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28 魔術の恩恵は

「あぁ、これは…」


 整然と並ぶ建物を見て、ミルドは嘆息した。


「完成するまでにあと3日って所ですかね?」


 ミルドの隣でメイルは呑気に説明している。木材を使った家が一つ完成する度に土の家を壊す予定だったが、村人達の強い反対により土の家もそのまま残っている。住民が増えたら活用したいと言われたのだ。


「家の中もあぁ、王宮と同じように魔石をふんだんに使った仕様なんですね…。とても便利そうだ。メイル様らしい…」


 もはや苦笑しかでないミルドに、メイルは首を傾げる。


「何かダメでしたか、ミルドさん?」


「…いえ。サーフ様もこれぐらいは想定の範囲内でしょう。メイル様、こちらの村の復興が終わるまで、私も滞在させてください。王都へは一緒に帰りましょう」


「はい!」


「これ以上変なことをしないよう監視だな」とラドとウィーグは察したが、口に出すことはしない。

 やり過ぎるメイルを止めるのは弟子達には無理なので、宰相の申し出はありがたかった。


「ラド殿!貴方がラド殿ですかっ!」


 メイル達が視察を続けていると、村の復興工事を進める一団の中から、満面の笑みを浮かべたフォレスが駆け寄ってきた。腰には赤竜討伐の時にメイルが手渡した魔力剣が提げられている。


 フォレスはラドの目の前で跪くと、ラドに向かって懇願した。


「ラド殿!どうかこの魔力剣をお譲りいただけないか?!」


「えっ?えっ?ちょっ、お、おやめ下さいっ!」


 辺境伯家の嫡男という、平民のラドからしたら雲の上の人に頭を下げられ、ラドは困惑した。オロオロと周囲を見回し、何のことかとメイルに縋るような目を向ける。


「あー、ほら。ラドが作った魔力剣、フォレス様にお貸ししたんだよー。赤竜討伐の時に」


「魔力剣って、えぇぇ!」


 ラドの目が驚きに見開かれる。確かにラドはスーランに協力してもらって作り上げた魔力剣の試作品を、メイルに渡していた。


「あ、あの、すいませんっ!それは人様にお譲りできるものではないんです。開発途中の試作品ですしっ」


 ラドは慌てるが、フォレスは必死に首を振る。


「いいえっ!この剣は私が使ったどの剣よりも素晴らしい剣です!私の魔力も馴染み、この素晴らしいバランス、切れ味。試作品などと御謙遜を…!私はもうこの剣以外、考えられませんっ」


「いえ、だけど…」


 魔力剣はフォレスの言う通り、実用に耐えられる仕様になってはいる。しかしラドにしてみればまだまだ開発途中なのだ。もっと魔力が乗るようにしたいし、自動修復や遣い手の自動回復機能も付けたい。

 それに何より、剣の茎の、柄の装飾で見えない部分に「試作品14号」と銘が彫られている。それはさも名工が鍛えた逸品に刻むような麗々しい字体で彫られているのだ。ちょっと課題続きでクサクサしていた弟子達が全力で悪ふざけをした剣を、他人にあげられる筈もない。


「あ、の、ごめんなさいっ。まだ本当に試作品なんです!完成する前の未熟なものを、お渡しする事は…」


「ええー。いいじゃない、ラド。私もいい剣だと思うよ?」


「メイル様はちょっと黙っててくださいっ!」


 鬼気迫るラドの様子に、メイルはぐむっと口を噤んだ。


「魔力剣、ですか?ラド君。そのような物の報告は受けていませんが?」


 ミルドが片眉を上げて、ラドを睨む。厳しい声音に、ラドは首をすくめた。


「…フォレス殿。そのような強力な武器について、王家への報告もなしに一貴族が持ったとしたら謀叛の意があると捉えられかねません。お気持ちは分かりますが、一度ラド君に剣を返し、王家への報告の後に譲渡の交渉をなさい」


「わ、我がルガルナ家は王家に叛意などっ!」


「分かっています。ですが何事も手順を踏む必要があるということです。あなたもいずれは辺境伯となる身。一瞬の付け入る隙も命取りになるのが貴族だということを、その身に叩き込みなさい」


 冷ややかなミルドの言葉に、フォレスはぐっと口を噤み、ラドへ魔力剣を手渡した。ラドはホッと息を吐き、魔力剣を収納魔法で仕舞い込む。


「…っ!」


 魔力剣が消えた瞬間、フォレスが泣きそうな顔で声にならない声をあげたが、ラドは見ない振りをした。



◇◇◇



「で、何をしでかしたのかな?」


 その夜、ルガルナ家でミルドを歓迎するささやかな晩餐を終えた後、メイルの家に戻ったラドとウィーグは、メイルに首根っこを捕まえられた。


「ふふふ、気になりますね」


 ミルドにまで一緒になって圧をかけられ、黙っていられるほどラドとウィーグは豪胆ではない。すぐに魔力剣の秘密について白状する羽目になった。


 実際に魔力剣の柄を外し顕になった刀身を見て、メイルは呆れ、ミルドは肩を震わせ静かに爆笑すると言う珍しい姿を見せていた。


「ほんっとうに、君たちってアホな事するよねぇ…」


 美しい『試作品14号』の文字に、メイルは心底呆れて言った。その無駄な努力を何か他に活かせないのかと。


「ふっ、ふふ。確かにこれは、フォレス殿には渡せない。ぷっふふふっ」


 笑いすぎて目元に涙を滲ませるミルドに、メイルは困った笑みを浮かべた。


「君たちねぇ、理由をつけてミルドさんが剣を取り返してくれたことに感謝しなさいよ。あぁでもしないとフォレスさん、ずっとこの銘が刻まれた魔力剣を大事にしてたよ。うっかり柄を外してこの銘を見られたら、立ち直れなくなっちゃうよ?」


 フォレスの、まるで宝を見る様な目つきを思い出し、ラドとウィーグは反省した。


 ラドがイソイソと刀身に手を当て、『試作品14号』をそっとなぞると、麗々しい文字が剥ぎ取られるように消える。こんなものサッサと消してしまった方が世の為だ。


「おや、随分と簡単に文字が削れるのですね?」


 ミルドがそう言うと、ラドは笑顔を浮かべた。


「剣の素材も僕が土魔法で成形したものですから、銘を彫ったのもその土魔法の成形の応用なんです。だから、消すのも簡単です」


 ラドは収納魔法に魔力剣を仕舞い、ほっと息をついた。


「は〜〜。バレなくてよかった」


「あんなに有難がられると複雑なもんだな…」


 ウィーグがしみじみ呟く。魔力剣作りには、ラド以外の弟子達も皆関わっているが、まだまだ改良できると言うのが彼らの一致した意見だ。


「まぁ、いまでも十分実用に耐えると思うよ?レポートも現状と改良点がよく捉えられてたしね?」


「レポート?」


 メイルの言葉に、ミルドが首を傾げた。


「はい。ラドを中心に魔力剣の開発をしているんですが、試作品一号ごとにレポートの提出があります。ラド、今持ってる?」


「はいっ!」


 ラドが収納魔法から取り出したのは、紙の束だっだ。それが紐で綴じられてあり、それが14冊ある。一冊が図鑑ほどの厚さがあった。


「…なるほど」


 パラパラとめくってみると、試作品1号からの魔力剣の歴史が紐解けた。論証と実験を繰り返した、なかなか読み応えのありそうな代物だ。


「…メイル様。他の課題も見せていただいても?」


 ミルドに問われ、メイルはしばし考え、収納魔法から課題の束を取り出す。


「沢山ありますよ。弟子達の能力を伸ばす訓練法とか回復薬の作り方とか」


 手渡されたそれらをパラパラと捲り、ミルドはため息を吐く。


「メイル様。こちらの成果をどうなさるおつもりですか?」


「どう、とは?」


「素人判断ではありますが、どれも魔術士にとっては画期的な研究成果といえます。回復薬のレシピ一つにしても巨万の富を得られる代物です。もしこれらがどこぞの貴族家で開発されたものでしたら、その技術や製法などを独占して富と権力を手にする事でしょう。国のパワーバランスも崩れかねません」


 ミルドの言葉に、メイルはニコリと微笑む。


「『魔術の恩恵は世界に返せ』。師匠の言葉です」


 ミルドから受け取った弟子達のレポートを開き、メイルは嬉しそうにその表面を撫でた。


「魔術士は全ての魔術の探求者。日々怠るなかれ。その恩恵は世界より受けし実りの果実。魔術の恩恵は世界に返せ」


 ミルドの目を、メイルは真っ直ぐに見つめる。

 青の湖を写したようなその静かな美しさに、ミルドは魅入られた様に目が離せなかった。


「魔術士たるもの、世界の導きで得た果実を、独占する事は許されません。しかし、俗世はそのような綺麗事を赦すほど、甘くはない事も承知しています。妨害もあれば私たちを取り込もうと圧力がかかることもあるでしょう。しかし私は、この子達にこの教えを引き継いでいきたいのです」


 ラドとウィーグは力強く頷く。ここにファイとスーランがこの場にいたとしたら、彼らも同じように頷いていただろう。

 己の探求の成果が世に出て人の役に立つなんて、魔術士としてなんと誇り高いことか。


 弟子達のキラキラした様子に、メイルは笑みを深くする。


「もしこの子達の成し遂げた事を世に出す時は、ミルドさんも協力して下さいませんか?どうか我ら魔術士に、恩恵を世界へ返す栄誉をお与え下さい」


 真摯なメイルの言葉に、ミルドは胸を押さえる。

 この美しい青の瞳が悲しみで翳ることなど、あってはならない。そのためならばこの身など惜しく無い。


「勿論です、大魔術士様。ジャイロ王国の全て、いえ、私の全ての力を貴女に捧げると誓いましょう」


 熱の籠った目で、メイルを見つめその手に口付けるミルド。


 つまりは課題の成果によって生じる、貴族や何やらからの圧力やら妨害やら面倒な管理やらは、全部ミルドさんに、ジャイロ王国に押し付ける気だよなぁと、ラドとウィーグは正確にメイルの狙いを読み取った。


 弟子達はメイルの師、大魔術士アーノルド・ガスターを思い出していた。

 

 メイルの思い出話の中で語られる彼は、魔術士としての伝説的なエピソードも多かったが、何より天才的な人たらしだったという。


 その片鱗が、紛れもなくただ1人の弟子であるメイルに引き継がれているのだと、弟子達が確信を持った瞬間だった。




 

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