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ゴブリンの王国外伝  作者: 春野隠者
継承者戦争
27/61

継承者戦争≪北の狂獣≫

 先も見通せぬ深い乳白色の霧が、視界を塞ぐ。鼻に嗅ぎ取れるのは、微細な獣の気配のみ。木々の枝先に茂る葉から、朝露が体を濡らしていく。

 吐き出す息が、霧の中に紛れて白く消えていくのを見送って、黒犬のラロスは前方に目を転じた。彼の後に続くのは、黒犬部隊と呼ばれる彼の部下達だ。森の中で戦うことを前提に考えられた少数精鋭の南方ゴブリン達。

 パラドゥア氏族の集落を占領する際には、追撃の任務を請け負った者達。

 彼らが進むのは、ギ・ギー・オルドの領地よりもさらに西。パラドゥア氏族の女、子供らの行方を探るための偵察だった。

 奇襲によりパラドゥア氏族の戦士達を一戦して蹴散らした。だが、占領したその先に、パラドゥア氏族の本隊とも言うべき女子供たちはいなかったのだ。

 ギ・グー・ベルベナの両腕と言って良いグー・ビグ・ルゥーエとグー・タフ・ドゥエンの二人は、その事態を重く見た。ガンラを東へ追いやり、それで満足したのは、彼らには東への伝令となってもらう為である。定住を基本として狩猟を行うガンラは、住処を追い散らせば力を落とす。

 だがパラドゥアは違う。

 彼らは元々が移動を基本とした狩猟の民。

 戦士が例え全滅したとしても、その本隊が残っていれば、決して力を落としたとは言えない。何にもまして、パラドゥアの族長ハールー率いる戦士団は全滅したわけではないのだ。

 であれば、その動向を確実に掴んでおくことが必要となる。何よりも情報は、戦局を左右するもの、というのはギ・グー・ベルベナの率いるフェルドゥークの共通認識だった。

 フェルドゥークの人員も無限ではないために、ある程度予測を立てて偵察を行わねばならない。何より西方大森林と称されるこの森は巨大すぎる。

 パラドゥア氏族の集落から北東へ逃げるなら、ギ・ギー・オルドの治める領地になる。魔獣の楽園とされるそこは、子供を連れて逃げるにはあまりに過酷に思えた。

 北西に行けば、そこにあるのはギ・ズー・ルオの領地。東征と言われたあの大戦から、領地に引きこもりアルロデナ政府や西都からも交流を拒み、森の奥地へと引きこもった狂犬ギ・ズーの領域である。

 サザンオルガと言われたその土地のゴブリン達のほとんどは、東征によって死に絶えた。だが、僅かに残った手下を率いて、戦後ギ・ズーはその土地に引きこもって以後、音信不通であった。

 死んでいる、という説も流れる中、その生死は既に五年は不明のままであった。

「ギ・ズー殿の領地か……」

 難しい顔で黙り込むグー・ビグ。

「使者の派遣ならギ・ギー殿の方がまだ話は通じるが」

 同じく難しい顔をしてグー・タフも、ルオ領と呼ばれるそこに部隊を入れるのを躊躇っているようだった。

「親父殿、何を躊躇っておいでですか?」

 ギ・グー不在の軍議の席上で、偵察隊の派遣に消極的な理由をラロスは問い質す。

「あの地に兵を入れるのは、戦線を増やすことになる」

 グー・タフの嗜めるような声に、ラロスは怪訝な視線を返す。

「お言葉ですが、あそこにそれほどの戦力がいるとは聞きませんが?」

「そうか、知らんのか……」

 ため息交じりにグー・タフは、肩を落とした。それはまるで、過ぎ去りし時代の残滓が埋もれていくのを悲しむかのようだった。

「ギ・ズー・ルオ殿は、荒ぶる狂獣だ。あれに手を出してはいかん」

「お言葉ですが、生きているとも、死んでいるともわからん者を恐れたとあれば……」

「手を出して、損害を被ってからでは遅いのだ」

 そう言われて若いラロスが引き下がるはずもない。こと勇気においては、他に後れを取ることを恥と思う戦士からすれば、年長者の諫言など気弱な言葉としてしか聞けはしない。

「では、是非にその役目黒犬隊(ジェルフ)にお任せを!」

「貴様俺の話を──」

 グー・タフの言葉を、グー・ビグが遮った。

「ラロス。その言葉、確かな確信をもってのことだろうな?」

 長く顎髭を伸ばしたグー・ビグの言葉に、黒犬ラロスは頷いた。

「無論です。親父殿、もし失敗した場合は、如何様にも処分してください」

「ビグ!」

 嗜めるようなタフの言葉に、グー・ビグは視線だけで受け止めた。言いたいことは分かっているとの、ビグの様子に、タフはため息を吐きつつも自身の虎髭を撫でた。

「率いるのは貴様の黒犬隊だ。パラドゥアの氏族を追い、もしギ・ズー・ルオ殿の領地にいるなら引き渡しを願え、決してことを荒立ててはならん」

「仰せのままにっ!」

「ならば、疾く往け!」

 走り去るラロスの背を見送りながら、グー・タフはグー・ビグに問いかけた。

「なぜ、あの若者を行かせた? 血気に逸ったあれでは、失敗するのは目に見えているだろうが」

「……パラドゥアとガンラとの戦で何人死んだ?」

「んん? 百は下るまい。快勝と言って良い戦振りだが、それが何か?」

「そうだな。……ふん、親心と言うのかな、俺も年を取ったのかもしれん」

 鼻を鳴らすグー・ビグに、目を丸くして驚くグー・タフ。

 その後、グー・タフは、去っていったラロスの背を視線で追うグー・ビグの胸を思い切り裏拳で殴った。

「馬鹿め! 縁起でもない!」

「くっ、くははは! 確かにな、その通りだ!」

 冗談に混ぜた本音に、気づかぬ振りをした二人のやり取り。だがその後真顔に戻っての言葉は、冷徹な指揮官としてものだった。

「で、生きていると思うか? あの狂獣が」

 狂獣。

 返り血に塗れ、素手で鉄の防具を捻じり切り、拳一つで敵を殴殺する一匹のゴブリン。猛々しいあの咆哮は、同胞たる彼らをして狂獣と畏怖させるものだった。

「死んでいれば、不確定要素は減る。だが……わからんよ。この森は大きい。我らを抱きとめて、なお余裕はある」

 それこそ獣のままに生きて行くなら、十分すぎるほどの恵みをこの森はもたらしてくれる。森の神の恩恵を受けた西方大森林は、未だ豊穣たる恵みを十分に有していた。

 だがそれでも、彼らは戦に立ち上がった。

 それは忘れ得ぬゴブリンの王への憧憬であり、大恩あるギ・グー・ベルベナの意志だからである。遥か西方から、東の果てへとたどり着いた彼らの前には、国力の差という絶望など生ぬるすぎる。

 死中に活を、などではない。

 死線、死地の中にこそ、彼らの生きる場所があるのだ。


◆◇◆


 かつてルオ領には、知恵持たぬ巨人(ギガントピテクス)が蟠踞し、その土地の食物連鎖の頂点に立っていた。だが、15年前その頂点の座は入れ替わる。

 非力で狩られるだけのゴブリンと言う存在、それが神の奇跡をその身に宿してその土地を支配し、彼らを圧倒したのだ。いかに知恵無き巨人と呼ばれていようと、生物であるからには危機感が存在する。

 知恵無き巨人は、その地を追われ遥か北方に逃げ延びざるを得なかった。

 以来ルオ領は、ゴブリンの天下が続いていた。

 巨大な獲物を集団で倒し、しかし文化的な生活とは程遠い、屈強なるゴブリンの領域が出来上がっていた。彼らは身体能力と、多少の武器でもって自身の二倍はある獲物を狩り、収穫を持ち帰る。

 その身体能力の高さに反比例して商才などを持っているゴブリンは皆無であり、商人達ですら、この土地へは足を向けない。

 派閥を作るまでもなく、彼らが日々の暮らしにも困らずそのような生活を送っていられるのは、ギ・ズー・ルオの存在が大きい。彼らがアルロデナから干渉されることなく、その政策から自由なのは、東征において奮戦したギ・ズーの存在あってこそ。

 信頼と、そして感謝を捧げられる存在だからこそである。

 だが誰も口には出さないが、もう一つ理由をあげるとするのなら、ゴブリンの王亡き後、誰もギ・ズー・ルオの心を解きほぐすことが出来なかったというのもある。

 狂神の加護は、薄くはなっても確かに存在しギ・ズー・ルオを他のゴブリンと一線を画す存在して際立てていた。

 朝霧に濡れてルオ領へ入った黒犬ラロスは、パラドゥア氏族の痕跡を発見し目を細めた。

「やはり、ここに逃げ込んだか」

 自身の読みが当たったことに歓喜しながらも、交渉と言う苦手な分野に手を出さねばならないと言う一点が、ラロスの眉に深い皺を作っていた。

「……短慮と言われようが、結果的には我らフェルドゥークの為になるはずだ」

 その交渉が失敗した場合、黒犬ラロスは単独でギ・ズー・ルオを倒すことを考えていた。交渉ごとなど、本来自分自身が担当するものではない。

 力で脅すか、強引に主張を押し通すぐらいしかして来なかった自分自身に、それ以上のことができるなど、彼自身思っていない。交渉が出来ないと割り切った上で、フェルドゥークの為に何が出来るのか、ラロスが考えた結果、やはり力で主張を押し通すという結果に行き着く。

 つまりは、ギ・ズー・ルオの首だ。

 戦線が増えようともギ・ズー・ルオの首という戦果は、途方もなく味方の士気を上げる。

「……騎獣の走った跡だな?」

 茂みをかき分け、見つけた痕跡に黒犬ラロスは獰猛な笑みを浮かべた。ラロス達がその痕跡を見つける時刻になれば、あれほど濃く漂っていた霧は跡形もなく姿を消し、巨大な木々が群生する北部特有の地形になっていった。

 巨木の下を縫うように、背の低いの木々は花をつけ、辺りに充満するほど濃い臭いをつけていた。

「やけに多い……」

 部下の一人が苛立たし気に鼻を擦る。香りの強すぎる花々は、時に獲物を追うゴブリン達の嗅覚を鈍らせる。それは黒犬ラロスにとっても、歓迎すべからざる事態だった。

 しかも、触れればすぐに潰れてしまうような果実をつけたその木々は、彼らが進む方向に無数に存在している。避けてはギ・ズー・ルオ領に侵入できないその花畑を、黒犬の面々は慎重にかき分けて行った。

 しばらく進めば草原と森林がまばらに存在する場所に出る。

 深い森を抜け出たそこは、光に溢れていた。鬱蒼と茂った木々は光をさえぎり、昼なお暗い森は、太鼓の息吹をとどめていたが、そこから急に森が途絶える。草原には、遠くに草むらから頭を出した大槌牛(エンボロ)の姿。

 かつて、サザンオルガを率いる前のギ・ズー・ルオが狩場としていた地域だ。

 黒犬達は、耳を澄ませ、草から頭だけを出して周囲をうかがう。強すぎる香りは彼らの鼻を麻痺させているが、その程度で黒犬の意気を挫くことはできなかった。

「進むぞ」

 黒犬ラロスを先頭に、草原地帯に足を踏み入れる。黒犬部隊のそれぞれが監視の視線を方々に飛ばす。声に出さずとも訓練で身に着けた連携は、しっかりと彼らの血肉になっていた。

「見つけた」

 部下の声にラロス自らそれを確かめる。

 踏み固められた草が、未だ新しい。大槌牛(エンボロ)を筆頭としてこの周囲に群れで行動する魔獣は存在しない。なにより地面に顔を近づけていた部下が、手にした物は間違いなく黒虎の毛だった。

 見れば踏み固められたその跡は、まっすぐ北に続いている。

「追うぞ」

 口元に浮かぶのは狂猛な笑み。失敗した時のことなど考えない、また一つ武功を積み重ねたと誇らしい気持ちだけだ。

 追跡は容易だった。

 女、子供の足跡は時間が経つに連れてはっきりして来た。その足跡は平原地帯を抜けて、更に北部へと続く。

 巨木の生い茂る地域に再び入るところで、ラロスは足を止めた。

 目の前には、手入れのされた白い柵がある。明らかに人工の物。明らかに、縄張りを示すものだ。何よりラロスが瞠目したのは、その柵に使われていた材料だ。

 魔獣の骨で作り上げられた柵である。ある一定の間隔で大槌牛(エンボロ)の頭蓋骨、そして知恵無き巨人のものと思われる巨大な頭蓋骨まで柵の上に設置してある。

 まるで、この先に入った者はこうなる、と主張せんばかりのその造形に、思わず息を呑む。

 だが、足跡は柵の向こう側へ続いているのだ。ラロスに立ち止まると言う選択肢はなかった。

「……続け」

 その柵の内側に足を踏み入れるのに、ラロスは一つ危機感を上げねばならなかった。彼の上司たるグー・ビグ、グー・タフらは、この奥に住まう者を畏怖すらしている。

 ──狂える獣のギ・ズー・ルオ。

 東征の生き残りにして、部下の大半をその戦で失った英雄。

 何を恐れる、と無理矢理口元を笑みの形にして、踏み越えていく。柵の内側に一歩踏み込んだ瞬間、ラロスは背筋に冷たいものを感じた。

 まるで何者かに見られたような、刃のような鋭い視線を、確かにラロス達は感じたのだ。

「っ……!」

 視線を周囲に飛ばし、足を止めて散会、続いて警戒態勢を取る彼らの目には、何者も存在しない。

「……行くぞ!」

 僅かな時間で警戒態勢を解除したラロスだったが、それは練度を高めた戦士だからこその結論。警戒態勢を取って見つからないのなら、何時間同じことをしていても結論は変わらないという判断によるものだった。

 僅かに怯んだその足を、勇を鼓舞してさらに進む。

 息苦しささえ覚えるような追跡は、徐々にラロスを始めとした黒犬の精神力を削っていく。ラロス達を苦しめるその視線は、足を進めるにつれてさらに強くなっていく。

 いっそのこと、この視線の正体が速く現れてくれとさえ、思う頃になって、ラロスは一人歯噛みした。これではどちらが追跡されているのか、分かった物ではない。

 視線を鋭くし、気を確かに張りながらラロスは足を進めた。

 そうしてほどなくすると、集落が見えてくる。

 まず目に入ったのは、動物の皮と骨を組み合わせた簡単な住居。巨木の葉を動物の皮製の屋根の上に敷き詰めて、雨露を防ぐ工夫がなされている。

 目を引くのは集落の中央にある倉庫だった。湿気を防ぐために床を高くし、入り口までは階段が続いている。そして害獣を防ぐための、“返し”が付いているのだから、ほぼ間違いない。

 穴倉から少し発展したゴブリン達の住居だったが、ラロスは以外の念を禁じ得なかった。

 東征において勝利者となったゴブリン達は、人間や妖精族の暮らす街並みの快適さと便利さに憧れて、住処を変えていくのが常だった。ましてやギ・ズー・ルオは、勝利に大きく貢献した戦役の英雄である。それの治める直轄地ともなれば、その発展は普通著しいものがあるはずだった。

 ガンラの大英雄ラ・ギルミ・フィシガの故郷である、アーノンフォレストなどは、その最たる例であろう。西都の総督ヨーシュと手を組み、西方大森林の中に一大都市を現出させたその手腕は、ゴブリンの中でもつとに有名である。

 ギ・ギー・オルドの領地なども、魔獣の楽園としつつもやはりその発展は著しいものがある。人間の商人を始めとした各種族が、交易や商売の為に訪れる為直轄地は大規模な発展を見せている。

 例外的に今までの暮らしを守るのが、ギ・グー・ベルベナの南方ゴブリン達だった。穴倉や木の上に住むことを厭わず、狩猟と森の中の生活に固執するのは、彼らが戦うことだけに専念するためだ。

 貧しいとさえ言える生活は闘争心を養い、危険と隣り合わせの生活は命を惜しまず戦う戦士を生む。そう信じるからこそ、ベルベナ領では発展する同胞に背を向けた。

 自らの故郷に近い景色を見て、僅かにラロスの警戒心が緩む。

 その視界の中に、立っている男の影を見て、ラロスは愕然とした。

 その男は確かに最初から、その場に立っていた。にも関わらず、ラロスが認識したのは、たった今なのだ。しかも、それすらも男が気づかせようとして、させたに違いないと思わせるほどに、徐々にその気配が濃くなっていく。

 一度目に入ってしまえば、それにどうして気が付かなかったのかと疑うばかりの圧倒的な威風。一糸まとわぬ上半身に刻まれた大小の傷跡は、たゆまぬ修練の葉てなのか、それとも自傷の跡か。背中まで伸びた髪の色は、血のように赤く、肌は灰色に近い黒。

 鋼をより合わせたような細身の筋肉は、傍にいるだけでその圧倒的な力を伝えてくるようだった。既に昼近いというのに、男の口から洩れる呼吸は、白く煙り男の内側が燃えていることを知らせる。

 瞳は、黄金色に輝き、瞳孔は黒虎のように縦に長い。

 その黄金色の瞳と目を合わせた瞬間、ラロスは絶望を感じた。

 ──死ぬ。殺されてしまう。

 まるで幼い頃に出会ってしまった巨大蜘蛛の無機質な瞳を見返した時のような、そこにある絶対的な断絶。捕食者と被捕食者との覆るはずのない力の差が一匹のゴブリンの姿をとって、ラロス達の前に聳え立っていた。

 ギ・ズー・ルオ。名乗る必要すらなく、目の前のゴブリンがそれなのだと、ラロスは察する。

「何の用だ?」

 気づけば、ギ・ズーは既に目の前にいた。視線を外したはずもないのに、いつの間にか、そこにいたのだ。見下ろす視線を覗き込んでしまったラロスは、即座に後悔したが、遅きに失した。

 瞳の中に地獄が燃えていた。

 悉くを灰燼に帰す炎が、男の瞳に地獄として宿っていたのだ。

 それでも、なんとか舌を動かす。

「パラドゥア氏族の、引き渡しを、求める。我らはフェルドゥーク、俺は黒犬のラロスだ」

「フェルドゥーク?」

 その名を聞いたギ・ズーは、それでも巌のようになった表情を動かさず、視線だけで黒犬部隊を見渡した。視線を合わせただけで、立ち竦む黒犬達にギ・ズーは口を開く。

「貴様らが、か?」

「侮辱するか!」

 激発するラロスの怒鳴り声は、ギ・ズーの表情に小波を立てることすらなかった。ラロスの激発は、自分自身と率いる部下に向けたもの。

 自らの誇りが汚されたされたのだ。命を懸けて戦わねばならない。それが例え、目の前に存在する絶望と言う名の化け物だとしても。

「ここは、我が領地。生殺与奪は、我が意志一つ」

 ギ・ズーから放たれる言葉一つ一つが、ラロスの肩に重荷を乗せていくようだった。

「だとしても、我らはフェルドゥーク! 押して通れぬ道などない!」

 武器を抜いたラロスに、その部下が付き従う。

「グルゥゥウオオオオアアァァ──!」

「──行くぞ、ギ・ズー・ルオの首、我ら黒犬がもらい受ける!」

 咆哮を上げた狂える獣に向かって、黒犬は一斉に動き始めた。

 

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