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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第二章 きみを失いそうになった日
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2-2


 楓と再会をした日から二日が経った。

 今日は十二月十八日、木曜日らしい。


「朝葉、二日間も見なくて、どこに行ってんのかと思ったよ。もう成仏しちまったかって焦った」


 私が楓と再び会ったのは、私たちが通っていた高校、函館西南高校の昇降口の裏だった。昇降口と校舎の間の狭いスペースは周りから死角になっていて、こっそりと話すにはもってこいの場所。校門で遠くから楓の姿を見つけると、早速彼が気づいてくれた。雪はそれほど激しくなくて、道民である私たちにとってはどうってことのない量だった。

 だけど楓はずずっと鼻を啜っている。


「体調悪いの?」


「なんかちょっと風邪ひいちまったみたいだけど大丈夫」


 心配だけれど、この時期に風邪はつきものだ。話は変わるけど、と前置きして切り出す。


「楓、言い忘れてたんだけどね。私、雪が降る日にしか現世に降りられないみたいなの」


 先日、楓と再会した後、不意打ちで現世から消える羽目になった件について、楓に説明しなくてはいけないと思っていた。


「雪が降る日?」


「そう。どうしてから分からないけれど、そういう決まりみたいで。昨日と一昨日は雪が降らなかったでしょ。だから楓に会いに行くことができなかった」


「なるほど。それでこの間、急に消えちゃったのかー。確かに雪、止んだもんな」


「うん、突然の再会で、きちんと説明できてなくてごめんね」


「いやいや、そりゃ仕方ないさ。それより今日はどうする? あれから学校来たの、もしかして初めて?」


 楓が言う「あれから」というのは、もちろん私が事故に遭って死んでしまった時以来ということだ。


「外から眺めることはあったけど、中に入ったのは初めてだよ」


 そう。函館西南高校に足を踏み入れたのは、実に一ヶ月以上ぶりだ。

 ここには私と楓の思い出が詰まっているし、なにより楓の顔を見る決心がつかなかった。学校に足を踏み入れれば自然と楓のことも、クラスメイトのことも眺めざるを得ない。私が所属していた二年四組の教室で、私がいなくなった空間で、みんながどんなふうに振る舞っているのか、目にするのが怖かったのだ。


「そっか。まあ気持ちはすげえ分かる。俺が朝葉の立場ったら真っ先に避けちまうと思う」


「楓でも?」


「でも、ってなんだよ。俺だった繊細なところあるんだぞ」


「へえ、そうだったんだ。初耳」


「お前なあ……。保育園からの友達なのに、そんなことすら知らなかったのかよ」


「ごめんごめん、冗談。楓も同じことするって聞いて安心しました」


「ふん、そりゃ良かった。で、これからどうするよ」


「うーん、どうしようかなあ。やっぱり教室に行くのはまだ抵抗があるな」


「それなら昼休みにまたここで落ち合う? ここなら誰にも見られることもないだろうし」


 楓のしてくれた提案に、私はこっくりと頷いた。

 昇降口の裏で二十分ほど楓と話し込んでいると、さすがに身体が冷えて寒くなってきた。見れば楓の鼻も真っ赤だ。耳は耳当てをしているので大丈夫そうだが、生身の人間が外で落ち合うにはあまりにも寒すぎる気温。それでも、校舎の中で会うのはかなりリスキーだ。楓が宙に向かって話しているなんて噂が立ったらかわいそうだし。

 その時ちょうど校舎から始業十分前のチャイムが降り注いだ。


「いけね、もう始まる。じゃあまたあとで、昼休みな」


「うん、分かった。いってらっしゃい」


 まるで自宅から家族を送り出すみたいにして、私は楓に手を振った。

 楓と再会してからまだ三日目だ。

 それなのに楓は私という半透明の存在を受け入れ、こうして普通に待ち合わせの約束なんかをしてくれている。私にとっても、死してなお楓と普通に会話をできていることが不思議でならなかった。

 と同時に、どうしてもあのことが頭の中を支配する。

 一ヶ月以内に楓が死んでしまう。

 一人になると湧き上がってくるこの苦しい気持ちをなんとか宥めるようにして、昇降口の壁に手をついて呼吸を整えるのだった。

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