初めての選択 ( 3 )
「抱き締めているとは心外です、ハルマ様。僕は倒れそうな女性を助けただけで……」
「言い訳はいいのいいの。そんでユキト君、アーサー君に何の用があったの?」
「アーサー君がいるはずのところにいないのですから探していたのですよ」
そっと騎士様は私を一人で立たせる。私はありがとうございます、と言っておいた。
うん、ちょっと待って。整理させて。
アーサイルさん(王子様なので敬称なしは不敬かと思って一応さん付け)の愛称は『アーサー』だと思う。
ライムルトさん(こちらは騎士様だけどそれでも不敬だよねー)の愛称は『ライム』。
ユウキューマさん(君と迷ったけどきっと私よりも年上よね?)の愛称は『ユウマ』。
ユキトさん(このお方に敬称付けるのにはなんか抵抗ない)はそのままだよね。
ハルミルマさん(チャラいチャラいと言っても結構しっかりしてそう)の愛称は『ハルマ』。
多分合っている。
「それにしてもなんでこんなところに女の子がいるのぉ? 迷っちゃったかな?」
「恐らくそうでしょう。この廊下は迷路のようですからね」
「悪かったな迷路で」
「え? 俺は好きだけどな、この廊下」
「――――あの、本当に大丈夫ですか?」
王子様方があれこれ言っている様子をぼぉーっと見ていると、ライムルトさんが私の顔を覗き込んだ。
急に目の前に超絶顔の整ったお方の顔があれば心臓に悪いって。
「大丈夫です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。無理してる」
ハルミルマさんの指摘。
確かにお腹は絞められて痛いし頭はクラクラするけど……
「いえ本当に大丈夫で――」
「すっごい汗かいている。熱でもあるの?」
「顔も真っ青ですし、心配です」
ユウキューマさんが私のおでこにてをピタッとくっつける。その後ろでユキトさんが私と目線を合わせている。
私は変な叫び声が出ないように必死で止めた。よくやった、私の喉。
多分貴方達と出会ったことによるものですよ! というか初対面でこの距離感とは……これがイケメン、攻略対象か。
と言えるはずもなく。
「こんなところに来てしまって申し訳ありませんでした。私はもう戻ります――」
と、私はとにかくその場から離れたくて1歩進んで――――
身体を支えられず、ふらりと倒れそうになった。
だけど、アーサイルさんが支えてくれた。
そして私がしっかりと自分の足で立ったのを確認してから手を離す。
「無理するな」
アーサイルさん、意外と優しい?
「あれあれ? 女嫌いの氷の王子様にもついに春が?」
「黙れ」
ハルミルマさんはアーサイルさんに睨まれても、変わりなくにこにこしている。
いや、ハルミルマさんだけでなく、ユキトさんもユウキューマさんもにこにこしている。
「それでさ、有耶無耶になってるけど、君、名前は?」
そう言えばユウキューマさんに聞かれていた気がする。
嘘をつく理由はないから、普通に述べる。
「セリスティーナ・ツェリシアです」
「ああ、ツェリシア侯爵のところの愛娘がそのような名前だったよね」
「さすが、ハルマの情報網」
「でもさ、今まで舞踏会とかで君の姿を見た事なかったけど、俺の気のせい?」
「ハルマが女の子を見落とすことあるの?」
「ちょっ、さっきからうるさいユウマ君」
私は仲の良い二人の掛け合いに、ふふっと笑い声をもらしてしまった。
「あっ。ご、ごめんなさい!」
「いや、いいよ」
何故か私が笑った後、全員の動きが止まったように見えたから、笑ったらいけなかったのかと心配になった。
ええっと、答えるのは確かこれまでの舞踏会にいなかった理由だったかな。
「私、生まれつき身体が弱くて、両親に止められ舞踏会に参加していなかったのです。今日は私の体調が良好だったので許してもらえました」
結局こうなったけどね。不調よ、不調。舞踏会なんて来たくなかったのよ、本当は。
だけど社交の事を考えると来た方がいいと考えたから、来てしまった。
後悔の嵐。
「セリスティーナさん。今日はお一人で?」
「はい。両親は今日、予定がありまして。侍女のカナエは私に付いて来ておりますが」
そのカナエともはぐれてしまったのですが、というのは恥ずかしいから言わなかった。
はぐれた上に迷った。子供かよ。
十六歳は子供か。
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