本の虫〜12月の図書館〜
街中がキラキラで、にぎやかで、華やかになる12月。
いや、実際は11月の半ばにはもうこの状態になるんだけど。
毎年、街がクリスマス一色に染まると凄く嬉しくなった。
今年はその中に、近藤君がいる。
野球部で配られたプリントを見て、思わず1人でにやけてしまう。
今年のクリスマスは野球部恒例のクリスマス会がある。
当然近藤君も来るから、今年のクリスマスは近藤君と過ごせる。
2人きりじゃないし、両思いじゃない。
だけど、一緒に過ごせるクリスマス。
「マネージャー!クリスマスに浮かれるのはいいがボール磨けよ!」
「あ、はい!すいません!」
顧問の先生に言われ、慌ててプリントから顔を上げた。
そんな私を見て練習中のみんなが笑う。
ため息をついてボールを磨くと近藤君が私の頭に手を置いた。
「クリスマス好きなんだ?」
「うわ!!」
驚いてボールを落とすと近藤君はきょとんとした。
「そ、そう!好きなんです!」
「ごめんごめん。驚かせた?」
そう言って近藤君は笑う。
胸が苦しくなる。
毎日毎日近藤君が好きで、毎日毎日近藤君が私を好きになることを願う。
そんな毎日が嬉しくて、幸せで、楽しくて、苦しい・・・。
クリスマス会当日、部室で私はオレンジジュースを飲んでいた。
「マネージャーは飲まないの〜?」
顔を真っ赤にして酔った先輩が私にチューハイの缶を渡そうとする。
「い、いえ、私は・・・」
ちらりと近藤君のほうを見ると目が合う。
「加藤!マネージャーには飲ませるなよ!」
「なんだよぉ、いい人ぶって!加藤も飲みやがれ!」
「俺はアルコール弱いの。それに、マネージャー送るのは俺だから俺が酔うわけにはいかないだろ?」
そう言って近藤君が笑うと先輩はため息をついてその場に倒れた。
あぁ、つぶれちゃった。
同じように床に寝転ぶ人が何人かいた。
部室の中はお酒のにおいが充満していて、正直気分が悪かった。
あぁ、早く全員酔いつぶれちゃってくれないかななんて考えてしまう。
オレンジジュースを1口飲むと、体中にオレンジが染み込んでいく気がした。
数時間後には、私のお望み通り全員が酔いつぶれていた。
近藤君以外、だけど。
「やれやれ、みんな酒弱いくせによく飲むな。って、未成年だった。」
「よく部活停止とかになりませんよね・・・」
そう言いながら毛布をかけると先輩がもぞりと動く。
「もう11時か。マネージャー、送ってくよ。目覚まし代わりにタイマーセットしといてやろう。」
近藤君は仲のいい先輩の携帯をそっと取ると操作してまた戻した。
私は慌ててコートを着て立ち上がった。
と、同時に視界がゆがんだ。
「ぁ・・・」
思わず座り込むと、近藤君が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「どうした?気分悪いのか?」
「あ・・・ちょっと匂いに酔っちゃったみたいで・・・。」
やばい。歩けそうにない・・・
そしてその10分くらい後。
私は近藤君の背中の上にいた。
私が気分悪い、というと近藤君がおんぶすると言い出した。
「大丈夫か?もっとゆっくり歩くか?」
「・・・はい」
もっとゆっくり歩いてください。
そうしたら、もっと長くこうしてられる。
広くて強そうな近藤君の背中がすぐ目の前にあって。
ドキドキと騒ぐ心臓の音や振動に気づかれそうで。
幸せすぎて、泣いてしまいそうで。
「・・・近藤君」
「んー?」
「・・・なんでもない、呼んでみただけ・・・」
そう言うと、近藤君の背中が少し震えた。
あぁ、近藤君が笑ってる。
「・・・なぁ」
「はい?」
「寝そう?なんか声が・・・」
「・・・寝そうです。」
嘘。こんな状況で寝れない。
ドキドキしすぎて寝れませんよ。
「・・・じゃあ今から言うこと明日には忘れてるかな。」
「忘れてます。」
近藤君は小さく笑うと、小さくジャンプした。
身体が揺れて、思わず近藤君の首にしがみつく。
「好きだよ。」
「・・・え?」
「俺、小川さんのことが好きみたい。」
子供みたいな言い方をされ、笑うのを堪える。
いや、実際笑ってる場合じゃない。
「初めは可愛いな、妹みたい。ってくらいにしか思ってなかったんだ。でも・・・小川さんがマネージャーになった頃あたりかな。なんか、好きだなって。」
ぎゅ、と強くしがみつく。
近藤君の耳が赤い。
「・・・起きてる?」
「・・・起きてます」
「明日には忘れる?」
「・・・忘れないかも」
近藤君の腕から力が抜けて、地面に下ろされる。
近藤君の肩に手を置いたまま動かずにいると、近藤君がこっちを向いた。
顔が赤い。暗くてもわかってしまうほど。
「・・・小川さん、は?俺のこと好き?」
じっと近藤君を見上げる。
近藤君も私を見つめる。
真っ暗で、近藤君の真っ赤になった顔だけが見える。
「・・・好き」
ぽろりと涙がこぼれた。
近藤君が困ったような、照れたような微妙な顔をする。
「な、なんで泣くの」
「わかんな・・・ぅっ・・・」
ごしごしと目をこすると、近藤君が私の腕をつかんでひっぱる。
「目赤くなるから・・・」
腕が離れて、近藤君の顔が見える。
近い、と思った瞬間に、近藤君の目が閉じた。
唇に熱を感じた。
驚いて、目を開けたままでいると近藤君の赤い顔が離れていく。
「近藤君・・・?」
近藤君はつかんでいた腕を自分のほうへひっぱって、私を抱き寄せた。
強く抱きしめられて、頭がクラクラする。
「・・・好きだよ」
耳元で言われて、体温が上昇していくのを感じた。
夜の闇が深くて、桜なんてちっとも見えない寒い12月のことでした。
なんか、本は何処?図書館は・・・何処?いや、きっと次は出ます!