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普通の正体

作者: ES

「”フツウ”ってなぁに?」

私は齢3歳の甥にこのように聞かれたことがある、その時私は、目の前にいる子供の、無邪気さがこれほどまでに他人を悩ませるということを実感した。

「”普通”っていうのは当たり前っていうことだよ」もしくは「ありふれているっていう意味だよ」とでも答えればこの子は納得してくれるのだろうか、などと考えたが、しかしそれは”フツウ”なのだろうかという問いが私の中で廻っているのが分かる。果たして私が今まで生きてきたなかで思った普通とは本当にありふれていて当たり前なのだろうかと。

そうして私は無邪気な質問に答えることを放棄した。

「きっと大きくなったら自然に分かるようになるよ」

と私が言うと彼は

「よくわかんないや」

と言い両親のもとへ戻って行った。

私は彼の質問が頭から離れずに何度もそれについて考えた。

今まで私が普通と思ってきたものってなんだったろう。

気づけば私は今まで普通と思っていたことをメモし始めていた。

• 小さい頃は大人になったら結婚しているのが普通だっと思っていた。

• 大人になればなんでもできると思っていた。

• 大人は頭がいいものだと思っていた。

• 不自由ない生活は当たり前だと思っていた。

• 良い学校に通えば立派な大人になれると思っていた。

等々思いついたことを書いていった。その過程の中で

私は、今まで普通だと思っていたことの多くはイメージの影響が大きいのではないかと感じていた。そして一人の人間が思う”普通”は他の人にとっては普通でないことも多いのではないかと。思い返せば、私も出身の違う同僚と話をした中で違いを感じたことがあった。しかし彼にとってはそれが普通であり、私が異物だったのではないかと。一個人の普通はコミュニティのなかで揉まれ、そしてやっと多くの人が普通と思えるものができるのではないかと。

そのような考えが浮かんできたとき私は自分の高校時代のことを思い出した。

私の高校時代は音楽を聞いていることが多かった。周りの人間がする音楽の話はつまらなかった。流行りの曲ばかり聞いてしかも感想も薄っぺらい彼らは音楽を聞くことはしていても聴くことはしていないのだろうと。一方の私は流行りの曲はあまり好きではなかった。差しさわりのない歌詞にありふれたメロディーをつけ何を表したいのかさえ明確ではないリスナーがファッションのように楽しめればいいといった気持ちがわって来るようでなんとなく嫌悪感を抱くことが多かったからだ。しかし、私のそのイメージが形成されたも周りの人人間がその様に曲を聴いていたからかも知れない。おそらくアーティストに罪はないのだ。周りの人間の”普通”がそれであっただけで。

しかし当時の私ファッションとしての音楽は存在価値がないなどといかにも高校生らしい考えで、売れないインディーズバンドの曲ばかり聞いていた。世の中への不平不満を詞にして泥臭く青臭い、そんな音楽に心惹かれた。周りと違う曲に惹かれた私も普通ではなかったのかもしれない。表立って活躍しているバンドでなくとも私にとっては光であり支えだった。普通ではない影のような存在でも私にとっては光だった。普通ではない彼らの存在が私にとっては当たり前であり必要なものだった。しかし彼らもいつしか売れるためにありきたりな歌詞の曲をつくるようになっていった。

彼らも世の中の普通に取り込まれたのだろうか。

私の普通が普通ではなくなった。

初めてそう実感したのはこの時だったかもしれない。

それ以降の私は普通で目立たない生活をしていた。支えを失って初めて普通や無難が自分から遠いものだと自覚して周りに紛れようと思ったのだ。

最初から普通な人間なんていない。人間みんなどこかおかしいんだ。周りの共通項を見つけそれに紛れる。

悪目立ちしない普通の人生を送ってきたつもりだった。

「”フツウ”ってなぁに?」

この一言で私は今まで忘れていた自分を少し思い出せた気がする。これからは少し自分らしく生きれるような気がした。私が私らしくいること。簡単なようで難しいことだけれどそれが私が普通でいるために大切な

ことなのかもしれない。

次に甥に会ったときは正解ではないと思うけれど私なりの、私の思う”あの問”の答えを言ってみようと思う。正解でなくてもそれが私の普通なのだから。

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