第54話 欠陥奴隷は危機を感じ取る
「ふむ……」
俺は手のひらを上に向けて集中する。
体内の魔力を練り上げていくと、小さな炎が発生した。
それが消えて今度は電流が瞬いて、魔力を引っ込ませればすべて消滅する。
(だんだんと慣れてきたな)
先遣隊の帰りを待つ俺は、魔術の鍛練を繰り返していた。
サリアから初歩は教わったので、あとは反復練習のみである。
所持スキルの中に【火炎魔術適性】【雷魔術適性】があるので、炎と雷撃は簡単に使えるようになった。
ただ、この二種以外の属性は一切使えない。
スキルの補正がなければ、習得はほぼ不可能と見た方が良さそうだった。
それだけ俺に才能がないのだろう。
魔術師の死体に触れ続ければ、いずれ他の属性も手に入りそうなので、できれば探していきたいと思っている。
炎と雷撃に関しては、魔力を注ぐだけでとりあえずは発現してくれる。
精密な術を操るには程遠いものの、攻防の手段が増えるのは良いことだ。
これからも地道に練習していくつもりだ。
魔力の回復を兼ねて休憩していると、近くで仮眠を取っていたサリアが身体を起こした。
「あら」
「どうしたんだ?」
「――愉快なことになったみたいよ」
サリアは意地の悪い顔を見せる。
嫌な予感がした俺は即座に【看破眼】を使用した。
周囲に意識を拡散させて、異常な点がないかを確かめていく。
すると、それらしきものに気付く。
かなり強力な魔力の反応が、こちらに向けて接近しつつあった。
(この反応、まさか……)
少し遅れて周囲の冒険者や兵士達も騒ぎ始めた。
眠っていた者も叩き起こされて、誰もが急いで戦いの支度をしていく。
俺もナイフを構えて立ち上がった。
このまま呑気に過ごしていられる場合ではない。
寝起きのサリアは悠長にしているが、それは参考にすべきではないだろう。
兵士達が陣形を組んでいると、近くの森林が爆発した。
土煙が舞い上がって、近くにいた冒険者が吹き飛ばされる。
明らかに四肢が千切れ飛んで即死した者もいた。
たぶん位置が悪かったのだと思う。
そこから現れたのは、丸々と太った大きな蜥蜴だった。
オーガくらいの体躯を持つ、紫色の鱗に覆われた蜥蜴である。
あいつこそ圧倒的な魔力反応の正体だ。
二足歩行で進む蜥蜴は、片腕に何かを大量に抱えている。
それは、偵察に向かったはずの先遣隊の首だった。




