改竄
敬老会の出し物の劇を書くことになった。
ひょんなことから私が物語を気ままに書いては公開していることを知ったご近所さんが、脚本の執筆を依頼してきたのである。
「喜寿の人のお祝いを兼ねててね。なんていうか、功績を劇中で称えるような感じでお願いしたいんだよね。」
劇の中で困りごとが起きて、それを解決するために、喜寿の人たちの知恵を借りるという筋書きらしい。
77歳の人を舞台にあげるわけにはいかないので、出演者が劇をする形で褒め称えるようにしたいという…。なんとも手の込んだ、演出である。
例えば、五丁目に住んでる今年77歳のおばあちゃんは昔看護師をしていたわけだが。
劇中で転んでけがをした男の子が、おばあちゃんに聞いたという応急処置をして事なきを得る、さすがおばあちゃんの知恵、長きにわたってナイチンゲールを務めただけある、昔から優しい人だったもんねえ、これからも長生きしてね!
例えば、二丁目に住んでいる今年77歳のおじいちゃんは囲碁のアマチュア五段の実力者なのだが。
町内で起きた謎の事件を追う際に、沈着冷静、筋道立てた戦略を立てるのが得意なおじいちゃんがヒントとなる一言を与えてくれたおかげで、無事解決できました、これからもたくさん助言してね!
色々と無理難題があるが、いわゆる内輪ウケを狙いたいらしく、みんなが知っている人を役者にして、学芸会っぽいものをやりたいらしい。
出演者は町内会長、公民館の先生、図書館の先生に、敬老会の会長、子供会の会長に体育振興会の役員…あと子供が何人か。
「物語を書くのは良いけどね、あたしゃ台本なんか書いた事ないよ、それでもいいの!?」
「いいよ、なんか舞台演出やってたっていう人がいるからね、その人に添削してもらう事になってるから。話だけ書いてよ。」
あんまり気乗りはしなかったが、制約の多い物語も書いてみれば……案外面白いものにまとまってですね。テーマやキーワードがガチガチに用意してあると身動きができないかと思ったんだけど……わりと自由度がない物語のほうがさくさくとかけてしまうのだから、不思議なもんだ。
そんなこんなで、3000文字ほどの物語を書いて渡したのがおよそ二か月前のことである。そろそろ敬老会のシーズンだ、あの劇は一体どうなったんだと思い始めた頃、思わぬ客がやってきた。
「おうい、お母ちゃん!ちょっと頼まれ事、良い?」
ニコニコしながら私のもとを訪ねたのは老いてなお衰えを知らぬ、元国語教師の順一先生である。
「なんかさあ、僕の所に舞台の台本の修正を頼むって回ってきたんだけどね、それがまたひどいんだよ。情緒もなっちゃいないし、口語表現が多くて僕じゃ太刀打ちできないの。お母ちゃん物語書いてるでしょう、ちょっと見てよ!」
差し出されたのは、まさかの…どこかで見たような、物語!!!
せっかく人が試行錯誤してねじ込んだ物語の流れがぶつ切りにされていて、起承転結はぼやけてるし気の利いたしゃれも訳のわかんない真面目な会話に変わってる、てゆっかつかみでほのかに匂わせておいた伏線が完全消滅してるじゃん、ちょっと待て、出来事の波状攻撃がなぜカットしてあるんだ、おいおい、まさかのラストが夢オチ?!漫画会の巨匠があの世から怒り心頭で乗り込んでくるぞ、こんなの!!!
「先生、これ…もともとは、私が書いたやつだよ。なんかめちゃめちゃ改竄されてる、これを直せといわれたら、あたしゃ何をどう…一番初めに書いて渡したのを出すくらいしか。」
どうやら、私が書いた話は、昔演劇をやっていたという人に手渡され脚本化されたのち、昔役者をやっていたという人が修正をいれ、昔演劇部だった人によりフォローが入り、昔時代小説を出版したことがある人が手直しをして、敬老会で演じる人たちによる本読みが行われた時になんかおかしくないかという話になって、国語教師として名高い順一先生のところに添削依頼が舞い込んだらしい。
先生に私の原書?をお渡しして見ていただくと、なにやら渋い顔をしていらっしゃる…。
「これは…元の話がいいねえ、でもさ、これ出したら、怒るよねえ…途中の人たち。」
「この場合、話をめちゃくちゃにされた私は、怒ってもいいんだろうか……。」
おそらく私の顔も渋いことになっているはずだ。
「これは…このまま会話を整えて渡すくらいしか…、お母ちゃんはセリフだけ直してよ、僕ナレーション整えるからさ。」
「いいけどさあ…なんか、めちゃめちゃ、もにょる……。」
「もにょるは大人として恥ずかしい発言!別の表現でね!!」
私も指導を受けつつ、がんばって修正など、させていただいたのだけれども。
「え、ちょっと待って…劇は?!」
敬老会が一週間後に迫った日、私は会場となる公民館で大きな声をあげていた。毎年敬老会の会場を作るのは旦那なのだが…まさかの、マイクやプロジェクター、ミラーボールの設置依頼…、どう考えても劇をする設備じゃ、ない!!!
「なにそれ。俺はカラオケ大会のステージ作ってって言われただけだけど?」
なんと…あれほど劇にこだわっていたはずなのに、まさかの全員集合して練習できる日がほとんど取れずに、ポシャってしまったのである。
敬老会当日、受付の手伝いをしたのだけど、そこで私は、愚痴る人の声を聞いた。
「ちぇ!勝手なことするなあ、俺がせっかくホン書いてやったのに!」
「ねえ!まったく人の苦労を…失礼しちゃう!」
……書いてやっただとぅ?あんたらがやったのは…、物語の改悪だけだよぉおお!!!!……などとは、口が裂けても言えるはずもなくですね。
「今日はもとプロの人も見えるそうですから、カラオケ楽しみですね~」
出てくるのは、当たり障りのない、イベントを楽しみましょうねという気遣いのある言葉ばかりでしてね。
まあ、マイクの電源が入らなくて少々不手際はあったものの、イベント事態はおおむね喜んでいただけて良かったんですけれどもね。
なんかこう、もやもやするものが、残ったわけですよ……。
もう二度と頼まれて物語なんか書かないぞと心に誓った、私ですけれども。
転んでもただでは起き上がらない性格をしておりましてですね。
発表されること無く、改竄されてしまった物語は、どこかの小説投稿サイトにこっそりと公開されたと言う事です……。




