【SSコン:給料】 感謝の金は愛なのか、どうなのか
私たちは3人で曲を作っている。いわゆるボカロPというものらしい。
私はイラストを担当していて、『イラスト@A』という名前で活動している。
きっかけは、ただ単に認められたかっただけ……だと思う。
承認欲求なんて今の時代の若者は、それで溢れていると思う。なんたって、ネットというのは分かりやす過ぎるぐらい表している。
「今回も1日で1万回再生越え、コメントも好評なのが多い。っか」
投稿している配信サイトでは、そこそこの評価を貰っている。
そりゃあ私以外の、2人のセンスは天才級だ。
作曲|(?)を担当している『手抜きP』なんて、手抜きというか、ボーカロイドの声だけで曲を作っているのに完成している。
詳しくない私にはそれがどれ程の手抜きなのかは想像出来ないが、流石に最低限以下は異常だ。
(そういえば、動画を投稿するだけでお金が稼げるなんて言うけど……私達のはどうなるんだろう?)
普段使っている動画投稿サイトは、そもそもお金が稼げるという話がきっかけで流行った。
今ではほとんどの人が使っている。実際クラスの中で知らない人はいないぐらいだ。
「そういえばさ、私達の動画の収入ってどうなっているの?」
「どうした? 『@A』、まさか金欠か?」
「別にー。そういう訳では無いし」
つい強気で言ってしまった。
因みに、金欠という訳では無い。
『手抜きP』によると、今は不必要と思ってやってないらしい。つまり、欲しいと言えばすぐに貰えるというのが現状らしい。
「……私ってさ、いつも動画で使うイラストとサムネ描いてるじゃん」
「そうだな、いつもお世話になってます」
「だったら、その対価を貰ってもいいんじゃないかな?」
3人でボカロPとして曲を上げてきて、数か月が経っていた。
動画の伸びは凄いし、時々学校投稿している曲の鼻歌を聞いてしまったことがある。あの時は、本当に恥ずかしいと感じてしまった。
しかし、その間はお互い「趣味」というカテゴリで活動していた。
この中で1番時間をかけている『手抜きP』ですら、お金を必要としていなかった。
ここまで無関心なのは逆にホラーに感じるが。
「対価が欲しい、か……」
「ひょっとしてー、『憂鬱』さんも欲しくなったの?」
「あ、いや、そう言う意味じゃなくて」
ヘッドフォンから、もごもごとした声は聞こえない。
そもそも、これまでよく無償で活動出来たなと思う。時間なんて、1曲作るのにとにかく必要だ。
仕事を分担しているから、まだ1人分の負担が少なくなっているけど、
「……それでも、それでも何か評価的なものが欲しい」
(……はっ、不味い!!)
気づいた時には遅かった。
つい言ってしまった。
自分が|本当に望んでいるそれを《・・・・・・・・・・・》
「……いや、コメントにあるじゃん。『@A』を評価しているのが特に多いって、知らなかった?」
そう言うと思った。でも、そう感じることは出来ない。
私は知っている、どうせコメントしている人は全員嘘つきだってことを。
「そんな噓つきでも作れるそれを信じれと?」
「そうか……」
どうせそうなんだ。
そうにしか読められないよ。
私が描くイラストなんてその程度、対価が欲しいなんてただの傲慢だ。
確かに動画の視聴者の民度はとてもいい。動画で使うイラストなんて、特に……
「なぁ、次の歌詞は『@A』に頼んでいいか?」
「……え?」
「本当なのか、『手抜きP』?」
「2人して驚くことを言った気がしないんだが、」
「「言いました」」
顔も名前も知らない関係なのに、数か月も一緒に作業しているとこう息が合うこともあったりする。
それはさておき、本当に何を言っているんだこいつは。
そもそも歌詞担当は『憂鬱』さんのはず。
頭の中が混乱でいっぱいになった。
「落ち着けっての。俺はあくまでも、普段とは違うのをやってみたいと思っただけだ」
「……パターンが出来てきてごめん、『手抜きP』」
「気にするな『憂鬱』さん、まぁ歌詞ならよく読んでいるだろ」
まぁ確かに『憂鬱』さんの歌詞なら読んでいる。
イラストを描くにあたって、世界観や伝えたいことを理解しなくてはならない。そのためには、読むのが最短ルートだ。
とはいえ……
通知表を見ても、国語の成績は下の方だ。そもそも文が書けるかと聞かれたら、秒で断るタイプなのだ。
「……読んではいる。でも、国語力は無いよ?」
「別に文章を書けとは言わない。思ったこと、辛いと思ったことを言葉にしろって言ってるんだ。『@A』がどれほど国語力があるかは知らないが」
「……………………僕にも同じことを言ったね。『辛いんだろ。だったら、それを言葉にしてみろ』って」
何だか思い出話をしているような感覚だった。
互いに顔も名前も知らない仲なのに、たった数か月の付き合いなのに
それでも、誰よりも気楽に話せる相手だ
あ、
「………………………………挑戦、してみようかな」
「「!」」
「ちょっと条件付けたいんだけど、いいかな? 『手抜きP』」
「可能な限りなら、対応するが?」
「……だったら、大丈夫ね」
「い、一体何を言う気だ『@A』!?」
「ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ……」
「『憂鬱』さんはドラムロールをするなぁ!」
「私が投稿する曲以降は、視聴者のお礼として収入を3人で分けることにする‼」
「オオ―」
「……いや、対価としてはコメントがあるだろう?」
「うーん、それじゃあ
私達が貰う給料ということで」
「……き、給料ですか?」
「労働の対価を貰うということ?」
つまりはそういうこと。そういうことなのだ。
私が欲しいだけでもある。
でも、
評価……つまりは視聴者からの愛が、お金だっていいはずだ。
コメントだと、嘘かもしれない。
普通の人からしたら、お金の方が嘘に見えるかもしれない。
でも、私の心が受け止められるのがそれしかなかった。
そう。それだけ。
その後、何度か3人で合う時にまとまって給料のようなものを『手抜きP』から貰うことになった。
そしてお互いのために使うという、何とも言えない今になった。
「私としては、2人へ感謝を伝えるという意味なんだけどね」
2人が絶対に聞こえない場所で、私は思いを伝えた
これからも、3人で頑張ろう