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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第三章 きみに好きだと言われた日

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3-3

 楓とはそれから、クリスマスマーケットでの事故を忘れようと、二人の時間を楽しんだ。海辺の某有名コーヒーチェーン店でいつも飲んでいたチャイラテを注文する。もちろん注文したのは一つだ。楓と交代で、カップに口をつけて飲んだ。温かくスパイスの効いたラテが冷え切った身体を芯から解きほぐしていく。なんとなく、生前に飲んだことのあるこの店のチャイラテより甘い気がした。なんだかこの身体になってから、不思議に思うことが増えたな。

楓は外で私と会話をする時、ワイヤレスイヤホンを付けることにしたらしい。そうすれば、一人で話しているのを見られても、電話だと思ってもらえるから。


「クリスマスマーケットはあんなかたちで終わっちまったけどさ、他に何かないの? 朝葉の心残り」


「心残り……か」


 そうだ。私にとって楓といる時間は、楓をいかに死の運命から守るかという目的に沿って過ごしているつもりだが、楓には私の未練を昇華するという目的があるんだった。


「やっぱり……家族のことは多少なりとも気になるかな」


 未練ではなく、純粋に今頃どう過ごしているか気になっているのは間違いなかった。 


「そうか、やっぱりな。朝葉のことだから、この間は強がってんだろーなって思ってた」


「……バレた?」


「ああ、バレバレ。お前のこと、大抵俺が全部知ってっからな!」


「これだから幼馴染は厄介なんだー」


 そうは言いつつも、楓に本心を見抜かれてちょっと嬉しいと思う自分がいる。乙女心は面倒臭い。


「とにかく、次に雪が降ったら、如月家に行くか」


「え、次?」


「ああ。何か文句あるのか?」


「いや、いきなりすぎて心の準備が——と思いまして」


「そんなこと言って機会逃したらどうすんだよ。未練はさっさと断ち切るべし」


「……分かったよ」


 半ば強引な楓に呆れつつ、この強引さのおかげで“神様”になった後もなんとか自分を保っていられるのだと納得させられた。


「そうと分かればいざ実行だな。日にちは次の雪の日。待ち合わせ時間はよく分かんねえけど、とにかく如月家前に集合で」


「うん」


 約束だけ取り付けて、再びチャイラテを交互に啜る。“神様”として楓と会う時、こうして約束をすることがいかに大事かということを痛感している。明確に次にいつ会えるか分からない人と出会うには、待ち合わせ場所だけでもはっきり決めておかなくちゃいけない。


「家族って言えばさ、もうすぐ椿ちゃんの——」


 家族の話でふと何となく気になったことを楓に聞こうとしたのだが、その時楓がある一点を見つめて固まっているのが分かった。楓の視線を追う。店内じゃない。彼はお店の窓の向こうに佇むある人物を凝視していた。


「あの人、昨日の……」


 私の視界に映ったのは、昨日、写真を撮ろうかと声をかけてくれたお姉さんと一緒にいた青年だった。名前は確か——そうだ、紡さん。


 彼は、お店の外にはみ出たレジの列に並ぶでもなく、どこか目的地に向かって歩いているわけでもなく、ただその場に立ちすくみ、呆然としていた。海を眺めているのだろうか。それにしても様子がおかしい。

 紡さんの瞳は、魂が抜けたようにくすんでいて色がない。見ているだけで痛々しいその立ち姿に、私も楓も言葉を失っていた。


 恋人が亡くなったばかりなんだよね……。

 すごく……寂しそうだ。


 考えなくても分かる。彼の胸は今、絶望感にまみれている。自分を見失って、その場に立ち尽くすことしかできないといった様子だ。私が事故で死んでしまった時、今目の前にいる楓もあの人と同じように、虚空を見つめて佇んでいたのだろうか。

 ふと、楓の身体が動いた。カタリと椅子から立ち上がり、ふらふらとした足取りで店の外へと向かう。紡さんのところだ。私は慌てて楓を追いかけた。


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