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ゴブリンの王国外伝  作者: 春野隠者
五風十雨の平穏
4/61

Crossing

 ベルク・アルセン・ロイオーン。

 土の妖精族(ノーム)の戦士にして、血盟(クラン)赫月(レッドムーン)の副長を務める男である。王の座主都(レヴェア・スー)の裏を取り仕切るレッドムーンの実務一切を引き受けるこの男には、類稀な剣士である。その腕前は、風の妖精族(シルフ)のフェルビー、火の妖精族(サラマンドル)のバールイ、あるいは剣聖ギ・ゴー・アマツキらに認められるほどのものだった。

 言い換えれば、当代一を自称してもなんら不思議の無い腕前を持っていた。

 だが、その彼をして自身の腕前をなんら誇るということをしなかったのは、一つには彼が渡り鳥(ロイオーン)を背負っていたからに他ならない。人間に追い立てられ、生きてくのに厳しい土地に追いやられたノームは、一族が団結するとともに厳しい掟を設けてその規律を維持しようとした。

 半ば成功したその政策は、彼らを東征当時にまで生き残らせることに成功する。ゴブリンの王が破竹の勢いで勢力を盛り返す際に助力したことに端を発し、種族が息を吹き返すまでになった。だが、その過程で個人の感情は切り捨てられ、幾多の悲劇を生んだのも事実だ。

 その象徴的な制度が渡り鳥(ロイオーン)の名と討滅である。

 “一族の掟を裏切ったものには、血の制裁を” 

 一族の最も腕の立つものがロイオーンとなって、裏切り者を追い殺さねばならない。

 たとえそれが、血の繋がった家族であろうとだ。

「んで、手紙が来たと?」

「あぁ」

 王歴10年の冬頃、レヴェア・スーの裏社会を支配する女主人ヴィネ・アーシュレイは革張りの高価なソファに腰掛けながら、酒を呷っていた。さすがに寒さが堪えるのか、スリットの入ったスカートの下に膝上まであるソックスを履いていたが、その足は乱暴にソファの前にある長机の上に投げ出されているのだから、お世辞にも行儀がいいとは言い難い。

 対面で手紙を読むのは、ベルク・アルセン・ロイオーン。

 狂刃のヴィネと呼ばれ、恐怖と畏怖の代名詞たるヴィネ・アーシュレイに対して、物怖じしない数少ない人物だった。

「で、なんて?」

「果たし状だ」

「ふ~ん……珍しくもないが、アタシじゃなくてアンタにねェ」

 天冥会戦の後、レヴェア・スーは空前の好景気を迎えていた。旧アーティガンド地域の復興のために、運搬路として宝石街道(ジュエル・ロード)の整備が進められたばかりではなく、大陸を統べる大国家の首都として、ありとあらゆる人種人物が集まって来たのだ。

 それ以前にもシュシュヌ教国の首都として隆盛を誇ってはいたが、その時は規模が違う。何せ西は西方大森林に、東はアーティガンドまでを支配する地域が領土となったのだ。治めなければならない人種だけ数え上げても、主要なだけで5種族。さらに妖精族は4種に分けられ、ゴブリン達とて出身地方に応じて多少の差異がある。亜人などに関しては八旗を筆頭とはするものの、正確にはわからないほどだ。

 当然そうなれば、首都に集まるのは一獲千金を夢見る者達。そしてそれを食い物にしようとする輩も集まってくる。必然として、生まれるのは表の社会とは別の裏社会だった。

 力と庇護を求めて出来上がる裏社会の頂点に立つのが彼女ら血盟(クラン)赫月(レッドムーン)。狙い狙われることなど日常茶飯事である。相当に血生臭いことも引き受ける彼らに果たし状を送り付けてくるその意味。

 しかも、大戦の熱狂が過ぎ去ったこの時期に。

 そこまで思考を巡らせ、ヴィネはわずかに口元を歪める。

「……面白いじゃねェか」

「何がだ?」

「その果たし状の差し出し主だ。つまり、そいつは赫月(うち)を舐めてンだろう?」

 片時も離さない細身の曲刀の小尻を床に叩き付けると、ヴィネは体を起こす。

「しばらく大人しくしてたから舐めてくれちゃってンなら、思い出させてあげようじゃないの。誰の顔に泥を塗ってンだってことをねェ」

 今すぐにでも目についた通行人を殺しに行きそうなヴィネに、ベルクは冷静なままに返答する。

「これはごくごく個人的なものだ」

「あン? 個人的……ってえとお里のか?」

「……ああ」

 しばらく言いよどんだベルクの答えに、ヴィネは先ほどまでの怒気を引っ込めて眉を顰めると、鼻を鳴らして再びソファに倒れ込む。

「ッチ、久しぶりに大手を振って暴れられると思ったのによォ」

「すまんな……すまんついでに一つ頼みがある」

「あン?」

「手合わせを願いたい」

「ほう?」

 ヴィネの口元が歪む。猛々しい笑みを浮かべる彼女に、臆した様子もなくベルクは頭を下げた。

「……今度の敵は、かつてないほどに強い」

 一度しっかり頭を下げて、再び顔を上げた際の視線の強さに、ヴィネは笑みを一瞬だけ引っ込めたが、すぐに元の笑みを浮かべた。

「いいぜ。久しぶりに手合わせしてやる」

 跳ねるようにソファから起き上がると、顎で外を指し示して、先立って歩き出す。その背を追おうとしたベルクの耳に、ヴィネが肩越しに振り返りながら問いかけた。

「あァ、そうだ。確認だけど……」

「何だ?」

「アタシに殺されるなよ?」

 それだけ言うとヴィネは、楽し気に笑って外へ出ていく。

「……」

 楽し気な笑い声とは裏腹に、ヴィネの視線は少しも笑っていない。無言のうちに頷いて覚悟を固めると、ベルクは彼女の後を追った。


○○●


 ひょんなことからレッドムーンに拾われ、そのまま流れてこのクランに居ついてしまったシュレイとルー。新人冒険者(ルーキー)だった頃から比べれば、好むと好まざるとに関わらず、多方面にわたる経験を積み重ねてきた。対人はもとより、対魔獣、対魔物、果ては亜人に至るまでその戦闘経験の幅は広い。

 だが、それらの経験に照らし合わせても目の前で行われている戦闘は、異常だった。

「さァ、さァ! どうしたどうした!?」

 ヴィネが叫ぶと同時に振るわれる細身の曲刀は、銀線となって空中を奔る。触れれば何物をも両断する鋭さをもったその剣筋は、受けることが即ち敗北を意味する。ゆえに、彼女と相対するものは、選択肢として二つしか持ち得ない。

 すべての攻撃を躱し切るか、あるいはその前に先手を打って攻撃し、彼女の剣筋自体を封じてしまうか、である。全ての攻撃を躱し切るのは現実的ではない。

 彼女は歴戦の戦士であり、本人は否定するであろうが、剣の神に愛された剣士である。いかにベルク・アルセン・ロイオーンが大陸屈指の遣い手であろうと、実力が伍する者相手に早々剣を躱し続けることなどできはしなかった。

 故に、ベルクがとった戦術は単純明快。

 先手必勝で彼女の間合いの外から魔法をもって攻撃を繰り返したのだ。岩弾(バレット)を得意とする土の妖精族(ノーム)の戦士らしく、遠距離から攻撃しつつ、決して彼女の間合いに入らない。彼女が疲れ果てたところで初めて間合いを詰める、という戦術をとったのだが、結果としてみれば相手が悪かった。

 ベルクの放つ岩弾は、彼女の足止めになりえない。逆に、恐ろしい速度で接近を許してからは、切り込まれる危険が増えるだけとなる。

 二人が手にしているのは、いつも彼ら自身が使う得物である。真剣にやるため、と称してヴィネは刃引きの剣や木刀の使用を許さなかったが、怪我をする前にヴィネとベルクなら寸止め出来ると感じた彼女が正解であったのだろう。

 同じことをシュレイあたりがやれば、確実に怪我をする。

 それでも念のために、と呼ばれたルーだったが、同伴したシュレイは目の前で交わされる剣戟の嵐に絶望的な差を感じるばかりだった。

 片手で詠唱をしながら、もう片手でヴィネの曲刀を弾くベルク。洗練された動きは、舞うが如き無駄のない動作であり、シュレイからしても見習うべきことの多い動きだった。だが、それを上回って理不尽なほど強いのがヴィネである。

 感情のままに暴れているだけ、そう見えて最終的にはその全てに意味があり、彼女の元に勝利が転がり込む。特に酷いのが彼女の特性である刃への付与魔術。彼女が握る刃はどんなものであろうと、それは最高の切れ味を生み出す。

 唯一にして無二の彼女に与えられた魔法。そして皮肉にも魔法使いたる彼女に加護を与えるのは剣神(ラ・パルーザ)

 大陸広しといえども、彼女にしか為し得ない特異性の為せる業である。

 それが振るわれるたび、ベルクの築き上げてきた理論が突き崩される。理詰めで組み上げた戦術が、ヴィネの暴力の前に成す術なく突き崩されていく。それがシュレイが見たヴィネとベルクの戦いだった。

 遠間から放たれる岩弾を潜り抜けて、ヴィネがベルクへ迫る。左右両脇から迫る岩弾を、視線すら向けずに獲物に向かって一直線に走る彼女の瞳は、嗜虐の笑みに輝いた。口元には、獰猛な笑みを浮かべ、腰に差した細身の曲刀は抜き放ってすらいない。

 さらに、連続して放たれる岩弾とわずかに間をおいて、ベルクは地面に手をかざす。

土壁よ(ロネ)

 突如としてベルクとヴィネの間を遮る土壁。その厚さは家の壁すらある。左右に放った岩弾は、土壁の前を通るように調整済み。一直線にベルクに向かうヴィネが急に止まれるはずもなく、当然速度を緩めないなら、逃げる場所は上しかない。

 土壁の上に視線を向けて剣を構えるベルク。その目の前で、土壁が真っ二つに両断される。

「ぬ」

「ハッ──」

 僅かに漏れた苦悶の声と、ヴィネの嘲笑が重なる。

「敵が、てめえの思い通りになんて動くわきゃねえだろうがッ!」

 家の壁の厚さ並みの土壁を、なんなく両断して迫るヴィネに僅かにベルクの反応が遅れる。それでも、咄嗟に飛び退くと同時に体勢を立て直す為、魔法を放とうと左手をかざす。

「遅せェ!」

 放たれた直後の岩弾が目の前でヴィネの一閃の前に砕け散り、さらに抜き放った白刃が、流れるような軌道を描いて反転する。

「む」

「──ハン」

 首筋に当てられる白刃の冷たさに、ベルクはヴィネに視線を戻す。

「まだまだだねェ、えぇ? ベルクちゃん」

「もう一勝負だ」

「あははは、良いぜ。精々抵抗して頂戴なァ」

 舌なめずりするヴィネは、抜き放った白刃を鞘に納めて踵を返す。

 さらに、彼らの試合は日没までおよそ1日を潰して行われた。翌日も、さらに翌々日も行われた試合でもベルクはヴィネに及ばず、それどころか日に日にヴィネの刃がベルクの首筋に当てられる間隔が短くなってすらいた。


○○●


 ある夜、毎日のようにその戦いを見守っていたシュレイだったが思い余って、ベルクの部屋を訪ねていた。ベルクは、自身の剣を研ぐ手を止めることなく、蝋燭の火に照らされて陰影は部屋の中に踊る。妖精族というのはもともと美貌の一族だったが、日に焼けた肌と細かな傷跡に彩られたベルクの表情は、野性味溢れる物々しさだった。

「無駄ではないか、だと?」

「そうです。ヴィネさんの剣筋は、その理論でどうにか出来るようなものじゃないと思います」

「なるほど」

「その、もし……相手が勝てないほど強いなら、数を集めるのは恥ずかしいことじゃ……」

 徐々に小さくなるシュレイの声に、ベルクは無言で考えていたが、手を止めることなく彼に答えた。

「組織をまとめていく上では、確かにその考えで良い。入ったばかりのころから考えれば、お前の成長は嬉しい限りだ」

「はい。ありがとうございます」

 なお、俯き蚊の鳴くような声のシュレイに、ベルクは剣を研ぐ手を止めて視線を向ける。

「だが、すまんな。こればかりは譲れないのだ」

 自分自身の我が儘だと言いながら、ベルクは優しくシュレイに微笑んだ。

「少し、昔話をしてやろう。俺の生まれた処は、貧しい場所でな──」

 厳しい自然とその中を生き抜くために培われた非情の掟。

 だが、そのような中だからこそ、肉親の情というものは深く強くなるものだ。彼にとって唯一の肉親である姉。類稀な剣士であり、若くしてノームの剣士の中で最高の称号である“剣舞士”と呼ばれた若き天才。それが彼の姉だった。

 幼い日に、両親がいないことをからかわれた時、泣いたベルクを優しく慰めてくれた記憶。魔獣を狩る時、彼女に命を救われたことは何度もある。苦しい剣の稽古の時、励ましの言葉をかけてくれた姉の声。剣理を諭してくれたあの日の言葉。

 今ここにいるベルク・アルセンと言う大陸屈指の剣士を作り上げたその全てにおいて、彼の姉がいなければ、それは為し得ないことであっただろう。少なくとも、ベルクはそう信じている。

「その、お姉さんを……」

「──斬る」

 研ぎ終えた剣を見据え、陰影を刻むベルクの表情は無表情だからこそ、雄弁にその感情を物語っていた。鬼気迫る、という表現すら生ぬるい。いくつか修羅場を超えたはずのシュレイでさえ、悲鳴を喉の奥でかみ殺して息を呑むほどのものだった。

「どうして、そんな」

「罪は罰せられねばならん」

 目を細めたベルクの表情は、不義を許さぬ鬼の顔をしていた。

「我が姉は、一族の者を殺し、集落から脱走した。故に──」

 研ぎの為に濡れた剣の水滴をふき取り、その断罪の剣を鞘にしまう。

「──剣舞士セーレ・アルセンは、討ち果たされねばならんのだ」

 かつて南方砂漠に一大勢力を誇った血盟(クラン)赤の王(レッドキング)の最後の生き残り、そしてベルク・アルセン・ロイオーンにとって、かけがえのない唯一の肉親を、ベルクは自身の手で殺さねばならなかった。


●○○


「あン?」

「いつか大怪我しちゃうんですから!」

 数日をベルクとの試合に費やしたヴィネは、自室でルーに侍女の真似ごとをさせていた。高濃度の酒精を混ぜ込んだ東方由来の紅茶を淹れさせ、悠然とソファに構えている。その横で、慌ただしく書類仕事をしているのはルーだった。

 言ってしまえば血盟主の始末せねばならない仕事を全てルーに投げつけ、一人酒を飲んでいるだけなのだ。ルーが泣きそうな悲鳴を上げても無理からぬ状況である。

「大丈夫だよ。言っちゃ悪いが……いや、別に悪くもねェか。アタシもベルクの野郎も、お前の相方とは腕が違うんだからなァ」

「べ、別にシュレイだって弱くはないですよ!」

 にやにやとルーをからかいながら、紅茶の香りを楽しむヴィネ。

「私の魔法だって、あんまり深手だと対処しきれませんし……ん? でも、ここ最近の試合を見ていればヴィネさんのほうが圧倒的に強いような気がしますけど」

「ふん、素人くさい論評ありがとよ」

 満更でもない風に笑いながら、ヴィネは一口紅茶入りの酒を啜る。

「いや~、一仕事した後の一杯はたまらねえなァ」

「なんか、年齢を感じる表現ですね」

「あァン? 今、シュレイ君の命が縮んじまったぞ、おい?」

「シュレイは関係ないじゃないですか!?」

 振り返るルーの視線の先で、手を振って仕事を片付けろとヴィネが指示する。そういう彼女は、紅茶入りの酒にご機嫌だった。

「……まァ、アタシとあいつの差があるとすりゃ、覚悟の差だろ」

「覚悟ですか?」

「心の持ちようさ」

「そんなことで?」

「大事なことだぜェ、コイツは嘘を吐かねえ」

 抱え込むようにして持っていた、細身の曲刀を鳴らしながらヴィネは笑う。

何人(なんぴと)に対しても、全力を以て剣を振るえるか──。ま、難しかろうぜ、なにせ相手は最愛の肉親だしな」

 飲み終わったカップを指先で弄びながら、ヴィネは流し目でルーを見る。ヴィネの話に聞き入る彼女は、仕事の手を止めて考え込んでいた。

「まァ、アンタらで言えばお前の大好きなシュレイ君がだ、大恩人たるアタシに剣を振るえるかって話なるだろうぜ」

「……意外といけるかも?」

「あァン? またしてもシュレイ君の寿命が危険だなァ、おい?」

「だから、シュレイは関係ないですって!?」

 紅茶入りの酒を飲み終えたヴィネはソファに横になる。いまだ手を止めたままのルーが、首をかしげながらそんなヴィネに問いかけた。

「その、ヴィネさんは覚悟ができているんですか?」

 相手が誰だろうと、斬り殺す覚悟を問うその声に、狂刃のヴィネは笑う。

「アタシを誰だと思ってやがるんだ。邪魔な奴ならあの宰相様だって殺してやるよ」

「……西都の総督様も?」

「あいつなら、覚悟の必要なく、瞬殺でぶっ殺すッ!」

 跳ね起きるように叫ぶヴィネに、ルーはジト目を向けた。

「まあ、いいですけど……シュレイもそういうの必要なんですか?」

「あいつはその前に、本格的に弱いからなァ」

「わ、私を守ってくれますよ!」

「はいはい、惚気惚気……あァ、あんまり鬱陶しくて、シュレイ君の寿命が──」

「だから、シュレイは!」

「ンなことより、さっさと仕事済ませろよ」

「これ、ヴィネさんの仕事じゃないですかっ!」

 ルーの悲鳴を無視してヴィネは再び、ソファに寝転がる。

「ふん、さっさと決めちまえよ……バカが」

 小さく呟かれたヴィネの声を聴く者は誰もいなかった。


○○●


 翌日、昨日と同じように向き合うヴィネとベルク。

「おい、試合も飽きたし今日が最後だ」

「ああ……わかった」

 だが、不機嫌さを滲ませたヴィネはベルクの返答を聞くと鼻で笑った。

「……準備はいいな? じゃあ、死ねェ!」

 一歩の踏み込みは、疾風の速度を超える。昨日までとは明らかに違う、本気になったヴィネの速度は、明らかにベルクを凌駕する。だが、昨日と違うのはベルクもまた同じ。明らかに昨日までとは、その反応速度が違った。

 ガチリと噛合せた奥歯の鳴る音を追い越す速度で前に出る。ヴィネの踏み込みが疾風なら、ベルクのそれは迅雷。稲妻のように踏み出す一歩から、繰り出されるのは長剣の一突き。ヴィネの瞳に僅かに驚愕。だが、舌打ちとともにすぐに思考を立て直す。

 交わる抜き打ちの軌道と直突きの軌道。

 今のままでは明らかに負けると判断したヴィネは、長剣の軌道から身をそらす。高速の踏み込みから、横へ飛びのく。それだけでも並みの剣士にはできない状況判断だが、一片の躊躇なくそれを行うと、ベルクの一撃から逃れる。

 完全に彼の間合いから外れた場所に着地、だが同時にさらに距離とるべく跳躍。すぐさま彼女のいた場所に降り注ぐ岩弾。

「ルラァアァあァア!!」

 ヴィネが被弾を避けて飛びのく方向に、さらに追撃。左手をかざし、走りよせるそのままのに、当たれば幸いと岩弾を繰り出すベルク。

 初手で受けに回ってしまったヴィネは、両手両足を地面につけた獣のような姿勢で、自身に当たるだけの岩弾を躱す。だが、数が多い。元々精度を優先しがちな、いつものベルクの手筋とは全く異なる荒々しい仕掛けだった。

「てめェが、その気ならなァ!」

 何度目かの岩弾を避けると同時に、曲刀を腰だめに構え、踏み出すと同時に抜刀。

 狂刃のヴィネの本領が発揮される。

 腰だめに構えた低い姿勢のまま突っ込むと、一息の間に三閃。鞘に入れたままの曲刀が鞘走る度に、岩弾が砕け散る。ヴィネの開いた瞳孔に嗜虐の光が走る。整っているからこそ、獰猛に笑うその表情は類稀な凶相。レヴェア・スーの裏社会で、悪魔か死神の如く恐れられる狂刃のヴィネがそこに出現する。

 長い黒髪が跳ねる如く揺れる。

 そのたびに、ベルクから放たれる岩弾が粉微塵となって崩れ去る。

 その必殺の間合いは、まるで強固な結界にも見えた。刃で作られた絶対の間合い、死を誘うヴィネの居合の結界だ。ベルクはもちろんそれを承知している。魔法を放ちながら走ったとて、その程度の認識は当然できる。だが、ベルクは止まらない。

 一切の怯懦を捨て去り、迷いを投げ捨てて、ベルクは前出る。

 見えているのは、ただ一筋の勝利への道筋。

 魔法を放ちながらも、剣を構える。距離はヴィネの結界の一歩手前、最後の魔法を打ち終え、勢いのままに片手で剣を振り上げる──。

「──なめんじゃねえぞ!」

 だが、その程度でヴィネの結界が崩せるわけもない。最後に放った岩弾は無情にも剣閃の前に打ち砕かれ、ヴィネの細身の曲刀は腰だめの構えに戻っている。

「ウオォォオアアァ!」

「──っ!?」

 長剣の間合いには僅かに足りないその距離から、ベルクはあろうことか長剣を投げつけた。驚愕に一瞬だけ動作の遅れるヴィネ。だが、不意を突いた程度で、ヴィネの剣閃は乱れない。それこそが剣神に加護を与えられた彼女の実力。剣に魅入られた大陸屈指の剣士の力量。

 投げられた長剣を弾くとそのまま、ベルクの喉首目掛けて長剣を振るう。だがそれでもなお、踏み込んでくるベルク。

「……」

「……」

 互いに無言で向き合う。

 僅かに皮を切っただけで止まったヴィネの曲刀。同時に彼女の喉元にも、ベルクの短剣が当てられていた。

「そういえば、てめぇフェルビーとかいう二刀流のエルフと仲良かったな」

「真似と言われるのは心外だが」

「……覚悟は決まったのかよ」

「……あぁ。俺は、セーレを斬る」

 最初に剣を外したのはヴィネだった。鼻を鳴らして、不機嫌そうに曲刀を鞘に納めると、舌打ちして踵を返す。

「バカが、素直に頼ればいいもンをよ」

「……すまんな。気を使わせた」

「見届け人はやってやるぜ。精々てめえの手で決着をつけな」

「感謝する」

 翌日、ヴィネとベルクは果たし状に記された場所へ旅だった。


●○○


 レヴェア・スーから東へ4日。かつては小国が乱立していたランセーグ地方からさらに南へ3日。海辺にほど近い小さな村にその場所はあった。

 土の妖精族(ノーム)の戦士たる者の戦装束を整えたベルクと相対するセーレは、黒衣の装束に赤の王の紋章を背中に縫い付けたマントを羽織る。

「……久しぶりだ、ベルク」

「ああ、そちらは、少し痩せたか」

 距離は既に間合いの内。だが二人は久しぶりの再会を祝す姉弟のように口を開いた。

「……見届け人は、その子か」

 ベルクが視線を下に向ける。セーレに手を引かれた子供の姿。

「ああ。そちらは……まぁ予想通りだな。ヴィネ・アーシュレイ」

「よォ」

 目を細めて警戒するセーレに、ヴィネは口元を歪めるだけで笑った。

「心配すンなよ。本当に見届け人だ」

「そう……」

 一度瞼を閉じると、距離をとるためにセーレは踵を返す。

「では、始めましょう」

「良いのかい? 今生で最後の会話だよ?」

「……語るべきことは、剣にて語る。それが剣舞士(われら)の流儀よ」

「だとよ」

 ヴィネも続いて踵を返し、決闘人達のために距離をとる。セーレは見届け人の手を放すと、自身の剣を抜いて間合いを詰める。

 お互い流儀は同じ、ならば剣戟の音にこそ、語られるべき真実があるはずだとベルクは覚悟とともに剣を抜く。

「ロイオーンの名とともに、掟によりその命、もらい受ける!」

「来い、ベルク!」

 互いに踏み込む速度は、すでに迅雷。稲妻のような踏み込みから繰り出される剣戟も、ほぼ互角。瞬きの間に繰り出される剣戟は、衝撃の応酬となって周囲を揺らす。

 繰り出されるセーレの剣戟の鋭さは、ヴィネの一撃に勝るとも劣らない。魔法に拠らない純粋な剣技だけなら、おそらくベルクよりも上だろう。魔法を使えば、勝機はより近くなる。それを知っていて尚、ベルクは剣技での勝負に拘った。

「ぬ、ウゥオォオアアア!」

「っ!」

 押されそうになる剣技を、気迫で押し返す。肌を掠める剣先を見送り、鼻先を掠める剣筋を見送ってなお直後に一歩詰める。剣技では確かにセーレが上、それを認めたうえでなお勝機を求めるならば、近距離での撃ち合いでこそ、勝機はあるとベルクは決断する。

 持ち得る身体能力の差。

 幼き頃から見上げたその剣技の頂きは、ベルクとて覆し得るものではない。だが、それを除いて考えたならば決して不利な勝負とばかりは言えない。単純な腕力、膂力、筋力、跳躍力に至るまで、全てベルクが勝っているといっても良い。

 及ばないのはその技術のみ。故に、接近戦。力の介在する余地の大きなつばぜり合いまで持ち込む。そこまでは至らなくとも、斬るという動作に必然的に必要になってくる距離を潰せば、即死はない。だからこそ、つばぜり合いにまで持ち込んだ時に、ベルクは勝機を見出した。

 つばぜり合いから、突き出すように相手の体を浮かす。力に勝っているからこそできる芸当。相手の呼吸を読み、つばぜり合いから離れる寸前の間を捉えねば不可能なことだった。ふわりと浮くセーレの体に向かって突き出す長剣。

 ふわりと風に舞う外套がベルクの目前を通り過ぎる。刻まれた紋は、かつて彼女が属した血盟赤の王。突き出される剣を、体をひねって避ける。それだけの動作が、これほどまでに美しい。

 極限にまで無駄な動作を排し、躱すと同時に剣戟を繰り出してくるその姿は、舞のように見えた。

 ──ゆえに、剣舞士。

 舞うが如きに剣を扱い、当代に比類なしと認められたその称号。まるで緩く流れる時の中で見えた残像のように、ベルクの目にはセーレの姿がゆるりと動いているように映った。下段から繰り出される剣に、突き出されたベルクの剣が弾かれる。

 弾かれた剣の火花までを見届けて、ベルクは慌てて剣を引く。

 だが、セーレの攻撃は止まらない。下段から剣を弾いた勢いそのままに、上段に振りかぶってさらに一撃。唐竹割に振り切られた剣閃がベルクの鼻先を掠める。引き戻した剣の勢いで後退していなければ、真っ二つに頭を割られていた。

 冷や汗すら流す暇もなく、さらにセーレの踏み込み。

 ベルクの構える剣先から逃れるように、柔らかいとすら表現できる動きで間合いを詰める。

「ぐっ!?」

 だが繰り出される一撃一撃は、その柔らかな動きと似ても似つかぬ剛剣。元々力に勝るベルクの剣を弾き、火花を散らせて押し込んでくる。

「どうした、ベルク。そんなものか」

 視線を伏せたままに、口元に淡く笑みを浮かべたセーレの挑発に、ベルクは答えることができない。ベルクは彼女の剣戟に合わせるだけで精一杯だった。

「そんな、ことでは!」

 振り切られる長剣が、ベルクの体を吹き飛ばす。ゆるりと構えていた剣を下すと、ゆっくりと吹き飛ばしたベルクの元に足を進める。

「私に真実を語らせるのだろう?」

 ぎり、と奥歯をかみしめてベルクが立ち上がる。

 杖にした長剣と別に、さらに一本。左右に長剣と短剣を握るのは、古今稀なる二刀流。

 僅かに興味をひかれたセーレが眉を跳ね上げるが、それだけだった。構えるベルクに向けて、セーレが走る。再び巻き起こる剣戟が疾風となって火花を散らす。

 攻めるのはセーレ。

 繰り出す斬撃の鋭さは、その間合いの長短を問わず一撃必殺。的確に急所を狙って斬り、突き、薙ぐ。

 それを受け止めるのは、ベルクの長剣。普段なら短剣で敵の攻撃を受け止め、長剣で止めを刺すのがフェルビーの考えた二刀流だったが、ベルクは更に自分なりの工夫を加えた。

 セーレ相手に、短剣で攻撃を受ければ、そのまま押し込まれてしまう。それゆえに、受けるのは利き手の長剣。そして、受け止めた攻撃の後に間髪入れず、相手の急所目掛けて放つのは逆手の短剣である。

 だがそれも、固定されているわけではない。

 セーレの剣戟が軽いと見るや短剣で受けに回り、すぐさま長剣で斬りかかることもある。

 変幻自在の二刀流は、水の如き柔軟さでセーレの攻撃を受け流す。こと剣に関してなら、鉄壁に近いベルクの守りに、攻撃しているはずのセーレが僅かに顔をゆがめた。

 埒が明かないと見たか、セーレは攻撃をやめて距離をとる。

「……ベルク。よく、ここまで来たわね」

 煩悶を乗り越え、剣を交わす中で、確実にベルクの実力はセーレの領域にまで登ってきている。それを感じて、セーレは微笑んだ。

 姉が弟の成長を喜ぶ、その笑みは優しく、ベルクの脳裏に一瞬過去の幻影がよぎる。

「……ならば、勝負を決めましょう」

 ふわりと、広げられたセーレの両手。

 その姿、舞うが如く、と言われる剣舞士の剣舞。実戦の中で磨かれたそれが、セーレの最後の技だった。

「その勝負、受けて立つ」

 二刀を握ったままに、手を広げたベルク。彼とて、セーレ亡き後の剣舞士である。剣舞は出来る。だが、果たして、セーレに通じるのか。

 睨みにつけるように、二人を見ていたヴィネは腰の曲刀に手を添える。

 見届けは任せろと言ったが、必要があれば割って入ることも辞さない。こんなところまで、わざわざ死人の連れ添いに来たわけではないのだ。

 僅かに身構えるヴィネに、ベルクが声を上げる。

「ヴィネ! 頼む!」

 人が殺せそうな視線を、ベルクに注いで、ヴィネは身構えていた息を吐いた。同時に添えていた手も放し、唾を吐く。

「くそっ! 勝手にしやがれ!」

 無言のまま頷くベルクの額に汗。大粒のそれが、額から鼻筋。口元を通って、顎に至り、零れ落ちる。肌の上を流れるそれに、ベルクが僅かに瞬きした瞬間。セーレは決定的な一歩を踏み出した。

 今まで積み上げてきた間合いを瞬時に侵食。はた目にはゆっくりとすら映る彼女の動きは、幻惑の効果すら含んでベルクに襲い掛かる。上段からの斬り下ろし、袈裟に振り切られたセーレの長剣が、ベルクの命を吸わんと風を切る。

 だが、ほぼ同時。

 踏み出したのはベルク。彼女の剣気に当てられ張りつめていた緊張の糸。それに触れる剣気の膨張を感じ取ると、彼女の踏み込みすら確認せずに前に出る。

 ふわりと、体重を感じさせない動きで一歩前へ。

 実際に死を目前にして体の力を抜けるものではない。危機が迫れば自然と緊張し、動かなくなるものが本能というものだ。

 だがそれを覆し得るのが、修練。

 体の奥底からにじみ出る本能を抑えて、勝利をもぎ取るための、それは剣士たちが身に着ける技術だ。

 必要なだけ必要な場所に力を入れることにより、最速の剣を繰り出すのが剣舞士の奥義である。

 ゆえに、彼らが放った剣筋は、剣舞士達の最速。

 上から来るセーレの剣に、セーレの首を狙ったベルクの長剣が衝突。火花が散る間もなく、さらに体を入れ替えて、ベルクの短剣が迫る。弾かれた剣をそのままに、視線だけで間合いを測ると、通り過ぎる短剣の切っ先をセーレは見送った。

 迫った距離。セーレは、一歩後ろ足を引くと同時に、ベルクに背中を見せる。くるりと、そのまま反転し、さらに勢いをつけて胴を狙って弾かれた剣を手元に引き寄せる。ベルクも同じく剣を引き寄せるが、両手である分彼女のほうが若干速い。

 再び長剣同士が衝突。

 ──勝機はここにしかない。

 ベルクは自身の読みに全てを賭ける。

 互いに背中を見せ合って回転しながらの一撃も再び弾かれる。だが、弾かれる強さは、ベルクが大きい。片手で相手の両手と切り結ばねばならないのだ。当然込められる力も違う。

 剣舞ならば、次は弾かれた力を利用してさらに回転した後一撃を繰り出す。

 僅かに体勢が崩れたベルク。普段ならば距離をとる。剣舞士の戦い方とはそういうものだ。それが最速の一撃なのだ。

 だが、彼は二刀。それに応じた戦い方がある。体勢を立て直す為に、下がった足に力を籠めると、そこからさらに接近。長剣の重さでは、短剣の速度に追いつけない。

 流れる汗さえも知覚し、ベルクは勝利を確信する。だが、次の瞬間、ベルクは背中に氷塊を突き刺されたように全身の汗が凍る。

 セーレと一瞬だけ視線が交わる。

 その眼。ベルクと剣筋を図るその計算された視線。驚きも何もない。当然あるべくしてあるものが、そこにあるという冷徹な視線。

 ──読まれていた!?

 脳裏に鳴り響く警鐘が悲鳴を上げる。

 セーレが背中を見せるその距離。ベルクが予想をしていたよりも、僅かに遠い。

 間合いは長剣の間合いだった。

 隠されるセーレの長剣の軌道は、繰り出された短剣ごとベルクの腕を断ち切る下段からの切り上げ。

 見開かれるベルクの瞳。

 とっさにそれを防ごうと、ベルクは長剣を下段から繰り出し、だが圧倒的にそれは遅い。

「──ぐっ、がっは……」

 セーレの背中が揺れる。繰り出されるはずの長剣が、出ない。

 彼女の口元から流れる赤色。

「──っ!?」

 振り切られるベルクの長剣の先にセーレの姿。

 銀線に沿って噴き出す血潮。

 倒れるセーレの姿を見ても、自分自身が斬ったはずのその跡を見ても、ベルクは茫然と立ち尽くしていた。

「……お前の、勝ちだな」

 空を見上げるセーレの声で、ベルクは武器を取り落とし、セーレの体を掻き抱いた。

「ね、姉さん……姉さん! なんで!?」

 悲鳴を上げるベルクの口元はわなわなと震え、目じりには現実を受け入られないとばかりに視線を左右に動かす。まるで幼いころに戻ってしまったように、そこには大陸有数の剣士の姿はなく、死を前に泣く子しかいなかった。

「……ベルク、私は自由がほしかった」

 涙を流すベルクの頭を優しく撫でるセーレの唇は既に色を失っていた。視線の先には空が広がり、セーレの脳裏に駆け巡るのは色あせた記憶。

「……ッ、この身を縛る、全てを断ち切れば、きっと見た事もない世界が」

 古き一族の掟、頑迷な長老たちの意思によって定められた血統、婚姻。そして、一族を繁栄させるための駒でしかない自分自身。そしてそうまでして生き延びさせた一族に待っているのは、人間たちからの迫害と破滅でしかない。

 そんな全てを断ち切れば、という彼女の言葉は空虚な妄想でしかない。だが、彼女にはその妄想を成し遂げるだけの力があった。比類なき剣の腕。歴代最高と謳われた、剣舞士セーレの名。

「……で、そンなもんはあったのか?」

 いつの間にか、見届け人の子供を連れたヴィネがすぐ近くまで来ていた。

「……いいや、だが後悔はない。あそこにいたままでは、知ることのできないものを知ることが出来た」

「……母さん」

 小さく呼びかけた子供の声に、死にゆく女は無理に微笑んだ。

「カーリアン。私の愛しい娘。私とあの人の……ぐっ」

 短く切った髪と栄養の足りない体から、男の子だとばかり思っていた子供。

 吐き出す血が、彼女の顔を汚す。だがそれにも構わず、セーレはカーリアンを抱き寄せる。

「あなたは、いい子よ。だから、お願い。私の弟を恨まないであげて、ね?」

「……うん」

 その答えに満足すると、セーレはベルクに向き合った。

「ベルク、この子を、お願い」

「姉さん、そんな……」

 幼子のように首を振るベルクを見るセーレの瞳から、徐々に光が薄れていく。

「あなたは、出来る子よ……だ、から……」

 二つの泣き声が重なり、赤の王最後の一人はその命を落とした。


●○○


 小さな墓標の前に、叔父と姪が立つ。彼にとっては姉の、彼女にとっては母の墓の前。

「……別れは済ませたかい?」

 その後ろから声をかけたのは、旅装を整えた黒髪の女だ。

「ああ」

「……」

 振り返った二人と共に、彼女らは歩き出した。

 その後、ヴィネとベルクは歴史の舞台から姿を消す。

 だが後に、カーリアン・アルセンと言う名は歴史の舞台に姿を現すことになる。

 大陸最大の剣術流派アマツキ流。その最大の敵と評された“剣舞士”カーリアン。二刀流を使う彼女の登場によって、ノーム流剣術は完成を見ることになる。

 だが、少なくとも今は力なき少女に過ぎない。

 そのか細い手を、叔父に握られて歩む一人の少女にすぎなかった。


悲劇を、もっと悲劇を! という作者の内なる声に促され描いてみましたセーレさんの最期。子供はカーリオンの娘ですね。

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