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12 竜狩りと修行の弊害

 黒峡谷にて。

 ファイ、スーラン、ラド、ウィーグは4大竜狩りに精を出していた。


「ウィーグ、そっち1匹行ったよー」


 ラドが赤竜に土魔法で作った岩を鋭く尖らせたものでトドメを刺しながら、青竜を相手にしているウィーグの後ろから迫る黄竜に注意を向けさせる。


「分かってるよ、風刃(ウィンドブレード)


 2匹同時に首を風で切り飛ばし、危なげもなく狩りとる。


「おーい、ソロソロ16匹じゃねぇ?」


 ファイがビクンビクンしている緑竜を片手で引きずってくる。何をしたのか白目を剥いて痙攣していた。


「うわー。ファイ、その緑竜になにしたの?」


「ん?メイル様みたいに心臓に雷撃。でもちょっとハズレたみたいで全身痺れさせちまった。難しいよなー、探索と一緒の雷撃って」


 頭をガリガリ掻いて悔しがるファイに、ウィーグがうんうんと唸る。


「あー、俺も全然上手く出来なかった。探索に集中すると雷撃がブレるんだよなー」


「それならスーランが一回成功させるのボク見たよ!」


 ラドが目を輝かせてスーランを指差した。


「マジ?スーラン!雷撃と探索、どうやって成功させたんだ?なんかコツがあるのか?」


 スーランは少し遠い目をした。


「メイル様にコツを聞いたら、練習あるのみ!って言われたから、5千回ぐらい練習した。そしたらたまに当たるようになった。あれは、繰り返す事でコツが掴めるようになる」


「マジかー」


 ファイはガックリと落ち込む。しかしすぐに顔を上げた。


「でも数をこなせばモノになるんだよな!よし!オレ、次の課題はコレにする!」


「えー!ボクと一緒に魔術剣の試作を作るって言ったのに!」


 ラドが涙目になって頬を膨らませる。


「俺が手伝うよ。火じゃなくてもいいんだろう?」


 ウィーグが困ったように笑う。


「難しいよな、土じゃ」


「うん…。剣から飛び出すのが炎や氷、風ならいいんだけど、ちょっと土はねぇ」


 魔術剣の試作をしたいのはラドだが、一番得意な土魔術が剣から飛び出すのは、悪くはないがビジュアル的にパッとしない。ラドも他の魔術も使えるが、やはり適性が1番高いものを付与したい。


「でも剣の素地を作るのはやっぱり土魔術じゃなきゃな!お前の錬成、すごいもんなー」


「フフ。ありがとう、ウィーグ」


 キラキラした目で素直に褒めてくれるウィーグに、ラドは照れてお礼を言った。


「おーい。ヤバイぞ。竜が34匹いる」


 スーランがポリポリ頬をかきながら、竜の屍の数を数え、冷静な声で言った。


「は?マジで?やべぇ、雷撃試しすぎたか?!」


「あ、ごめーん、ボクもノルマ以上に狩っちゃった!」


「俺も」


「俺もだ」


 周囲を見て、気づけば辺りは魔物の屍の山ができている。


 4人は慌てて探索を黒峡谷全体に掛けた。


「あ、大丈夫だ。まだいっぱいいるね」


「あー、焦った。全部狩り尽くしたかと思ったぜ」


「はー。メイル様に怒られるとこだったよ」


「いや、多分この量持って帰ったら怒られるんじゃないか?」


 安心するファイ、ラド、ウィーグに、スーランが突っ込む。


「いや、収納魔術で隠して持って帰れば大丈夫だよ」


「よせ、秒でバレる」


「ダメだよ!絶対バレるよ」


「隠し通せると思うか?」


 ウィーグの気楽な言葉に、ラド、ファイ、スーランは即否定した。無理だ、あの人に隠し事なんて。


「仕方ねぇ。潔く白状して謝るぞ!」


「そうだね」


「一番早く許してもらえるのはそれだな」


「お仕置きが恐ろしいけどな」


 4人はせっせと魔物を収納すると、帰りを急ぐことにした。



◇◇◇



 王宮に戻った4人は、さっそくメイルに怒られた。


「ちゃんと狩った魔物の種類と数をお互いチェックしなさいって言ったよね」


 腰に手を当て、メイルはぷりぷり怒っていた。


 やはり秒でバレた。

 帰るなり魔物を収納魔術から外に引っ張り出され、仕分け(ソート)で綺麗に分別された。竜が34匹、その他魔物が75匹。ほんの数時間の狩りで何故こんなに狩ってきたのか。


「もう!こんなんじゃ外出許可出せないよ?こんな調子で狩ってたら、黒峡谷から魔物がいなくなっちゃうからね?」


 4人もちゃんと最初は数と種類を確認していたのだ。しかし色々魔術を試すうちに、夢中になって狩りまくっていた。


「魔術士たるもの、いつでも冷静に己の魔力量を意識しなさい!肝心な時に魔力切れになったらどうするの?」


 4人の魔力は修行の成果もあり、爆発的に増えていたが無限ではない。4人は素直にメイルの言葉に頷き、反省した。


「それじゃ罰として課題ね。今王宮に結界(シールド)掛けているのは分かるよね?竜の魔石に、結界(シールド)を付与して同じ効力を保てる様にすること!4人の共同課題とします」


「「「「えーっ」」」」


 なかなかエグい課題が出された。まだ4人は結界(シールド)を上手に張ることが出来ないのだ。


「ヤバイ、死んだ。俺、細かい制御苦手なのに。絶対燃やす自信がある」


「大丈夫だよ、ファイ!この60年、それを繰り返して段々上手になったじゃない」


「ラド、実は一番打たれ強いよな。俺はお前を尊敬するぞ。俺はここ一番厳しい課題だと思う」


「スーランの言う通りだよ。あー、くそう、調子に乗り過ぎたー」


 反応は様々だが、やれば出来る子だとメイルは分かっていた。途中で投げ出すこともしない。何年掛かるかは分からないが。


「あれ、黒鳥(ブラックバード)もいたの?」


 メイルは魔物の山を何気に見ていて、嬉しそうな声をあげる。


「あ、はい!結構いっぱいいたので、雷撃の的にしました!」


 ファイが恐る恐る報告する。その名の通り、黒い大きな鳥型の魔物で、風魔術を飛ばしたりその鋭い爪で襲いかかってくる。ちょうど良い的だったので、雷撃の練習に使った。


「この鳥、肉が美味しいんだよね。骨からもいい出汁が取れるし。血を増やすから、貧血の改善にも効果的なんだよー」


 メイルは懐かしむ様に言った。


「昔さぁ、師匠がこの肉美味いって酔って馬鹿みたいに狩っちゃって。全然見かけ無くなってたんだよね。良かった。しばらく狩るの控えてたから無事に増えたんだね!」


「増え過ぎてます。獰猛な魔物ですから、たまには狩った方がいいと思います」


 群れで襲いかかってきたのを思い出し、ファイは顔を顰めた。


「そうなんだー。あ、このお肉、妊婦さんには最適なんだ!王妃様にも献上していい?」


「どうぞどうぞ!いくらでも持っていって下さい!」


 ファイは快諾する。ファイも実の姉が出産したことがあるので、妊婦の大変さは知っていた。


「じゃあ、夕食までの時間で、解体作業していてねー」


 献上用の黒鳥(ブラックバード)を1匹抱えて、メイルは調理場へ足取りも軽やかに向かった。



◇◇◇



 解体を終えた弟子達は、沢山ある魔物の肉を他にも差し入れしようと相談した。

 貴族出身の者が多い侍女達は、大魔術士隊に対して冷ややかで仕事もまともにしない。掃除などは自分で出来るので問題はないが、料理や洗濯は調理場やリネン室に直接持っていっていた。頻繁に調理場やリネン室に出入りするうちに、弟子達は侍女達を通り越して料理人たちや下女達と親しくなった。普段お世話になっている料理人や下女達に、差し入れをしようと思ったのだ。

 魔物の肉は美味だが高級品だ。今回狩ったのは高ランクの魔物なのでさらに値段は跳ね上がる。4人では食べ切れない量が有るので少しぐらいいいだろう。


 実際は10日振りに、感覚的には60年振りに王宮の中を歩く。使用人達が多く働く棟に向かっていると、スーランに向かって声がかけられた。


「そこにいらっしゃるのは、大魔術士様の部下になられた、スーラン様じゃありませんか」


 スーランが所属していた水の魔術士隊のローブを着た男3人が、ニヤニヤしながら近づいてきた。


 スーランは3人をしばし見ていたが、気まずげに顔を逸らした。


「いやー。水の魔術士隊から大魔術士様の部下なんて、大出世だよなぁ!平民で隊でもミソッカスだったお前がさぁ」


 男たちはスーランにニヤニヤ笑いかける。


「大魔術士殿はお美しいからなぁ。陛下がお忙しい時は、お前たちがお相手をするんだろ?良かったなぁー、役得だよなぁ」


 何がおかしいのか、男たちは下品な笑い声をあげた。

 スーランは気まずげに顔を逸らし続け、ファイ、ラド、ウィーグは何も言わずただ黙っていた。


「ちぇっ!なんとか言えよ。つまんねぇな、おい、行こうぜ!スーラン!せいぜい飽きられない様に気をつけろよ!」


 男たちはスーランが何の反応もないことに飽きたのか、舌打ちをしてさっさと行ってしまった。


「頭の悪そうな連中だな。水の魔術士隊の奴らだろ?第3部隊のやつら?」


 ウィーグがスーランに聞くが、スーランは気まずそうに目を逸らしたままだ。


「どうした?スーラン?」


 4人は先程の男たちの言動に、全く怒っていなかった。メイルとの修行で、魔術士は感情を簡単に揺らすなと叩き込まれているし、大魔術士の部下として配属されたことは幸運だったと今なら分かる。格段に、嫌、10日前とは次元が違うぐらい強くなったからだ。

 だからスーランが水の魔術士隊の元同僚に会ったからといって、悔しいとか恥ずかしいとか思うはずもない。しかしスーランは先ほどから視線を泳がせたままだ。


「マズイ…」


「何が?」


「さっきの3人、隊の中でもよく絡んでいた先輩達なんだが」


「うん?」


「…名前が、思い出せない」


「は?」


 ウィーグが目を丸くする。4人の中で一番冷静で論理的で細かいところにも気付くのがスーランだ。その彼が、名前が思い出せない?


「ここまで出てるんだけど…、何だったかな?結構良くある名前で、ジム?サム?あれ、貴族だったよな?苗字何だったか…」


 スーランは必死に記憶を掘り起こす。


「あー!!」


 その時、ファイが大声を出した。


「わっ!ファイ?ビックリさせるなよ!」


 ウィーグが耳を押さえて抗議する。


「お、俺も覚えてない、同僚の名前…」


 真っ青な顔で、ファイが呟く。


「覚えてるのは何人かはいるけど、結構、顔と名前が一致しない」


「ボクも…。えっと、第3部隊の人はなんとか覚えてる…かな?」


 ファイに続き、ラドも青ざめた顔をしている。


 ウィーグは首を傾げ、自分も元同僚達を思い出す。しかし記憶が鮮やかなのは、メイルの元で送った、濃く厳しい修行の日々ばかり。緩い雑用仕事をこなしていたあの頃の事は、霞がかったように遠い。


 4人が大魔術士の部下となったのは10日前。

 しかし、体感的には60年振りなのだ。

 仲が良く、一緒に愚痴りながら仕事をしていた同僚のことは覚えているが、それ以外はうろ覚えだ。


 4人は思った。これは色々とマズイと。

 あの特殊な空間での60年で、彼らの知ってた常識は悉く覆された。

 初めて会った時、メイルは常識に縛られないと思ったが、どちらかというと4人の思考は現在、メイルに近くなっている。浮世離れしているといえる。


「と、とりあえず。元の隊の名簿を見て思い出そう」


「ボク達、何か他にも大事なこと忘れてないかな?」


「メイル様にも、相談しようぜ」


 顔を青くした4人は、慌てて自室へ引き返したのだった。

 








 

 














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