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【第四回】SSコン 〜給料〜

【SSコン:給料】 感謝の金は愛なのか、どうなのか

 私たちは3人で曲を作っている。いわゆるボカロPというものらしい。

 私はイラストを担当していて、『イラスト@A』という名前で活動している。

 きっかけは、ただ単に認められたかっただけ……だと思う。

 承認欲求なんて今の時代の若者は、それで溢れていると思う。なんたって、ネットというのは分かりやす過ぎるぐらい表している。


「今回も1日で1万回再生越え、コメントも好評なのが多い。っか」


 投稿している配信サイトでは、そこそこの評価を貰っている。

 そりゃあ私以外の、2人のセンスは天才級だ。

 作曲|(?)を担当している『手抜きP』なんて、手抜きというか、ボーカロイドの声だけで曲を作っているのに完成している。

 詳しくない私にはそれがどれ程の手抜きなのかは想像出来ないが、流石に最低限以下は異常だ。


(そういえば、動画を投稿するだけでお金が稼げるなんて言うけど……私達のはどうなるんだろう?)


 普段使っている動画投稿サイトは、そもそもお金が稼げるという話がきっかけで流行った。

 今ではほとんどの人が使っている。実際クラスの中で知らない人はいないぐらいだ。


「そういえばさ、私達の動画の収入ってどうなっているの?」

「どうした? 『@A』、まさか金欠か?」

「別にー。そういう訳では無いし」

 つい強気で言ってしまった。

 因みに、金欠という訳では無い。

 『手抜きP』によると、今は不必要と思ってやってないらしい。つまり、欲しいと言えばすぐに貰えるというのが現状らしい。

 

「……私ってさ、いつも動画で使うイラストとサムネ描いてるじゃん」

「そうだな、いつもお世話になってます」

「だったら、その対価を貰ってもいいんじゃないかな?」


 3人でボカロPとして曲を上げてきて、数か月が経っていた。

 動画の伸びは凄いし、時々学校投稿している曲の鼻歌を聞いてしまったことがある。あの時は、本当に恥ずかしいと感じてしまった。

 しかし、その間はお互い「趣味」というカテゴリで活動していた。

 この中で1番時間をかけている『手抜きP』ですら、お金を必要としていなかった。

 ここまで無関心なのは逆にホラーに感じるが。


「対価が欲しい、か……」

「ひょっとしてー、『憂鬱』さんも欲しくなったの?」

「あ、いや、そう言う意味じゃなくて」


 ヘッドフォンから、もごもごとした声は聞こえない。

 そもそも、これまでよく無償で活動出来たなと思う。時間なんて、1曲作るのにとにかく必要だ。

 仕事を分担しているから、まだ1人分の負担が少なくなっているけど、


「……それでも、それでも何か評価(・・)的なものが欲しい」


(……はっ、不味い!!)


 気づいた時には遅かった。

 つい言ってしまった。

 自分が|本当に望んでいるそれを《・・・・・・・・・・・》


「……いや、コメントにあるじゃん。『@A』を評価しているのが特に多いって、知らなかった?」


 そう言うと思った。でも、そう感じることは出来ない。

 私は知っている、どうせコメントしている人は全員嘘つきだってことを。


「そんな噓つきでも作れるそれ(・・)を信じれと?」

「そうか……」


 どうせそうなんだ。

 そうにしか読められないよ。

 私が描くイラストなんてその程度、対価が欲しいなんてただの傲慢だ。

 確かに動画の視聴者の民度はとてもいい。動画で使うイラストなんて、特に……


「なぁ、次の歌詞は『@A』に頼んでいいか?」

「……え?」

「本当なのか、『手抜きP』?」

「2人して驚くことを言った気がしないんだが、」

「「言いました」」


 顔も名前も知らない関係なのに、数か月も一緒に作業しているとこう息が合うこともあったりする。

 それはさておき、本当に何を言っているんだこいつは。

 そもそも歌詞(セカイ)担当は『憂鬱』さんのはず。

 頭の中が混乱でいっぱいになった。


「落ち着けっての。俺はあくまでも、普段とは違うのをやってみたいと思っただけだ」

「……パターンが出来てきてごめん、『手抜きP』」

「気にするな『憂鬱』さん、まぁ歌詞ならよく読んでいるだろ」


 まぁ確かに『憂鬱』さんの歌詞なら読んでいる。

 イラストを描くにあたって、世界観や伝えたいこと(・・・・・・)を理解しなくてはならない。そのためには、読むのが最短ルートだ。

 とはいえ……

 通知表を見ても、国語の成績は下の方だ。そもそも文が書けるかと聞かれたら、秒で断るタイプなのだ。


「……読んではいる。でも、国語力は無いよ?」

「別に文章を書けとは言わない。思ったこと、辛いと思ったことを言葉・・)にしろって言ってるんだ。『@A』がどれほど国語力があるかは知らないが」

「……………………僕にも同じことを言ったね。『辛いんだろ。だったら、それを言葉にしてみろ』って」


 何だか思い出話をしているような感覚だった。

 互いに顔も名前も知らない仲なのに、たった数か月の付き合いなのに

 

 それでも、誰よりも気楽に話せる相手だ

 あ、


「………………………………挑戦、してみようかな」

「「!」」

「ちょっと条件付けたいんだけど、いいかな? 『手抜きP』」

「可能な限りなら、対応するが?」

「……だったら、大丈夫ね」

「い、一体何を言う気だ『@A』!?」

「ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ……」

「『憂鬱』さんはドラムロールをするなぁ!」


「私が投稿する曲以降は、視聴者(ファン)のお礼として収入を3人で分けることにする‼」

「オオ―」

「……いや、対価としてはコメントがあるだろう?」

「うーん、それじゃあ


             私達が貰う給料ということで」


「……き、給料ですか?」

「労働の対価を貰うということ?」



 つまりはそういうこと。そういうことなのだ。

 私が欲しいだけでもある。

 でも、

 評価……つまりは視聴者(ファン)からの愛が、お金だっていいはずだ。

 コメントだと、嘘かもしれない。

 普通の人からしたら、お金の方が嘘に見えるかもしれない。

 でも、私の心が受け止められるのがそれしかなかった。

 そう。それだけ。




 その後、何度か3人で合う時にまとまって給料のようなものを『手抜きP』から貰うことになった。

 そしてお互いのために使うという、何とも言えない今になった。


「私としては、2人へ感謝を伝えるという意味なんだけどね」


 2人が絶対に聞こえない場所で、私は思いを伝えた


 これからも、3人で頑張ろう

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