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乱世の撫子 

作者: 柑橘柚子

前に投稿した「乱世の撫子」のリメイク版です。あまりにも乱筆乱文で読むに堪えない文章だったため書き直しました。言葉足らずだったところも足しています。

 太刀を振り上げるよりも重い瞼を開けると、片目の世界が白色だった。四方八方に絹布を張ったようにどこまでも白が広がり、布越しのような淡い光に包まれたなんとも居心地の良い静かな場所で、一人ぽつんと座り込んでいた。


 春の陽だまりの中のようにぬくぬくとして、冬の凍てつくような寒い風が熱を孕み涼やかとなった心地よい風が吹きぬけて、思わず眉をしかめる。何が起きているのだ。まだ夢の続きか、それとも狐に化かされたのか。狐の潜入を許すような軟弱な築城をした覚えはないが…その瞬間、自分が見慣れぬ小袖を纏っていることに気づいた。白い胴、そして肩と裾の部分が墨のような黒に染め分けられていて、その上から銀色に輝く鱗模様の箔が摺られた小袖。気を抜けば引きずられるような深淵のように深い黒の上を走る銀色の鱗の刺すような鋭さ。…己の体の奥底に宿った蛇心がついに衣にまで染み出たか。黒く染まった肩裾は、戦場を駆けた足も人を殺めた手も洗い落とせないほどの罪に染まっていると言っているようだった。


 身に纏う衣を見つめていた時、焦げ臭い匂いが鼻を撫でて、人を焼く血肉の滴れる様が脳を刺すように浮かび上がる。嗅ぎ慣れたその匂い…これは上かと身上げると、頭上で鯉のように宙を泳ぐ黒煙があった。焦げ臭い匂いを漂わせるそれをずっと見上げていると、赤黒い液体が地に落ちる。血であった。


 鳥でも燃えているのだろうか。しかし煙は悠々と揺れ動くだけで暴れている様子はない。じっと頭上を漂う黒煙を見上げて言うと頭上でうごめく煙からひょっと髑髏が顔を見せた。


 髑髏が頭の根本から黒煙を吐きながら空を泳いでる。戦国の世、骸な、どこにでも無数に転がっているとはいえ、ついに飛ぶようになったか…しかし、それにしてもどこかで見たような。そうやってじっと見上げているとその髑髏は黒煙の尾を曳き血を垂らしながら頭上から離れて、かと思えばうねうねと泳ぎながらゆっくりと大回りしてまたこちらに戻ってきた。正面から見えたその時、ようやっと思い出す。その髑髏は自分が梟し首にした隣国を収める領主の髑髏であった。その男の滑稽なほどに阿保面の嫡男に冗談で国を攫うように唆してみれば慮外、骨肉の争いを始めよった。蛙の子は蛙。とはいえ武に長けた奴を親に持つ子なだけあり、戦は思った以上に長引き国は乱れに乱れた。そうなれば猛将と言われた男であっても赤子の手をひねるも同然。混乱に乗じて攻め入り、苦も無く制服に至った。


 あっけない落城。猛将と恐れられた男も年月の流れには逆らえず、頭も体も老い耄れで、無様な死に様であった。一方こちらは領地を増やし、一気に百二十万石の領主となった。しかしなにも面白くない。「敵を討った」そうなんど胸の内に唱えても、気分が晴れることはなかった。


 首をはね、皮を剥いで、踏み砕いた頭。その見飽きた髑髏をじっと見ていると、それは何かを追いかけているようで、よーく目をこらして見ると蝶を追いかけている様子だった。


 絹のような柔らかな光を帯びた紋白蝶が、髑髏に追いかけまわされている…その光景を見ていると、嫌な記憶が脳裏をよぎる。同時にその瞬間から腸が煮えくり返るような怒りが沸き立ってくる。


 髑髏は蝶めがけて勢いを上げる。ずっと追いかけまわされている様子の蝶も徐々に羽ばたきが重くなっていく。それを好機と見た髑髏は勢いを増して、あと少しというところまで追いつくと大口を開けながら蝶と距離を詰め勢いよく口を閉じた。


 羽根が歯に噛み千切られると思った瞬間、蝶はひょいと下に逸れて素早く逆へと飛んでいった。追いかけまわされて徐々に衰弱していっているように見えたがそんな様子はどこへやら、ずいぶんと元気そうに飛んでいった。


 強かな。蝶は運に賭けるより、一か八かで死を装った。距離を縮めて、すんでのところで下にそれたことで奴は仕留めたと思っているだろう。獲物を逃がしたことにも気づかず、味もしない空を髑髏は噛み続けている。そして馬鹿な髑髏は満足してどこかにいってしまった。


 髑髏も明後日の方向に飛んでいくことを見て、緊張の糸が切れたように俯くと。漆塗りの盆が置いてあった。盆の上には黒漆に金蒔絵の硯箱。隣には色鮮やかな腰帯と花が生けられた銚子。どれもこれも…見覚えがある。一緒に燃えてしまったと思っていたものがそこにはあった。


 硯箱には呂色の空に黄金の波涛の蒔絵。荒れ狂う波の音まで聞こえてくるような金色の海の上には、白蝶貝の殻でできた二羽の千鳥が右へ向かって飛んでいる。波に千鳥の意匠。この乱世を荒波に喩え共に乗り越えてゆくとでも言いたげだが、後ろを飛ぶ千鳥は随分と下向きで、そのまま行けば波に飲まれそうな角度であった。


 その千鳥を撫でるように触れる・当たり前だが、ひんやりと冷たい…まるで死体のようだ。千鳥に触れていると手が小さく震え始めてすぐさま指を離した。


 右手の震えが止まらない。その右手を左手で縛るように掴んでなんとか鎮め、両手でそっと蓋を外し中を見た。中には筆や小刀、墨、錐などの書道具が収められている。


 硯がないということは二段構造か。蓋を横において、上段の枠をそっと持ち上げると、その瞬間ほんの僅に清々しい花の香りが鼻を撫でる。墨とは違う、随分と優しい香りに戸惑いながら中を見るとそこにあったのは硯ではなく、鏡面仕上げの内側が青紫に染まるほどの桔梗がいくつも幾重にも詰め込まれていた。涼しげな青紫の桔梗の花がひしめき合っている。よくみればもぎ取られて投げ入れられたように花弁が破れているものもある。…まるで首桶をあけたようだった。縁座に処されたあの一族を思い出す。不甲斐なさが波涛のように全身を覆って、投げるように手放した。


 重い空気を吐き出して、目を横に逸らし丁寧にたたまれた腰帯を見る。金地に花七宝を色鮮やかに刺した縫箔の腰帯…七宝…円が永遠に連結した模様。


「円は輪とも言いましょう。輪が続く。平和が続く。そんな未来を私は切に願っておりまする」


春の陽だまりのような穏やかな女人の声色に急いで振り返るもしかしそこには縫箔の衣のみがあるだけ。肩には金箔のエ型霞に嫋やかな刺繍の蝶が舞い、裾には色とりどりの撫子の花が一面に咲き誇った、見覚えのある打掛が、ただそこに置いてあるだけ。


「平和が永遠に続くなど、乱世では世迷言だ」


女人の純情に、かつての儂はそう吐き捨てた。そんな己が憎くてたまらない。


 盆上に目を戻すと銚子に白花がいけてあった。月夜の秋野に金粉を吹き付けたような秋草模様の蒔絵が見事な銚子は本来酒を入れるものだが、そこには白一色の撫子が大量に生けてあった。一方に皆寄りかかり、いけられたというよりは、無造作に入れられたような撫子の花。


 頭をはねられたように花だけ摘まれた桔梗と違ってこちらは茎が残っていて、何も考えず一輪抜き取った。白い撫子。目にも留まらぬ野に咲く花だが、踏むにはもったいないと思わされる純朴な花。指先で茎を回しながら白い花弁を見つめていると、ふと茎に連なる鋭い葉に目が留まる。葉裏に白いなにかついていた。米粒のような形の、けれど米よりももっと小さい…


 その時、銚子の中から何かが飛び出す。さっきの紋白蝶だった。銚子の中に身を顰めていたのかもしれない。なるほど。この葉の裏についた白い粒は蝶の卵か。


 銚子から飛び出た蝶は手にもつ撫子に近づいて、儂に臆さず「戻せ」と言わんばかりに撫子の周りを飛ぶ。「すまぬ」と詫びて丁寧に銚子に花を戻すと蝶はすぐに銚子に駆け寄って、葉裏に産みつけた卵を見守るように愛おしむように見た。


 思い出す。強かで、純朴なあの女を。その女、この紋白蝶のように猛将相手にも臆すこともなく相対し薙刀を持たず愛嬌で倒す儂よりも強い女であったが、儂が吐き捨てた暴言には切ない顔を浮かべる女であった。


 政とはいえ年の離れた男に見合された可哀そうな女。それにもかかわらず笑みを絶やさず、日々面倒と冷たくあしらう儂の支えとなってくれた。珠玉をはめ込んだような澄んだ瞳を浮かべる半月の目が三日月のように細まる慈愛に満ちた眼差し。紅をさせば草原にのびのびと咲く花を花器に生けて純朴の良さを殺してしまうような結果になる、紅いらずの一斤染のような優しい色をした唇。それをそっと結んで、寸分弓なりに口角をあげただけで、こちらの緊張の糸がゆるみ、調子がくるいそうになる柔和な笑み。それを死んだ魚の目のような沈んだ目と万年への字曲がりの口でしか返せない無骨な儂に捧げさせていた。好きでもない男に、無理強いをさせる自分を思うと、血が沸き立って気づけば暴言を吐き捨てていた。


 力を入れて引きちぎらずとも、破れてしまうような羽根を持つ蝶のようにか弱いあの顔。思い出すだけで腹が立つ。虫には詫びれるのに、あの女には一度たりとも詫びれなかった自分が嫌になる。


 それでもあの女は一度たりとも儂の傍から離れようとはしなかった。揚羽蝶と比べれば華もなく、百花の王である牡丹と比べれば小さく踏まれてしまう撫子のようであったが、儂にとってはこの世で一番の女であった。傍にいてくれれば牡丹も菊などいらない、最愛の妻であった。


 あの女の面影を重ねて蝶を見ると、くるりと銚子に背を向けて上へと上へと飛んでいった。どこへ行くのだろうか。追いかけるように顎を上げたその瞬間、またあの焦げ臭い匂いが鼻を撫でる。夢現を振り払って周りを見渡すと、あの髑髏が放った矢のような勢いでこちらめがけて飛んできていた。


それに気づいていないのか、蝶はまっすぐ上を向いて飛んで行く。


「ならぬ」


思わず叫んだ。立ち上がり、蝶を掴もうとするも、微かに羽根にかすっただけでとどかない。軌道さえ変わればよい。けれど蝶はまっすぐ髑髏に向かって飛んで行く。


「行くな!」


怒号交じりに叫んだその瞬間、蝶は髑髏の醜い歯にためらいもなく食いちぎられた。


 伸ばした手の指先が震えた。食いちぎられた羽根がゆらゆらと舞い落ちてくる。断面から火がついて、ゆっくりと、赤く燃えながら舞い落ちた。


 腰の力が抜けて、崩れるように座りこむ。すると目の前の黒漆の盆は檜の盆に姿を変えていた。その上には和紙の丈長で結ばれた髪束…いや、遺髪があって、その上に燃え尽きた蝶の火の粉が落ちた。


 あの女の父は国に忠義を尽くした不義を許さぬ立派な男であった。しかしよせばいいものを不義理なあの男に歯向かった。その結果敗れ、一族は縁座に処されみな打ち首となった。女もそうであった。


 反逆者の一族の血の入った息子も処罰の対象となったが、女の一計により助かった。しかし息子を逃がすために囮となり、追手が迫るなか城に火を放って自害した。


 檜の盆の手前には腰刀があって、さっさと死ねと言わんばかりに鞘は抜かれている。その腰刀には見覚えがあった。洗朱に金の梨地粉の鞘に、白組紐で巻かれた柄。目貫は…波に千鳥。間違いなく、妻「千代」のものであった。震える手で、その腰刀をとった。静かに刃先を己の腹に向けた。


 その時柔らかな衣擦れの音が聞こえて、顔を上げた瞬間手から腰刀は抜け落ちた。


目の前に、一人の女人が座っていた。白き小袖。そして金地に白き撫子が一面に咲く唐織の打掛を腰に巻く、盛夏の盛装である腰巻姿の女人。


 金糸を贅沢に地色にした打掛。。しかしその金色は随分と優しげで、嫌な黄みもなく、菩薩のような穏やか気迫がある。その稲穂のごとくき金色に輝く唐織の小袖を纏う女人は武家の出の女らしい武芸を仕込まれた強さと、公家の姫子のような教養を忍ばせた柔らかさを兼ね備えた凛々しくも優しい顔立ちをしている。心の臓に毛の生えたような、女人のいでたちで中は男のような女傑を見てきたが、それらとはまったくもって違う。女は乱世の荒野に咲く白撫子。国よりも城よりも、家よりも守りたい、そう思った儂の妻…天下泰平のために散った儂の千代…


 急いで立ち上がり、無様にこけながら駆け寄って、肩を掴む。


「おひさしゅうございます」


女の柔らかな紅色の唇はそういって言って、口端を上げて弓なりにそっと微笑む。


 おだやかな笑みを浮かべる女の肩をつかんだまま、動けなくなった。呆然と固まる男に、女は少し困ったように眉を垂らして、肩を掴んでいた手をそっと取る。その手は絹のように白く、柔らかく、軽く、そして確かに暖かい。


 女は掴んだ儂の傷だらけな手を、そっと自身の頬にあてた。


「ここでは、こうすることもできるのですよ」


そうして女はまた微笑んだ。触れた頬は嬉しそうにわずかに赤くなって、長い睫毛に包まれた目が、三日月のように細くなる。


 開いた口がふさがらない。女の笑みは、あの頃と変わらぬ作為のない慈愛に満ちていた。


「千代」


方も殿もない、あの頃の名を呟くと女はゆっくりと頷いた。目の奥が熱を帯びて、涙が零れた。


 震える肩をなだめて、そっと俯く。そして千代の手頬から手をのけた。


「…怒っておるか」


顔を下げて、涙で震えた声で、顔も見ずに問いかけた。


「いいえ」


慈愛に満ちた優しい声。それを強要する自分への苛立ちをぐっと押さえる。


「恨んでおるか」


「…いいえ」


穏やかで、その澄んだ言葉に嘘偽りの気はない。けれどその声色は少し呆れているように聞こえた。


 十二で嫁いでから、苦労ばかりであっただろう。夫婦であるにもかかわらず、所詮家同士の取り決めと相手にせず、「妻も家臣」と辛くあたったりもした。それにもかかわらず、千代は今もなお微笑む。


「儂にはわからぬ」


思わず口に出た。


「そう無理に笑う必要はない…儂はそなたにひどい仕打ちをした。」


そういって、床に手をついて地面に頭を打ち付けるように頭をさげた。


「…わらわの父母は、家臣の前でも、子の前でも、口を交わさぬ夫婦でありました。それは貴方様のもとへ嫁ぐ日まで、変わることはありませんでした」


「…」


「でもある時、父母が侍従もつけず二人きりで月を眺めていました。手を固く組む父上と、一歩下がったところで座り膝上で手を重ねた母上。二人はただじっと月を見つめていました。私はその瞬間、父母の心が通じ合えているように見えたのです」


思わず顔を上げると、千代はにこっと微笑む。


「その時になって、やっと解ったのです。言葉を交わさずとも、互いの言いたいことが通じ合っている。二人は確かに固い情で結ばれた夫婦だっと」


千代は無邪気に照れ笑いを浮かべ目を下に逸らす。


「日頃から慕いあう気持ちを文や口で伝える。それも仲睦まじいことでしょうが、いつが最後になるのかわからないこの世で…そのいつかが早いこの世で、言葉だけではすべてを伝えきれないでしょう。それならば、言葉なくとも隣合うときや遠く離れたときも慕う人の気持ちがわかる、通じる。慕い合う気持ちにかぎらず、喜怒哀楽問わず思うこと、考えること、それらすべての些細なことまで思いが分かり合える。それこそが、わらわの思う仲睦まじい夫婦の姿であります」


千代はそう言って、もう一度儂の手をとった。


「儂は、そんな夫であれたか?」


情けない言葉に、千代の口がわずかに開く。


「こんな不甲斐ない夫で、そなたは幸せであったか」


普段なら口が裂けても言えない言葉がでた。それに千代はただ何も言わずに微笑んだ。


 嗚呼、今になって、ようやくわかった。儂が千代の心の内を一つもわかっていないから、わざわざこちらまでやってきてくれてたのか。千代は、儂の不器用さをわかってくれていた。不器用故に、絢爛な縫箔を施した小袖や、南蛮渡来の裂を用いた帯など物品でしか愛を示せなかった儂だった。口もきかず、時に声を荒げて辛くあたる儂だった。それでも、儂はそなたの隣が誰よりも心地よかったことを、千代はわかってくれていた。だからこそ、今も傍に寄り添ってくれている。


「儂は、そなたを愛している。誰よりも、何よりも、これまでも、これからも。ずっとじゃ」


ずっと前から思っていた。もっと早くに言うべきだった。千代は拙い言葉に、にっこりと陽だまりのように笑みを浮かべた。


 その時になって初めて、千代の心が分かった。千代は今、ただただ嬉しくて、微笑んでいる。不甲斐ない儂を許してくれている。今までも、あの時も、これからも。この時に、初めてようやっと夫婦らしい対話ができた気がして、暖かい笑みと涙が溢れでた。


 その瞬間、千代の衣が崩れ始めた。腰に巻いた小袖の金は寂びるように輝きを失い、どんどんどす黒いこげ茶へ、そして生臭い血色に移り変わってゆく。撫子の花弁も、茶色にしおれ花弁が一片ずつ、あるいは花ごと腐り落ちてゆく。軽やかな花がまるで腸が零れるように生々しく落ちていく。唐織の小袖が腐りきり、どす黒い黒に変わって、白の小袖にも茶赤の染みが墨汁のように広がり、そのシミが衿を超えて首へと広がった。


「信じております。殿ならきっと…」


千代は動じることなく、うつむいたまま何かを言いかけた。しかし額の右側から血が垂れると口を固く結んで微笑んだ。最後の最後まで、微笑んだ。


 はっと目覚めて飛び起きた。千代はもうどこにもいなかった。夢と気づいて俯いて、息子や家臣が集まる中、人目もくれず涙した。


 最後に千代は何かを言いかけて、それを必死に喉で殺した。今なら言わずともわかる。


「傍にいたい」


儂もそれが本望じゃ。それでも儂は、生きねばならぬ。そなたが命に替えてまで守った息子のためにも、自分の心を殺して守った国と泰平がある。千代、どうか待っていてくれ、そなたに逢えるその日まで。



こちらの作品はカクヨムのほうで「乱世の撫子ー一睡の夢」というタイトル、「@kankitsuyuzu」の名義で投稿しております。

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