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わたしが死神になった日  作者: 葉方萌生
第二章 きみを失いそうになった日

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2-4


 函館のクリスマスマーケット「はこだてクリスマスファンタジー」は毎年十一月末から十二月二十五日まで開催される一大イベントだ。

 有名な金森赤レンガ倉庫がある「ベイエリア」を中心に、街がイルミネーションに彩られる。ベイエリアでは出店があったり、巨大クリスマスツリーがあったり、クリスマス気分を存分に味わうことができる。さらにイベント期間中は毎日打ち上げ花火が上がるのだから、ロマンチックなクリスマスを満喫するのにはもってこいイベントだ。


 当然、函館に住む私たちは毎年家族や友人、恋人とクリスマスマーケットに行くのを楽しみにしている。

 学校では期末テストが終わる頃に、「今年は誰と行く?」なんて話題で持ちきりだ。クリスマスマーケットに異性を誘うということはそういうことであるわけで、これを機に告白を、と計画をしている人が多いのは毎年のことだ。


『朝葉は今年も楓と行くんだよね。さっと誘えていいなあ、幼馴染は』


『うん。去年は楓も交えてグループで行ったんだけど、今年は二人がいいな』


 私が死ぬ前、十一月の頭だったか、同じクラスで一番仲の良い友人だった秋山野々花(あきやまののか)がそう聞いてきたのを思い出す。

 毎年のことだから。

 今年も楓とクリスマスマーケットに行く。

 わざわざ考えることもないぐらい、毎年自然の成り行きで決まることなので、あまり意識して楓を誘うことはなかった。というか、普段は楓の方から「今年も行くよな?」と誘ってくるものだから、自分から切り出すこともない。 幼い頃は家族ぐるみで一緒にクリスマスマーマーケットに行った思い出もある。中学生に上がる頃には二人で出かけるようになったんだっけ。


 懐かしいな。

 保育園時代の楓も、小学生の楓も、中学生の楓も、今とさほど変わらない。迷いのない笑顔で私に「はい」と手を差し伸べてくれる。引っ込み思案で、どこにいっても友人と呼べる存在が少ない私に、構わずに話しかける。どの瞬

間も、楓は真っ直ぐに私と向き合ってくれていた。


「私は向き合えるのかな」


 十二月二十日土曜日の午後四時、函館西南高校の前に降り立った私は、閉め切られた校門を見つめながら独りごちる。

 向き合わなくちゃいけない。

 楓とデートをしたいと申し出たのは、もちろんこの最後に残された貴重な時間に、楓に対して抱いている気持ちに踏ん切りをつけたいと決意したからだ。けれど、それ以上に胸に湧き上がるのは、「楓を救いたい」という根本的な願いだった。


 一ヶ月以内に、楓は何らかの理由で命を失ってしまう。

 だったらその原因を突き止めて、なんとかして楓を死から救えないだろうか。

 そのためには、楓とできる限り一緒にいなくてはならなかった。土日は学校に来ないので、楓と予定を合わせる必要がある。そのためにデートという口実で楓を誘い出した。


 楓を死なせない。

 もし私が本当に“神様”なら、それぐらいのこと、できるんじゃないだろうか。

 八十神さんだって言っていた。私は“神様”に当選したんだと。

 私だけがきっと、楓の命を救うことができる。

 そう信じることで、楓との再会を希望に変えるんだ。


「朝葉、遅くなってごめん! 待った?」


 不意に後ろから呼びかけられて振り返る。黒いダウンコートを羽織った楓が大きく手を振っていた。下は暖かそうなコーデュロイのパンツを履いている。制服姿じゃない楓と会うと、いまだに胸がドキドキと鳴ってしまうから、私も単純だなと思う。


「待ってないよー。すごく暖かそうだね」


「ああ、雪降ってめちゃくちゃ寒いからな。朝葉はあんまり寒くないんだろ?」


「うん、多少寒いけど、なんか気温の感じ方が生身の時と違うみたい。便利だよ」


「そうか。幽霊っていうのも案外悪くないもんだなー!」


 ガハハハ、と大口を開けて笑う楓を見つめる。


「ん、どうした朝葉? そんなにじっと俺の方見て。あっ、もしかして昼に食べた海苔が歯についてるとか!?」


 慌ててゴシゴシと袖口で歯を拭う。こいつは昔から、人目も憚らずにこういうことをするから、飲食店に一緒に行く際には何度か注意してことがある。


「違うよ、なんでもない! ていうか、そうやって歯擦るのやめてって」


「悪い悪い。癖でさあ〜。それに俺、鏡とかティッシュとか持ってないし」


「はあ。そういう問題じゃないって、もう」


 世話の焼ける幼馴染の言動に、私はため息をつく。なんだろう、この感じ。まるで自分が生きている時と同じだ。こうして羽目を外しがちな楓を呆れながら注意するのが私の日常だった。


「歯が汚れてるんじゃなかったら、逆に何なんだよ」


「それは……秘密」


「え、秘密!? なんだよそれ、気になるな」


「いいから教えないっ!」


 教えられるわけでない。

 楓がどんな理由で命を落としてしまうのかが心配で、変わった様子がないかを探っていたなんて。


「そうかい、そうかい。女ってやつはみんな内緒の話が好きだからな〜。それよりさ、早く行こうぜ。今日は土曜だしたぶんめちゃくちゃ混んでるぞ。それに、着くまでにこれ以上雪が激しくなったらやだし」


「それもそうだね。行こう」


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