ラジオのノイズ
昔からラジオが好きだった。
小さい頃から、お姉ちゃんがラジオをずっと流していたのを、横で私も聞いていた。お姉ちゃんが成人して家からいなくなっても、私はラジオを流した。
大人になってからもその習慣は消えず、テレビよりもラジオがついていることが多かった。
真っ暗にしてラジオを聞く。
ラジオの中では、沢山の人が多彩な色でその音を染めている。
私は目を閉じる。
ラジオ局で、そのパーソナリティーが楽しそうに話す映像が頭に浮かぶ。
そして小話に、少しだけ私は笑う。
世の中には色んな人がいる。
世間はこんなにも大変で、そしてこんなにも平和なのだ。ささやかなことで泣いたり笑ったり怒ったり、忙しない。
そう。
私だって自分では大変だと思うけど、他の人から見たら、きっと些細なことで困って悩んでいるのだろう。
私は殻に閉じ籠り、少し抜け出せないでいるだけなのだ。
こんなこと、あまりに普通で、誰しもが一度は通る道で。殻に閉じ籠るなんてこと、私だけではない。
そう思うしかない。
長い人生のたった短い時間だ。
そう何度も頭で繰り返す。
そして私は今、部屋に1人。
ザー。とラジオが鳴く。
雨の音のようなノイズ。
少し調整が狂うとラジオが泣くように鳴る。
私も少し、調整が狂っただけ。
あの時、私が助けを呼べば、また違っていたのかもしれないけど。
私はタイミングを逃した。
もう誰も私を助けてはくれない。
私はうずくまる。
ザ、ザ、ザー。
調整しても調整しても、音は戻らない。
イライラしながら、私はダイヤルを回す。
くるくる。
くるくる。
ザー。
どこに合わせても音はノイズだけ。
壊れたのだろうか。
もう、他の人の声は聞けないのだろうか。
私はーーーー。
うずくまって鳴く。
ザーザーザーザー。
ここは暗い。
とても暗くて、うるさい。
誰か。
助けて。
ここは殻の中。
ただ少し落ち込んで、部屋に閉じ籠っただけだったのに。
いつの間にかラジオの中に入ってしまったらしい。
「ーーー誰か」
私は呼び掛ける。
「ーーー誰か助けて」
暗い。
「ーーー誰か」
ここはとても静かで。
「暗くて、ーーーノイズがーーー誰か」
ザーーーーーー。
ザーーーーーー。
ザーーーーーー。
※※※※※※※※※
小さい女の子が、ラジオを触りながら、母親に声をかける。
「ママァ。音が合わないよぉ。時々合って声が聞こえる気がするけど、ずっとザーザー言うの」
母親は、家事をしながら困ったように子供に声かける。
「ラジオを勝手に触るからよ。全くもう。一度触るとチャンネル合わせるの大変なのに。ちょっと待ってなさい」
「はぁーい」
ラジオは鳴く。
『ザ、ザ、ーーーけて、、、、、ザ、ザ、、、ザ。』