?」
「首突っ込まない?」
「当たり前だろォ?」
「貴方と、その……本当の両親の為だってさ」
「……はァ? わけわかンねーよ」
ベッドから勢いよく上半身をあげると、ヴィネは睨むようにソフィアを見る。対するソフィアはヴィネに視線を合わせようとはしなかった。
「亡き父母と恩師の為、最強の名を、奪わせてもらうって──あの娘が言っていたそうよ。許せないんでしょうね。ギ・ゴー・アマツキとだって、戦えば勝てると信じてるみたいよ?」
墓前に捧げるには、随分高い花な気がするけど、と言ってソフィアは横目でヴィネを窺う。
「……」
だから世界に轟く剣王ギ・ゴー・アマツキに挑もうとするのか、その息子ユーゴに挑むのはその前哨戦。
「はッ、馬鹿な娘だ。誰に似たんだか!」
再びベッドに倒れ込むヴィネはしばらく天井を瞬きもせずに見つめていた。そんなヴィネに、ソフィアは、机に突っ伏していた体を起こすと、部屋を出ていく。
「……優しくて良い娘じゃない。貴方に似ないで」
手にした鍵を、腕で顔を覆ったヴィネに投げると、蹴破った扉を閉めて部屋を出て行った。
「まったく、誰に似たんだかな……子育てってのは、難しいもンだ」
ヴィネの呟きは、心なしか、震えていた。
そして、ヴェリンとカーリアンの二人はギ・ゴー・アマツキの所在を追ってグランハウゼに潜入することに成功する。ギ・ゴー・アマツキが見張り塔を占拠して、戦場に踏み込む五日前のことだった。
◆◇◆
ユーゴ・アマツキは、ソフィアから以来の報酬を受け取った後、その進路をやはりグランハウゼへと取っていた。
旅の道連れもなくただ一人の旅路に、道連れが出来たのは、その旅路の二日目からだった。
「ちょっと、そこのお兄さん、助けちゃくれませんかね!?」
運悪く野盗に行き会った女ばかりの集団に助けを求められたユーゴは、大した打算もなく助けに入り、野盗の悉くを斬って捨ててしまったのだ。
それから、何やかんやと彼女達に付きまとわれてしまっているのを振り払えないでいるのは、彼自身の甘さと人生経験の少なさ故だった。
「あたしらは、娼婦なのさ」
それが何でもないことのように言う彼女たちのまとめ役の言葉に、ユーゴは始め強いショックを受けた。金がないために身を売る哀れな女達と言うのがユーゴの思い描く娼婦の姿であったが、一緒に過ごしてみると、それは一面では正しくとも、それだけではないことを彼に学ばせる機会になった。
「ユーゴのお兄さん行先は同じなんだから、護衛をして行っておくれよ。なぁに、報酬は払うさ。お金でも、身体でもね」
しなを作って誘う彼女たちにユーゴはどう対応して良いかわからない。彼の周りの女と言えば、いつも彼を気遣う年上の幼馴染と、病気に伏せる母の姿であったからだ。
「一人で足りないってんなら、二人同時でも。いやいや、三人まとめでだって、構わないからさ!」
何が構わないのだろうかと、ユーゴは今まで居なかったタイプの押しの強い娼婦の彼女らといつの間にか同行することになっていた。
一つ彼女らと同行して良かった点と言えば、野宿をするにしても夜の食事は格段に味が良くなったことだろう。
彼女達にとってユーゴと言うのは、突然舞い降りた幸運の天使に違いなかった。幼子以外は、稀少な若い男で大層初心だ。
しかも顔は良く、血筋は大陸でも間違いなく良い。万が一見初められて一緒になれば、玉の輿は間違いなしとなれば、彼女達が奮い立たないはずがなかった。
娼婦の腕の見せ所とばかりに、毎夜ユーゴを誘うが、誰からの誘いも、ユーゴは受けない。それならば、男娼の趣味があるのかとそれとなく聞いてみたが、それも違うと言う。
首を傾げる彼女らに、まとめ役の娼婦は、ユーゴはどんな女を伴侶に迎えたいのか探りを入れてみた結果が、料理の上手い女だと言うのだから、彼女達は毎夜交代で腕を振るった。
だがそうこうしているうちに、目的のグランハウゼまで到着して、別れの時を迎えてしまったのだから、ユーゴの方が一枚上手であったとしか言いようがない。
おかげでユーゴは毎夜旨い食事にありつけ、かくして彼女は大魚を逃したのだ。
ギ・ゴー・アマツキが見張り塔を占領して、戦場に踏み込む七日前の出来事だった。




