第16話 欠陥奴隷は魔女の失敗を漁る
協力を約束した俺とサリアは館の地下へと向かう。
サリアの案内で導かれている最中だが、やはり行き先は教えてもらえていない。
彼女は俺の反応を楽しんでいるようだった。
「こっちよ。足元に気を付けてね」
石造りの螺旋階段を降りていく。
壁にかかった蝋燭だけが光源だった。
たまに湿った苔の生えている箇所があり、滑りそうになるので注意して足を運ぶ。
「この先に何があるんだ?」
「それは見てのお楽しみ。先に説明したらつまらないでしょう? あなたには驚いてもらいたいの」
蝋燭に照らされるサリアの横顔は、優雅な笑みを浮かべていた。
何も知らなければ美しいと感じる。
ただ、彼女の素性を知っているので恐ろしさが勝っていた。
やがて階段が終わり、その先の広い空間に辿り着いた。
暗くて何も見えない中、悪臭が鼻を刺激する。
俺が顔を顰める一方でサリアは平然と進んだ。
「さあ、着いたわ。しっかりと見てね」
サリアが指を鳴らすと、暗い地下空間が明るくなった。
そこには死体が散乱していた。
もはや死体というより残骸だろうか。
激しく損傷してよく分からない物体と化している。
ただ、この臭いは明らかに死体のそれだろう。
間違えようがなかった。
俺はその壮絶な光景を目の当たりにして呆然とする。
「こ、これは……」
「不要になった実験体よ。ルイス君なら有効活用できると思ったのよね」
サリア曰く、禁術の実験に使ったらしい。
いずれも失敗作ばかりだそうだ。
昨日のうちに焼却したから、あまり残っていないという。
しかし、絶句してばかりではいけない。
吐き気を催す光景だが、俺にとってはお宝そのものだった。
死体ということは、つまりスキルが手に入るのだから。
「調べて、いいか?」
「ええ、どうぞ。遠慮なくスキルを貰っちゃってね」
サリアの許可を得た俺は、さっそく近くの肉塊に触れた。
>スキル【打撃耐性】を取得
>スキル【斬撃耐性】を取得
最初は魔物の死体だった。
原形を留めていないが辛うじて判別できた。
得られたスキルからして、肉体が頑丈だったらしい。
どちらもまず腐らないスキルなので、常に有効化しておこうと思う。
>スキル【身体強化】を取得
誰かの手首から先だけでスキルが得られた。
ただし、一つだけしか入手できなかった。
死体の状態が悪すぎると、スキルの取得数が減る傾向にあるようだ。
肝心のスキルは使えそうなので文句はない。
>スキル【火炎魔術適性】を取得
>スキル【詠唱短縮】を取得
今度は魔術師の死体だった。
前者は魔術を習得しやすくなったり、その魔術の効果が上がるというものだ。
勉強は苦手だが、魔術が使えるようになるのなら努力してもいいかもしれない。
>スキル【戦略】を取得
>スキル【戦術】を取得
溶けた胴体しかないものの、指揮官だった死体のようだ。
それなりの地位だったのかもしれないが、実験体になってしまっている。
>スキル【複合】を取得
最後につまみ上げたのは、凝固した水のような破片だった。
顔の前で揺らしてみるもよく分からない。
小さな斑点が浮かんでおり、気持ち悪いのは確かであった。
(これは何の死体だ?)
眉を寄せる俺に、後ろからサリアが正解を教えてくれた。
これは変異型のスライムらしい。
獲物を捕食し、自分の適性に混ぜ合わせる能力を持つそうだ。
元々、個体としては最弱であり、大抵は生まれた環境にすら適応できずに死ぬのだという。
たまに生き延びて強くなる個体はギルドに報告されて、討伐対象になるそうだ。
ただしどれだけ強くなっても、他の生物の特性を得ても魔術には弱いままで、魔術師がいると簡単に倒せるらしい。
サリアは魔術耐性のある変異スライムを作ろうとして、上手くいかなかったので破棄したそうだ。
そのような魔物を作ろうとするとは、やはり危険人物である。
まあ、文句は言えない。
これだけのスキルを提供してくれたのだから、感謝しなければいけないだろう。