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2 結局こうなる

「ちっ、仕方ない。ジャイロ王国に行くか」


 かなり一方的な遺産で、受け取る気も無かったが、根が真面目なメイルは、聞いたからには放っておくことはできなかった。阿呆で馬鹿で無計画でだらし無くていい加減で適当な師匠だったが、一応育ててもらった恩人だ。17年で、体感的には100年でその恩は返し終わり、逆にこっちが貸しを貯めていた状態だったが、まあ、最期の願いぐらい聞いてやらんでもない。


「しかしジャイロ王国。微妙に遠いな。ここから日帰りって訳にもいかないし」


 メイルは師匠と住んでいた家を見上げてため息をつく。元は師匠が建て、メイルが改良した家だ。愛着がある。魔石に水の魔力と火の魔力を込め、台所と風呂に設置し、蛇口を捻ればいつでも水とお湯が出る。火の魔石を台所の竃に設置し、煮炊きは自由自在。風の魔石と火の魔石と氷の魔石を各部屋に設置して空調も万全、掃除も防汚の魔石を各部屋に設置して手をかざすだけで綺麗になる。吸汚の魔石も作り、トイレに設置。排泄物も綺麗に消してくれる。

 

 せっかく改良した家を出るのは嫌だ、というか、この生活に慣れているのでここでしか暮らせない。たまに買い出しなどで近くの村に行ったりするが、水は井戸か川から汲み運び、糞尿は垂れ流し、夏は暑く冬は寒い。メイルには耐えられない。


 とりあえず、師匠の生活スペースを片付ける。師匠の部屋はなんだか分からない標本や本や落書きみたいな紙が散らばっていて汚い。触るのが嫌なので魔術を使うことにした。


仕分けろ(ソート)


 メイルの魔力が満ちて、重要度順に師匠のモノが仕分けられた。重要度の高い物は貴重な本、実験器具、素材、印章のついた手紙等々。

 重要度の低い物はゴミ、干からびた素材、ハート型の普通の石、裸の女の人が描かれた落書き。子どもの引き出しの中か。

 ちなみに重要度の高い物の中に、箱入りのエロ本があった。メイルは腐った魚を見る目つきで、それは残しておくことにした。一応、重要度が高いから。


 なんの感傷に浸ることもなく、師匠の部屋を綺麗に片付けた。元のゴミだかなんだか分からないものでごちゃごちゃした部屋が、綺麗に整理整頓されている。いらないゴミはまとめて火魔術で処分して終わりだ。所要時間15分。掃除も完了した。


「そうだ、家ごと収納して持っていこう。テント代わりに」


 ジャイロ王国まで馬車で10日、魔術で飛んで3日ぐらい。どっちにしろ野宿は必要なのだ。それなら家ごと移動したほうが効率がいい。家を出せるスペースがなければ、普通に野宿したらいいし。


 あっさりそう決めて、メイルは家の外に出て収納魔術で家を収納した。

 面倒くさがりの師匠と違い、メイルは即決、即行動が信条だ。後回しは性に合わない。

 地図を開き、ジャイロ王国の方角を確認する。その方向に飛べば、ジャイロ王国に着くはずだ。こういう大雑把なところは、師匠の影響だろう。


「よし!行くか」


 とんっと地面を蹴って、メイルは一路、ジャイロ王国を目指した。



◇◇◇


 携帯用の干し肉をモシャモシャ齧りながら、メイルは師匠の遺品の中から見つけた、印章付きの手紙を読んでいた。

 ちなみに、干し肉はメイルの手作りだ。冒険者用に携帯干し肉は売られているが、売り物の干し肉は硬くて塩辛い。メイルの干し肉は改良を加え、風味豊か、ジューシーさを保ちつつ保存期間が長い。旅の途中であっても、不味いものは食べたくない一心で作ったものだ。そういう携帯食を、メイルは収納魔術に大量に仕舞っている。その気になれば街一つ丸々3ヶ月養えるぐらい持っている。「備えは万全に」もメイルの信条の一つだ。


「あのオッサン、封も開けないまま仕舞い込んでたな」


 手紙は開けられた形跡はなかった。差出人はジャイロ王国の7代前の国王。邪竜を封じた時の協力者で、当時は王太子だったらしい。邪竜封印後はその功績を称えられ、すぐに即位したようだ。

 手紙には、アーノルドに対して邪竜封印したことへの感謝の言葉、邪竜を完全に倒して欲しいという請願、邪竜討伐に対する恩賞など。恩賞の内容は爵位を授けるや、ジャイロ王国内で名誉ある地位に付ける等だった。


「オッサン、これが嫌だったんだろうなー」


 純粋に面倒だったのも本当だろうが、爵位や役付になるのが嫌だったのだろう。他人を気にしない、自由気ままな生活を送っていたから。それでどうしようかなーとウダウダしているうちに400年経ったと。

 

 アーノルドは面倒くさがりだったが、約束を違える人ではなかった。ちゃんと邪竜を討伐する気はあったのだろう。400年も邪竜退治をやらなきゃなーと心の隅に引っかかったまま生きてきたのか。さぞかしスッキリしない人生だったろうな。


 そして結局、尻拭いをするのはメイルなのだ。

 こういうのが積もり積もって貸しを貯めたのだが、結局返さないまま逝ってしまった。メイルは食い逃げされた店の店主みたいな気持ちだった。


 食事を終え、身体に清浄(クリーン)の魔術をかける。スッキリした気持ちで寝る準備を整えた。

 今日は普通に野営をすることにした。空を飛んでの移動だったが、暗くなると方向が分からなくなる為、早めに地上に降りた。そこが森の中だったため、家を出すスペースがなかったのだ。


 メイルは形見のローブにくるまって、目を閉じた。別に、師匠を偲んでローブを使っているわけではない。

 メイルの中で、形見のローブは「汚れてもいい服」扱いだ。大掃除の時に着て、汚れたり破れたりしたらゴミと一緒に捨てるアレだ。

 アーノルドがずっと着ていたローブなので心理的な抵抗はあったが、30回ぐらい清浄(クリーン)の魔術をかけたので嫌悪感は薄れた。一回かけるだけで全ての汚れや臭いが落ちる便利な魔術だ。30回もかければ、染み付いた加齢臭もぬけるだろう。

 このローブを着なければ、自分のお気に入りの服やローブを、直接地面に引いて寝なければいけない。それは避けたかった。


 形見のローブを仕舞い込まず有効活用できた。師匠も草葉の陰で喜んでいるだろう。良い師匠孝行が出来たと、メイルは満足な気持ちで眠りについた。









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