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25 ルガルナ復興計画

「大地の恵み」


 メイルの力ある言葉に、赤竜のブレスで焼け野原となっていた大地がみるみると緑を取り戻す。

 竜のブレスは魔力を纏う。土に吐かれると魔力で土が汚染され、暫く作物を育てることができなくなる。そんな土地を、メイルは土の魔力で上書きし、恵みをもたらすための術式を組んだ。


「清流の恵み」


 こちらはスーランが、同じく赤竜のブレスで干上がり汚染された河を水魔力で上書きする。どちらも膨大な魔力を要するが、メイルもスーランも汗ひとつかいていなかった。どれほどの魔力量なのかと、付き従うシリンは冷や汗をかいた。


「はい、木材持ってきたよー!大工さん達、よろしくー!力仕事とか高い所での作業なら手伝えるから、遠慮なく言えよー」


 ちょっと離れた森に木材調達に行ったはずのファイがもう帰ってきた。どこからともなく大量の木材を取り出し、周囲から響めきが起きる。


「えーっと、もう怪我人の手当は終わったんだよね?」


「は、はいっ!すべてお弟子様達に癒していただきましたっ!」


 側に控えるシリンが、メイルの言葉に食い気味に答える。

 メイルは既視感を覚えた。この、メイルの一言一句を絶対に聞き漏らすまいとする態度、誰かに似ている。暫し考え、王宮魔術士ジグのちょっと逝ってる時の顔が思い出された。そうか、魔術バカ(同類)か…。


「家を焼かれた領民は、今はどうしているの?」


「森の中に壕を掘り、そこに隠れ住んでいます。一つの村がほぼ焼かれましたので、世帯数で言えば…村長、何世帯ぐらいだ?」


「は、はいぃ!ワシらの村は32世帯、村の総数は89名でございますです!あ、トムの嫁のヘレナの腹に今4人目の子がおりますですので、産まれたら90人になりますです、大魔術士様ぁ!」


 軍隊の新兵のように美しい直立不動で号泣しながら叫ぶ村長。村人や兵達の怪我を全て癒やし、穢れた土地と河を浄化するのを目の当たりにして、村長の言動は神を前にした信者のようになっている。普段は物静かな人らしいが、色々と振り切ってしまっていてちょっと怖いとメイルは思った。


 メイルは暫し考え込む。ファイが材料を調達してきたが、それを使ってもその人数分の家はすぐにはできない。


「そっか…。じゃあ仮の家でも作ろうか」


 メイルはそう呟き、草の生え始めた地面を見つめる。


「あっちから家を建て始めるとして、うーん、こんな感じで配置して…」


 拾った木の枝で地面に家の配置を描いてみる。シリンと村長が食い入るように見つめる。


「ふむふむ。こんな感じなら本物の家を建設中でも邪魔にならないかな。スーラン、ファイー!」


 メイルの呼びかけに、弟子たちはピュンと飛んで集まる。


「どうしました、メイル様?」


「んー。仮の家を作るから、魔石ちょうだい」


「はい。でもあんまり手持ちがないですよ?流石に4大竜の魔石は威力ありすぎますよね?」


 ひょいとファイが出したのは赤ん坊の頭よりも大きい赤い魔石だ。村長とシリンがギョッとする。


「ははは。家が燃えるよー。ちょうどいいぐらいの魔石はないの?」


「うーん。試作の剣に使うからと、ラドに渡しちゃったんですよね。狩ってきます?」


「お願いしようかな。そうだなー、32戸分ね」


「分かりました。ファイ、どこか魔物が多いとこ行こうぜ」


「さっき木材採ってきた森に、良さそうなのがウヨウヨしてたぞ。シリン様、北の方の森の魔物を狩ってもいいですか?」


「北の森…。もしかして『絶望の森』のことでしょうか?あの森の魔物は強いので、地元の者は誰も近付きません!近年は魔物が増えすぎて、時折、近くの村にも被害が!」


 シリンは驚愕して叫ぶ。辺境軍も一個中隊を組んで入る森だ。それでも危険が伴うというのに!


「あー、そうなんだ。じゃあ適当に間引きしておいでよ。でも生態系を壊さないように満遍なく狩るんだよ?調子に乗って狩りすぎないようにね?あと、炊き出し用に美味しい魔物もよろしく。野菜も欲しいから食べられる野草と木の実、キノコもよろしくー。あ、木材も忘れないでね」


「うわ。注文多いな」


「ったく。子どものお遣いかよ」


 メイルは地面に配置図を描きながら、弟子たちを見ずに言う。


「文句言わずに行きなさい。課題増やすよ?」


「誠心誠意務めさせていただきます!」


「はい喜んでー!」


 赤竜との戦いでの減点で、山のような泣きそうな課題を出された弟子たちは、素直に一礼して北の森に向けて一直線に飛んで行った。メイルの課題は心を抉る難しさなのだ。増やされてたまるかという気持ちが溢れた逃げっぷりだった。


「村長さん。こんな感じで仮の家を作るんですけど、この配置で問題ないですかね?本物の家ができたら順次ここから壊して移動する感じで…」


「は。は?はい?仮の家?いや、配置などは今の豪での雑魚寝に比べれば何も気になりませんですが、仮の家とは…?」


「いやー、作る前にね、ほら、この家がこっちの家の光を遮りそうとか、洗濯物が丸見えになっちゃうとか。生活していく上で支障がないか確認して欲しいんですよ」


 そう言われて、村長はメイルの家の配置図をマジマジと見る。


「そ、そうですね。こちらは崖になっているので、少し離した方が。雨になると土砂が流れることがあるので。それと、河があまり近いと、やっぱり雨の時が心配なんで…」


「なるほど。じゃあ、この4戸はこちら側で、そうするとここが少し狭くなるから、こっち側に…」


 メイル、村長、シリンで頭を突き合わせ、ああでもないこうでもないと議論を重ねた結果、どうにか上手く配置ができた。その地面の配置図をシリンが紙に写し描く。


「よーし。それじゃあ始めますか!」


 メイルはうーんと伸びをして、そのまま魔力を練り上げる。土の魔力に干渉し、土を増大させ、みるみると形作っていった。

 シリンと村長の目には、土が勝手に練られ、家の形になったように見えた。地面から土がニョキニョキと伸びて行き、ご丁寧に家の間仕切りも同時に作られている。窓らしき穴やドアらしき穴を残し、屋根の形まで作り上げてようやく土の動きが止まる。


「うん、こんな感じかな。人型は苦手だけど、家の形は得意だもんね」


 メイルは満足気に息を吐く。死んだ目をした土人形は弟子たちに悪様に言われたが、これなら文句もないだろう。


「村長さん。窓ガラスは磨りガラスがいいかな、普通のガラスがいいかな?仮の家だしカーテンつけるの大変だから、磨りガラスにしとく?あーでも、カーテンなしなら朝とか眩しいかなー?」


 メイルは村長に意見を聞くが、村長は目を見開いたまま出来上がった土の家を見つめていて微動だにしない。メイルのどうでもいいと言えばどうでもいい質問は全く耳に入っていなかった。


「それともいっそステンドグラスにでもする?ちょうど色々なガラス素材を持っているから…」


「メイル様ぁ!!」


 メイルのどうでもいい提案を遮り、シリンがメイルの足元に滑り込みながら平伏し、ガバリと顔を上げてギラギラした目を向けてくる。


「今の!今の御技は?今のは土魔術でございますよねっ?いったいどういった魔術式をお使いなのでしょうか?土魔術の造成を発展させたものとお見受けいたしましたが!!!」


「シリンさん、額!擦りむいているよ!血が出てるよもー」


 メイルが治癒をかけるとうっとりとした顔になる。正直、気持ち悪い。

 暫くうっとりしていたシリンだったが、はっと正気に戻り土の家に飛んでいくと、その材質や硬さなどを具に観察し始めた。


「これは…!この硬くしっかりした壁…!ただの土を盛ったものではないっ…!硬化の魔術陣と、何だ?見た事のない魔術式だ…!く、くはははっ、面白いっ!さすが、大魔術士様の魔術!難しいが、解読をするのが楽しい、くっはははははははははっはぐはげぐはっ」


 泣きながら笑うシリンが噎せこむのを、残念なものを見る目で村人達が見ている。うん、気持ちはわかる。


「すげー!家だぜ!?」


「前の藁ぶきより断然いいんじゃないか?」


「このいえに住みた〜い!」


 村人達がワラワラと土の家に集まってくる。中に入り、部屋の様子や間取りを見て、興奮状態だ。


「だ、大魔術士様っ!この家に住んでもよろしいのでしょうか?」


 村長が涙と鼻水を垂らしながら聞くと、メイルは眉を顰めた。


「ちゃんとした木の家が建つまでの仮の家だよ?この家はあまり耐久性が高くないんだよね。多分、30年ぐらいしか保たないし、竜に踏み潰されたら壊れるし、ブレスは防げないし」


 メイルの言葉に村長はポカンとする。今まで村で住んでいた家は木材を使った簡単な作りの家だ。メイルの弁が確かなら、今まで住んでいた家より遥かに丈夫そうなのだが…。


「だ、大魔術士様!普通、き、木の家でも竜の攻撃には耐えられませんぞ?!」


 村長が叫ぶと、メイルは心底不思議そうに首を傾げた。


「え?なんで?」


 普通は防げるだろう。竜の攻撃ぐらい。


 師匠がまだ生きている時だが、通りすがりの青竜が、虫の居所が悪かったのか、メイル達の家に突然ブレスを吐いてきたことがあった。その時はちゃんと防いでいた。


 ちなみに青竜は当時師匠が練習していた「逆立ちしたまま足から出す3種の魔術陣」の餌食になった。魔術陣は青竜だけでなく近くの林も巻き込んで丸坊主にしてしまい、近隣の村にお詫びの品を持って謝罪に行ったのはメイルだ。凄く怒られた。師匠は逆立ちの時に首をグネって寝込んでいた。腹立つ。


「対物理と対魔術の魔術式で強化して、状態維持の魔術式を重ね掛けすれば、竜の攻撃なんて簡単に防げるよね?村に魔術士がいないんだから、せめて家ぐらいは強化したほうがいいんじゃない?救援が来るまでは家に篭っていれば危険は無くなるんだからさ?」


 そう言って、メイルは積まれた木材に魔力を流す。対物理と対魔術の魔術式を付与された木材は、虹色の光を一瞬纏って、元の木材の色に戻った。


 メイルが両手を広げ、魔力を練り上げ始めた。土が均され、硬化され、礎の上に木材が組み上がっていく。床が組まれ、壁が組まれ、屋根が出来る。先程の土の家と同じく、部屋の間仕切りや水場まで、瞬く間に出来上がった。木の香りのする、丸太を組んだ立派な家だ。


 もはや村長は驚くことも忘れ、脱力した。気を抜くと、意識を失いそうだった。人間は奇跡を見すぎると、脱力するのだと初めて知った。


「ほらね?やっぱりこっちが作りもしっかりしてるよ。とりあえず木材と魔石が揃って、大工さん達の細かい内装工事が終わるまでは仮の家ねー?」


 軽く笑うメイルに、村長もシリンももはや頷くしか出来なかった。


 ちなみに弟子達もちょっと練習したら家を作れるようになった。「これ魔力調整の鍛錬に丁度イイ!!」と嬉々として作るファイとスーランの姿を見て、村長とシリンは、普通って何だっけと思う様になった。





















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