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竜の使命が終わりました。



 真っ暗な視界の中、ただひたすら守っていた。



 生み出されてからどれくらいの時間がたったのだろうか、ここから一歩も動いた事の無いそれには分からなかった。


 なんでも動けば世界が崩壊するとかなんとか、だから動いてはだめだと、最初に言われたのはそんな事だったか。


 世界、と言う物を背負っているらしいと聞いた。


 背負っているのだから見たことはない。だが、自分の上には自分と同じように世界を背負っているものがいるそうだ。

 その最も下層、それを背負う為に生み出された、らしい。


 時折その『世界』を作った友人が様子を見にくる、それの腹の中に居る者の様子を見る為だ、そして徐々に力を失っていくそれを確認して安心すれば、雑談をする。


 昔はよく世界について話を聞いていたが、最近は他の者にまかせて世界は見ていないそうだ。お陰で楽しみは減ったが、それでも雑談をするのは唯一の楽しみである。


 それがそれの全て。

 それを取巻く真っ黒な視界、音も無く。唯々、身動きすらせず過ごすのみ。時折の友人の来訪。

 

 何もない彼は、ただ想像する。


 ――世界と言うものはどんなものなのだろう。

 

 友人から聴いた情報を元に、ただそれは想像するだけだ。

 時間はたっぷりとあるのだ、一歩も動かず、ただじっとしているだけなのだから。

 

「ファラク、どうしてるかね?」


 呼びかけられ六つある首の内、一つを向けた、真っ暗な中では特に何かが見える訳ではない。ないのだが、折角「眼」というものがあるのだ、「眼」を向けるという事くらいはした方がいい。


「いつも変わらない。世界について考えていた」


 今日はどんな事を聞かせて貰えるだろうか、そうわくわくして待っているが、今日は少し様子が違うようだ。話しが始まらない。


「ファラク、どうやら君の仕事が終わったようだよ」


 友人は喜びを声に表す。ようやく仕事が一つ終わったのだ。

 だがそれが何を意味するのか、それは知らない。


「それは良い事なのだろうか?」

「ああ、良い事だとも、君の中に入れたジャハンは完全に消え去った」

「そうか、ならよかったんだな」


 あまり実感は湧かなかった、次の言葉を聞くまでは。


「ああ、だからねファラク、仕事を成し遂げた褒美を上げるよ、なんでも一つ願いを叶えよう」


 何でもと言われれば一つしかない。と言うよりそれ以外は考えようがなかった。


「ならば、世界を見てみたい」

「やっぱりそれが望みか」


 いつもそれを尋ねるのだ。友人も理解していたのだろう。


「ああ、それ以外には思いつかない、構わないか?」


「大丈夫だよ、ジャハンが消滅した今、世界を支える事だけなら君の体がここにあればそれで事足りるからね、どのみち君の体は『世界』よりも大きい、別の器を用意し、魂を移し替えよう」


「それなら希望がある」

「なんだい?」

「人になりたい」

「よし分かった、我が最古の友人の頼みだ、存分に腕を振るおうじゃないか、君の体の一部を貰うよ」

「宜しく頼む」


 ファラクの真っ暗なだけの視界は、その日、終わりを告げた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「眩しい」


 それはファラクが初めて口にした言葉であった。

 初めて目にする光、それが『視界』を生みだし、ファラクを感激に打ち震えさせた。


「これが……『世界』か……」


 緑生い茂る森の中、ファラクが目覚めたのはそんな場所だ。

 おおよその知識は彼を作った最古の神より聞いていたが実際に目にするのは生まれてより初めて。


「俺の背負っていた世界……」


 キョロキョロと辺りを見渡す。

 まだ森の中でしかないのだがその目に広がる緑、木、そして耳には木々の揺らめきが音に聞え、空気の匂いを堪能した。背負う重み、それ以外の感触は全て初めて。


 真っ暗な視界の中、ずっと夢想していた物がここにはある。


 ファラクが夢見た世界。自らが背負っていた世界に初めて降り立ったのだ。


 今までとは違う体に触れてみる、動かし方は神が知識を入れたのだろう、自然と分かった。


 ペタペタと自分の体をまさぐる。一言で表せば、


「つるつるだな。これが感触というものか」


 等と考えながら、自然と口角が上がり、笑顔ができた。


 さてまずはどうしようと一人考えた。


「うん、色々見て回ろう」


 ファラクは自然と弾んだ声を上げ、歩きだした。


 ◇◆◇

 

 アリシア・テーネロイアは来た事を後悔していた。


 その日もいつも通りの日常がある筈だと考えていた。だが今日は運が悪かったのだろう。いや、


(罰があたったのかな)


 毎日の生活に嫌気が差し、護衛を振り払うようにして、マリーの家へと来たものの、留守の間にキノコ採取でもして喜ばせよう……そう思ったのが間違いであった。


 長くシルクの様な銀髪が、顔を隠す程俯き、普段は柔らかなその表情は力なく疲れの色を見せ始めている。


「……どうしよう、迷っちゃった」


 採取に夢中になり、テトラの森深くまで入ってしまった事に気がつかなかったのがまずかった。気がついた頃には東西南北、方向感が消え失せていた。

 

 さらに悪い事に、勘を頼りにあちこち歩き回ったせいだ。アリシアは気がついていなかったがさらに森奥深くまで入っていた。


「足いたい……」


 誰もいないせいか弱音がぽつりと出た。


 だがその言葉を聞いてくれる者は誰もいない、ただ耳には返答とばかりに木々が風に揺れる音が届くだけ。


 いい加減足が動かないと、木に寄りかかるとずるずると尻餅をついた。


 木がつけば、動き回ったせいかお腹も音を鳴らす始末。 

 果物を採集しておけばよかったと思うも、今は疲れのせいで一歩も動きたくなくなっていた。


 それも先程までの話しだった。

 がさがさと茂みの奥から音がする。


(まさか魔物?)


 口にだしかけ咄嗟に口を噤む。


 既に察知されてれば意味はないかもしれない、それでも声に出さない方がましだ。


 茂みの揺れは激しさを増し、こちらへ近づいてきているような気がする。


 揺れと音が収まったと思えば、突然それは現れた。


 魔物。


 鹿が魔物と化したのであろう、雄鹿であろうその角は刃物の様に尖り、巨大に肥大化している。


 その獰猛な魔物特有の赤い瞳がアリシアを射貫く。


(どうしようどうしようどうしよう……)


 アリシアに魔物を倒す術はない。

 普段は護衛が付き従うアリシアに武器の心得はなく、腰に護身用のナイフを忍ばせているとはいえ、魔物には太刀打ちできない。得意といえば治療魔法、だが攻撃に使える魔法は知らない。


 恐怖で足はすくみ、呼吸が浅くなる。


 魔物はこちらを威嚇しているのか唸りを上げ、鋭利な角をこちらへ向けている。


 再び茂みの奥、魔物と対峙するアリシアの横から、がさがさと音がした。


 ――まさかもう一匹?


 もはや生き延びる事を諦めかけたその時、

 魔物とは違う……男が現れた。


 ……全裸で。



 ◇◆◇


 

 ファラクの目の前には二匹の生き物がいた。

 目覚めてから体の感触や動き、目に映る景色や他の感覚。全てが新鮮で楽しくなり。そこら中を動き回っていた。


 その最中についに動物に遭遇したのだ。


(二本足と四本足の動物が一匹ずつ)


 恐らく、あの二本足は同じ人なのだろう。神より聞いた特徴と一致する。しかし疑問があった。


 自分の体と改めて見くらべてみる。


「おかしい? 何故ああも肌の色が所々違うんだ?」 


 服、と言う物を知らないファラクには分かりようがなかった。


 もしかすると俺の体はおかしいのだろうか?そう考えて居ると二本足から音が聞えてくる。


「guhnim!」


 二本足――アリシアが助けを求めて声を上げる、ファラクが裸な点についてはこの際後回しにしていた。


「うん? 人種同士は意思疎通ができるのではなかったか?」


 神から先に入れられた知識はどうやら体の使い方だけのようだ、疑問と共に、ファラクが自然と首を傾げた。


「どうしたんだ? 人種よ?」


 まだ自分が人種であると染みついていないらしい、自分も人種なのだがそう尋ねる。


「guhnim!」


 アリシアは聞いた事も無い言葉を聞き、それでも尚助けを求める。ファラクは、先ほどと酷く似た鳴き声が聞えるな、そう思って首を傾げていた。


 業を煮やしたアリシアが諦め、地に落ちている石を掴み魔物に向かって投げた、だが躱されてしまい、アリシアは焦る。


「うん?」


 その光景を見てファラクがきらきらと瞳を輝かせる。 

 簡単である、自らの体でもできそうな事を二本足が行った。

 これは早速試してみなければ。


 そう思っていた。


 アリシアの真似をして石を掴むファラク。

 そしてアリシアがそうしたようにファラクは振りかぶると、投擲した。


 それはまるで魔法のようだった。

 アリシアはそのような事を見たことがなかった、いや、見えなかったのが正しい。


 ファラクが同じように石を拾うと振りかぶる。


 そこまでは見えていた。

 だが振った腕が見えなかった。

 そして轟く破砕音。


 アリシアは投げたであろうそちらへと首を向ける。魔物の方へ。

 そこには首を吹き飛ばされて倒れ去る魔物がいた。

 


 ◇◆◇


 

 吹き飛ばされた魔物を見据え。呆気には取られたが危機はさったとアリシアはほっと一息ついた。

 安心すると共に力がぬけ、へなへなと倒れそうになる。だが再び歩いて来る男を見て固まった。


 何がって、


(何で全裸なのこの人! 変態? でも助けてくれたんだよね? さっきよく分からない言葉を話してたし? でも全裸?)


 最早頭の中でぐるぐると支離滅裂になり、最終的には全裸?が最も頭の中で反芻した言葉であったか。


 魔物に気を取られていたが、全裸等父親以外見たことはない、顔を上気させ、下半身を見ないように必至に顔に焦点を合わせる。


 だがそんな変質者めいた男は眼を輝かせこっちに歩いてくる。


(どどどどどうしたら……?)


 森の中で全裸、そして笑顔で歩いてくる男……正直恐い。


(そうだ! ローブ!)


 ローブを着ていたのを思いだし、脱ぐと男へ差し出した。


 手渡された男は眼をぱちくりさせ、じっとローブとアリシアを交互に見ている。


 もう!っと早く下半身を隠してほしいアリシアはローブをひったくると男の後ろに回りこみ、頭からローブを被せる、無理矢理だ。


 全く抵抗しない所を見ると裸でいたかった訳ではないのだろう。 男がローブを不思議そうに掴んでひらひらとさせる。

 アリシアより身長が高いその男にアリシアのローブは膝元くらいしかないが、それでも裸よりはましだ。


 ようやく男が裸ではなくなり、落ち着くと改めて男に尋ねた。


「助けてくれた……んだよね? でも、どうして裸だったの?」


 確認する、と言う意味でもあった。


「gyhujmfgyhunmk」


 やっぱり。

 アリシアは意思疎通が出来ないと、嘆息した。


 問題は帰れない事だ、意思疎通ができなくてもマリーなら通訳の魔法を使える。だが帰り道は分からない、方角も分からない。おまけになんだかんだと時間を使い日が傾き始めている。


「そうだ、回収しないと」


 はっと思い出すと、アリシアは魔物の亡骸まで寄るとナイフを取り出し魔物の右胸を開く。男は不思議そうに近寄ってきて捌く所を見つめている。


 初めて取り出し、探すのに苦労したが、治療魔法を使い慣れているアリシアに血を忌避する気持ちはない、それに魔物を倒せばとても貴重な物が手に入る。だからこそ、それは真っ先に回収しなければならない。


「あった」


 拳大程の黄色いクリスタルのような結晶――魔石を取り出すと男に渡した。


「あなたが倒したんだから、所有権はあなたにあるわ」


 だがやはり男はただ眼をしばたたき、不思議そうな顔で魔石を手で転がしている。


「魔石も分からないの?」


 言葉が通じないとはこうも不便なものなのか。男が黄色の魔石を指で転がす姿を見ながら、アリシアはただただ困惑するばかりだった。言葉だけならまだしも常識が通じない。それが原因だろう。


 だからこそ心配になった。言葉や文化は違えど魔石の扱いはどの国でも同じだ。だが明らかに男は魔石を知らないようだ、今まで吸収もした事がないのだろう。


 そうなると先程の力は不自然、だが尋ねる術さえ今はない。

 さらに万が一にでも命を助けてくれた男が魔物化など絶対して欲しくない。それは置いておくとしても、魔石の存在すら知らない者をこんな所で放っておけない。


 まずはなんとしてもマリーの元へと連れていこうと心に決めたアリシアだった。



 ◇◆◇


 

 ファラクの興奮はずっと続いていた。


 人種と言うものは友人と自分が今までそうしてきたように言葉を交える事ができると、そして友人が言うには多くの『交流』と呼ばれるものがあると。ずっと一人か、僅かな時間友人と話すだけであったのだ。今後は沢山話せるようになると期待していた。


 さらに移り変る景色。


 ただ昼から夜に変わっただけ。たったそれだけの事がファラクには感動の連続だった。目まぐるしい変化。不変の存在、そして永久の暗闇、それしかなかったファラクには全てが新鮮だ。まさに生まれたての赤子のように眼を輝かせる。


 特にファラクを驚かせたのは『食す』という行為だ。まだ名前もしらない彼女、アリシアが木から果物を取ると囓りだした。それを不思議に思って見ていると、彼女はこちらへ差し出し、真似をして囓ってみた。


 するとどうだ、なんとも言えぬ感覚が口の中に広がり多幸感で満たされたのだ。そして食べた後、頭の中にふっと『食べる』事を理解した。


 どうやらこれも友人が入れた知識なのだろう、人の体に関する知識を体験した後に理解できるようにしてくれたのであろう。知識無く『初めて』を経験する事に、いたく感動する事に気付いたファラクは友に感謝した。


 それ以外の、『美味しい』そして『空腹』この二つの呼び方を知ったのは後日の事であったが、ファラクは病み付きになって囓り尽くした。そして同じ『囓る行為』についても囓るものにより、また同じ食物でも空腹と多幸感が天秤を傾けるかのように関係があることにも驚いた。


 なんとも不思議な感覚。ただ世界を背負っていたあの時とは全く違う。世界にはこんなにも変化で満ちている。


 自分は今、人となったのだ。

 ファラクはようやく実感を感じていた。


 

 ファラクが一心不乱に食べる姿を見て、アリシアは口角を上げる。


「うん、その顔を見ると俺もそうしたくなるな」


 ファラクは既に気付いていた。それは「楽しい」という感情だ。 自分の気持が浮き立つと同じような反応が自然と出る。


 相変わらずアリシアが何を言ってるか分かってはいない。

 だが、彼女と一緒にいれば新たな発見があり、その一つ一つの行動に意味がある事を悟ると、ファラクは学習しようとアリシアをじっと見ていた。


 勿論まだ分からない事の方が多い。


 例えばこれだ。

 じっとアリシアの顔を見る。学習するのだ。勿論見なければならない。


 眼が合う。

 一秒、二秒、三秒。

 そして俯く。


 これは一度だけではない、何度やってもそうなるのだ。つまりこれは何かしら意味のある行動な筈だ。

 

 人として生まれたてのファラクは。そうして自ら訪れた世界と人種として本能を学びだした。



 そんなファラクの研究対象にされてるとは思っていないアリシアは野宿となる事を心配していた。


 目の前にいる男は多分野宿についてしらないだろうと、ほんの僅かな時間であるが理解していた。何せローブに始まり、魔石、果物と、どれもこれも不思議そうに首をかしげる。そしてせめて火をおこそうと枯れ葉や木を集めるとこれまた不思議そうにこちらを見た後、真似し出した。


(まるで子供、少し歳上くらいに見えるのに)


 じっと真剣にこちらを観察するような視線は凛々しく、精悍。だがなにが楽しいのか、時折一人無邪気な笑顔を見せるのだ。


 この後はさらに驚く事になった。

 集めた枯葉に魔法陣を描き灯火の魔法を使う、火を起こし枝を追加し、たき火を作った。


 その様子をじっと見ていたと思ったら、急にたき火へと手を突っ込んだのだ。


 あぶない!そう思う間もなく、燃え上がる枝を掴み目の前まで持ってくるとじっとみていた。


「あ……熱くないの?」


 さらにが驚く事となった。

 平然としたままその男はまたにっこりと笑顔を向けた後、何事もなかったように枝をたき火の中に戻した。

 

「て……手大丈夫なの? 見せて」


 しばし呆然としたが、慌てて彼に近寄りアリシアは彼の手を取る。

 すぐ治療しないと、そう思ってみたのだが手には火傷一つない。


「火傷……して……ない」


 もはや何がなんだか分からなかった。不思議そうな眼でファラクが見るが不思議なのはアリシアも同じであった。


 ほっと安心すると。アリシアが再び元いた位置に戻る。言葉が通じないと分かっているので殆ど口を開く事もない。ファラクもじっと大人しくしているのでアリシアはただ火を見ながらぼうっと過ごす。

 必然、瞼が重たくなってくる。ただでさえ歩き疲れた上に魔物に襲われ、ファラクの様な訳の分からない恩人を見守り、精神的にも摩耗していた。体の動きを止めた今、体が自然と休息を求めるのは仕方がなかったのだろう。


 いつの間にか深い闇がカーテンの様にかかり、アリシアの意識は深層に落ちていった。

 

 ファラクは一人寝入ってしまったアリシアを見ている。急にかっくんかっくんと顔を上下しだしたと思ったら。そのままこてんと横になり動かなくなった。それでもじっと見ていると、時折ぴくぴくと体や口元が動き、規則的な呼吸を繰り返し、時折瞼の奥で眼が動いてるのが分かった。


 未だ『睡眠』を学習していないファラクは何をしているのか分からない。人の体になった為いつかは眠気が訪れる筈だが、ファラクの体は全く疲れていなかった。さらに感激の嵐で気持ちが浮き立ち、興奮した状態では動いていなくても眠気など訪れない。


 夜の闇は人を不安にさせる。だがファラクにとってそれは闇ですらない。


 ふと空を見る。


 星は散りばめられ、暗くなったその世界を飾り立てるかのように輝く。夜の暗闇が辺りを覆い、火がゆらゆらと揺れる様が幻想的に映る。この『世界』のずっと下、常闇で光りはおろか、音も匂いも何もない。そんな所にいたのだ。


 ファラクにとって、夜と言うものは様々な世界の顔の一つでしかない。また新しい物を見た、そう感激させる事になる。


 普通の者であれば何もすることが無く、手持ち無沙汰。暇でしか無いその光景をファラクが十二分に堪能していると、やがて夜が明けてくる。


 空が青くなり、アリシアがもぞもぞと動き出すと徐々にその目を開けた。


 ごつごつとした硬い地面の為、十分休めたとは言い難かったが、それでも昨日よりは大分ましだ。やや疲労で重い体を起し、辺りを見ると、ファラクが座ったままこちらを見ている。


(もしかして守ってくれてた?)

 また魔物が出ないように。


 内実は全く違うのだが、眠った様子の無いその姿を見て、アリシアは勘違いをする。運悪く魔物と出会ってしまったが、一般の動物は危機察知に長ける。理解せずともファラクから漏れ出る気配に辺りの動物たちは近寄る事を避けた。


 期せずしてファラクの傍にいる事で、アリシアは危険を回避していたのだった。

 

 その日の晩頃、ようやくマリーの家が見え始める。

 さまよっている内、空に舞う煙を見つけ、それが炊事に伴う火の煙だと気がついた。


 アリシアは見るや否やファラクを連れ、安堵の息と共にまっすぐと向かった。アリシアを研究対象にしていたファラクは迷う事なく付いていく。 

 テトラの深い森にいたアリシア達は、そうしてなんとか帰還できたのだった。


 マリーの家へと辿りつき、扉を叩くアリシア。


 しんと静まりかえり、もしかしてまた居ないのだろうか?そうアリシアが思い始めた矢先、扉が開かれた。



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