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第12話 欠陥奴隷は魔術師の提案を受ける

 俺とサリアは館の奥へと進んでいく。

 それなりに時間が経っているが、未だに奥が見えてこない。


 不自然だ。

 外から見た館はそれほど大きくなかった。

 これだけ歩いたのだから、とっくに奥に到着しているはずだった。


(もしかすると、魔術で空間を歪めているのか?)


 そういった技術があるのは聞いたことがある。

 冒険者の中には、空間拡張を施した鞄を使う者がいるらしい。

 サリアほどの魔術師なら、館の規模でも同じことができそうだった。


 その後もしばらく館内の廊下を歩き続ける。

 ようやくサリアが足を止めたのは、突き当たりの扉の前だ。


 いつの間にか、室内全体が黒に近い紫色になっている。

 天井では魔術らしき炎が等間隔で灯されていた。


 扉を開けようとするサリアに俺は尋ねる。


「俺に何の話があるんだ」


「その前に身体を洗ってきた方がいいわ。気持ち悪いでしょ?」


 サリアはそう言って扉を開く。

 そこは広々とした浴場だった。

 手前に服が畳んで用意してあり、湯船には湯がたまっている。


 俺は自分の身体を見下ろす。

 全身が汚れ切っていた。

 返り血だらけで、それを抜きにしても十分に汚い。

 日頃、川で水浴びをする程度しかできないので、こんな風に浴場を使うのは初めてだった。


(しかし、信頼していいのか?)


 俺は浴場へ進むのを躊躇う。

 ここを提供するのは、あのサリアだ。

 何か裏があるのではないか。

 迂闊に踏み込んだ瞬間、魔術で殺されるかもしれない。


 様々な恐ろしい想像をしていると、サリアが小さく笑った。


「安心して。何も罠はないわ」


 どうやら思考を読まれていたらしい。

 何らかの魔術を使ったのではなく、単純に俺の顔色から察したのだと思う。


 そこに悪意は感じられない。

 サリアは本当に善意から提案しているようだった。


 よくよく考えると、サリアならわざわざ罠を使う理由がない。

 俺を騙すことなく、正面から叩き潰せばいいのだから。

 それをしないということは、今すぐに殺される心配はないと考えるべきか。


 俺はサリアの横を通って浴場へと入る。


「……分かった」


「いってらっしゃーい」


 サリアは手を振る。

 嬉々としたその姿に薄気味悪さを覚えつつ、俺は浴場の扉を閉めた。


 汚れた衣服を脱ぎ捨てて、設置された魔道具を起動させる。

 すると天井から湯が降り注いできた。

 これで身体を洗ってから湯船に入れということだろう。


 血を擦り落とす俺は、ふと石鹸置きに注目する。

 視線の高さに設けられたそれは、人間の手のような形だった。

 黒ずんでいるものの、質感が妙に生々しい。

 気になった俺は、石鹸置きに触れてみる。



>スキル【呪縛】を取得

>スキル【懺悔】を取得



「……うげ」


 思わず声を発してしまった。


 やはりと言うべきか、腕は本物だったらしい。

 しかも呪われていそうだった。

 幸いにもステータスに異変はないので、ただの石鹸置きとして使われているようだ。

 呪術を用いた加工を施されているということだろう。


 さすがサリアの隠れ家だ。

 ちょっとした道具の趣味も悪い。

 スキルを得られたことには感謝したいが、その気持ちも失せそうだった。


 なんとも微妙な気分になりつつ、俺は湯船に浸かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず、ルイスが生き延びた点。 [気になる点] 生き延びたと言っても、魂の自由は保証されない点。 それはそれとして、ドン引きな『石鹸置き』。 まあ、我々の世界の伝承にも 『栄光の手(…
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