表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/85

第7話 欠陥奴隷は魔術師と邂逅する

(なんで彼女がここに……!?)


 俺は大いに混乱し、同時に恐怖する。

 相手は悪党だらけの貧民街で恐れられる存在だ。

 直接の面識は無いが、どのような人物なのかは噂で聞いている。


 彼女の名はサリア。

 無所属の魔術師で、年齢不詳の魔女である。


 昔はどこかの国の宮廷魔術師だったらしく、現在は貧民街で悠々自適に暮らしていた。

 気まぐれに犯罪組織を壊滅させて、時には衛兵を殺戮する。

 犠牲者を醜いアンデッドの魔物に変貌させることもあるそうだ。


 サリアには明確な目的がない。

 ただ魔術で遊んでいるだけだ。

 その遊びが周りに甚大な被害をもたらしている。


 何度も殺害計画が練られたが、いずれも失敗していた。

 計画した者はこの世にいない。

 一人残らずサリアに殺されたのだ。

 見せしめのような処刑は、貧民街の住人に恐怖を刻み込んでいる。


 何をしでかすか分からない危険人物。

 それがサリアに対する大多数の印象だった。

 無論、俺もその一人である。


 初めて対峙だが、直感的に分かる。

 俺では絶対に敵わない。

 大量のスキルを取得してきたが、それらをどれだけ上手く使いこなしたとしても、サリアの足下にも及ばないだろう。


 本当に運が良くて相討ちだ。

 不意打ちを仕掛けたところで察知される。

 そもそも俺が勝てるのなら、とっくに誰かが彼女を始末している。


(逃げるべきか?)


 咄嗟に考えるも、それが難しいことは分かっている。

 俺は死体だらけの穴の中にいた。

 穴の外には遮蔽物がなく、サリアが追いかけてきたら簡単に捕まる。

 あまり賢い策ではないだろう。


 そうなると残された手段は、話し合いしかなかった。

 なんとか逃がしてもらえるように頼み込むのだ。

 それしか方法はない。

 無謀な戦いを挑むよりは、生還率が格段に上だと思う。


(……こうなったら覚悟を決めるぞ)


 中途半端が一番不味い。

 俺だって弱者なりに貧民街を生き延びてきたのだ。

 その神髄を、ここで披露する。


「……待ってくれ。敵対する気は、ない」


 俺は慎重に両手を上げて発言する。

 さらに所持スキルの中から【命乞い】【降伏】【交渉】を有効化させた。

 今からの行動が少しでも成功するように調整する。

 そして、穴の中からサリアを見据えた。


 サリアは顎に指を当てた。

 不意に視線を彷徨わせた後、可笑しそうに首を傾げる。


「あなたは誰?」


「ルイス……欠陥奴隷と呼ばれている」


「あ、知ってる! レベル上限がすごく低い子でしょ! あなたのことだったのね」


 サリアは嬉しそうに言った。

 俺の噂は彼女の耳にまで届いていたようだ。

 意外と有名だったらしい。

 もっとも、あまり嬉しくはないし、光栄でもなかった。


 ただ、ひとまず会話ができそうなことに安堵する。

 問答無用で攻撃されたら終わりだった。

 このまま会話で切り抜けるしかない。


 そう考えた時、サリアが質問を投げてきた。


「欠陥奴隷さんは、どうしてここにいるのかしら?」


「それは、その……」


 俺は言葉に詰まる。

 真実を話すべきか迷ったのだ。


 正直に伝えた時の危険性を考えてみる。

 俺の【死体漁り+】はかなり珍しい例だ。

 効果についてはあまり言い広めない方がいい。


 それをサリアに話すのは危ないのではないか。

 腹が減って人肉を漁りに来たと答えるのが無難だと思う。

 秘密を隠せるし、無害な雑魚として逃がしてもらえるかもしれない。


 しかし、嘘を見抜かれた場合が恐ろしい。

 途端に会話による解決が難しくなる予感がした。

 いや、機嫌を損ねて殺される可能性が高いだろう。


 発動中の【交渉】は、真実を伝えるべきだと囁いていた。

 俺は意を決してそれに従おうとする。

 ところがサリアが、手を前に出してこちらの発言を制した。


「あら、ちょっと待って」


 真顔になったサリアは、じっと俺を凝視する。

 何かを見極めるような眼差しだ。


 俺は全身が石になったかのように動けない。

 それなのに心臓だけが恐怖と緊張で暴れていた。

 呼吸すら忘れて彼女の言葉を待つ。


 やがて元の薄笑いを見せたサリアは、不思議そうに問いかけてきた。


「――おかしいわね。どうしてレベル6なのに、たくさんのスキルを持っているの?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新が多く展開が早い。文体がなかなかハードボイルド。 [気になる点] 誤字のほうではサブタイトルが直せないのでここで書いてしまいますが、 ×魔術師を邂逅 ○魔術師と邂逅 です。ついでながら…
[気になる点] ここから主人公無双か? という矢先に現れた脅威。 果たしてルイスは危機を脱する事ができるのか? [一言] 続きも楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ