初めまして私はマヤ
やぁ、人間諸君。
おはよう。只今朝六時三十二分十四秒。あぁ、十五秒になっ……十六秒……じゅうな……もういい!
とにかく朝だ、おはよう。
私の設定は毎日この時間に起きるようになっている。別に眠くもなんともないぞ?夜は十一時就寝だからね。あぁ、私の自己紹介がまだだったね。
はじめまして、私はマヤ。片仮名でマヤだ。
性別は女、歳は十八、誕生日は九月十七日、血液型はAB型。性格ツンデレ気味、でも困った人は必ず助けるがヒーローではない。容姿には自信がある。傷みのまったくないサラサラロングヘアーに緑色の瞳に小さな赤い唇、白い肌、そしてこの細い腰と長い足に合わない豊満な胸。
すべてが完璧な超美少女だ。羨ましいか?まぁ、そう僻むなよ、女性諸君。
こんなに完璧な容姿をもっていても男の経験は皆無だ。なぜかって?
あぁ、私としたことが一番大切なことを言い忘れていたね。
私は空想上の人物なのだよ。さっきも言っただろう設定だと。上記に記してあることが私を創造した人物、つまり私にとっての創造主が作った設定なのだ。
………やぁ、驚いたか?
つまり私は創造主の妄想内でのみ生きている人物なのだよ。だが、便利なものでね。創造主が知っていることは私も知っている。そういう設定だからね。雑?許してやれ、まだまだ十六歳の子供なんだ。
ただ、なかなかの変わり者でな。たかだか十六にして悟りというか価値観を固定しているような子供だ。
そして彼女は時折話しかけてくるのだ、自らが作った妄想人物である私に。
これは一家心中のニュースをみた彼女と私の会話だ、これでなんとなく彼女のイメージをしてくれ。
一家心中か、どう思うんだ?お前
「どうもなにも、馬鹿な人たちねって………」
それだけ?
「あぁ、あとこの家族の父親と母親は死んで正解だったわ。地獄いきだといいね」
なぜ?
「だって、子供を殺してるじゃない」
そりゃあ、置いていくのはかわいそうだという親心ではないのか?
「そんなのただの親の自己満足でしょ。まだ子供なのよ?つらいと思ったって生きていれば幸せにだってなれるのよ。言い方がクサいけど」
幸せって………それこそお前の勝手な想像だろう?
生きてたって後を追うかもしれない、幸せなんて待ってないかもしれないじゃないか。
「マヤの意見だって勝手な想像よ。やめましょう、未来なんて結局想像にすぎないわ。でっも死んだら終わりよ、確かめようがないわ」
なるほど、生きていれば確かめれるもんな、納得した。お前の言う通りだ、親は子供を殺すべきではなかった、死にたいのなら自分たちだけで死ねばよかったんだ。
「そうよ、だからあいつらは地獄いきね」
まぁ、十六の小娘がいったことだから大目に見てやってくれ。
絶賛子育てされる側のまだまだ子供の彼女には親の気持ちというのはわからない、もちろん私もわからない。だが、彼女の言い分にも一理あるだろう?
まぁ、そんなことは置いといてだな。
どうだろうか、彼女は?
気の強さとかしっかりしているとか思わなかったか?思っただろう?
だが、現実の彼女はひどく臆病だ。あんなに饒舌に話はしない。いつも陰に隠れて傍観者を決め込んでいるのさ。卑怯で汚くて醜いだろう?
彼女の正義派中途半端すぎたんだ。そして中途半端な罪悪感から逃れるために彼女は私を創造した。
だから、私は彼女の言葉をすべて肯定する。
そうだ、お前が普通だ、何も悪くない、それが普通なんだからな、お前は私と違って人間なのだから。
「マヤ」
おぉ。おはよう。いつもより二十一分早い。
「私、間違ってる?」
ふむ、まず何が正解なのだ。お前の保身を考えればあの行動は正解であったし、お前の理想を考えればあの行動は最低極まりない行動だが、まぁ、それもいつもどおりなのだから間違えではないだろう。
「いつも通りって………」
ん?何か間違えたか?いつも通りだろう、お前が弱いのなんて。
「うるさい」
理想への努力もせず、変化も望まず、傍観者に徹した挙句、私という存在を作り出した弱いお前がとる行動などわかりきったことだろう?
「うるっさい」
おいおい、ひどい言いようだな。こんな風に私にお前を攻めさせているのもお前だろう。こうやって私に責めさせて罪悪感を覚えることでお前は苦しみを共有している気になっているだけだろう、とんだ被害者ヅラだな………お前はよわ―――――――――――――――――――――――「うるさいきえて」
頭の中でのマヤとの会話が終了した。
わかっている、マヤがあんなにも私のことを知っているということはそういうことだ。
私は私のことをマヤを通して知っている、よく知っている。
ゆっくりと歩く通学路に彼女はやってこなかった。これもそういうことだ。原因は私で昨日のいじめが原因だろう。スルーしろ、関わるな、そうすれば私はまた平和な学校生活を送れる、友達は彼女だけではない。
「それでさー、あいつ今日休みらしいよ」
「うっそ!!たったあれだけで?!根性ない~ww」
「なになに?あんた何やったの??」
「ええ~、ちょぉっと制服切って写真撮って水ぶっかけただけよ?」
「うわ、キミコえげつな~」
「あ、言っとくけど水ぶっかけたのは別人だから。私じゃないわよ」
「えっ、そうなの?だれだれ~」
教室のすみの女子数人の視線が私に刺さる。私は拳をぐっと握る。
「ねぇ、あいつ今日来ないらしーよ、よかったね!ちょこまかついてきて邪魔だったでしょ?」
「そ、そうだね」
ねぇ、マヤ。こんな時あなたはどうする?
(なんだなんだ、私の意見を聞いたってお前は変わらないだろう。だから今回私はあえてなにも言わないことにしてみたのさ)
ねぇ、これでいいかな?間違ってないよね?
(その判断を下すのは私ではない。私の答えはお前の答えだ。好きにするといいさ。どちらにしても私はお前の意見を否定できない)
ねぇ、ならなにかこんな弱い私をどうにかする作戦ってない?
(やれやれ、妄想体にそんなことまで聞くか………そうだなぁ、弱いお前が消えればいいさ――――――――――そしてマヤになれ)
お前は私だ
私はお前だ
お前は私だ
私はお前だ
私は―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「でもさぁ、それで不登校とかないっしょwwww」
「どんだけメンタル弱いんだよwwwww」
「ほんと意味わかんない」
ひゅんっと何かが空を裂いた。きゃっきゃと騒いでいた少女たちのうちの一人の制服が裂けた。
だが、少女は叫ぶことはできない。制服に意識を、向けた瞬間に口内には黒ずんだぞうきんが押し込められていた。口の中に生ごみとほこりの味が広がる。
先ほどまで目の前で大人しそうに座っていた女に制服をさかれ雑巾をねじこまれ鋏を首元に押し付けられている。意味は分からなかったが恐怖心はあった。
「……どうだ?退学したくなったか?」
あはっと目の前の女は笑う。目の前の女の瞳が一瞬緑色に見えた。
―――――――――――――――私はマヤ。