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公園に移動した私たちは空いている椅子に腰掛けた。
滑り台やブランコでは小学生の子供たちが元気に遊んでいる。この寒い中、雪も降っているというのに子供ってすごいなあと感心しながらありふれた日常の風景を眺めた。このなんでもない風景の中で、私だけが切り取られた世界に住まう住人だということを思い知って、胸がツンとした。
「ちょっとは落ち着いたか」
「うん……さっきは、ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃねえけど。あのおじさんが言った通り、ちゃんと前は見ろよ。いつどんな危険が迫ってくるのか分かんねえんだから」
「そうだね……気をつけます」
さっきの出来事で萎縮してしまっているのか、いつもの彼女のいじっぱりな性格はすっかりなりを潜めているようだった。
「家で、言ってたことなんだけど」
世間話をしたり前置きをしたりするのは無駄だと思ったのか、楓は早速本題に切り込んでいく。
「椿が生きていたら俺と同じ高校には行かないっていうの、その通りだと思う」
「……え?」
予想外の言葉が飛んできて面食らっている様子の柚葉。私も、どこか的を外したような楓の回答に、気になって耳をじっと傾けてしまう。
「いや、椿は俺なんかよりもずっと賢かったから。もっと上のレベルの高校に行くんじゃないかって、思ったんだ。賢くて、優しくて、いいやつでさ……兄の俺が言うのもなんだけど、最高の、妹だった」
楓の言葉の端々に滲む妹の椿ちゃんへの愛情が、消え掛かった雪みたいに胸に溶けて、心に浸透していく。柚葉が隣ではっと息をのんだ。
「柚葉もさ……本当は寂しいんだろ。いなくなった姉貴のこと、本当は好きだったって叫びたいのに、心にブレーキをしてる。そうじゃないのか?」
ざわざわとした胸のさざめきが止まらない。
もう空っぽのはずの心臓の鼓動がどんどん激しくなっているような気がして胸を抑える。ひりりと胸が痛くて、ぎゅっと拳を握りしめた。
「私……私は……」
震える声で柚葉が吐息を漏らす。その背中に、楓がそっと手を添えた。
「私……お姉ちゃんのこと」
その先を聞いてしまえば、もう後戻りはできない。
だけど、聞かずにはいられなかった。
たとえ、彼女の声を聞くのがどんなに痛くて苦しくても。
「大好きだった……んだ。いつもうじうじして思ってることも言えないお姉ちゃんのこと、馬鹿にしてたけど。いなくなってから、気づいたの。寂しいって。寂しくてたまらないって。ああ私、お姉ちゃんのこと、本当は好きだったんだなって……」
さらさらと降ってくる綿雪が肌に触れてじっとりと湿り気を残して消えていく。私の身体は、雪も、風も、寒さもはっきりと感じられるのに、大事な妹には一つも見えない。見えなくて良かったと思っていたけれど、今この瞬間だけ、彼女の目に私が映ればいいのにと思った。
「お姉ちゃんが、し、死んで……好きだって叫んだら、もう本当にお姉ちゃんが戻ってこないことを認めちゃう気がして、できなかった。でも本当は素直な気持ちを伝えたくてたまらなかった。お母さんやお父さんは、二人とも自分たちの気持ちを落ち着かせるので精一杯だし、誰に伝えればいいのかも分からなくて辛かった。私の中で、お姉ちゃんを恋しく思う気持ちだけが募って、もう我慢できなくなってた……。そんな時に、楓くんの顔を見て、抱えてた気持ちが一気に爆発したの。椿ちゃんのこと、意地悪言ってごめんなさい」
しゅんと肩を落として謝る柚葉の姿を見て、とうとう感情が堪えきれなくなった。
彼女の肩に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。もちろん、柚葉は私の存在に気づいていないので、抱きしめられているという感覚はないはずだ。隣に座っている楓が両目を大きく見開く。私には柚葉の体温を感じることができるのに、彼女は私の存在すら知らない。切なくて、胸がぎゅっと締め付けられる。それでも、こうして死んだ後に妹のことを抱きしめられるのは、“神様”の特権なのかもしれない。




