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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第四章 闘うことを誓い合った日

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4-10

「こんな話、突然聞かされても困るよな」


「ううん……そんなこと」


 ただ、どんな言葉をかければ良いのか分からない。「辛かったね」も「楓のせいじゃないよ」も、きっと彼には響かないだろう。辛いなんて、そんな言葉じゃ足りない。自分のせいじゃないと言われても、楓はずっと拭いきれない罪悪感と共に生きてきたのだ。その数年間の彼の楔を、たった数分話を聞いただけで、取っ払ってあげることなんて、無理だ。


 私は無力だった。

 自分がどれだけ、この人の隣でのうのうと生きてきたかを、今思い知った。

 椿ちゃんが亡くなった時、私も柚葉も悲嘆に暮れている中、楓だけは変わらなかった。もちろん、悲しんでいるんだろうな、ということは態度にも表れていたし、理解していた。けれど、それ以上の感情を彼が抱いているなんて思わなかった。楓は、本当は心の奥底から、椿ちゃんの死を悼み、悼むだけじゃ足りなくて、罪を背負うことで、自分を縛り付けてきたのだ。


 だから、どんな言葉もかけてあげられない。

 心にずっと秘めていたことを、私に打ち明けてくれたのだ。薄っぺらい言葉で汚したくない。彼のやりきれない気持ちを、踏み躙るようなことだけは絶対にしたくなかった。

 だから私は、彼の身体にそっと腕を回して抱きしめた。


「楓……私、知らなかった。楓が背負っているもの、全部」


 知らずに生きてきて、ごめんね。

 知らずに隣で笑ったりして、ごめんね。

 心の中で、何度も唱える。お腹の底にずっしりと溜まっていく後悔。だけど、彼が抱えてきたものに比べたらどうってことない。もっと、もっと深く溜まっていってほしい。彼の分を吸い込んでひたひたにして、そして彼の中から、罪の意識を空っぽにしたい。できないと分かっているのに、これでもかというぐらい強く抱きしめた。


「話してなかったから、当然だ。朝葉が申し訳なく思う必要なんて、全然ないからな」


 こんな時まで私の気持ちを慮り、尊重してくれる楓に、胸がズキズキと痛くて苦しくなった。


「楓の罪の意識はたぶんこれからもずっと消えないと思う。でも私は、楓がどれだけ椿ちゃんのことを好きだったか、知ってるから。だから苦しくなったら、またいつでも話して」


「ありがとう……そう言ってもらえるだけで、救われる」


 私が彼に赦しを与えることはできないし、「あなたのせいじゃないよ」と軽々しく口にすることはできない。だからせめて、私に寄りかかってほしい。その一心でかけた言葉なのに、ふと、自分で投げかけた「いつでも」という時間が、一体全体いつまで続いていくのか分からない恐怖に駆られた。

私は……私は、いつまでも、楓も心の拠り所になれるわけじゃない。

 たとえ一ヶ月というタイムリミットが本当じゃないとしても、もうこの世のものではないのだ。たとえ楓が助かったとしても、いつか私はこの世界から消えてしまう。楓のそばに「いつでも」いられるわけじゃない。

 この時初めて、自分という存在のあやふやさを身に沁みて感じた。

 と同時に、抑えきれない感情の波が、口から溢れそうになっていることを自覚した。


「朝葉?」


 私の異変を察知したのか、楓が心配そうな声色で問いかける。耳元にかかる吐息が、心に抱えていたものを吐き出させようと促す。ダメだ、ダメだよ。言っちゃダメ。分かっているのに、また彼が「朝葉」と私の名前を呼ぶたびに、ずきんと心臓が跳ねた。


「もしかしてお前も、抱えてることがあるんじゃないか?」


 もしかして、もしかしなくても、私が何かしらの想いを秘めていることなんて、楓にはとっくにお見通しだろう。そうでなければ、死してなお、今もこうして現世に留まっている理由が分からない。

 言い淀む私を、今度は彼が強く抱きしめてくれた。


「朝葉、あのさ。あの時……十一月九日、お前が死んじまった日……なんで、朝葉を守れなかったんだろうって後悔

した。後悔してもしきれなくて、心ん中ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった。女の子を守ったことは我ながらよくやったと思う。でも、一番大切なものを守れないなんて、俺、最低だなって」


「違う……最低だなんて、そんなこと」


 私が首を振るのも気づいていないフリをして、彼は続ける。


「だから、もしも俺が、朝葉がいなくならない並行世界に飛んでいけるのだとしたら、もうお前の手を絶対離さないって決めてるんだ。この世界でお前のこと守れなかった俺が言うのもなんだけど、せめてお前が幽霊になった今だけでも、守らせてほしい。朝葉、何を抱えてる? 全部、話してくれ」


 言えるはずがないと思った。

 “神様”になって、この世界に降りてきているなんて、話せるはずがないって。

 だけど、今目の前で真剣なまなざしを向けてくる彼は、全部受け止めてくれるのではないかと思ってしまった。

 自分がもうすぐ死んでしまうかもしれないなんて話、私だったら絶対に聞きたくない。でもこれ以上、一人で抱え込むのは限界だった。私が彼を守るためには、彼自身にもこのこと知ってもらったほうがいい。心がぐらりと揺れた。


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