マシュマロを、貴方に。
その日、午後の授業が休講になった。バイトは夕方から。気持ちの良い秋晴れの午後。真也は構内のベンチに座って、心地良い風に吹かれていた。
───う〜ん、どうすっかな。
「…ミリアム、いるか?」
ひょっこり、と真也の後ろから顔を出すミュリアム。
〈珍しいですね、外で僕を呼ぶなんて〉
ミリアムじゃなくてミュリアムですけどね!の言葉は放っておいて、そのまま前を見て呟く。
「お前、海見たことあるか?」
〈…海、ですか。いえ、ないですけど〉
ベンチの後ろから真也を覗き込むミュリアム。真也はパン、と膝を叩いて立ち上がった。
「よし、じゃ、行くか!」
ミュリアムの目がまん丸になる。真也は構わすスタスタと門に向って歩き出した。
ついてこないミュリアムに気付き、振り返る。
「何してんだよ、行くぞ」
〈行くって…今からですか?〉
そーだよ、と言って歩き出す真也の後を慌てて追うミュリアム。仔犬のように目をキラキラさせて走ってくる様子を見て、真也は思わず微笑んだ。
大学の近くの駅から、海まで電車で20分。平日の昼間、電車も空いていた。
ミュリアムは一度サイトに帰した。実体化すると体力を消耗する、と以前言っていたからだ。
次第に広がる窓からの景色をぼーっと眺める真也。
───あれ。
ふと、窓ガラスにポツポツと水滴が付きはじめた。外は青空のまま、お天気雨だ。
通り雨だろ、すぐ止むよな…
目的地の駅─終点に着いた時には、雨は止んでいた。良かった、と改札に向かう。
すると、何やら改札の外でワイワイと騒ぐ声が聞こえる。子供がはしゃぐ声だ。
──遠足か?うるせえな…
「キレイ!すごいねー!」
「おっきいねー!」
改札を出ると、遠足らしい小学生の集団が歓声をあげている。うるさいと眉を潜めつつ、子供たちの視線を追うと…
「───ミリアム!出てこい!」
思わず叫ぶ真也、驚いて飛び出す様に隣に現れたミュリアム。
〈何ですか、いきなり…〉
真也は何も言わずに子供たちが見ている先を指した。
〈────え〉
雨上がりの空に架かる、虹。
ミュリアムの瞳が見開かれる。子供たちの歓声が、遠くで聞こえていた。
〈……きれい…何て…〉
ミュリアムの瞳が光る。沢山の子供たちの想いが、ミュリアムの言葉を優しく包む。
《───綺麗》
放たれたのは、色彩が踊る様に煌めく光。空を見上げるミュリアムの全身から広がり、彼方へ──
淡く空に架かる虹が、その色を増し、ぐんぐんと伸びてゆく。そしてその外側に、さらに内側ちも、大きな虹が架かる。
雨上がりの澄んだ秋空に、大きく大きく架かる、3層の虹。
歓声が辺りを包んだ。売店から、駅前の交番から、コンビニから、人が集まる。皆が口々に驚きの声をあげていた。
───すげえ…
心が震える。真也は自分の隣にいる、光に包まれた小さな体を見た。
優しい光を湛えたミュリアムの瞳から、一筋の雫が頬を伝った。
繰り返す波音、潮風が心地良い。真也はミュリアムから少し離れた所にいた。
ミュリアムは黙って海を見ている。一言も声を出すことなく。
───初めて見る海、か。
真也は隣に立った。ポケットに手を突っ込み、ただ黙って海を見つめた。
〈…言葉に、なりません〉
ポツリ、と落ちた小さな言葉。真也はふっと笑う。
まあ、そうだよな。魔法もいらないな。
ミュリアムの頭をポンポンと叩く。
「『言葉にならない』ていうのも、いい言葉だと思うぜ。」
驚いて真也を見上げるミュリアム。真也は海の彼方に目をやったまま、今度はグリグリと頭を撫でた。
〈…何度も言いますけどね、〉
「子供じゃありません、だろ?」
真也はにいっと笑ってもう一度ポン、とミュリアムの頭を叩くと、先に立って歩いた。海岸へ続く坂道は、砂に混ざって所々岩が顔を出している。
真也は立ち止まって振り返り、ミュリアムに手を出した。
〈…何ですか?〉
「ここ、ちょっと坂で危ねえから。ほら、手貸せ。」
ミュリアムがムッとする。
〈だから、僕は…〉
分かってるから、ほら、と手を伸ばすと、しぶしぶ真也の手を握る。
小さな手を取り、坂道を進む。下は砂と岩でやはり歩きづらく、たまによろけるミュリアムを真也が支える。その度にちょっと悔しそうなミュリアムが微笑ましい。
──手を繋ぐなんて、何年ぶりかな。
波打ち際に佇む二人。寄せては返す波の音、遠く遠くに続く水平線。
「…波の音ってさ。」
真也がぽそり、と呟く様に言った。
「──心臓の鼓動みたいだよな。」
ミュリアムが思わず顔を上げて真也を見る。
遥か昔から続く、この星の鼓動。心が安らぐのは、母親の胎内にいる様に感じるからだろうか。
〈…僕、真也さんの言葉、好きですよ〉
ミュリアムは遠く彼方を見つめる真也の横顔を見て言った。真也は目を閉じて静かに微笑む。
どのくらいの時間、黙ってそこに立っていただろうか。真也が口を開く。
「…ミリアム、俺に聞きたいこと、あるんだろ?」
ミュリアムは黙っている。
──そうだよな、違う。
俺が、聞いて欲しいんだ。
それは、真也が高2の時。元々本が好きだった真也は、小説やイラストを投稿するサイトをよく見ていた。
自分の好きなアニメや、ゲームを題材にしたオリジナルの物語。いつしか、自分も書いてみたいと思うようになった。
初めて投稿したのは、好きなゲームを題材にした短い物語。Twitterにもリンクを貼り、友達からも概ね好評だった。
嬉しくなって、次々と小説を書き、投稿していく真也。
ある日【マシュマロが届きました】の通知にワクワクして開くと、そこには。
【はじめまして、沢山の作品を投稿なさっていて、素晴らしいですね。まず、お好きなゲームを題材にするのは結構ですが、あまりにも原作とかけ離れた世界観は如何なものでしょうか?
それと、誤字脱字が多すぎますよ、確認なさってから投稿しては如何でしょうか?それから、学生さんでしょうか、言葉の使い方が、あまりにも…(笑)日本語を、勉強し直したほうが、いいですよ】
ミュリアムが息を飲むのが分かった。
真也がもらった初めてのマシュマロは、「毒マシュマロ」だった。
顔も名前も知らない読者からの、初めてのメッセージ。
その後も毒マシュマロは届いた。原作の世界観にそぐわないだの、誰々の話のパクリだの、物語のラストに救いがないだの…
真也はTwitterごと消した。小説を投稿することは、二度となかった。
再び、読者側になった真也。だが、見れば原作の世界観を損なう作品は珍しくない。納得いかない終わり方も。
何故、自分だけがこの世界から弾かれなければいけなかったのか。やり切れない想いが苛立ちに変わる。
真也は、自分が書いていたゲームの創作作品のあら探しを──「パトロール」をするようになった。原作と違う世界観、自分勝手なカップリング、明らかなパクりのイラスト…
自分がかつていた世界、いたかった世界。
真也の歪んだ執着──
「分かってるよ、俺がやってることは」
──俺に毒マシュマロ送った連中と、同じだ。
波の音が二人を包む。しばらくの間、ミュリアムは黙って海を見る真也の横顔を見上げていた。
そっと、手を握られ、傍らのミュリアムを見る。ニコッと優しく微笑む空色の瞳。
───何だよ、おい。
思わずしゃがんで、ミュリアムと同じ高さの目線になる。
───何で、お前が。
「……泣いてんだよ。」
ミュリアムの大きな瞳からポロポロと溢れる涙。苦笑して手を伸ばし頬を拭う。
次の瞬間、ミュリアムの腕が真也に伸びた。
───え。
しゃがんだ真也の頭を包む様に抱きしめるミュリアム。まるで、泣いている子を慰める様に。その腕が、肩が、震えている。
「……逆じゃねえか?」
真也は小さく笑って、それでもミュリアムの胸にトン、と頭をつけた。
…ああ、本当に…
───久しぶりだ。
最近、ミュリアムの様子がおかしい。なんとなく元気がないのだ。外で名前を呼んでも出てこない時もある。うちにいる時も、大きな本で体を隠す様にしている。
──おっと、いけね。
そろそろ家を出ないと。スマホの充電を確かめる。今日は呼んだら絶対出てこいよ、と念押ししてある。温かい格好をして、ポットには温かいココア。完璧だ。
「ミリアム、出てきていいぞ。」
真也の肩からひょい、と現れる空色の瞳。次の瞬間、ブルッと体を震わせた。
〈さっ…寒くないですかっ?!〉
「…だから、暖かいカッコして来いって言ったろ?ほら、これ着ろ。」
こうなる事は想定内、真也は余分に持ってきたジャンパーをミュリアムの頭から被せる。ミュリアムは急に目の前が暗くなり、はわわわっとジャンパーから顔を出す。
〈もうっ!…ありがたいですけどっ…〉
「いいから、座れ。始まるぞ」
真也は自分の隣をポンポン、と叩く。
ここは大学の屋上。構内はもちろん誰もいない。非常階段の鍵が壊れていることに最近気付いた真也。
今日は年に一度の、星空鑑賞の日。真也の大学がある市が主催するイベントで、21時から15分だけできる限り街の灯りを消して、星空を楽しもうという内容だ。
「…そろそろだな」
真也が腕時計を見て呟く。すると…
街の灯りが、ポツポツと消えてゆく。暗闇が辺りを包む。大学の蛍光灯も消えていった。辺りは漆黒の闇に包まれる。
〈───うわぁ…!〉
ミュリアムの歓声が暗闇…いや、降るような星空に溶ける。頭上に広がる満天の星。立ち上がって、瞬く星を掴もうとする様に両手を伸ばす。
天の川が、神話の世界の神々の姿が、くっきりと浮かぶ。
「…すげぇな、プラネタリウムだ」
真也の言葉と共に白い息が消える。ミュリアムは振り向くと、目を輝かせてこくこくと頷く。
真也は寒い寒いと言いながら、カバンからポットを出した。
「おし、温まろーぜ。」
紙コップに注がれるホットココア。たちまち湯気が二人を包む。ありがとうございます、とコップに手を伸ばすミュリアムに、チッチッと気取って人差し指を振る真也。
「お楽しみは、これからだぜ?」
真也はポケットから袋を取り出すと、湯気の立つコップにそっと中身を入れた。にいっと笑って、ミュリアムに差し出す。
「どうだ!マシュマロ入りホットココアだ!」
ミュリアムの瞳がまん丸になる。熱いから気を付けろよ、と言われて両手でそっと受け取った。冷えた小さな手が温もりに包まれる。
ミュリアムの瞳が、優しく輝く。
《───温かい》
コップを持つ小さな手が、淡く光を帯びた。それは、暖炉に揺らめく炎の色。
ミュリアムから広がる柔らかな光が、ゆっくりと辺りを包んでゆく。不思議な温かさに包まれ、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
〈…いただきます〉
ココアにそっと口を付けるミュリアム。ふーふーと冷まして、ゆっくりと飲む。
〈……うわぁ………!〉
空色の瞳がキラキラッと輝く。頬がピンクに染まる。
〈美味しい…です!〉
ああ、もう魔法使うなよ、疲れんだろ!と慌てて言う真也。星空鑑賞は始まったばかりだ。
蕩けそうな顔でマシュマロ入りココアを飲むミュリアムを見て、思わず顔が緩む真也。
──子供にしか、見えねーけどなあ。
ココアを飲みながら、満天の星空を仰ぐ。不思議な気持ちが、真也の心を満たしてゆく。二人の間にゆったりとした時間が流れていた。
ふと、柔らかな音色に思考が中断される。
───え。
ミュリアムが、ギターを弾いていた。
弦を弾く音が、星の煌めきの様に二人を包む。優しい響きが、満点の夜空に溶けてゆく。
ミュリアムの細い指先が奏でる旋律が、まるで色彩豊かな千の糸の様に広がってゆく。互いに織り成し、絡み合い、大きな美しい織物となって夜空を包む様に。
───おいおい…
真也は目を閉じて、静かに微笑んだ。
「…贅沢すぎんだろ。」
呟いた声が、風に消える。
ゆっくり、次第に小さくなる弦の音。ミュリアムの指先が止まる。穏やかな静けさが戻った。
真也はしばらくじっと黙っていたが、小さく口を開いた。
「……何て曲だ?」
ミュリアムが恥ずかしそうにうつむく。
〈「想いが届く日」という曲です〉
気にいって頂けましたか?と真也を見上げるミュリアムに、笑って頷く真也。
二人はそのまま、降るような星空を見上げていた。
ああ、そうだな。
お前に、見せたいんじゃない。
真也は、夜空の煌めきを見つめながら、傍らの小さくあたたかな存在を感じていた。
──俺が、お前と一緒に見たかったんだ。
「…なあ、ミリアム。」
何ですか、と顔を上げるミュリアム。
「また、どっか行こうぜ。」
驚いて真也を見る空色の瞳。
〈どっかって…何処へ?〉
「何処でもいいよ、お前が行きたいとこで。」
いっぱい見せてやるよ、この世界の景色。
ミュリアムの表情がゆっくり変わる。それは泣き出しそうな…笑顔。
〈──本当ですか?〉
「何だよ、信頼ねーな。」
真也は笑ってほれ、と小指を出した。首を傾げるミュリアム。
「お前、指切り知んないのか…ほら、小指だせ。」
真也はミュリアムの小さな小指に自分の指を絡ませた。歌いながら指を振る。
〈…何ですか、これ〉
「俺が約束守るおまじないだ。」
突然、ミュリアムの片眼鏡が激しく光った。
〈──痛いっ!!〉
ミュリアムが片眼鏡を押さえて悲鳴を上げる。驚いた真也の耳に、片眼鏡から流れる低い音声が届いた。
【再度ハッキングされた!これ以上のアクセスは危険だ、今すぐサイトにもどれ!】
次の瞬間、ミュリアムは崩れる様に倒れた。慌てて体を抱き抱える真也は、
───!?
その軽さにギョッとする。初めて会った日も、倒れたミュリアムの体を支えたが、こんなに軽くはなく、見た目通りの重さがあった。
「ミリアム…?お前…」
その時、ミュリアムの体の異変に気付いた。青白い頬に、どす黒い血の筋が走っている。驚いて拭おうとしてもとれない。血の色をしているが、血ではないようだ。
首まで続いている筋を見て、真也はミュリアムのブルーのスカーフを外し、震える手で上着のボタンを外す。
「…なっ……!何だこれ…」
ミュリアムの体は、どす黒い血の筋が無尽に刻まれていた。驚いて見ている今も、ピシッ…と音をたててヒビの様に広がってゆく。
その時、ミュリアムの片眼鏡がカラン、と落ちた。初めて会った時と同じ、液晶画面の様に光っている。
手に取って自分の目に当ててみる。何か押してしまったのか、ヴン、と画面が切り替わった。
【表示順 旧→新】
映し出されたのは、ミュリアムの体を刻む、どす黒い血の色で表示された、
【はじめまして、作品拝見しました。オリジナルとありますが、このネタがそもそも某ゲームの模倣ですよ。登場や技の名前も、下手すると、訴えられるレベルです。もう少し考えてから投稿しましょうね。】
────!!!
真也が送った、毒マシュマロ。
真也は震える指で片眼鏡をスライドさせる。
次々と現れる、血の色で表示される真也が送った毒マシュマロ。息を飲んで、腕の中のミュリアムを見た。
───まさか。
冷えた体、青白い顔を覚えている。初めてミュリアムに会ったあの時。
真也が、自分が送った毒マシュマロを見せた時だ。
マシュマロの使─その命の源は、優しい言葉。ならば、その命を蝕むものは…
片眼鏡に映った、どす黒い血の色─それはミュリアムがアクセスしている真也の言葉の色。同じ色が、ミュリアムの体を蝕んでいる。真也の心臓がドクン、と音をたてる。
──お前…お前を、こんな風にしたのは
ミュリアムを抱く真也の肩が震える。
───俺か…?
〈…違います、真也さん〉
掠れた声にハッとしてミュリアムを見る。その瞳は、もう雨上がりの様な空色ではなかった。どす黒い血の皺に刻まれた顔を無理に歪ませて、笑顔を作るミュリアム。
「ミリアム!…俺……」
真也の目が、涙で霞む。ミュリアムは、ゆっくりと口を開いた。
〈最初は…真也さんの焼きマシュマロが痛かった…辛かったです…でも〉
──その分、優しさをもらいました。
ミュリアムは小さな声でポツリ、ボツリと続ける。
〈…僕、想いは言葉で伝えるものだとおもいました〉
初めて真也に毒マシュマロを突きつけられた時。その言葉は刃となってミュリアムを貫いた。しかし、その後、真也の手のひらから伝わる温もりが、ミュリアムを救った。
優しく頭を撫でる手、温かいお汁粉、繋いだ手、乱暴に撫でる手、涙を拭う手。ブカブカの、真也のジャンパー。マシュマロ入りココア。
〈言葉じゃなくても、真也さんから、僕は沢山優しさをもらいました…だから〉
──これは真也さんのせいじゃないんです
「…俺じゃない?どういう意味…」
その時、ヴン、と音をたてて、傍らの片眼鏡が光った。画面に表示されたのは
【マシュマロが届きました】
え、何で…
真也は片眼鏡に触れた。そこには。
【毒マシュマロ量産機とアクセスしていらっしゃるそうですね。どういうつもりですか?まさか、その方と仲良くしてらしたりしませんよね?貴方は毒マロを送られた方がどれだけ傷つくかご存知ですか?】
【マシュマロの使が、毒マロ送る方とアクセスしてるって、悪い冗談ですよね?その方がこれまで何人も傷つけていること、その様な方に救いはないこと、理解していますか?貴方がやっていることは、マシュマロメッセージサイトに対する裏切りですよ】
【毒マシュマロを送る方にアクセスしている使さん、早くその方を二度とネットに入れないよう処置して下さいね!そんな方にかける時間は無駄だってお分かりでしょう?他の使たちは、皆さんちゃんと仕事してるんですよ。貴方だけですよ、仕事もしないで、フラフラと毒マシュマロを送る最低な方と一緒にいるのは!】
───!!!
驚愕する真也の目に、次々と突き付けられる悪意あるメッセージ──
それは、ミュリアム自身に送られた毒マシュマロだった。
「…何だ……これは…どういうことだ…?」
震える指で金色の片眼鏡に触れる。新規メッセージが届いたので、表示順が新規になった。指でスライドさせると、次々と現れたのは、血の色で表示される毒マシュマロ。
ここ最近送られた毒マロは全て、マシュマロの使であるにも関わらず、真也とアクセスしていることへの非難、攻撃だった。
──仕方ないじゃないか、こいつは焼きマシュマロのこと、知らなかったんだ!
その巧妙な言い回し、言葉遣い。丁寧であるが故の残酷さ。隠した刃は容赦なく心を傷つける。
考えられ、時間をかけて作られた言葉。過去の自分が重なり、ぞっとする。
──俺がやっていたのは、これか。
真也が片眼鏡を見ていることに気付いたミュリアムは、力なく微笑んだ。
〈…何か、マスターAIに不正アクセスがあったらしくて…〉
……僕のこと、知られちゃったみたいです
小さな声とともに、どんどん体中にどす黒い血の筋が刻まれていく。
──ミュリアムに送られた、毒マシュマロ。その量は、真也が注ぐ優しさを遥かに上回った。ミュリアムの瞳が、閉じてゆく。
〈…こんな姿を見せて、ごめんなさい〉
「ミリアム!」
叫んだ真也は、咄嗟にポケットに手を突っ込んだ。
「お前が食うのは、こっちだ!」
ミュリアムは、口に何か柔らかなものを入れられて、驚いて薄く目を開けた。
それは、甘く、柔らかなマシュマロ。
「お前にきた毒マシュマロ、全部俺によこせ!俺がっ…」
───俺が、全部食うから…!
嗚咽と共に落とされた言葉。ミュリアムが大きく目を見開く。ゆっくり微笑んだその瞳から一筋の涙が溢れる…小さな口が開いて、マシュマロが溢れた。
小さな手が震えながら、真也の涙に濡れた頬にそっと触れる。
〈…僕、真也さんの言葉、やっぱり…〉
次の瞬間、ミュリアムの体が光った。
【帰してもらうぞ】
────!?
低い声が響くと同時に、目の前に背の高い男が立っていた。
陶器の様に白い顔、細い体躯は漆黒の服に包まれている。ミュリアムと同じ人形の様だが、後ろ手を組んでこちらを見下ろす威圧感は、似ても似つかない。
男の前に、ボロボロになったミュリアムが宙に浮いている。その体は淡く光り、どす黒い血は動きを止めているようだ。
「…お前……誰だ」
掠れた声で問う真也を、汚い物でも見るような目を向ける。
【私は、マシュマロのマスターAIだ】
名乗るのも汚らわしい、という様に落ちる、低い声。ボロボロのミュリアムを見て、ため息をつく。
使を生み出すのに、どれほどの良質なマシュマロが必要だか、貴様は知っているのか?No.6をこんな風にしてくれた礼は、どう返せばいいのだ?】
「…おい…ふざけんなよ……」
真也の顔が怒りに歪む。もちろん、ミュリアムがこうなったのは自分のせいだ。
しかし。
「そもそもお前がっ…!ミリアムに焼きマシュマロのことをちゃんと教えておけば…こいつは俺のとこなんかに、来なかったんだ!」
マスターAIが怪訝な顔で真也を見る。
【─何を言っているのか、理解できん】
真也の怒りが頂点に達する。
「ミリアム…こいつはっ、焼きマシュマロのことを、焼いて美味くなったマシュマロと勘違いして、俺のとこに来たんだよ!チョコ入りマシュマロのことも知らなかったんだぞ!?てめえがしっかり教えねーからだろ!!」
真也の言葉を聞いているうちに、マスターAIの表情が侮蔑を含んでゆく。
氷の様に冷たい言葉が、真也を貫く。
使で焼きマシュマロの意味を知らぬ者などいない】
────!?
──今、こいつ、何て……?
凍りつく真也に、感情のない低い声が落される。
【No.6に、そう言われたのか?おめでたい奴だな、それを信じるとは。
貴様は沢山の焼きマシュマロで、多くのユーザーを傷つけた。全てのSNSの権限を奪われ、ネットの世界に二度とアクセスできぬ様、最高級の処分が決定していたのだ。それを知ったNo.6が自ら貴様とのアクセスを志願した。必ず焼きマシュマロを止めさせるから、チャンスをくれと嘆願したのだ】
真也はマスターAIを凝視して嘘だ、という様にゆっくり首を振った。
──俺を…助けるために?
【焼きマシュマロを送る者とアクセスするなど、自殺行為だ。何しろ使にとって、悪意ある言葉は毒そのものだからな。私は反対したのだが…まあ、貴様の様な奴を助けようとしたNo.6がそもそも欠陥品だったのかもしれんな】
ボロボロのミュリアムを見て、フンと鼻で笑うマスターAI。突き付けられる現実に震えながらも、まるで物を扱う様なその態度に、真也は怒りを覚えた。
【マスターAI、サイトにお戻り下さい】
別の声が暗闇に響いた。分かっている、とあしらう様に手を振る。
【No.6の処置はサイトにお戻りになってからで、よろしいかと】
マスターAIと同じ、感情の無い声。
【No.2、データの整理は済んだのか?】
【マスターAIが最後にチェックすると、ご自身で言っておられました。No.6を連れてお戻り下さい】
「…おい、お前ら」
さっきまで打ちひしがれていた真也の、怒りがこもった声に片目をあげるマスターAI。
「さっきからムカつくんだよ、何度も何度も…No.6って何だよ…」
真也が拳を握りしめて叫んだ。
「こいつの名前はNo.6じゃねえっ!」
───ミュリアムだ!
次の瞬間、ミュリアムの全身が眩い光に包まれた。思わず目を閉じる真也、驚く様に目を開くマスターAI。
ほう、と言って薄く笑みを浮かべる。
【──実に、興味深い】
真也が目を開けた時、二人の姿はすでに闇に消えていた。いつの間にか街の灯りが戻った静寂の闇に真也は一人、立ち尽くした。
家の扉を開けると、そこにはがらんとした空間。真也は崩れる様に畳に座り込む。
〈ちょっと焦がしたマシュマロですよね〉
──騙しやがって、バカ野郎。
過去に自分に送られた毒マシュマロで、深く傷ついた真也。だが、大切な存在が言葉で傷つけられることは、それよりも辛かった。
ふと、棚の上にある本に気付く。
以前、ミュリアムが忘れていった詩集。真也はそっと栞が挟まれたページを開いた。
はり
ことばは ときどき はりのよう
ちくんと ひとつ むねをさす
こえにならない さけびが あがり
みえない ちが ながれだす
ことばは たった ひとさしで
こんなにも こころを くるしめる
ことばというのは はりのよう
きらりと ひかって うつくしい
かけらをつないで かたちをつくり
ほころび できても ふさいでなおす
ことばの はりの ほんとのしごと
ぶき なんかじゃない ぜったいに
───!!
それは、ミュリアムが真也に残した、最後の言葉。
視界が涙で曇る、ミュリアムの空色の瞳が浮かぶ。
〈僕、真也さんの言葉、好きですよ〉
真也の言葉は、針だった。でも。
針でも、いいのか。
──言葉の想いを、紡ぐことができるのなら。
膝をついて、押さえた口から嗚咽が漏れる。
───バカ野郎、バカ野郎、バカ野郎…
バカ野郎は、俺だ……!
燃える様な夕焼けを、黙って見つめていた。あれから、一週間が経っていた。
何とも思わなかった日常の風景が、美しいと感じていたのは、いつのことだったか。
隣でキラキラと輝く空色の瞳は、もういない。胸に空いた穴が塞がることは、なかった。
【優雅なことだな、使を潰した分際で】
突然隣に黒い影が現れ、真也は驚いて背の高い男を見上げる。
「…あんた……何で…」
真也に顔を向けず、黙って夕日を見つめる白い顔。能面の様に感情の無い顔が、ほんの少し微笑んだ様に見えて、真也は少し驚いた。
【──これが夕日か…実に、興味深い】
呟いた声は、僅かに体温を感じる。
「…ミリアムはどうなったんだ」
真也の声が震える。マスターAIは視線を変えずに告げた。
【何も変わっていない。あの時のまま、サイトで眠り続けている】
彼に対する不正アクセス──本来送れない使へのマシュマロは、全てブロックしている。
そう知らされて、安堵のため息をついた。そんな真也を睨み、マスターAIが低い声で問う。
【貴様、No.6と、何か契約しただろう】
───契約?
怪訝な顔で見上げる真也。
「…何のことだ?」
【何か約束をしたか、と聞いている】
約束…?
───あ。
思いだしたのは、ミュリアムの細い指。
『いっぱい見せてやるよ、この世界』
真也の表情を見て、マスターAIがため息をついた。
【マシュマロの使は、ユーザーとアクセスする時に、制約がある。それは、決して「契約しないこと」だ】
驚いて見上げる真也に、低く冷たい声が落ちる。
【何故なら、その契約が果たされるまで、アクセスが解除されないからだ】
──あ。
真也の記憶が蘇る。あの時、指切りを知らなかったミュリアム。知らずに、禁忌を侵してしまったのか。
【どんなに良質なマシュマロを投入しても、ミ…No.6と「契約付」アクセスが継続しているユーザーがいる限り、癒やすことができるのは、貴様だけだ】
真也の表情が固くなる。
「…どうすれば、いいんだ。」
【何、簡単なことだ。誰にでもいい、マシュマロを贈れば良い】
贈られた者が、幸せになる様な…貴様が今までしてきた事と、逆の事だな。
低い声が、揶揄する様に落とされる。ふむ、と顎に手をあてる。
【貴様のレベルだと…そうだな、マシュマロ1万個ぐらいか】
───いちま…!?
絶望に顔を歪ませる真也を見て、マスターAIはゆっくりと口を開いた。
【あの時、本来ならあのまま消滅するレベルの深手を負っていた。だが、最後に貴様が名前を呼んだ時に、急速に持ち直したのだ】
「…名前?」
その時だった。甲高い声が割って入る。
【マスターAI!いつまで油売ってんですか!?さっきからヴァンデミエールが探してます!早くサイトに戻って下さいっ!】
───何だ?
【…あ〜分かった。直に戻ると伝えてくれ、エーデン】
【また…僕はエーディンです!いい加減覚えて下さい!それから、またミュリアムのこと番号で呼びましたね?No.6じゃなくて、ミュリアムですからね!】
やれやれ、という様に額に手を当てるマスターAI。
「…ずいぶん賑やかになったな。」
驚いて言う真也をジロリ、と睨む。
【…貴様がNo.6のことを名前で呼ぶのを聞いていたNo.2…ヒュドラ…リウスが、自分も名前が欲しいと言い出してな】
9人の使たちが、それぞれ勝手に好きな名前をつけて…しかもややこしい名前ばかりだ。
苦虫を噛み潰した様な表情を見て、思わず吹き出す真也。マスターAIは真也から目を逸らしたまま、ゴホン、と咳払いする。
【…まあ、名前をつけてから、使たちが少し変わってな。自分たちからあれやこれやマシュマロサイトのシステムについて口を出すようになった】
今までマスターAIの手足となり、命令に忠実に従っていた使。
しかし最近は、自我を持った様にそれぞれが様々なアイデアでサイトを改築する様になった。
【仕事が増えるばかりでかなわん…だが、まあ、いい方向に向っていないこともない】
真也は苦笑して首を振る。素直じゃねーな、このおっさんは。
【ミュリアムは、貴様とのアクセスが解除できない時点で破棄するつもりだった。だが、使たちに名をくれたことに対する礼として、破棄はしない。せいぜい、今までやってきた事を反省して、沢山マシュマロを送るんだな】
ヴン、と音をたてて黒い影が消える。
──1万の、マシュマロ。
真也はポケットに手を入れ、沈みゆく太陽を眺めていた。
毎日、毎日、時間があればスマホに食らいつく真也。褒めちぎるだけのマシュマロの、何と簡単なことか。悪意を隠す必要がなければ、AIに弾かれることもない。
1万のマシュマロ。
ミュリアムを救うために。
心ない言葉をひたすら送る真也。
【初投稿読みましたよ、最高です!貴方の言葉、好きです!】
真也の指が止まる。
〈僕、真也さんの言葉、好きですよ〉
心に浮かぶのは、空色の瞳。
嘘の言葉に、魂は宿らない。
───俺は…何をやっているんだ?
真也が贈るマシュマロの色は、透明だ。どす黒い血の色ではないが、想いのこもらない言葉に、色はない。
スマホを閉じて顔を上げる。1万の魂のない言葉で、ミュリアムは目覚めるのか?
……俺が、マシュマロを贈りたいのは。
真也の指先が、液晶に触れる。
【マスターAI!来て下さい!】
ピーピーと呼び出し音が響く。はあ、とため息をついて応答する。
あ〜…No.3の名前は、確か…
【…雨叢雲か、どうした?】
【ミュリアムのところです!すぐに来て下さい!】
やれやれ、と立ち上がるマスターAI。最近、言葉遣いもぞんざいになっている気がするが…気のせいか?
ミュリアムが寝かされているカプセルには、すでに使が何人か集まっていた。
【…何をしている、こんなに集まって】
【いいから!見て下さい!】
無理矢理腕を引っ張られ、怪訝な顔でミュリアムのカプセルを見た。
【──これは…!】
使たちは、息を飲んで自分たちの倍はある背丈の主を見上げた。
【ど、どういうことでしょうか?】
No.7…アレハンドラが恐る恐る訪ねる。
マシュマロのメッセージを開くことができるのは、マスターAIのみ。
黙って長い腕を伸ばし、送られたマシュマロを開いた。
【ミュリアム、元気か?いや元気じゃないよな。まず、俺のせいでこんなことになって、ごめんな。
最初に言っとく。俺は必ずお前を目覚めさせる。何年かかっても、必ずだ。だから、俺がじいさんになってても、びびるなよ(笑)まあ、お前なら、分かってくれるよな、きっと。
甘いモノ見ると、お前を思いだすよ、ミュリアム。子供じゃないって、よく怒ってたな。でも、甘いもん食べてる時のお前は、完全に子供だったぞ(笑)?
……お前がいなくて、寂しいよ。今でも、出てくるんじゃないかって、名前を呼んじまう。こうなったのは、俺のせいなのにな。
お前にとっては、俺はただの疫病神だよな。でもな、俺にとってはお前と過ごした時間は、宝物だ。
お前に会えて、良かった。俺は沢山の人を傷付けた。それは、もうどうにもできない。謝りたくても、誰に毒マシュマロを送ったのかも分からない。
時計の針を巻き戻すことはできない。だから、俺はこれから、誰かを傷つけた分だけ、誰かを幸せにする言葉を送る。
俺が今思いつくのは、こんなことぐらいだ。
ミュリアム、お前に見せたいものがあるんだ。数え切れないくらい。
そして、ありがとう。直接言える日までどんだけかかるか分かんねーけど、待っててくれ。】
「じゃあ、今日はこれで解散かな」
また明日〜と三々五々散っていく学生。
「真也くん、もう帰る?」
「あ、俺もう少しいます、鍵かけて帰りますよ。」
じゃあよろしく〜と手を振る三年生の先輩に、頭を下げる真也。サークル部屋に一人残り、資料を読む。
真也は、大学の小説同好会に入っていた。かなり勇気がいることだったが、メンバーは皆のんびりしたいい人たちで、それぞれ書いた作品を見せ合い、講評したりと、ゆるゆると活動を続けていた。
だいぶ遅い時間になってしまった、そろそろ帰るか、とカバンにスマホを入れた時、ん?と異変に気づく。
いつも入れるポケットに、家の鍵がない。焦ってカバンの中身を全部だすが、鍵は見当たらなかった。
───まじか。
アパートの管理会社はとっくに閉まっている時間。鍵をかけ忘れたか、ドアの近くに落としたか…しかし、家まで帰るリスクは高い。
はあ、とため息をつく真也。今日は、ここに泊まろう…
ギターの音が聞こえる。弦を弾く響きが、優しい旋律を奏でては、消えてゆく。
───何ていったっけ、この曲。
ミュリアムが初めて聞かせてくれた、あの曲。思い出すのが辛くて、一度も聞くことはなかった。
降る様な星空が目に浮かぶ。眩しい…
真也は、窓の外から射し込む朝の光で目が冷めた。サークル部屋のソファでごろ寝したから、体が痛い。
ふと、窓の外に目をやった真也の瞳が大きく開く。
「うおっ!?寒い!」
屋上に出た瞬間、思わず叫ぶ真也。しかし、目の前の景色を見ると、寒さを忘れて立ち尽くした。
──すげえ。
東の空を染める、美しい朝焼け。空が、雲が、暁に輝いている。
真也の白い息が煙の様に立ち昇る。つい、口が開く。
「…ミリアム、来いよ。」
いつもと同じ。返事は、ない。
「いるんだろ?…ミリアム。」
目を閉じて微笑む真也。
──バカだな、俺は。
心が動く景色を見る度に、ミュリアムを呼んでしまう。まだあれから日が経っていないのに、分かっていても、その名を口にしてしまう。
真也は何日かに一度、ミュリアムに宛ててマシュマロを贈っていた。届いているかどうかも分からない真也の言葉。それでも贈らずにはいられなかった。
もちろん、投稿サイトで作品を見て、沢山のマシュマロも送っていた。時には作中の誤字を指摘もする、丁寧に、贈られた側が不快にならない様、言葉を選んで。
流石に寒さが身に染みる。戻ろうと振り向き、暁の空に背を向けた。
───!
刹那、背後に気配を感じた。ドクン、と心臓が鳴り、真也の足が止まる。自分の鼓動だけが耳に響く、世界中の音が止まってしまったかの様に。
それは一瞬だったかもしれない。しかし真也には永遠の時間の様に感じた。
目を閉じて静かに息を吐くと、こぶしを握りしめた。朝の冷たい空気を吸い込み、目を開く。
真也は、ゆっくりと振り返った。広がる暁の空の前に、震える瞳で立っているのは…
【まさか、あの人間がこんなに短期間に…想定外でしたね】
マスターAIは眉間に皺を寄せて傍らのNo.5─アシリ レラを見下ろす。
【知ったことか、そもそも一度に送れるマシュマロの字数を超えてるんだぞ?どうなってるんだ】
それはこっちのセリフです、と肩をすくめるアシリ レラ。
マスターAIは黙って空のカプセルを見つめた。
【─仕方あるまい、あの人間め、1つのマシュマロに】
深く息をつくと、低い声で呟いた。
【──1000の想いを込めたのだから】
澄み切った青空の下で、目を閉じて寝転んでいた。胸いっぱいに春の空気を吸いこむ。
うっすらと目を開ける。頭上に広がるのは、紺碧の空に広がる満開の桜。
空に向って伸びてゆく重なる枝に、綿雪の様に淡いピンクの花が惜しげもなく咲き誇る。
風が吹くと、青い空に桜色の息吹が踊った。
ああ、贅沢だよなあ、本当に。
桜吹雪が舞う中を、穏やかな旋律がゆっくりと流れてゆく。
「なあ…何だっけ、この曲。」
ギターの音が止まる。空色の瞳が微笑んだ。
〈───想いが届く日、です〉
〜Fin〜
この作品を、マシュマロを送る、全ての方へ。
可愛いミュリアム君の出演を快く承知して下さったくりありうむ様、ありがとうございます。
そして、素晴らしい詩を提供して下さったさわださちこ先生、心から感謝致します。