銀行強盗
芽園校から自転車で向かうこと5分、目的地である銀行は見えてきた。
芽園学区の自慢できるポイントとして近代的な街並みが挙げられる。
高層ビルが建ち並び、地下にも開拓を広げていっている。医療機関や電化製品も発達していた。
しかし最近では他の学区も都市化が進み、芽園だけの特徴ではなくなってきているのが現実。
「じゃあ振り込んでくるっす」
そう言って浮世はATMに並び、一颯と相原は設けられたソファーに座って一息ついている。
「この銀行、二階建てですのね。まぁ私の家に比べれば小屋程度ですが」
自慢の腰まである黒髪をバサッと手で振り払い相原は言う。
いちいち一言多いな、と一颯は思うが口にだすとめんどくさくなる事を知っている。
「設備も甘いですわね。強盗に狙われますわ」
「…………」
「ちょっと、聞いてますの」
「あぁもう! 強盗なんて俺がドカーン、バコーンだっての」
そう言い張った瞬間、バン!――と銃声が建物内に響き渡った。
唐突な演出に人々は静まりかえる。一颯たちも例外ではない。
音の元を目で辿る。入口に銃を手にした男を含め、合計5人。その距離10メートル。
「大人しくしていれば危害は加えない。スムーズに取引をしよう」
犯行グループは落ち着いた口調で語りかける。
「おいおいどうすんだ相原」
ボソボソと小声でコンタクトを取る。
「あら、強盗なんてドカーン、バコーンなのでしょう?」
「冗談に決まってるだろ! 頑張ってくれよ〜、柔道部副キャプテン」
「相手が1人ならばいけますが……。そうですわ。貴方、囮になりなさい。仮に死んでも武勇伝は広めます。柔道部で」
「広める範囲せまっ。しかも死ぬ前提とかやめてくんない⁉︎」
犯行グループが待ってくれるわけでもなく、打開策がでないままに一颯らを含めた建物にいる人々は2階へと誘導された。
(状況を見るに、グループの2人が俺たちの見張り、他の3人が下のフロアで見張りを兼ねて現金を奪っているのか)
『ピピッ』――緊張感が目に見えてきそうな空間を電子音が切り裂く。
音の発信源に視線が集まる。視線の先は学校指定の黒ズボンの右ポケットに入っているケータイであった。
(しまった)
ケータイの所有者、一颯は冷や汗を流す。
「あれ? 着信音変えたんすか?」
「そこじゃねぇ!」
浮世に怒鳴った直後、ハッと我にかえっても既に遅い。
2人組の片割れが距離を詰めてくる。
近寄ってきた男はポケットに手を伸ばすが、一颯は緊張のあまり反射的に身体をねじってしまう。
その際に予想外の事が――、一颯の肘が男の顎にクリーンヒットした。
男は後ろによろめき、意識を戻そうと頭を左右に振る。
「ち、違うんです。ケータイはこの通り」
ケータイを迅速に渡そうと走りながらポケットを探る。と、またもやここで自らの意思と異なる行動を起こす。
スリップといわれるアクシデント。
走りだした足の3歩目がツルツル滑る床という事もあって勢いに耐えられなかったのだ。
前のめりに倒れ込む形となった一颯の左腕が先ほどの男に激突。美しいフォームのラリアットであった。
その勢いのまま倒れこんだ男は後頭部を強く打ち完全にノックアウト。
「テメェ!」
「事故です!」
もう片方の男が鋭い形相で足を踏み出す。
あぁ終わった、一颯がそう思った瞬間フッと目の前に物体が飛んできた。横一直線に。
一颯に殴りかかる男が驚く。人が目の前に突然現れたからだ。
「私のウェポンは『位置』。今さっき投げた靴と私の位置を入れ替えましたの」
つまり相原は、殴りかかる男と一颯との間に自分の靴を投げ入れたのだ。
飛んでくる拳の速度を利用した相原の背負い投げが決まる。
背中から叩きつけられた男は起き上がれず犯行グループの2人は拘束され、誰とはなしに警察へ通報する。
物音に異常を感じてか、1階にいた男が1人上がってくる。が、さすがに人数が違う。男は状況を察し身体を戻す。
「逃がしちゃダメだ!」
一颯が叫ぶもコンマ数秒遅れたその場にいる人々はとても追いつけない。
追いつけないのは分かっているが、叫んだ少年の身体は階段を転がる勢いで降りる。
「しまった」
銀行を出て向かいの歩道を犯行グループの3人が走っている。捕まえる事は出来ない。
膝に手をつき、ハァハァと息を荒げていた。そんな一颯の視線の先――突如として竜巻が発生する。
「はぁ……良いタイミングで来やがって」
「わるい。遅くなったわ」
そう応える福塔楓。兄である楓のウェポンは風力。竜巻を発生させるなど朝飯前であった。
高さ2メートル程の竜巻が消えて犯行グループの3人は地面に落下する。
一颯は一件落着とその場に腰を落とした。