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7.汎スラヴ主義

7.汎スラヴ主義


 ボストン一等書記官が杯を重ねた。


「スラヴがアジアっぽいとはどういうことですか?」


 奈良が質問した。


「ロシアはかつてアジアに征服されている。〈タタールのくびき〉だよ。モンゴルの征服はおよそ二五〇年近い。ロシアはあまりに弱かった。だからこそ、大いなるスラヴ民族という虚構フィクションがでてくる。強大でありながら脅えている。ねずみを恐れる象のように」


 簡単明瞭なボストンの答えに、Vv (ウラジオストク)が苦笑している。そもそもVvはクレムリンの政治には反対の立場をとっている。


「ワルシャワはその点、理解が深い。かつての大国ポーランドがどうなったか、身にみているからね」


 ナチス・ドイツのポーランド侵攻にあわせて、ソビエト連邦も侵攻した。挟撃されたポーランドは為すすべもなく、ワルシャワは陥落した。


 平らな国だったポーランドはさぞかし侵攻しやすかっただろう。


「ポーランドは一九九九年にNATOに加盟している。NATOには英国のほか米国も参加している。フランスは及び腰(およびごし)だし、ましてや親露政策のドイツがウクライナを助けることなどないからね」


「同じEUなのに……」


「EUは一枚岩じゃあない。NATOでさえそうさ。ポーランド侵攻はないだろうが――あれば第三次世界大戦だ。ロシアは負けるだろうが、世界も滅んでしまう」


「どうなるんですか?」


「戦争の結果はいつも同じさ。民間人の虐殺、物資の略奪。百年? 二百年前からロシアの戦争は変わらない」


 和泉の祖父はシベリアで亡くなっている。遺骨はなく、骨壷に入っているのは抑留から帰った戦友が届けたシベリアの石一つだそうだ。


「でもそれって、戦争犯罪では?」


「関係ないからね。各国は自国の利益を優先させる」


「そんなあ……」


「だからこそ、議会がある。庶民院の議長だったジョン・バーコウも言っている。『意見の違いこそ政治の本質』だと」


「犯罪が行われるまで、待てと? 無辜の民(むこのたみ)が虐殺されるまで、待てと」


ロンドン大空襲(ザ・ブリッツ)をチャーチルは知っていたんだよ。諜報部からすべてをね。ただし、市民を逃がすことはしなかった。暗号が解読されているとナチスに知らせることはできなかったからね」


「平和とは何ですか?」


「戦争状態ではない、ある種の均衡がある状態のことだよ」


「理不尽ですね」


 世界はその人の心そのままに表情をうつす。

 かつて、シッダルタ王子は「この世は苦に満ちている」と言った。釈迦は「この世は美しい」と言った。

(了)





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