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ピンポーンと、聞き慣れた音が響き渡る。平日のこの時間帯なら、午前中にパートに出かけて帰ってきた母が家にいるはず。柚葉も、今日が終業式ならもう帰っているはずだ。受験生だし、外に遊びに出かけたりはしていないだろう。
ドキドキしながらしばらく楓と待っていると、「はあーい」という母の声が聞こえた。瞬間、身体がきゅっと固くなる。そんな私を宥めるように、楓は私の手をぎゅっと握ってくれた。
かちゃり、と玄関の扉が開いて、とうとう母が姿を現した。
「あら、楓くんじゃない」
久しぶりに目にした母は、心なしか以前よりも痩せているように感じられた。母と会えなくなってまだ一ヶ月と少ししか経っていないのに。十一月九日に母を襲った絶望感を思うと、胸がずきんと疼いた。
「こんにちは、お久しぶりです。その、この度は……」
「いいのよ、そういうのは。それよりうちに用があって来たんでしょう? 上がってって」
「はい、ありがとうございます」
恭しく挨拶をしようとした楓を母が止めて、家に入るように促す。
良かった……お母さんに、私のことが見えてなくて。
もしも母が私を認知してしまったらどうしようかとドキドキしていたのだ。けれど、母の目には私の存在が映っていない。会えないのはもちろん寂しいけれど、ほっと安堵した。
楓は、勝手知ったる様子で玄関で靴を脱いでリビングへと進んでいく。リビングの端に置かれている棚の上に、私の遺影と骨壷が置かれているのを見てはっと息をのむ。楓も同じだったのか、その場所を食い入るように見つめて立ち止まった。
「もうすぐ四十九日でしょう。やっぱり寂しくてね……。四十九日が過ぎても、一年……いや、何年過ぎても、あの子にはここに帰って来てほしいと思ってるの。わがままよね」
母の目尻にそっと浮かぶ涙の珠が、蛍光灯の光に反射してキラキラと光っている。私は、そんな母の姿を見るのが苦しくてそっと目を逸らした。
楓が私の方をちらりと一瞥した後、遺影の前で手を合わせた。
「わがままなんかじゃ、ないですよ。俺だって同じこと思ってます。隣の家から気配がなくなって寂しいです。だか
らいつでも、ここに帰って来てほしいと思います」
母の気持ちに寄り添うようにして彼が言葉を添える。男子高校生の言葉を聞いて、母が弾かれたように目を瞬かせた。
「ありがとう、楓くん。あなたみたいな幼馴染がいて、朝葉は幸せだったと思うわ」
「この先ももっと、幸せに……してやりたかったんですけどね」
その言葉に、ツウンとした痛みが駆け抜ける。
幸せにしてやりたかった。
楓……そんなふうに思ってくれていたなんて。
いつか、私が彼に想いを伝えた日のことを思い出す。勇気を振り絞って、「ずっと一緒にいたい」と伝えた。その時彼は、私の告白を告白だとは受け取ってくれなかったみたいだったけれど……。
本当はあの時、私の気持ちは伝わっていたのかな……。
そうだといいな。
そっと拭った涙が、いつもよりもじんわりと温かく、胸に灯をつけた。




