第21話 欠陥奴隷は居心地の悪さを感じる
「サリアだ……」
「なぜ魔女がギルドに?」
「おい、裏口から逃げようぜ。巻き添えにでもなったら笑えねぇ」
俺達を遠巻きに見る冒険者達は、揃って険しい顔付きだった。
誰もが強く警戒している。
武器を手に取って臨戦態勢に入っている者も少なくない。
すぐに酒場の喧騒も静まって、室内には異様な空気が漂っていた。
(やはり嫌われているんだな)
それも当然だ。
サリアはこの平凡な街における一番の悪である。
英雄にすら匹敵する魔女なのだ。
「なんだか一悶着起きそうねぇ。冒険者って大変だわ」
「……そうだな」
一触即発のような雰囲気だが、直接サリアに攻撃するような人間はいない。
命が惜しいのだ。
敵わないと理解している。
冒険者をやるような人種だから、そういった感覚も敏感なのだろう。
警戒こそすれど、軽率な行動に出る者は少ないのだと思う。
そんな中、サリアは値踏みでもするかのように室内を見回した。
とても楽しそうに笑みを浮かべながら、俺にしか聞こえないくらいの声で呟く。
「ここの冒険者を皆殺しにして、ルイス君の強化に貢献してもらう手もあるのだけど」
「絶対にやめてくれ……」
「冗談よ。英雄はそんなことしないものね」
サリアは薄く笑う。
本人は冗談と言ったが、きっと本音だろう。
状況次第では実行に移すのではないか。
そう思わせるだけの危うさがあった。
非常に神経を使う時間を過ごしていると、疲弊した様子の職員が戻ってきた。
一礼した彼女は小声で俺達に指示をする。
「ギルドマスターがお呼びです。こちらへお越しください」
「はいはーい」
サリアは気軽に応じると、職員と共に受付の向こうへ移動し始めた。
なぜか責任者――ギルドマスターと話をすることになったが、少しも疑問に思っていないようだった。
胃痛を覚えそうな状況に辟易しつつ、俺も二人の後を追う。
「いきなり特別待遇されそうね。楽しみだわぁ」
「……ああ、そうだな」
サリアは楽しそうだった。
もう性格が分かってきたが、改めて考えても神経が図太い。
(恐怖を感じないのか?)
或いは強者の余裕か。
何が起こっても自力で解決できると確信しているのかもしれない。
なんとも羨ましいものである。
案内されたのはギルドの奥にある黒い高級そうな扉の前だった。
職員が扉をノックして発言する。
「お連れしました」
「入れ」
扉の奥から重苦しい声が響いてきた。
自分はその場に立ったまま、職員は扉を開けて俺達の入室を促す。
彼女はここまでしか来れないらしい。
この先の話はギルドマスターとしろ、ということだろう。
躊躇したところで意味がない。
引き返すという選択肢は既に消失していた。
意を決した俺は、サリアと共に部屋へ入った。




