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間話 弟子たちの雑談

投稿し忘れていた間話。43話と44話の間ぐらいのお話でしょうか。

アーノルド・ガスター。ダメ人間です。

「あーもー面倒臭い。さっさとくっつけばいいのに」


 ぼやくファイに、他の3人も同感だった。


「しかしメイル様って本当に最強だよね。なんであんな色気やら甘さやらダダ漏れの宰相様が平気なのかな」


 魔力剣の微調整をしながら、ラドは不思議そうに呟く。


「すっとぼけて宰相様を躱してるのかと思ったけど、アレは本気で全く何にも気付いてないな。ほとんどプロポーズされてるのに、キョトンとしてたぞ。どういう感性してるんだ?」


 なかなか辛辣なスーランは、メイルの女性としての資質を大いに疑っていた。


「でも無理はないんじゃなか?あーんな性格がアレなお師匠様と100年近く一緒だったんだろ?恋とか愛とか入り込む余地もなかったんじゃないか?」


 ウィーグがげんなりして言えば、他の3人もエロ本の魔術陣解除の時のことを思い出し、うっと気分が悪くなった。


「あんなに怒ったメイル様見たの、初めてだったなぁ…」


「あんなのが日常茶飯事。やってられない」


「俺だったらぶん殴ってる」


「僕も!」


 エロ本の魔術陣解除で魔力操作が飛躍的に上手くなったが、それを差し引いてもアレは酷い。苦労の末にあんなアホなワンマンショーが待ってるなんて、誰が思うだろうか。しかも完成すらせず途中で飽きて終わっていた。完成していたらいたで、また腹が立ったと思うのだが。


「あの時ほど宰相様がメイル様のそばに居てくれて良かったと思ったことはなかったよ」


「だな〜」


 怒りの余り魔力をダダ漏らし、大魔術士隊の部屋の中が暴風で吹き荒れている中、慌てて駆けつけたミルドは暴風をものともせず、部屋の中にズカズカと入っていき、メイルを抱きしめた。頭を撫で、何事かささやいている内に、気づけばメイルはミルドに抱き上げられてくったりしていた。


 そんな二人を、弟子たちは部屋の外からそっと見守るしかなかった。高濃度のメイルの魔力が立ち込める中に入ればたちまち魔力酔いを起こし、昏倒してしまうので外に避難していたのだが、なぜかミルドは平気だったのだ。


 メイルを世話して寝かしつけたミルドに、あの高濃度魔力に酔わなかったのかと聞けば、柔らかな笑みを浮かべ、「メイル様の魔力は心地良くこそあれ、酔うなどあり得ません」と言い切られた。

 メイルが常々、ミルドの魔力が心地良いと言っていたが、本当に二人の魔力の相性は良いのかもしれない。あらゆる意味で、お似合いだし、弟子たちとしては本当にさっさとくっついて欲しいのだが。


「いっそのこと、既成事実でもできれば良いんじゃないか?」


 ウィーグの言葉に、スーランが眉を顰める。


「既成事実?媚薬でも盛るか?」


「うっわ。スーラン、えげつねぇ」


 口調の割には純情なファイが、顔を赤らめスーランから距離をとる。


「媚薬は流石にやりすぎでしょ。ほら、大師匠の本にあった、アレ」


 ラドが収納魔術から取り出したノートを、皆の前で開く。

 ちなみに、大師匠とは弟子達から見たメイルの師匠、アーノルド・ガスターのことだ。


「はあ? 惚れ薬? 効き目なんてあるのかよ?」


 ファイが思いっ切り、疑いの目を向ける。


「これってアレじゃねぇの? 金持ちになれる壺みたいな紛い物…」


 同じくウィーグも胡散臭さを隠そうともせずにラドのノートを睨みつけた。


「そうかな? 大師匠のノートにあったから本物かと思って書き写したんだけど」


 ラドの言葉に、スーランの眼がキラリと光った。


「ふぅん。ラド君はその惚れ薬を書き写して、誰に使うつもりだったのかな?」


「へ?!」


 途端にボッと真っ赤になり慌て出すラドに、ファイとウィーグが面白そうに目を輝かした。


「へえ〜。ラドに好きな子がいるとはね。お子ちゃまだと思っていたのに意外だなぁ」


「おいおい、ファイ。こいつのどこがお子ちゃまだよ。丁寧な口調と泣き虫キャラで騙されるな。こいつはエロ本の所有時間が一番長かったんだからな」


 呆れた様なウィーグの言葉に、ファイはふむふむと頷く。


「あー。むっつり」


「だな」


「ちょっと、酷くない? 単に惚れ薬の作成方法を書き写していただけなのに、そんな事言わなくても良いでしょ? 君たちには見せないからねっ!」

 

 真っ赤な顔でノートを片付けようとしたラドの手を、他の3人ががっしりと掴んだ。


「いやいや、ラドくん。冗談だよ」


「怒るなよ。揶揄っただけじゃないか」


「謝るから、レシピ見せてくれ」


 3人の口調は、冗談めいている割に、妙に目は真剣だった。

 真偽は定かではないが、作って試してみたいというのが男の性というものだ。


「も、もう。仕方ないな。みんなで作ってみようっ?」


 ラドが手放したノートを、ひょいと奪った人物に、弟子達はぴしりと固まった。


「へえ。惚れ薬」


 面白そうな顔で、メイルがラドのノートを見て、弟子達と見比べている。


「め、メイル様」


「あの、これはその」


「いや、俺たち別に信じているわけでは」


「ちょっと好奇心が湧いただけで」


 口々に言い訳をする弟子達に、メイルはニンマリ笑った。


「こういう事に興味が湧く年頃だもんね。君たち立派に成人しているし、まぁ、異性に興味を持つことは悪い事ではないと思うけど、自分の魅力じゃなくて、薬に頼って手に入れたものに、価値なんてあるのかな?」


 メイルの正論に、ぐうの音も出ない。

 この間与えられた7日の休暇で、久々に家族や友人達に会った弟子達は愕然とした。魔術師隊に入って、初めての長い休暇だったので、久し振りの帰郷となったのだが。

 自分達が魔術に邁進している間に、同級生の中には結婚し子どもがいる者もいた。

 弟や妹達が結婚を決めていたり、恋人がいて人生を謳歌していて。

 

 魔術士になることは自分で決めたことだけど、周囲の家族や友人達に置いていかれているようで。

 確かにメイルの言うことは正論だが、出会いの機会すらなく焦る弟子達に慈悲の心はないのかと言いたい。


 あまりにシュンとしてしまった弟子達に、言いすぎたかとメイルは頭をかいた。


「あー。分かった。君たちに似合いの人はいないか、サーニャさんに相談してみるね?」


 後宮内の侍女たちを掌握しつつつあるサーニャは、自身も貴族家の奥方として社交会でも顔が広い。平民とはいえ魔術士として将来性のある弟子達にピッタリの相手が見つけてくれるだろう。


 メイルの言葉に、弟子達の顔がパァッと明るくなる。そんなに恋人が欲しいかったのかと、メイルはちょっと息子が大人になってしまったような、複雑な気持ちになった。


「それにしても惚れ薬かー」


 メイルは楽しそうにノートを見ていたが、だんだんと真顔になり、じっとノートを凝視している。


「ラドー? これどこから仕入れたレシピ?」


「えっ? あ、大師匠の本から……」


 メイルの真剣な声に、ラドは心臓が嫌な音を立てた。


「青い表紙の? 」


「あ、はいっ! 」


 ふぅっとため息を吐いて、メイルは収納魔術から黒い表紙の本を取り出した。


「あの青い表紙の本はね、様々な効能の魔術薬のレシピが乗っているんだけど、それを使用した場合の効能はこっちの黒い表紙の本に載っていて。この、惚れ薬の効能は……」


 メイルが黒い本の表紙を捲り、内容を朗読する。


「惚れ薬の効能。服用後、1刻程で対象者の意識が朦朧とする。続けて同量を服用させ、対象者の人格を完全に支配下に置く。人格を支配下に置く事で主の命令は絶対になり、隷属魔術と同じ効力を発揮する。10〜15日間続けて服用させる事により、薬への依存度や隷属度を上げる。以降は月1度の頻度で服用を続ければ、半永久的に隷属させる」


「ひいぃぃぃっ! 全然、惚れ薬じゃないっ! 」


 ラドはノートのページをビリビリと破いて、火魔術で燃やした。


「使ってる材料を見たら、ある程度は推察出来るでしょー?」


 確かに精神系に作用する植物が多いなぁとは思っていたが、まさかそんな恐ろしい効果を持つものだったとは。


「すみません……。気づきませんでした」


 ラドはシュンと項垂れた。

 性格はアレでも伝説の大魔術士の残した惚れ薬だ。きっと効果があると安易に飛びついたのが迂闊だった。


「どっちかと言うと洗脳ですね。なんで惚れ薬なんて」


 スーランの疑問に、メイルが虚ろな目で笑う。


「いつだったかなぁ。師匠が金具屋の未亡人シャインさんと酒場の美人給仕のマリアさんを二股したのがバレて両方に振られた事があったんだけど、師匠は2人に未練タラタラでね。そのアホみたいな名前の危険物を作ったのは、その頃だったよ……。ぶん殴って取り上げたけど」


 理由もかなりヤバかった。そんな危険人物を野放しにするなと、弟子達は真剣に思った。


 弟子達の様子を見て、メイルはふふふと笑いを漏らした。


「人を生かす薬も人を殺す薬も、等しく尊ぶべき探究の成果だ」


 メイルは敬う様に青と黒の本を撫でる。


「探究の成果を生かすのは魔術士自身。探究の成果を悪とするか善とするかは、それを使う魔術士自身の心の問題。だから魔術士は魔術だけでなく己を見極め鍛えなければならない。強大な魔術を扱う時は、その影響がどこまで及ぶか、最大限、考えなければならない。欲や他人の意見に従うだけの楽な人生を選んではいけないよ」


 メイルの言葉に、弟子達は姿勢を正した。

 弟子達は強くなり、成長する事を喜ぶだけの、単純な時期はもうとっくに過ぎていた。まだまだメイルの足元には及ばず、もっと強くなりたいと言う向上心は持ち合わせていたけれども、強くなる事には途方もない責任を伴う事も分かっていた。メイルの言葉には、その責任を負ってきた、先達の重みがある。


 弟子達の引き締まった顔つきに、メイルは満足そうな笑みを浮かべる。


「あぁ、そうそう。惚れ薬のレシピならね、大図書庫に『薬草と精神の作用』っていう本にあったよ。ハーブを多用したなかなか面白いレシピだったなぁ。効能も惚れ薬とまでは行かないけど、リラックス効果とか上手く取り込んでて、あの香りなら大分、異性に好印象を与えるんじゃないかなぁ」


 ガタンッと弟子達が立ち上がる。


「『薬草と精神の作用』ですね?」


「大図書庫の2階、13書棚の中段ぐらいー」


 ダッと争う様に駆け出して行った弟子達を見送り、メイルは笑い声を上げた。

 いつだって大魔術士は弟子達の幸せを見守っているのだ。






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