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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第七章 嘘と愛のはざまで

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7-1

 十歳の時に不幸な事件で命を落としたわたしは、現実世界の“干渉者”として、天から世界の様子を眺めていた。

 最初は自分が、成仏できない魂としてこの世を彷徨っているだけだと思っていた。でも、自分と同じように、神様と呼ばれる魂たちと出会い、交流することができるのを知って、自分にはどうやら特別な力が備わっていることに気づいた。


 わたしは、生きている者が死に直面した際に、その人の最期の願いを叶えることができる。そんな不思議な力があることを知って、今までも何人かと契約を交わし、願いを叶えてきた。


 ある者は愛する人ともう一度会いたいと願った。

 ある者は大切な人に手紙を残したいと願った。


 どの願いも、その人の切実な想いがもとになっていて、胸が締め付けられながらも、願いを叶えてきた。願いを叶えるには、当然代償が必要だった。代償は、その人の願いによって異なっていた。たとえば、愛する人ともう一度会う代わりに、愛する人がその人のことを記憶から忘れてしまったり。大切な人に手紙を残す代わりに、その人が生前大事にしていたもの——形見といわれるものを失ってしまったり。


 どの代償も、重く、契約を交わすにあたって、散々当事者たちを悩ませてきた。それでも契約をして願いを叶えていった人たちを見送って、わたしはついに、彼と出会った。


 若宮楓。 

 わたしの兄だった。




 自分が死んだ後、兄が罪悪感の中で苦しんでいるところをそばでじっと見ていた。 

 楓は、わたしが犯人に攫われたその日に、自分が目を離したせいで椿が死んでしまったと、ずっと後悔してるようだった。ううん、後悔どころの話じゃない。楓は罪そのものを背負って生きている。自室で一人、わたしの写真を眺めながら苦渋の表情を浮かべる楓。学校や仲良しの朝葉の前では明るく振る舞っていた楓。

楓が、心の奥底に抱える痛みをわたしだけが知っていた。

 わたしだけが、楓の——お兄ちゃんの苦しみを肌で感じていたんだ。

 

 わたしが死んだのは、お兄ちゃんのせいじゃないのに。

 わたしはお兄ちゃんのこと、これっぽっちも恨んでなんかないのに。


 そう伝えたいのに、わたしの声は、楓の耳を素通りする。そばで必死に叫んでも、まったく届かない。自分が死んで、初めて切なさに胸が震えた。

 どうにかして、楓の心を救いたい。だけど、今この状況ではどうすることもできない。

 わたし、このままお兄ちゃんに何も伝えられないまま、逝ってしまうのかな。それとも、ずっと逝けないまま、彷徨い続けるのかな。


 葛藤し続けていた矢先、楓が交通事故に遭った。

 楓が高校二年生の二学期、十一月九日のことだ。

 

 楓は道路に飛び出した女の子を守り、自ら犠牲になった。一緒にいた朝葉は命に別状がなく、治療をすれば回復する見込みだった。女の子は軽傷で済んだ。

 兄らしく、ヒーローのように女の子を守ってみせたのだ。

 だけどわたしは、そんな楓の結末に泣いた。

 

「楓くんはまだ目覚めません。おそらくもうこのまま……」


 兄が眠っている病室で、医者が両親にそう説明するのを聞いた。


 そう、楓は、あの事故で昏睡状態(・・・・)に陥ってしまったのだ。


 楓は死ななかった。けれど、医者の口調や表情から、もうほとんど助かる見込みがないことを知った。

 崩れ落ちる両親を前に、わたしは願った。

 どうか、どうかお兄ちゃんを、助けて。

 わたしの願いが通じたのか、その時、まばゆいほどの白い光が自分の周りを照らし、その中に楓が佇んでいるのを見た。現実で、楓はまだ眠ったまま目覚めないのに、わたしの目の前に、楓が現れたのだ。


「お兄ちゃん……」


「……椿?」


 わたしの声に、兄は反応してくれた。わたしの姿は見えていないけれど、声が聞こえたことに驚きと感動が入り混じる。

 どういうことだろうか。

 兄はまだ死んでいないのに、ここにいるのはどうして?

 わたしは死んだ人の願いを叶えることができる。けれど、まだ死んでいない人の願いは叶えられないはずだ。

 だけど、楓は現れた。

 楓の中に、何か強い意志があることを察して、思わず楓の揺れる双眸を見つめた。


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