第50話 欠陥奴隷は出発する
翌日、俺とサリアは隠れ家を出発した。
さっそくギルドに向かって魔族討伐の依頼を受ける。
職員によると、街の外に用意された馬車を使って、移動中の王国軍と合流する手筈らしい。
それ以降は軍の命令で動けばいいそうだ。
戦闘では偵察や遊撃等、いくつかの役割に振り分けられるのだという。
話を聞いた俺達は、ギルドを出て街の外を目指して歩いていく。
「ルイス君、緊張してる?」
「そうでもない。戦いが楽しみなくらいだ」
「好戦的ねぇ。悪くない傾向だわ。今のあなた、とてもそそられる顔をしているもの」
サリアはじっと俺を凝視する。
瞬きをしない目の奥に、ぎらぎらとした狂気が輝いていた。
獲物を狙う獣の眼差しだ。
息の詰まるような恐怖を感じてしまう。
足を止めかけた俺だが、なんとか次の一歩を踏み出した。
そして、唇を舐めるサリアに念押しする。
「……絶対に、殺さないでくれよ?」
「もちろんよ。一緒に英雄になるって決めたでしょ。約束は必ず守るつもりだから」
サリアは恐ろしい雰囲気を消して微笑する。
少し惜しむような様子が見え隠れするのは、きっと俺の勘違いではないだろう。
(さっさと強くなった方がよさそうだ)
さもなければ、いつか我慢できなくなったサリアに殺されそうだ。
俺の強さは、彼女が魅力的に思うほどになりつつあるらしい。
正直、あまり嬉しくはない。
願わくば、標的にはなりたくないものであった。
歩いているうちに街の外に到着した。
そこには何台もの馬車が停められている。
満員になった馬車から、冒険者を乗せて同じ方角へ進み始めていた。
馬に乗ったり、徒歩で向かう冒険者もいる。
見える範囲でもかなりの人数だった。
「他の冒険者も参加するんだな」
「一気に稼げる機会だからでしょうね。昇級を狙うなら、まず乗るんじゃないかしら」
「なるほど。俺達と同じ目的ってことか」
確かに大多数の冒険者にとってもちょうどいい機会である。
魔族との戦いは危険だが、その分だけ稼ぎが大きい。
そもそも安全な日々を求めるのなら、冒険者なんかやっていないだろう。
俺達は馬車のうち一台を確保する。
先に乗っていた冒険者達は、サリアを見て慌てて降りてしまった。
彼らはそのまま街の中へ舞い戻っていく。
よほど同席したくなかったらしい。
間もなく馬車は進み始めた。
怯える御者の手によって、街道沿いに移動していく。
馬車の中は退屈だった。
特にやることもないので、少し気になっていたことを訊こうと思う。
「なあ、サリア」
「どうしたの」
「今の俺の強さで、魔族に敵うと思うか? 正直な意見を聞かせてほしい」
「うーん、そうねぇ……」
サリアは俺を見ながら考え込む。
たぶん取得済みのスキルを確認しているのだろう。
暫しの沈黙を挟んで、サリアは見解を述べる。
「魔族の格とか能力によるけど、上手くやれば勝てるんじゃないかしら。結局はスキルの使いこなし次第ね」
「……そうか」
「嬉しそうね」
「そりゃ嬉しいに決まっている。欠陥奴隷でも魔族に勝てるかもしれないって分かったんだからな」
魔族と直接対決することは、たぶん巡ってこないだろう。
それは王国軍と英雄の役目である。
ただ、自分がどこまで通用するのか想像したくなる。
想像できる範疇まで成長できたことに嬉しさを感じる。
(やってやるぞ。魔族のスキルを奪ってやる)
それが今回の一番の目的であった。
魔族はきっと英雄が倒してくれるだろうから、さりげなく死体に触れなければ。




