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60話 モース03

「ハリーウィンス国から、君を引き渡せとの命令が来ているのだが……」

 

 ハンターギルド・モースのギルドマスター室。

 いつもより疲れを感じさせる表情で、ギルドマスターのフリード・リッヒはソファに座っていた。

 それもそのはず。

 今回は。ハリーウィンス国の国王からの直々の命令である。

 平民であれば、承諾以外の返答が許されない事態である。

 が、幸か不幸か、ハンターギルド・モースは、拒否ができるのだ。

 ハンターを管理し、不当な扱い――例えば、王族の命令によりハンターを兵器のごとく扱うことを防ぐために、モースのギルドマスターは、王族からの命令さえ拒否する権利を有している。

 もっとも、拒否するためには正当な理由が当然必要となり、一言でも回答を誤れば王族への不敬と扱われ、処罰されかねないのだが。

 それゆえの、フリード・リッヒの疲労だ。

 ラウンドが応じさえすれば、そもそも無用な心配ではあるのだが。

 

「面倒だ。断る」

 

 対面に座るラウンドの言葉は、フリード・リッヒの予想通りの物だった。

 長い付き合いだ。

 ラウンドがなんというか、一言一句違わずに予想もできていた。

 ならば、フリード・リッヒの仕事は、ラウンドを説得してハリーウィンス国へ連れていくか、拒否の返答を書くかの二択である。

 ラウンドに非があるか否か、その答えを求めて、フリード・リッヒは口を開く。

 

「引き渡しの要求理由は二つ。ハリーウィンス国への不法入国と、ジルコンのダンジョンの石の所有権について話がしたい、と」

 

「……」

 

「断るにしても、まずは君の言い分が聞きたい」

 

 ラウンドは、顔をしかめ、テーブルに置かれている紅茶を一口飲みながら考える。

 基本的に、ラウンドは自身の行動への理由付けは得意ではない。

 とはいえ、言い分が一つたりともない場合、無条件で引き渡す方向で話が進みかねないと判断し、面倒ながらも自身の行動を振り返る。

 

 まず、ハリーウィンス国の不法入国。

 ラウンドがハリーウィンス国に入国したこと、そして入国時に国境を守っていた兵の言葉を無視し、さらには兵を倒したことも事実である。

 事実だけ読めば、不法入国と言える。

 一方で、モースの管理下にあるハンターギルド所属のハンターは、迅速に被害を抑制する目的で、ダンジョン討伐時に限り、手続きなしでの入国が世界法律によって許可されている。

 ラウンドが国境に到着した時点で、ハリーウィンス国にはジルコンのダンジョンが出現していた。

 そのため、ラウンドは世界法律によって手続きなしでの入国が許可されており、むしろそれを止めようとした兵が誤った行動だと考えられる。

 

 次に、ジルコンのダンジョンの石。

 ジルコンのダンジョンの石をラウンドが入手し、ダンジョンの戦利品についての分配をハンターギルド・ミックスと交渉しなかったことも事実である。

 通常、ダンジョン討伐を複数ギルドで行った場合、その戦利品はダンジョン討伐の貢献度を考えたうえで分配するルールがあり、今回のラウンドの行動はそのルールに反しているといえる。

 一方で、ジルコンのダンジョンの石以外の全てを置いてきた――つまりミックスの取り分としている。

 金銭的価値だけを考えると、配分としてはミックス側が過剰な配分となっており、それが交渉なしの詫びになっていると考えられる。

 

 まとまった考えを、フリード・リッヒへと説明する。

 フリード・リッヒはふむふむと聞いた後、ソファにもたれ、目を閉じて右手で額を抑えた。

 ラウンドの回答は、見方によっては間違ってはいないだろう。

 一方でのハリーウィンス国の言い分はこうだ。

 

 不法入国については、手続きなしでの入国が許されるのはダンジョン討伐時に限られており、あの時点でハリーウィンス国は自国での討伐を決め、他国からの援軍を不要としていた。

 よって、他国から来たラウンドにはダンジョン討伐時という前提が当てはまらず、不法入国に該当する、と。

 

 ジルコンのダンジョンの石については、金銭的価値ではなく研究的価値や今後の戦力的価値を考えれば、妥当な分配とはならない。

 そもそも、妥当な分配のためには、双方の合意が必須であり、それを放棄したラウンドの行動はハンターのルールにそぐわない。

 よって、合意の場を設け、ダンジョンの石を含めた分配の対談が必要である、と。

 

 双方、異なる言い分。

 双方、異なる着地点。

 フリード・リッヒは頭の中で、ラウンドへ正当性を与えるための言い回しを考える。

 意見が対立した場合、他の七ヵ国の議論にて結論を下される可能性が高い。

 ならばとハリーウィンス国の国王がすべてを否定できない言い分と、七ヵ国が双方の言い分を比較した時、ラウンド側の言い分により是があると考えるような言葉を組み立てる。

 

 時間が流れる。

 言葉がまとまった頃には、目の前の紅茶が冷め切っていた。

 フリード・リッヒは額から手を放し、目を開けた。

 

「紅茶、お取替えしますか?」

 

「いや、いい」

 

 駆け寄ってくる職員の提案も手を広げて制し、その手でカップを掴んで紅茶を一口飲む。

 

「うむ、うまい」

 

「終わったか?」

 

 対面に座るラウンドが、待ちくたびれた顔でフリード・リッヒを見ていた。

 

「ああ、一つ目の用事はな」

 

「……後、いくつある」

 

「次で最後だ。昇格の話だが」

 

 フリード・リッヒがカップを置く。

 

「先の言い分だとすれば、ジルコンのダンジョン討伐に伴うハンターレベル昇格の権利は、ミックスのものとなるが、それでもいいか」

 

「問題ない」

 

「そうか。君は、ランクに興味がなかったな」

 

 用件は終わりだと告げれば、ラウンドは残った紅茶を飲みほし、そのままギルドマスター室を退室した。

 フリード・リッヒも、残された紅茶を飲み干す。

 職員たちが空になったカップを片付け、一礼をしてギルドマスター室を退室していく。

 誰もいなくなったギルドマスター室で、フリード・リッヒは立ち上がり、モース管理下の全てのハンターの情報が書かれた本を手に取る。

 モースにのみ存在するこの本は、ハンター図鑑と呼ばれ、すべてのハンターの名前とハンターレベル、そして所有する石の情報が書かれている。

 フリード・リッヒは、パラパラと本をめくる。

 

「順位が動くな。今回のことで、バリオンかフランダースのどちらかが……おそらくはバリオンがハンターレベル75に昇格するだろうな」

 

 ハンターレベルランキング――上位五人。

 

 第五位。

 バリオン。

 ハンターレベル59。

 ミックスのギルドマスター兼二番隊隊長。

 

 第四位(同列三名)。

 オーバル。

 ハンターレベル61。

 ブリリアントの副ギルドマスター。

 

 第四位(同列三名)。

 バゲット。

 ハンターレベル61。

 ステップのナンバー2。

 

 第四位(同列三名)。

 スクウェアステップ。

 ハンターレベル61。

 ステップのナンバー2。

 

 第三位。

 フランダース。

 ハンターレベル64。

 ミックスの四番隊隊長。

 

 第二位。

 ラウンド。

 ハンターレベル70。

 ブリリアントのギルドマスター。

 

 第一位。

 エメラルド。

 ハンターレベル80。

 ステップのギルドマスター。

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