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56 合同演習④

 一通りのチームが魔物との対戦を終えた。各チームとも、少なくて半数、多くて3/4ほどの死亡者判定を喰らい、成功とは言えない成果だった。

 もはやチームの騎士や魔術士たちは、誰も立ち上がることもできないぐらい疲弊していた。実戦さながら、いや、あんなに強い魔物相手に少人数で挑むことなど経験がないため、実戦以上のキツさだった。もう2度とやりたくない。

 

 そう思っているのは何も、実際に戦った騎士たちや魔術士たちだけではない。見守っていた大魔術士隊も疲れ切っていた。


「はー、良かった。一人の死者も出さずに済んだな」


 ファイが安堵のため息を漏らす。遠慮容赦のないメイル謹製の擬似魔物たちは、もちろん、騎士や魔術士たちに手加減なんてするはずもなく。ファイたちの回復が間に合わなければ、『死亡者席』に居た者たちは本物の死亡者になっていただろう。


「あー。魔力ポーション飲もう。魔力を使い過ぎて頭痛ぇ」


 ウィーグが魔力ポーションを取り出し、一気飲みをする。回復と同時に結界魔術も展開し続けていたので、大分魔力が減っていた。以前、サルナー領での討伐で死にかけた時より効率よく魔力を使えるようになったが、それでもやっぱり結界魔術は魔力を消費するのだ。


「うわぁ、不味い! なんでこのピリピリ感がとれないかなぁ……」


 同じく魔力ポーションを呷ったスーランが涙交じりに呟く。どれだけ改良を重ねても、この魔力ポーションはドグラグラという猛毒の植物を使っているせいか『美味しい!』と言えるまでにはならない。それでもスーランたちほどの魔力量を回復するとなると、やはりこのポーションでなければだめなのだ。


「でも終わって良かったね。ここのところずっとこの合同演習にかかりきりだったからさ。忙しなかったよねぇ」


 ラドが朗らかに言うのに、他の3人はうんうんと頷く。通常の鍛錬、メイルからの膨大な課題をこなしつつ、この合同演習の準備を行なっていたのだ。終わった後も報告書等の雑務はあるだろうが、この合同演習の準備がなくなるだけでも、気が楽になる。大魔術士隊付きの文官たちも、今頃、喜んでいるだろう。


 そう、楽観的な考えで油断していたのが良くなかったのか。

 自分たちの師が、それほど優しい性格ではない事に、4人の弟子たちは嫌というほど知っていた筈なのに。

 

 物凄い咆哮が、四方八方から聞こえて来て、4人の弟子たちは咄嗟に結界魔術を貼る。

 降り注いできた魔術が、火花を散らして結界魔術に散らされるのを、『おー、綺麗だな』と、どこか現実逃避して見ていたのも束の間。


 十数匹の疑似魔物が、弟子たちを取り囲んでいたのに気付いた時は、絶望的な気持ちになった。やばい、騎士たちや魔術師たちが戦っていた疑似魔物君11号と12号より、数段レベルの違うヤツだと気付いた時は、更に絶望が深まる。


 一方、騎士や魔術士たちは突然現れた疑似魔物たちに誰も反応できずにいた。魔物たちが吐いた炎や毒霧に包まれそうになり、思わずギュッと眼をつぶったが。熱さも苦しさも何も感じられず、恐る恐る目を開けてみれば、見えない壁が自分たちを囲い込んで魔物の攻撃をパンッと軽い音を立てて弾いていた。


 一体どういうことかと混乱する騎士や魔術士たちの耳に聞こえてきたのは、何とも楽しそうな声だった。


『これより、大魔術士隊の連戦演習を始めまーす。騎士さんたちや他の魔術師さんたちは結界魔術で保護していますので、見学したかったらそのままどうぞー』


 闘技場にいた全員が声の主を辿れば、陛下が座す閲覧席から、メイルが暢気に手を振っていたのがみえた。弟子たちに殺意が湧く。


「ちくしょう、やっぱり鬼畜だ、あの人!」


「分かっていたけどね! 分かっていたんだけどね!」


「あー、ヤバイ。『連戦演習』って言ってた。これ全部倒してもお代わりがくるってことだよなぁ!」


「ううう。メイル様の鬼。僕たち、生きて帰れるかなぁ?」


 ヤケクソ気味に怒鳴りながら、弟子たちは疑似魔物たちに突っ込んで行く。怒涛の如く魔術を打ち込んでいくファイ、杖を使って魔物の放った魔術を打ち返すスーラン、結界魔術を貼って魔物の攻撃を避けるウィーグ、魔術を打ち込みながら、時折、回復やポーション補給でサポートするラド。何も言わずとも自然と連携をとり、確実に疑似魔物たちを仕留めていく。先ほどまで自分たちの戦っていた様とは段違いの、それこそ無駄のない命懸けの戦い方に、騎士と魔術士たちは目を離すことが出来なかった。


「そんな、やつらは、ミソッカスなはずなのに……」


 そんな小さな呟きは、華々しく散る魔術の奔流にかき消されてしまった。


◇◇◇


「おいメイル。大丈夫なのか? あの疑似魔物たち、騎士たちが戦っていた奴より、なんだか強くないか?」


 サーフの焦った声に、メイルはうんうんと得意そうに頷く。


「あれは疑似魔物君8号と9号ですよ。騎士さんたちと戦った疑似魔物君11号と12号よりは強めの設定なんです」


「……10号はないのか?」


 あっけらかんと答えるメイルに、サーフはどうでもいい事が気になった。いや、他にも聞くべきことがあるとは分かっていたが、急に登場した疑似魔物君たちに、サーフも大分動揺していたのだ。


「……10号君は魔力の調整をミスって、爆発しました」


「爆発……」


 そんな魔力の調整をミスったら爆発するような代物を王宮内で放っているのかと、サーフはゾッとしたが、メイルは自信満々に答えた。


「大丈夫! 10号君は魔石の許容量の割に色々と機能を詰め込み過ぎたせいで爆発したんです。その他の疑似魔物君たちは大きめの4大竜の魔石を使っているので爆発はしないです! 多分!」


 力一杯断言しているが、最後の『多分』で余計に不安を煽られ、サーフは額に手を当てた。


「おおおっ! メイル! アレは楽しそうだ! 俺も加わってもいいよな? いいよな?」


 手応えのありそうな疑似魔物君たちに、ベールはメイルの返事も聞かず、剣を持って閲覧席から飛び降りていた。結構な高さがあるというのに、着地の衝撃をものともせず、一直線に疑似魔物君たちを目指して走って行く。


「ちょっとオッサン! うちの子たちの鍛錬用なんだからね! 全部倒さないでよ! ああああぁ、足速いな、もう着いたの? ああー、9号君が一撃で倒された! なんなのあのオッサン。魔力ないくせになんであんなに強いの?」


『奥さんには激弱なくせにー!』と叫ぶメイルを、ミルドがまあまあと宥める。


「しかしお前の弟子たちは、やはりデタラメに強いなぁ。我が国の騎士たちや魔術士たちが苦戦していた魔物相手に、難なく戦っているじゃないか」


 騎士たちと魔術士たちの演習とは比べ物にならない戦いぶりに、サーフは感嘆する。先ほどまでは騎士たちや魔術士たちのサポートに徹していたため目立たなかったが、こうしてメインで戦っていると、騎士たちと弟子たちとの違いは一目瞭然だ。魔術一発一発の、火力が全く違う。動きも早く、騎士顔負けの体力だ。


「ミルドさんに、大魔術士隊について騎士団や魔術師隊に限り情報解禁って言われましたから。もうこそこそ隠れて鍛錬をしなくていいから、あの子たちも全力が出せて嬉しい筈ですよ。裏庭、ちょっと手狭でしたからねぇ。思いっ切り暴れるには、物足りなかったと思います」


 弟子たちが聞いたら全力で否定しそうなことを、メイルは自信満々に断言した。普段の鍛錬は大魔術士隊が拠点にしている元はガーデンパーティー用の庭に結界魔術を貼って魔術の打ち合いをしていたのだが、やっぱりどうしても大規模魔術を展開するには狭かった。『危なく王宮まで吹っ飛ばすところでした。あ、ちゃんと壊れた時には直しましたよ』とメイルはあっはっはと誤魔化すように笑ったが、全然誤魔化せていなかった。


「情報解禁だと? 」


 土の魔術師隊長モリスが、驚いたようにミルドを見る。サルナー領での討伐で活躍した大魔術士隊については、緘口令がしかれていたのだ。それもこれも、妊娠中の王妃とその子を守るために必要な措置であるとサーフより厳命されていたのだ。 


()()()()()()()()()()()は粗方済みましたからね。今後は邪竜との戦いに備え、騎士や魔術士たちを鍛えなくてはなりませんから。全く、大魔術士隊の働きは素晴らしいですね。不穏分子の摘発もメイル様の御助力があったから出来たのですから」


 にこにこと邪気のない笑みを浮かべるミルドだが、言っている事は不穏過ぎる。モリスはミルドの不穏さに青ざめたが、メイルはそんなミルドに全く臆することなく、『はて?』と首を傾げる。


「私、そのお掃除とやらは何もした覚えがありませんけど?」


「メイル様との初めてのデートの時、不埒な輩がいたでしょう?」


『デート?』と騒めく魔術士団長たちには目もくれず、ミルドはデートの時のメイルのドレス姿を思い出し、うっとりと頬を染めながら説明する。


「あの犯罪者たちの背後を洗い出して、王家の害になる貴族家を粗方潰すことが出来ました。今残っているのは、多少の悪だくみや野心はありますが、小物ばかりです。害虫だと潰しすぎても、国力を削ぐことになりますからねぇ」


 ミルド曰く、あの事件に関わっていたのは元々目を付けていた貴族家だったため、そこから()()()()()()()()()()、王国内の整理をしたのだとか。これでアリィシヤやお腹の子を害する輩は一掃できたと、悪びれもせずにミルドは笑う。


 そういえば先頃、闇組織と手を組んで犯罪に関わっていた咎で、幾つかの貴族家が取り潰された。采配を振るったのは勿論、この虫も殺さぬような穏やかな表情の宰相である。

 敵に回したら本当に厄介な相手だと、4大魔術士団長たちは、チッと舌打ちをする。


「ミルドさんは相変わらず過激だなぁ」


 苦笑するメイルに、ミルドの顔が途端に不安気に曇る。


「……過激な私はお嫌いですか?」


「いやぁ? 私は物理的な仕返ししか思いつかないので、純粋にすごいなぁと思います」 


 本気でメイルが感心すると、ミルドは少年の様な照れた顔になる。


「物理的な仕返しも十分に恐ろしいからな。絶対にやめろよ、絶対だぞ?」


 コイツら、本当に似たモノ同士だなと思いながら、サーフはメイルに念入りに釘を刺す。


「やめろと言われると反対にやれと言われている気になりますねぇ」


「やめろ!本当にやめろ!王命だからなっ!」


 サーフの言葉を斜め上に捉えるメイルに、サーフは叫ぶ。王の言葉に従わないなんて不敬の塊だというのに、なんなんだコイツは。


「ふぁーい」


 王命に畏まるどころか気の抜けた返事を返すメイルに、サーフは額に青筋を立てる。メイルと話していると、あまりに軽んじられすぎて、自分が一国の王だということを忘れそうになる。


「あ。そろそろ倒し終わりそうですよ」


 十数体いた疑似魔物くんの最後の一体が、断末魔を上げて倒れた。固唾を飲んで見守っていた周囲の騎士や魔術士たちから大きな歓声が上がる。


 だがその歓声は疑似魔物君たちが再び咆哮を上げながら復活すると、絶望の声に変わった。ちなみに連戦演習だと理解している弟子たちは、驚く事もなく淡々と次の戦いに思考を切り替えていた。


「んなっ? さっきの疑似魔物君とは種類が違うのか?」


 驚くサーフにメイルが得意気に胸を反らせる。


「はいっ! 一つの魔石で複数の疑似魔物君を出現させる魔術陣を仕込んでみました。攻撃パターン、弱点、強さは完全にランダム! 私にもどの組み合わせで出るか分からないです!」


 絶対に褒められると確信している様な顔で説明され、サーフはそれ以上何も言えなかった。演習場からメイルの弟子たちの『メイル様の鬼畜ぅぅぅ!』と叫ぶ声が聞こえてきたので、どう考えても非常識な事なのだろう。メイルに心酔しているはずの4大魔術士隊長たちですら、引きつった顔をしていた。


「ふふふー。今回は何回目まで耐えられるかなー?」


 至極楽しそうに、メイルは演習場の弟子たち(プラス、ベール)を見守るのだった。


 

 


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― 新着の感想 ―
・・・何回目? つまり戦闘継続不可能な状態まで連戦? 鬼メイル・・・
やっと、みんなの実力を見せつけられてすっきりです!!
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