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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第五章 死神と知った日

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5-3

 それから冬休みの間、雪が降り続いた。

 もちろん、四六時中降っている日もあれば、降ったり止んだりを繰り返す日もあった。早朝だけとか、夜だけとか、限定的に降っている日もあった。だから実際にちゃんと楓に会えたのは十日間ぐらいだ。


 宣言通り、私たちは冬休みの間中、遊び倒した。

 大晦日の日は楓の部屋のテレビで年越しカウントダウンをした。楓のお母さんに気づかれないように会話をするのはとてもスリル満点で、それはそれで楽しかった。


 年が明けて、元旦。その日はあえて一人で自宅へと帰った。

 新しい年の始まりに、家族の顔を見ていたかったから。

 我が家は喪中なので、「あけましておめでとう」とみんなが口にすることはなかった。けれど、みんなが元気で新たな一年の始まりを迎えられたことは嬉しかった。お母さんもお父さんも柚葉も、私の遺影の前で手を合わせる。少しだけしんみりとした空気になったけれど、柚葉の「お腹すいた。おせち食べよう」の一言で、ほっとその場が和んだ。クリスマスの日に楓と話をしてから、柚葉はどこか吹っ切れた様子で受験勉強に励んでいるようだった。


「受験、もうすぐだね。頑張って」


 おせちのえびの殻を必死に剥いている柚葉に向かって囁いた。彼女には聞こえないけれど、あえて口にしてみたのだ。すると、柚葉がふっと正面を見て、私と目を合わせたような気がしてどきりとした。


「柚葉、どうした」


 お父さんが問う。


「いや、なんか今、お姉ちゃんの声が聞こえた気がして。気のせいだろうけど」


 柚葉の発言に驚いて、はっと彼女の顔を食い入るようにして見つめた。しかしやっぱり焦点が合うことはない。見えているわけではない、ということが分かってほっとする。


「あら、もしかしたら朝葉、一人じゃ寂しくて帰ってきたのかもね」


「お姉ちゃんのことだから、おせち食べたくて帰ってきたんだよきっと」


「おせちが食べたいのは柚葉でしょうよ」


「ばれたか」


 ふふっと、ちょっとだけ明るい笑い声が我が家の食卓に響く。切ない気持ちは変わらないけれど、家族が少しでも楽しそうにしてくれて良かった。安心して、その日は午後から楓と初詣に出かけた。


 初詣は、毎年訪れる函館八幡宮に今年もやってきた。開拓、武運、航海、漁業の守り神がいるここは、地元民に愛される屈指の初詣スポットだ。市電の最寄駅で降りて一直線の参道を歩く。隣を行く楓も、新しい年の幕開けに気持ちも新たに引き締まった表情をしていた。


 おみくじは楓が私の分も引いてくれた。いっせえのーで、で楓が二人分のおみくじを開くと、楓が中吉で私が吉だった。


「うわあ、なんか現実を突きつけられた気分だな」


「中吉と吉ならいい方だよ。私、去年は凶だったし」


「うわー……なんかそれ、当たってね? じゃあ今年はまだマシな方か」


「うんうん。それに、幸福はちょっとずつ受け取るほうが絶対満たされるって」


「おお、朝葉、たまにはいいこと言うじゃん?」


「いつもいいことしか言ってませんけど?」


 茶化し合いながらおみくじを見つめる。


「願望、短気を起こさず待ちなさい、だって」


「俺、基本そんな怒んないから大丈夫だって。朝葉のはどれどれ……願望、努力して叶う、か」


「努力して……」


 努力したら叶うならば、いくらでも努力するよ。

 だから神様、どうか最後まで頑張らせてください。楓が、命を失いませんように。そばで楓を守らせてください。

 なんとなくしんみりとした空気感に浸りながら、「恋愛」の項目のところも見た。


『一途に想えば通ずる』


 はは、なんだそれ。私、ずっと一途に想ってるつもりなんだけどな。

 隣で白い息を吐く楓の横顔をじっと眺めながら思う。

 小さい頃から私の心に棲みついて離れないのは、あなただけなんだよって。


「はあ……はあ」


「楓?」


 なんとなく、楓の息が荒いことに気がついた。50メートルを全力で走った後のような吐息だ。


「具合悪いの? 大丈夫?」


「え? あ、ああ。なんともない」


 そうは言いつつも、楓の額にはふた粒ほど汗の玉が浮かんでいて心配になる。


「お守りとか見ようぜ。この際縁起物も買ってさ。俺たちのこと守ってくれるように祈ろう」


「う、うん」


 普段からそれほど信心深い方でもないのに、できることは神頼みでも何でもしたいという精神で、お守りや縁起物を見て回った。

 結局その日、楓は「交通安全」「健康」「幸運」と三つのお守りを手にした。三つも買ってよくばりだって神様に怒られそうだ。縁起物は「破魔矢」を買った。災いを破り、幸せに暮らせるようにという願いが込められているらしい。「これだけあれば安心だろ」と笑う楓を見て、ほっと安心している自分がいた。


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