負けん気の強い女勇者を諦めさせる方法
私は魔王だ。
魔王と言うくらいだから世界滅亡など大層な野望を抱いていると思われがちだが、実はそんなことはない。
私のやっていることと言ったら、魔界を平和に導くために、日々事務仕事に追われているだけだ。
それなのに人間は、私を倒そうとする。別に悪いことなどしていないのに、日々勇者の相手をさせられているのだ。
本当に嫌になる。なぜ私が戦わねばならんのだ?
そんなことを思いながら執務室で仕事をしていたら、部下が入ってきた。
「魔王様。まーた勇者が来ましたよ」
私は書類から目を離し、ハァーと深いため息を吐いた。
また来たのか……。居留守を使いたいところだが、前にそれをやったら一日中城の中で私の帰りを待っていたからな。さすがに可哀想なのでもうその手は使わん。
面倒だが、勇者の相手をするしかないな……。
私は椅子から立ち上がり、部下に礼を言ってから勇者の待つ大広間に向かったのだった。
※※※※
大広間には、闘志むき出しの勇者がブンブン槍を振り回しながら待っていた。
「魔王! 今日こそあなたを倒すわ!」
「はいはい。おいで」
勇者がこちらに突進してきた。
槍が体に突き刺さる直前に体勢を変え、勇者の背中に回り混む。それから手刀で勇者の首筋を叩き気絶させた。
はい、終わり。
私は気絶させた勇者を横抱きにし、客間に運ぶ。
客間の大きなソファに寝かせてやると、目が覚めるまでボォーッと窓の外を眺めていた。
しばらくすると、勇者が目を覚まして私の姿を確認する。それからソファをバシバシ殴り始めた。
「悔しい! また負けたー!!」
「勇者よ。いい加減に諦めておくれ。君では私を倒せんよ」
「倒せるもん! 私の方が強いんだもん!」
また言ってる……。
可哀想だけど、この勇者はそんなに強くない。
だけど、人一倍負けん気が強いらしく、なかなか諦めてくれないのだ。
「じゃあもう君の勝ちでいいよ。だからここには来ないでおくれ」
「そういう舐めたこと言うから腹が立つのよ! もう怒った! 明日こそ私が勝つからね!」
そんなことを言いながら、勇者は客間を飛び出していった。
ま、また来るのか……。
私はこめかみを押さえ、諦めのため息を吐いたのだった。
夜になり、憂鬱な気分でベッドに入る。
はぁ……。勇者は明日もここへ来ると言っていた。
私の負けでいいと言うのに、なにが不満なのだろう? そんなことを悶々と考えて、ハッとした。
「そうだ……。戦いで負けるから嫌なのではないか? 勇者は口だけの勝利ではなく、私の這いつくばった姿が見たいのだ」
そうか……。きっとそうだ。
ならば、明日は口だけでなく、態度で負けてみよう。
つまり勇者に殺されたフリをすればいいのだ。
なーに、私は心臓をつらぬかれたぐらいでは死なん。
惨めに息絶えた演技をして、勇者が満足げに帰っていくのを見届けてから仕事に戻ればいいのだ。
そうすればきっともう勇者はここには来ないだろう。良い案を思い付いて良かった。
私はやっと心が落ち着いてきて、眠りについたのだった。
※※※※
次の日。
懲りもせずにまた勇者がやって来た。
大広間で待つ勇者にいつも通りに対応すると、プンプン怒りながら襲いかかってきた。
「覚悟ー! 魔王!」
よし。昨日の夜に考えていた策を今こそ試すぞ。
私は向かってくる勇者に無抵抗で立ち尽くした。すると、勇者の槍が私の胸をつらぬく。
しめしめ。予想通りだとほくそ笑みながら、私はちょっとオーバーなくらいに吐血した。
それから胸を押さえ、苦しそうにうめいた。
「くそぉ……。や、やられた……」
バターンと音を立ててその場に倒れ込む。
それから息絶えたフリをした。
そんな私を、勇者は呆然と見ている。
「魔王……? 死んだの?」
そうだ。私は死んだのだ。きっと勇者は狂喜乱舞することだろう。それでいいのだ。
勝利の余韻に浸りながら、さっさと帰っておくれ。
そう願いながらチラリと勇者の様子を確認した。すると、勇者はブルブルと体を震わせ、大粒の涙をこぼしていた。
「嘘……、嘘……。死んじゃった。どうしよう……」
いやいや殺しにきてるくせになにを言う? いいから早く帰れ。
「大好きだったのに……。いつも構ってくれて嬉しかったのに、死んじゃったよぉ……。私が殺しちゃったよぉ。どうしよう……、どうしよう!」
「!?」
だ、大好き?
なにを言っているのだ、この娘は。
動揺しつつ死んだフリをしている私を見て、勇者はハッとした。
「そ、そうだ! 神秘のしずくを飲ませよう。そうすれば生き返る!」
アホーー!!
それは超レアな秘薬で一回使ったら無くなってしまうだろう!? そんな秘薬を憎っくき敵に使うなー!!
私が心の中でツッコんでいたら、勇者はゴソゴソスカートのポケットから秘薬を取り出した。
私の方に近付いてきて、ポロポロ涙を流しながら秘薬を飲ませようとする。
このままでは秘薬を無駄に消費してしまう。
私は考える前にパチリと目を開けて、慌てて勇者を押し退けた。
「や、やめなさい! それは大事な秘薬だろう!? 私なんかに使わなくていいから!」
「!?」
私が生きていたことに驚いたのか、勇者は大きな瞳を更に大きく見開いた。
「え……? 魔王、死んじゃったんじゃないの?」
「申し訳ないが、心臓をつらぬかれたくらいじゃ死ねないよ。私が死んだら君が喜ぶと思って、死んだフリをしていたのだ」
「……」
勇者の顔がくしゃっと歪んだ。
鼻水と涙を流しながら、うわーん! と私に抱き付く。
「バカバカバカー! なんでそんなことするのよぉ!? 本当に殺しちゃったと思ったじゃない!」
「す、すまないね……」
勇者はしばらく私にギュウギュウしがみ付き号泣していたが、なにかを思い出したのかハッとした。
「じゃ……じゃあ、私があなたのこと大好きって言ったのも聞いてたの?」
「聞いてたよ。そうなのかい?」
途端に勇者の顔がブワッと赤くなった。
な、なんなのだ。その反応は。本気で言っていたのか。だが、なぜ好意を抱いている相手を殺そうとするのだろう?
「好きなら言葉で表してくれると嬉しいのだが……」
「べ、別に好きじゃないもん!」
「あ、そうなのか? 勘違いしてごめんよ」
「……」
勇者はムッとした表情をしたあと、私の胸をぽこぽこ叩いた。槍を突き刺された胸を叩かれたら、流石の私でも痛いぞ。
「魔王のバーカ! ニブイ男は嫌われるんだからね!」
「?」
なにがニブイのかさっぱり分からないが、とにかく私の計画は失敗したようだ。
私は諦めて胸に突き刺された槍を引き抜き、勇者に返した。
「なんだか分からぬが、とにかく騙してごめんよ。槍は返すから、そろそろ帰ってくれないか? 私にも仕事があるのだよ」
勇者は頰を膨らませながら槍を受け取った。
「明日も来るからね!」
「もういい加減に諦めておくれ……」
「ダメ。私って好きな人にはしつこいタイプなの」
「好きな人? それは誰のことだい?」
「バカ魔王。ちょっとは女心を勉強しなさい!」
そう言って勇者はペチンと私の肩を叩くと、ベーッと舌を出しながら去っていった。
「な、なんなのだ? 一体……」
何が何だか分からぬが、とにかく明日も勇者は来るらしい。
私はいつものようにハァーッと諦めのため息を吐きながら、執務室に戻ったのだった。
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