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4  血の契約

 ターシュはぐずぐず泣き言を漏らすエドアルドに文句を付けに、吹雪の中を飛んだ。


『さっさと山から降りろ!』


 巨大な竜に比べると、鼻息で吹き飛ばされそうなターシュだが、吹雪の風にも巻けず力強く羽ばたいていた。


『ターシュ! 無事だったんだね』


 失恋の愚痴をだだ漏れにしていた王子だが、自分へのストレートな愛情を感じる。


『さっさと都に帰れ!』


 カザリア王家の中に流れるリヒャルド皇子の血に、ターシュは縛られそうになり、さっさと立ち去って欲しいと願う。


『そうか……この肉を此処に置いていくよ。

 迷惑を掛けて悪かったね』


 マルスを地上に降ろして、自ら肉を雪の上に置く。


……美しいターシュ! 力強くて……


 ターシュには自分と失恋したユーリとを同じように手に入らぬ夢として、諦めようとするエドアルドのぐずぐず振りが我慢できなかった。


『私とユーリとかを一緒にするな!

 私はお前みたいな泣き虫なんか嫌いだ!』


 ピィーと髪の毛を啄んで、ターシュは文句を言う。


『私はターシュとユーリを一緒になんかしていないよ……

 いや、していたかも……』


 どこまでもグダグダのエドアルドに、ターシュは苛ついて髪の毛を何回も啄む。


『シャンとしろ! お前がリヒャルド皇子の子孫だなんて、信じられない!』


 エドアルドは何時もはシャンとしていると、ターシュに抗議する。


『私はカザリア王国のエドアルド皇太子だ!

 今は失恋して、少し情けない姿を曝しているが、将来は国を背負って立つ覚悟もある』


 ターシュには空元気が見え見えだ。


『そんなにユーリとやらに惚れたのなら、結婚すれば良い』


 ターシュは泣き出したエドアルドに狼狽える。


『ユーリと結婚できるなら、今すぐしたいさ!

 ユーリはグレゴリウス皇太子と結婚するんだ』


 マルスもエドアルドが泣き出して、パニックになる。


『エドアルド、大丈夫か?』


 エドアルドはマルスに顔を伏せて、今まで我慢していた思いをぶちまける。


『ユーリに恋などしなければ良かった!

 自国の皇太子と結婚するなら、私に微笑みかけたりしなければ良かったのに!』


 大好きなユーリの悪口にマルスは狼狽える。


『そんなぁ、ユーリはグレゴリウスと恋をするつもりじゃなかったんだよ』


『マルスはユーリが好きだから……』


 騎竜に八つ当たりしだしたエドアルドをターシュは叱りつける。


『騎竜はエドアルドと同じ時間を生きる相手だろ!

 騎竜のお前への愛情を疑うな!』 


 ターシュに叱られるまでもなく、エドアルドは口にした瞬間に後悔して謝った。


『御免、マルス! ユーリを好きなのは仕方ないよ。

 私も今でも好きなんだ……』


 マルスにはエドアルドの辛い気持ちがダイレクトに伝わる。


『エドアルド……』


 なんとか慰めようとはするが、竜には恋愛はよく解らない。


 ターシュはエドアルドの落ち込み振りを知らない顔ができなかった。


『祖先のターシュもリヒャルド皇子を見殺しにできなかった。

 これは血の契約なのか……』


 エドアルドは肩に止まったターシュに驚いた。


『えっ! まさかターシュ、一緒にいてくれるの?』


 金色の目がエドアルド皇太子の青色の目と合った瞬間、二人の間にリヒャルド皇子が結んだ血の契約が蘇った。


『私が側に居てやるのだから、ぐずぐず泣くな!

 泣いたら、髪の毛を毟るぞ!』


 ユーリに失恋して、地の底まで落ち込んでいたエドアルドは久しぶりに快活な笑い声をあげた。


『ターシュ! ずっと側に居てくれ!

 もう泣かないさ! ハゲになったら困るから』


 吹雪の中、やっとマルスを見つけたハロルド達は、エドアルド皇太子の肩に止まる立派な若鷹に驚いた。


「もしかして、ターシュなのですか?」


 金色の鋭い視線がハロルドの身体を突き抜けた。


『そうだよ、ターシュが私の側に居てくれるんだ!

 ターシュ、私の友達のハロルド、ジェラルド、ユリアンだ』


 名前を呼ばれた三人を眺めて、ターシュは微かな血の契約を感じた。


『ハロルド、ジェラルド、ユリアンにもカザリア王家の血が流れているのか?』


 三人はターシュの言葉は解らなかったが、ニュアンスは感じた。


「エドアルド様、ターシュは話せるのですか?」


 ユリアンはジロリとターシュに睨まれて、当然だ! と怒られた気がした。


「兎に角、村まで降りましょう」


 ジェラルドはハロルドとマルスに鞍をつけた。


 薄暗くなった山から、アレックスが泊まっている村長の家までどうにか無事に着いた。


「エドアルド様! まさか、ターシュと契約したのですか?」


 全く他の人には構わず、エドアルドの肩に止まったターシュに突進する。


『うるさい! コイツもカザリア王家の血が流れているのか!』


 フン! と嫌そうに首を横に向けたターシュに、アレックスは話せるのですね! と熱中する。


 エドアルドは村長の家の中で、持って行った肉をターシュに食べさせる。


 誇り高いターシュだが、空腹だった。


 脚で肉を押さえて、鋭い嘴で千切って食べる様子をうっとりとエドアルド達は眺めた。




 翌日は、昨夜の嵐が嘘のように晴れた。


 エドアルド達は村長に礼を言うと、ターシュを連れてニューパロマに旅立った。


 ターシュを見たヘンリー国王もカザリア王家に流れる血の契約を感じたが、エドアルド程は話せなかった。


 ターシュを得てから、エドアルドは少しずつ失恋から立ち直った。


 でも、時々ふとした瞬間に金色の髪と緑色の瞳の少女を思い出し、ターシュに髪の毛を啄まれた。


 

  


 

  

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