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1.開闢

『ルテニアR』

〝Ruthenia, R〟


 日本の神戸市で各国のスパイが集まって戦争回避をするのですが、話し合いになるはずもなく、会議は踊り続けるのでした。#blackjoke




1.開闢


 二〇二二年二月二十一日。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国がロシア連邦によって国家承認された。


 その夜。日本国兵庫県神戸市。


 奈良なら三等書記官が見上げていた。


〈コーサウェイホテル神戸〉――百万ドルの夜景が見える高級ホテルだった。


「恥ずかしいからやめろ」


 和泉いずみ一等書記官がたしなめた。「田舎者かよ」と頭を傾けながらつぶやいた。


「いやだって、すごいですよ?」


「だから、見上げるな」


 頭一つぶん高いハンサムだ。襟つきのウェストコートを着こなした不惑前の紳士が腕時計で時間を確認しつつ、急に奈良の腕を引き寄せその反動で道の外側に逃げた。※ウェストコートはジレ、ベストのこと。


 タンゴのように倒れかけた奈良の顔の前を、外交官車両が通りすぎた。


「チッ」


 左の運転席から舌打ちが聞こえたような気がした。


 回転しながら、奈良が着地をするまでにリムジンがホテル前に着いていた。


 ドアマンがドアを開けると、笑いながら出てきたのは金髪の美女だった。ベルサーチの靴。足が長い。背中の開いたイブニングドレス。


「あっらーお久しぶり♩ アッシュ」


 要人の顔はぜんぶ覚えている。イタリア共和国のミラノ一等書記官だ。アッシュは和泉の愛称らしい。


「パルマは?」


「おなか壊したんだってさ。笑うでしょう?」


(盛ったんだ……)


 上目遣いの三白眼には、カンの鈍い奈良でも分かる悪意が感じられた。悪女に狙われたお姫さまは失脚する運命なのだろう。


「こちらが奈良ならくん? 未成年?」


 奈良の頭をなでなでしながら、和泉に聞いた。半ズボンは穿いていない。


「なでるな。クルンテープに同じことをしたら殺されるぞ」


「どうしてよ?」


「非常に失礼にあたる」


「ふーん」


 まったく反省せずに、手のにおいをクンクンしながら先に入っていった。


「クルンテープってタイのバンコクですよね?」


「あそこは上座部(仏教)だから、頭に神聖なものが宿るとされている」


 一度も占領されたことがない国らしくプライドが高い。


 とりあえず気が重かったのは事実だ。もはや欧州で戦争回避ができないところまで来ているというのが頭の悪い奈良にでも分かる。


 ドアマンに案内され、和泉と奈良はホテルに入った。


 奈良が受付しようとしたけれど、荷物をもたされロビーで待っていると、次から次へと各国の外交官が通りすぎた。昼のあいだにチェックインしたのだろう。


「ナポリ一等書記官は?」


「ナポリさまは、十二階の上海しゃんはい料理〈Amaranth〉(アマランス)で、ルーシさまとご歓談です」


 受付が和泉の質問に答えていた。あいにく耳はいい。


(香水?)


 やわらかく包むような香りがした。振り返ると、優雅にバレンシアガの扇をゆらす若いアフリカ系の女性がいた。ウインク。


「えっ?」


「からかわれたのさ。パリジェンヌ・ノワールに」


 戻ってきた和泉の声が背中からした。


 振り返り、もう一度〈パリの黒い女〉の視線を追ったがいなかった。


「気を引き締めろ。奈良くん。ここは戦場だ」


 開闢かいびゃく





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