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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第四章 闘うことを誓い合った日

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4-5

 それから、楓と母は食卓で私との思い出話をしながらお茶を飲んでいた。私も楓の隣に座っていたので、二人が自分について話をしているのを聞いていると小っ恥ずかしかった。時折楓が私を気にして横目で笑いかけてきたから、私も我慢せずに「もう」とか「それは言わないでよ」とかツッコミながら話を聞いていた。

 しばらく二人が談笑する声がリビングに響いていたが、二階から一階へと降りてくる足音が聞こえて、楓も私も階段の方をじっと見つめた。


「誰? お客さん?」


 タンタンタン、と規則正しい足音をぴたりと止めてリビングに顔を覗かせたのは、私の二つ下の妹、柚葉だった。

 一ヶ月と少しぶりに見る妹は、最後に会った時から変わっているようには見えない。受験前でぴりぴりしていたのもそのままで、むしろ今の方がもっと緊張感のある雰囲気を纏っている。


 柚葉は、母と、それから来客である楓を一瞥した。一瞬、私とも目が合ったような気がしてどきりとしたけれど、すぐに視線は交わらなくなり、ほっとする。柚葉にも、私の姿は見えていない。母も妹も、少なくともいなくなった私の後を追おうなんて、今は考えていないことが分かって良かった。


「楓くん? 何か、うちに用?」


 柚葉は、楓の方をじっと見て問う。棘のある言い方だった。母が、「ちょっと柚葉」と彼女を嗜める。


「柚葉ちゃん、久しぶり。どうしてるかなって気になって」


「……どうしてるもこうしてるも、受験生だから勉強してる」


「はは、そっか。勉強は順調? 志望校は俺らと同じ函館西南高校だっけ?」


 楓が“俺ら”と、私の存在を仄めかすような口ぶりで言うのを聞いて、柚葉の眉がぴくりと動いた。


「違うよ。お姉ちゃんと一緒なのはなんか癪だから」


 つっけんどんな物言いをする妹を目の当たりにして、胸がしゅんと湿り気を帯び始めた。

 柚葉……やっぱり、私のこと。

 胸にズキンとした疼痛が走る。


 柚葉は昔から、私とは違って物事をはっきりと口にするタイプだ。頭の中で色々と考えてから発言をする私とは正反対。だから私に対して、「お人よし」とか「意気地なし」とか、しょっちゅう貶してきた。まあ、私もそんな妹の言葉も冗談半分に聞いていたところはあるけれど、柚葉にとってうじうじといつまでも言葉に詰まる私は、格好の良い姉ではなかったようだ。そんな姉がいなくなって、彼女にも思うところがあるのだろう。私と同じ高校に行きたくないという彼女の気持ちは理解できる。


 それでも……それでも私は、柚葉のことは心配だし、これからも大切な妹であることは間違いない。


「素直じゃないね。まあ兄弟と一緒の高校が嫌っていうのはなんとなく分かるけどさ」


 楓は、こめかみをぽりぽりと掻きながら柚葉に答える。

 そんな楓の大人らしい反応が癪に触ったのか、柚葉はぐにゃりと顔を歪めて、また口を開いた。


「きっと椿ちゃんが生きていたら、私と同じように、西南高には行かないって言うよ!」


 小さく叫んだ柚葉の言葉に、楓がはっと顔をこわばらせるのが分かった。

 私も、母も、同時に目を瞠る。柚葉の顔つきが、後悔やら驚きやらで、苦痛に歪む。


「柚葉、なんてこと」


 母が柚葉を嗜めたけれど、遅かった。


「……っ!」


 柚葉は私たちから背を向けて、ダダダダッと玄関の方へと駆ける。慌てて楓が柚葉の背中を追いかけた。だから私も、数秒遅れて楓の後を追った。


「楓くん!」


 母が楓に呼びかける。けれど楓は「おばさんすみません!」と謝るだけで、立ち止まることはなかった。



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