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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第二章 きみを失いそうになった日

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2-6

 再びツリーに視線をやると、ツリーの周りには人だかりができていた。雪が降るのにお構いなく、スマホを構え、写真を撮っている人ばかりだ。


「ツリー、なんかいつもと飾り付けが違うね」


 クリスマスツリーは、一際煌めく装飾が施されているけれど、私の記憶の中の飾りと、目の前のツリーの飾りが、若干違っているような気がする。細かいところまでちゃんと覚えているわけではないけれど、なんだろう。去年まではもっとたくさんの飾りがひしめき合っているようだったけれど、今年のツリーは割とシンプルだった。


「そうか? 毎年同じような気がするけど」


 楓は小首を傾げている。

 飾り付けなんてその年の運営次第で変わるところもあるだろうし、気にすることではないのかもしれない。


「てか去年は俺、来てないし。記憶違いかもな」


「来てない……?」


 楓の発言に、今度ははっきりと違和感を覚える。

 去年は、友達数人で遊びに来たよね?

 それなのに楓はここに来ていないという。そんなのおかしい。


「ねえ」


 と彼に問いかけたが、楓は「そうだ!」と何かを思いついた様子で振り返った。


「俺たちも撮るか、写真」


 にんまりと笑顔を浮かべた楓が私の腕をさっと握る。その手の感触にびっくりして、身体が跳ねた。


「え、写真? でも私幽霊だし、写るのかな?」


「ああっ、そっか! 朝葉は写真に写れないのか〜」


 ショック、とでも言いたげにガックリと肩を落とす楓。なんだか申し訳なくて、居た堪れない気持ちにさせられた。


「でもものは試し用に一回撮ってみない? もし写ったら、クラスのやつらに心霊写真が撮れたって自慢できるし」


「え〜なにそれ! 人を幽霊呼ばわりするなっ」


「ごめんごめん。とにかくさ、一回撮ってみようぜ」


 行こう、と私の手をぐいっと引っ張って、彼はツリーの下へと進んでいく。神様の姿でも、楓とはこうして物理的に触れることができるのか。私のことが目に見えている人とだけ、繋がれる。その事実が、自分が誰かを冥界へと引っ張っていく存在なのだと思い知らせてくるようだった。

 楓には心中を悟られないようにして、笑顔で隣に並ぶ。

 楓がスマホのカメラをセルフカメラモードに設定する。

 側から見れば、楓が一人で不自然な角度に腕を伸ばし、ソロショットを撮っているようにしか見えない。最高にロマンチックな場所で、高校生男子が一人で自撮りをしているところを見たら、きっと私なら気の毒に思ってしまうだろう。


「はい、いくぞ」


 パシャリ、と軽快な音が鳴って、シャッターが切られた。降り頻る雪が画面に映り込み、ちょっとぼやぼやする写真になった。雪と、楓と、クリスマスツリーの光で切り取られた一枚の画。果たしてそこに、私はもちろん写っていなかった。


「あ〜やっぱりそうかぁ」


 分かってはいたものの、落胆する気持ちを抑えられない様子の楓。


「なんか……ごめん」


「いや、朝葉が謝ることじゃないよ。ちぇ、久しぶりのツーショットが撮れるかもしれないって思ったんだけどなー」


「久しぶりだっけ」


「そうだよ。だって朝葉、普段から二人で写真撮るのは恥ずかしいって言って、全然一緒に写ってくれねえんだもん


「そうだったか……」


 言われてみれば楓の言う通りだ。幼馴染の男の子と——恋人でもない彼と、ツーショットを撮るのが恥ずかしいと思うようになったのは、多分中学生になった頃だ。周りでは恋愛をする子が増えていく年頃で、私も楓のことを意識し始めていた。だから余計に、二人で写真を撮るなんてできっこなかった。


「朝葉とのツーショット写真は、俺がそっちに行った時の楽しみにとっておくか〜」


 何とはなしにそう言う楓の言葉を聞いて、ドクンと心臓が跳ねる。

 まるで、自分がもうすぐこの世界から消えてしまうことを知っているかのような発言だった。けれど多分、今のは偶然だろう。会話の流れでたまたまそういう言葉が出てきただけの、はずだ。


「どうした朝葉、ぼうっとしてんな」


「いや、なんでもない」


 楓の言動一つ一つに、つい気が張ってしまう。楓がせっかく隣にいるのに、一人で考え込んでばかりではもったいない。もともとは楓のそばにいることで楓を少しでも死の危機から遠ざけようと思って提案した今日のデートだが、半分は純粋に楓との時間を楽しみたかったのもある。辛気臭い顔ばっかしてちゃ、楓に失礼だ。


「よーし、向こうのお店でいっぱい食べる!」


「え、急にどうした?」


「うるさい。お腹が空いてるの。フランクフルトが食べたいの」


「お、おう。じゃあ行くか」


 今度は私が楓の手を引っ張る番だった。ドクドクと心臓がうるさいくらい音を立てる。勇気を出して彼の手を握ると、冷たいはずの手のひらからじんわりと確かな温もりが伝わってきた。

 さあ、たくさん食べに行くぞー!

 と意気込んで一歩踏み出した時、ふと前方にいた女性が声をかけてきた。


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