『逆境のZAPPAN計画』pert3
彼らが現われたとき、彼らはシェルターの座席、棚に座ったまま、自身や周りを観察していた。そんな彼らを尻目に海路さんはピンマイクを服につけ、手帳を取り出した。
『ようこそエンバー一家ご一行』
海路さんが言ったこんなフレーズが、シンプルに私たちの後ろの壁に映し出された。石碑はプロジェクターだったのだ。
『左から、額と足をぶち抜かれた トラウマエンジン開発者エルーネ』
『精神病、トラウマ原子力潜水艦魚雷長 イナン』
『難聴のトラウマ日本海軍通信士 拓馬』
『眼をガラスに破られた、トラウマ艦長 ホッグル』
『感電死したトラウマ特殊効果アイドル エディ』
え?アイドル?私は彼らを見た。一瞬だったが、左の子がかなり派手なのが分かった。続く文字列に目を向けなおすことにした。
『皆 一応エンバーミングされている そんな姿をとくとご覧あれ』
(は~ん、三人はうっ血か。カラコンで隠すのかな?考えていると、投影は終わった。海路さんと話すため、石碑に向かう。)
海路『さて 見せていきますよ はいこれ』
海路さんと同じピンマイクをもらった。
海路『さて 鏡をお願いできますか?』
造『手鏡でいいですか?』
私の言葉も文字に出ていた。なぜいるのだろう。この時はまだ分からなかった。
海路『どうせなら大きいほうにしましょう』
造『えぇ いいですよ』
私は身の丈ほどの手押し鏡を練成した。やはり彼らは不思議がった。しかし私たちはエルーネさんの前に向かった。
エルーネ「あ!~私の顔が~」
彼女の悲しい特徴はさっきも言われたように、額に穴が開いていたことだった。赤黒く闇が深いものだった。私も生々しく、見ていて気持ちいいものではなかった。この計画には生物と時が関わっている。時を戻しすぎると生きていることになり、ゾンビではなくなってしまうのだ。
海路『さぁ エルーネさん その傷 造さんなら 塞げるんですけど』
エルーネ「えぇ、こんな姿、友達に見せられませんわ。」
造『あぁ 分かりました 瞳の方はどうします?』
エルーネ「・・・いえ、このままで結構。これはこれで初めての経験ですもの。」
造『ではそのように』
私は気づいたのかもしれない。これから出会う悲しみに・・・ともかく額の傷は塞いだ。完全ではないが・・・
造『足の傷はどうします?』
エルーネ「え?そんな、足にまであるんですか?是非。」
造『分かりました』
彼女は大人の女姓である。少しすすけているが紅茶ラテ色のドレスに小さい真珠を繋いだブローチを下げ、ホテルマンのような同色の帽子を乗せている。
エルーネ「ありがたいのですが、なにをしたのです?」
造『ナノマシンで穴を塞ぎました。』
エルーネ「ナノマシン・・・機械ですか?」
造『そうです 原子を操るのです』
エルーネ「原子?なんですか?それ。」
造『え? そうですね~ この空間や物体を構成している 小さなものです』
エルーネ「だから目に見えないのですね?」
造『はい』
海路『では 後ほど』
私たちは水色の少し臭うと言っていいのだろうか。そんなつなぎを着た、濃い髭を持つ、彼の前に立った。
イナン「なぁ、さっきから気になってるんだがよ。エンバー一家って何だ?俺達にはちゃんとした名前があるんだ。」
海路『落ち着いてください。』
イナン「なぜ俺達はここにいるんだ?」
海路『そのことなら簡単です。貴方達は死んでいます。』
イナン「それなら何で腐ってないんだ?」
造『体を死んだ瞬間に 戻したと言えばいいんですかね?』
イナン「はぁ?なわけねぇだろ。」
海路『どうです? 体は?』
イナン「あぁ、綺麗だ。・・・し、死んだとは思えない。」
海路『でしょう? その後はエンバーミングを施しました』
イナン「なんだぁ?エンバーミング?それが名前の由来か。」
海路『はい』
イナン「そうか~死んでる・・・どうして死んだんだ?」
海路『貴方はストレスで死んだのですよ』
イナン「あぁ、うすうす気づいていたか・・・な?」
海路『では次へ』
海路さんと一緒に、拓馬君の前に立った。
海路『あの~拓馬君?』
海路さんは眠ってしまっている水兵の肩に触れた。
拓馬『ハッ!・・・此処は何処でしょうか?』
海路『二千七十二年の日本です』
彼は私たちを見ているようで、遠くを見て言った。
拓馬『日本 大日本帝国ではないのですか?』
海路『帝国は滅びましたよ』
拓馬『な、なんと言うことだ し、しかし国は成立しているのですか?』
海路『大丈夫です まず 沖縄や択捉島は戻ってきました そして 中国から奪った半島は、中国に返還しましたね』
拓馬『そうですか 戦争は終わったんですね?』
海路『しかしそうでもないんですよ~ 海上保安庁が外国船による密漁などに苦悩してて』
拓馬『ほ~う・・・』
海路『ん?拓馬君?』
拓馬『ゴ~ゴ~』
海路『・・・次に行きましょうか』
仕方なく、そっとしておくことにした。
髪だけでなく、装束まで白いお爺さんの前に来た。
海路『どうです?この姿』
ホッグル「止めろ!そ、そんなものを近づけるな。ん、どうしてお前達は私の嫌いなものを知ってるんだ?まさか、拷問か?」
造『え?すみません』
ホッグル「なんだ、しまってくれるのか。」
私は彼に鏡を向けるのを止めた。
造『そうですね~どうです?見えますか?』
ホッグル「おぉ!鏡もないのに、なんだかはっきり見えるぞ!これもさっき言ってた力の事か?」
造『まぁ 一部ですね』
ホッグル「ふむ、私は片目だけ赤いのか・・・」
造『潜望鏡を覗いたのが右目だったからですね どうします?』
ホッグル「じゃあ、アイパッチをもらおうかな。」
造『こんなのですか?』
私はコートの中で黒い眼帯を練成した。
ホッグル「おぉ、気が利くね。」
造『そんなんじゃあありませんよ』
ホッグル「そうなのか?・・・それで?何をすればいいのだ?」
海路『Uボートを運用してほしいんです』
ホッグル「まだ乗るのか。」
海路『大丈夫です 私たちがついてますから』
ホッグル「そうか?だったら今見せてもらおうか。」
造『え!?困ります』
ホッグル「あ、そうか。待っとくよ。」
海路『すみません 次に行きますね。』
黄緑のカールした髪の左方を指にからめながら、首をその方に傾げて、赤い瞳を瞬かせていた。ミント色のパンツのベルトには、金の紙のようなレンチやドライバーが埋め止められていて、白長いシャツに深緑の袖無しジャケットをはおっていた。
海路『調子はどうだい?エディちゃん?』
エディ「はい?誰?」
海路『あ!名乗ってなかったね 私は神菜 海路』
造『私は潮上 造です』
エディ「う~ん、ライブは?どうなったのさ?」
海路『残念ながら 二年前に解散してしまったので』
エディ「え、そう・・・確認とか出来る?」
造『その前に 君は特殊だからね』
私はようやく彼女の前に鏡を持って来れた。
エディ「こ、これはひどい!これは何とかしなくっちゃ。」
エディの皮膚には赤紫のひげ根が走り、かなり湿っている。水に触れたのだろうか?・・・聞いたことがある。ゾンビは皮膚からの吸収が早いんだとか。そんなことより機械を操作するんだよね?手袋でもはめさせるかな?彼女だけ腕を縫ってあるので取れやすくなってしまったが、これも死因と関係が。まぁ、強く扱わなければいいのだ。
造『では お選びください 皮膚をどうするか 眼をどうするか』
「皮膚だけは、何とかお願いします。」
造『OK 問題ないさ それ見てごらん』
「え?なんで?」
造『とても簡単なことさ 皮膚を少し上乗せしただけさ』
「これで街中を歩けるね。」
造『いや う~ん・・・結構ガサガサすると思うよ』
「わ、私が、ガサガサ。」
造『エルーネさんだって 完全に塞がったわけじゃあないし』
「なんで?何で完璧になっちゃあいけないの?」
造『ご褒美があれば頑張れるじゃん』
「でも、そんなの不公平だよ。」
造『不公平?だからこそ 活きるんじゃあないか』
海路さんが突然、耳打ちしてきた。
『それならいい案が エディちゃんはですね アイドルグループ フォッシルスターのメンバーだったんですよ 私も応援してたんですけどね 元は特殊効果の裏方だったんですよ このまま埋められて終わりはかわいそうと思うじゃあないですか』
造『それで?どうなんです?』
『だから 水上ライブハウスなんてどうでしょう?』
『ほ~想像図とかありますか?』
『大体なら』
耳打ち解除で・・・造『え~ 君らが完璧になりたいと思っても 私たちにとっては完璧ではないんだ それが人間の普通ってもんだ』
海路『ち ちょっと なんですか?いきなり もう少し優しくしてくださいよ』
造『じゃ じゃあ 私はこの常識を伝えたいだけだ 変わりたいなら いつかその意志を示せる力を持て これでいいですか?』
海路『一体何のことですか?』
造『う~ん』
海路『とにかく 何か質問は?』
皆、質問はなかった。
海路『それでは皆さん 一旦こちらへ』
皆は恐る恐る、ゆっくりとこちらへ向かってきた。一番遅かったのはなんと、
(まさかこんな歩き方をするなんて。)
エルーネさんだった。彼女は左足を引きずっていたので、部品がめり込んだままなのだろうか?とりあえず松葉杖で支えておいて・・・何をするのだろう?
海路『造さん あのシェルターをベッドに変形させてください』
造『へ 変形ですか?』
海路『そうです あ~中に何か仕込んでいるなら それはそのままで結構』
造『は はぁ・・・』
(ベッドか~と言えば、シェルターを横にしなくては。)シェルターの底面をこちらに向けつつ向かわせた。(次は体を支える場所だ。)奥粋のつなぎ目を切り、上昇さてた。そして枕などを練成し、就寝準備が出来た。
海路『とにかく 今日は休んでください 十時までならこの部屋でのんびりしてていいですよ』
ホッグル「あの、トイレなどはどうするのかな?」
造『あ~ ではこれをまた 改造しましょう』
結局、シェルターは使用者のニーズに合わせて変形するものとなった。
続く・・・