第43話 欠陥奴隷は過去を乗り越える
「どうしてお前があの魔女と仲良くやっているのか知らねぇが、調子に乗りすぎなんだよ。ふざけた態度を取りやがって!」
再び胸倉を掴まれて、壁に叩き付けられた。
弾みで砂埃が舞い上がる。
軽く咳き込む俺は、舌打ちしたい気分で観察を続けた。
目の前の冒険者は得意げに述べる。
「お前なんて簡単に殺せるんだぜ? 見逃してやっている俺らの優しさに感謝しろよ」
「……黙れ」
俺は冒険者の顔に唾を吐いた。
その途端、余裕ぶっていた男達の雰囲気が豹変する。
三人揃って重い殺気を発し始めて、一人が短剣を突き付けてきた。
刃先が俺の頬を撫でる。
皮膚が薄く切られて、ひりついた痛みが走った。
「――おい。本当にふざけんなよ。誰に口を利いてやがる」
「もう殺っちまおうぜ。こいつは駄目だ」
「そうだな」
三人の中で意見が一致した。
俺の命を奪うことにしたらしい。
冗談を言っている雰囲気ではない。
こいつらは本当に実行するつもりだろう。
(まあ、そうなるように誘導したわけだが……)
掴まれたままの俺は冷静に考える。
これだけ連続して挑発したのだ。
三人が激昂するのも当然であった。
無抵抗のままでは、気の済むまで殴られた末に殺されるのだろう。
しかし、こいつらの態度は許せなかった。
何もしていない俺に因縁をつけてきたのだ。
そして大勢の前で馬鹿にしてきた。
挙句に逆上して命まで奪おうとしている。
少し前ならそのような横暴を働いても問題なかった。
被害者である俺が無力で反撃が来ないと分かっていたからだ。
何もできない最弱の欠陥奴隷が相手なら、どれだけ侮辱しようと関係ない。
強さで絶対的に勝っている以上、何も脅かされることがないのである。
だが、その認識は既に過去のものとなっていた。
俺の【死体漁り+】は進化し、以前とは比べ物にならないほど強くなっている。
こいつらは人並みに強いようだが、俺はその何十倍の速度で力を増しているのだ。
もう我慢できない。
弱者として蔑まれる日々とはここで決別する。
今こそ成長を見せつけてやる時だ。
「ひひっ、まずは痛め付けてやるぜぇ!」
俺を掴む男が短剣を戻し、拳を振り上げた。
ぎらついた笑顔で殴りかかってくる。
俺はその軌道を目で追う。
予め有効化していた【見切り】のおかげで、ゆっくりとした速度に感じられた。
頬を殴ろうとしているのがよく分かる。
俺は首を傾けて迫る拳を躱した。
拳が壁に叩き付けられるのを横目に、隠し持っていたナイフを握り、男の首に潜り込ませる。
「……あぇ?」
男が間の抜けた声を洩らした。
口端から血を垂らして、首に刺さるナイフを凝視する。
他の二人も呆然としていた。
俺はナイフの柄を掻き混ぜるように動かす。
男の首の肉を抉りながら、憎悪を笑みに変えていった。
「くたばりやがれ、クソ野郎」
罵倒と共にナイフに力を込める。
無造作にずれた刃が、男の首を引き裂いた。




