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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第一章 ヒーローになった日
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1-1

 パッパカパッパッパーン!

 張りのあるクラッカーの音と、誰かが拍手をする音、実際に「パッパカ」と誰かが口ずさむ声が脳内に響く。誕生日会? それともクリスマス会? 記憶のどこを探しても、私がそんな明るい会に参加する予定のないことを思い出す。パーティは学校で目立つグループの子たちがやるものだ。教室でせいぜい仲の良いおとなしめの友達一人、二人と時々話すだけの私には縁がない。

 それじゃ、この音はなんなんだろう?

 視界は真っ暗で、頑張って目を開けようとしてもできなかった。

 夜、だろうか。それともこれは夢? 夢と言われる方がしっくりくる。視界が見えないほどの真っ暗な時間帯に不可解な音が聞こえてくる方が怖いもの。

 私は息を潜めた。

 暗闇の中で、遠くで何かがピカッと光ったような気がする。

 例えるなら、出口の見えないトンネルの向こうに、外の光がようやく見えたみたいに。


「おめでとうございます! あなたは、“神様”に選ばれました」


「……はい?」


 目は開けられないけれど、脳内で響いてきた声に心の声で返事をすることはできた。ヘリウムガスを吸ったみたいに、特殊な加工が施されているような声に違和感を覚える。

 神様に選ばれた? どういうこと?

 理解がまったく追いつかなくて、ああそうかこれはやっぱり夢なんだと逆に落ち着いた。


「だーかーらー、あなたは——如月朝葉(きさらぎあさは)は“神様”に選ばれたんだって」


 女の子供のような明るいその声は、私の心をずっと向こうに置いてきぼりにする。


「神様って何? これって夢だよね」


「夢と思うならそう思ってくれても構わないけれど。でも“神様”に選ばれたのは疑いようのない事実だよ。一億分の一の確率で、如月朝葉さんは見事“神様”に当選しました! 本当におめでとう~」


 もし目の前にこの声の主が現れたなら、彼女(?)はキラキラとした眼差しを私に向けてるんだろうな。それぐらい、溌剌とした元気な声だった。


「今ね、外は雪が降ってる。立派な牡丹雪。朝葉は雪の中で目を覚ますの」


「雪の中?」


「うん。覚えてないの? 朝葉、昨日の夕方に事故に遭ったこと」


「事故……」


 少女の声に誘われるようにして、記憶の海がざざっとさざなみを立てる。




 そういえば、そうだ。

 昨日は日曜日だった。私は、幼馴染の男の子、若宮楓(わかみやかえで)と一緒に雪の降る街を歩いていた。私の暮らしている函館市では毎年十一月の初旬から中旬に初雪が降る。十一月九日の昨日も、例年通り今年初めての雪が降った。

 楓に、期末テスト前の息抜きで出かけようと言われたのはつい三日前のこと。二人で休みの日に出かけたのは久しぶりで、私は彼に悟られない程度に、心が浮き立っていた。


 気になっていた映画を見て、カフェで大人ぶって苦いブラックコーヒーを飲んだ。苦味に耐えられなくなった楓は「ギブアップ!」と言って砂糖とミルクを一気にカップに流し込む。私は笑いながら「そんなに入れたらカフェオレになっちゃうよ」とつっこんだ。「いーんだよ。やっぱりお子ちゃまの俺にはカフェオレの方が似合うって」と、子供みたいに歯を見せていた。


「ちょうどテストが終わったらもうすぐクリスマスマーケットかー」と言った彼の横顔はどこか嬉しそうで。私も、今年も楓と一緒にクリスマスマーケットに行けるんだと楽しみになった。


 でも、悲劇は帰り道で起こってしまったんだ……。


 カフェでゆっくりと過ごしたあと、夕飯前にはお互い家に帰ろうという話になった。

 その前に、私はどうしても行きたい店があった。カフェから徒歩十五分ほどの距離にあるケーキ屋さんだ。実は昨日、二つ下の妹の柚葉(ゆずは)の誕生日だった。中三で受験生だから「ケーキはいいよ」ってつっけんどんな物言いで言い放っていた妹。だが、本当はそれが痩せ我慢だって知っていた。だから私はお母さんと相談して柚葉のケーキを買いに行く約束をしていたのだ。


 その最中のことだった。

 交差点で信号が青になろうとしていた時分だった。

 それまで一緒に信号を待っていた二歳くらいの小さな女の子が、「お腹がすいた」と駄々をこねて隣にいるお母さんが辟易しているのを見た。次の瞬間、女の子が交差点に飛び出したのだ。信号はすでに青になっていたけれど、不幸なことに左折してきた車が不自然にタイヤを滑らせた。


「危ないっ!」


 咄嗟に女の子を守ろうと飛び出した私と楓。女の子の身体を包み込んだのは楓の方だった。ヘッドライトに照らされた私は、ゴンッ、という鈍い衝撃が身体を貫いたかと思うと、そのまま地面に身体を打ちつけた。その後、すぐに意識が途切れて何も思い出せない……。



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