2.私の本当の願い
「シャナ、今日は王宮にいってくる、お前も来るか?」
ご主人様が、目をあわせてくれるが、わたしはなんとなく、後ろへさがってしまう。尻尾は巻いていると思う。
王宮は苦手だ。だって、みんな私を触ったり抱っこしたりするから。特にきらきらの目を輝かせて寄ってくる王子たちには辟易してしまう。
「そうか、いやか―――いいんだ」
なんとなく、ご主人様は嬉しそうだ。この家が一番ていう気持ちは伝わってるのかな?
「でも、今日はどうしも僕といっしょに行ってもらわないとダメなんだ。王妃がおまえに会いたいって・・・」
ん?王妃様。それは、やっぱりいく!断っちゃご主人様のこーしゃくぎょーにひびくもの。
わん!!
わたしは、さっきまでのしゅんとなっていた尻尾をおもいっきり振ってご主人様に飛びついた。
「まぁ、ギーエン。久々だけれど、私の侍女たちに何か盛ってくれたのかしら?おかげで、わたくしが紅 茶を手ずからいれることになるなんて?どういうことかしら―――?」
白い歯をちらりとのぞかせた王妃様は金髪のダイナマイトボディで、目はちょっとアーモンド形で釣り目だ。でも泣き黒子があるから、とっても妖艶な美人さんだ。
その、美人さんから、なんだかあやしいオーラが立ちのぼって見える。
ご主人様は涼しい顔をして、紅茶をすすっている。
「シャナ。おまえの主人は女たらしよね。今日、ギーエンと目を合わせた娘たち、みんなのぼせて、控えの間から出てこれないのよ!ひどいわ。歩く妖魔ね!」
「セーナ。それはひどいな。僕は彼女たちに、いつもありがとうって目であいさつしただけだよ?」
「それが、いけないのよ。軽々しく目を合わせないで頂戴。あんたみたいな美形に微笑まれたらみんなぶっ倒れるわよ!」
「ひどいなぁ。だから、今回は目だけであいさつすることにしたのに―――」
そのとき、ばーん扉が開いて、
「おい、おまえのせいで不眠不休で働かされたぞ!この俺の美貌が台無しだ!」と、でっかい足音を立てて、ミリタリスがどかどかと入ってきた。
そして、ギーエンの膝の上にいた私をみると、とろけそうな顔で、寄ってきた。
「おおぉ天使がいる。ギーエン!連れてきてくれたのか!」そっと手を伸ばしてきたミリタリスの手をば ばしっと、ギーエンが払いのける。
「うぉおいてぇ。ほんと、おまえ男には容赦ないのな」
・・・なんか、さっき電撃が見えた。ご主人様、そんな技だしちゃっていいの。
「ほら、2人とも、シャナがふるえてるじゃないの。落ち着きなさいな」
「な、姉上こそ、さっきから、ギーエンをいじめてただろうが」
「これは、不可抗力よ。わたしの侍女を毎回骨抜きにされるといろいろ困るのよ」
―――じとっと王妃と王子からにらまれても、おかわりをすました顔でギーエンは優雅に飲んでいた。
シャナが王妃と一緒にティータイムを楽しんでいる。
「シャナ。ほんとにいいの?あたなは、もう、元にもどれないかもしれないのよ」
いいの!王妃さま。わたしはギーエンが大好き。ううん。愛してるんだよ。
だって、このままじゃ、ギーエンが結婚できないでしょ。だから、わたしを―――。
がばっ。
肩で荒い息をつく。王宮の魔法陣の中で、若い男が、意識を取り戻した。
黒いつややかな髪が額に、背中に張り付いている。
呪の模様を浮かび上がらせた上半身裸のギーエンは先ほど、大きな魔力の行使をして、ぶっ倒れたのだ。
・・・?なぜ?僕は倒れている?ここで、ダムの建設を執り行う魔力を王妃に送っていたはずだ。
いや、そうではない。この魔力の消費は尋常じゃない。
そう、あの時だ。
・・・僕が、シャナを召喚した時。あの時と同じだ―――。
そうか、シャナ―――。僕の愛しい人。
―――君は、もうここにいない・・・。
シャナの気配が消えていた。
この王国のどこにも、この世界のどこにも・・・いない。
彼は、誰もいない魔法陣の中で、頬を涙がつたった。
ギーエンが倒れる数刻前。王妃と王子は王宮の最も力の集まる神殿の中にいた。
「おい、セーナ。ほんとにいいのか?シャナはギーエンのアレ―――だろ?」
「ええ、いいのよ。シャナの望みだもの。これも、王族の務め。ギーエンには幸せになってもらいたいもの」
王妃の言葉とは裏腹に、彼女からはほの暗いゆらめきがじわじわとセーナを押し返す。王妃がこれから儀式を執り行う間には王国中の魔力が満ちていて、息苦しいほどだ。
隣室のギーエンが魔力を王妃に送る手はずになっている。
それほどまでに、王国のダム建設には魔力を必要とする。今、攻められたらまずいことになるだろう。その王国の中心部、ギーエンのいる魔法陣を守るのは、珍しく儀式の手伝いに駆り出されたセーナだ。
セーナは魔力はそんなに多くはない。だが、魔力を行使する構築式を改変して、より強力にすることや組み合わせていつくもの公式を表明している。どちらかというと裏方であったが、今回ばかりは、ダム毛建設の強力な後見者として、この場に立ち会っているのだ。
――――表向きは・・・。
ひりついた空気は、いつもは優雅な王妃の気配とはまったく別の暗い力の本流を垣間見た気がして、彼をしても近寄りがたく、王妃を残して、ギーエンの元へ向かった。
5編の短い読み物の予定です。
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